自然あふれる村から上京した健気な21歳大学生「西新宿のタワマンに住みたい」…野望を抱き、性風俗店で年収1,700万円になった3年後
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月18日 11時45分
(※画像はイメージです/PIXTA)
窓からの景色、豪華な共用スペース……ステータス感が人気のタワマン。憧れを抱く人も多く、特に東京23区のタワマンは億超えもざらです。しかし、手に入れるには、地に足のついたライフプランと資金計画が必須でしょう。本記事ではIさんの事例とともに、新宿にあるタワマンにフォーカスを当て、長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
賃貸の入居審査が最も通りにくい職業
賃貸住宅を借りるとき、賃貸保証会社での入居審査を経験した方も多いでしょう。賃貸保証会社とは、入居者が家賃を滞納したときに大家に対して建て替えて払うことを保証する会社のことです。かつては連帯保証人を頼める人が周囲にいない場合などに利用されることが多かったのですが、近年、不動産管理会社は賃貸保証会社を優先的に利用することが一般的になっています。
賃貸保証会社では職業、収入、LICC(一般社団法人 全国賃貸保証業協会)に登録された過去の家賃滞納履歴などを確認されます。さらに信販系保証会社を利用するケースではクレジットヒストリー(クレジットカードやローンの利用履歴)の確認が行われます。
この入居審査、通過率はどのくらいかご存じでしょうか。東京大学空間情報科学研究センター「民間賃貸住宅市場における入居審査と家賃滞納」(2020年9月)によると、全体の審査通過率は82.8%となっています。8割の人が審査を問題なく通過するため、高いハードルとはいえません。
問題は残りの2割の人達です。なぜ審査において否認されてしまうのでしょうか。否認の理由は「属性」と「人」の2つの種類にわけられます。「属性」は職業や年収、勤続年数のこと。「人」の問題は過去の家賃滞納歴や金融事故の有無のことです。たとえば「無職で過去に家賃を踏み倒し逃げている人」は確実に否認されるというわけです。
この「属性」において、もっとも審査が通りにくいとされる職業があります。それがいわゆる「水商売」の方です。 水商売と聞くとキャバクラや性風俗店、ホストクラブなどのナイトワークをイメージしますが、歌舞伎、演劇など興行に従事する人、相撲などのスポーツ選手、芸能人、最近ではインフルエンサーやユーチューバーも含まれるとされています。事業を法人化し経営者となっていると別ですが、個人でこれらの職業に従事する方は、入居審査は極めて厳しいといえるでしょう。
ナイトワーク従事者の賃貸審査の通過率
いわゆるナイトワーク(キャバクラや性風俗店など)に従事する方に限定してみると、審査通過率はどのくらいでしょうか。賃貸保証会社による統計データは公表されていませんが不動産業界では「通過率は10%程度」という声が多く聞かれます。1%と表現する業界の方も多く、いずれにしてもナイトワークに従事する人の審査は極めて厳しいという認識で一致しています。
なぜナイトワークの審査通過率が低いのでしょうか。その理由は公表されていませんが、次のように考えられています。
・収入が歩合制であり不安定 ・今後長く働けない ・交友関係に問題がある ・物件内での事件、事故の恐れ ・連絡がつかなくなる恐れ ・近隣トラブルを起こす恐れナイトワークの方は深夜に帰宅するなど一日のライフサイクルが近隣住民と異なり、騒音やゴミ出しのマナーで住民トラブルとなりやすいとされています。住民トラブルは物件オーナーにとって利回り低下の直接のリスクとなるため、なるべく避けたいというのが本音でしょう。このためナイトワーク従事者が賃貸住宅を借りるのは至難の業で、自分自身でウェブ上の情報を探してもまったく上手くいきません。専門知識のある不動産業者のアドバイスが必要なのです。
入居審査を通過するためにはいくつか方法がある
ナイトワーク従事者が入居審査を通過するためには次のような方法が考えられます。
・本業として会社員になる:現実的ではない ・保証会社を通さない大家を見つける:極めて少ない ・審査が通る人に借りてもらう:違反行為 ・在籍会社(アリバイ会社)を使う:違反行為どれも非常に困難であるとわかります。そこで最も現実的なのが、
・繁華街近くの分譲マンションを借りるです。大きな繁華街の近隣では、ナイトワーク従事者に積極的に貸す物件オーナーが多く存在します。ほとんどは分譲マンションを賃貸に出した物件であるのが特徴です。リスクはあるものの高い家賃を設定できるなど、物件オーナーにとっても一定のメリットがあります。入退居の回転が早くなりがちであることも、収益を維持するメリットになるかもしれません。
繁華街近くでナイトワーク向けの賃貸が多く存在する代表例が、「新宿」です。
新宿のタワーマンション
新宿は歌舞伎町が近くナイトワークに従事する人口が非常に多いのが特徴です。Googleでのサジェストキーワードも「新宿 タワマン 水商売」などが検索ボリュームとして大きく、ナイトワーク従事者向けの不動産情報サイトが数多く見られます。新宿で物件を探す人の多さがわかります。
新宿は歌舞伎町だけではなく、街として大きな魅力があります。新宿駅にはJR線・京王線・小田急線・東京メトロ・都営地下鉄大江戸線など、多くの路線が乗り入れ、交通の利便性は抜群です。西新宿エリアは都庁をはじめ大手企業のオフィスが入居する高層ビルが多く工学院大学や東京医科大学などの教育機関も存在します。緑も多く、住まいを構えるには理想的な環境でしょう。
近年、西新宿を中心にタワーマンションが多数建設され、部屋からの眺望は多くの人のあこがれの的です。2LDKで2億5,000万円におよぶ物件もめずらしくなく非常に高額でありながら人気があります。
しかし先述したとおり、分譲のタワーマンションが賃貸に出されていることが多く、ナイトワーク従事者が借りているケースが少なからずあります。高額なタワーマンションなので賃貸時の家賃も高額に。西新宿のタワーマンションでは家賃20万円台後半~50万円台という相場であるため、これを支払えるのは当然ながら高所得者だけです。土地柄、高所得のナイトワーク従事者に貸したいと思うオーナーもいるのもうなずけます。
タワーマンションを購入した住民の多くは大手企業に勤務するパワーカップルや企業経営者や医師などの高所得者です。高層階を除いて同じような生活レベルの住民が集まるという大きなメリットがありながら、「異質な」住民が混在することに困惑するケースが多々あります。
いかにもといった派手な服装をして大きな声で騒ぐ若い男女と敷地内で鉢合わせ、異質さに辟易しながら見ていると睨まれてしまうといった事象もめずらしくありません。セキュリティが担保されているはずのタワーマンションで身の危険を感じるのはナンセンスです。タワーマンション内で重大な事件を起こすことも現実にあり、最近も西新宿のタワーマンションで殺人事件があったことも記憶に新しいところです。
ここで、新宿のタワーマンションに住むあるナイトワーク従事者の住宅事情の事例をご紹介します。
三重県から上京、興味本位で始めた性風俗店の仕事
<事例>
Iさん 21歳
独身
ナイトワーク従業員
年収1,700万円
三重県生まれ
Iさんは新宿でナイトワークに従事する21歳の女性です。20歳からいまの仕事に就き、現在の年収は推定1,700万円。夢は「結婚してタワーマンションに住むこと」です。
生まれは三重県の自然あふれる村。父親と母親はいずれも公立中学校で教員をする公務員です。5歳年上の兄は愛知県の大学を卒業してから小学校の教員として正採用され、Iさん以外は全員教員という家族です。決して裕福というわけではありませんがお金のトラブルはなく、家族の情緒が安定した生活環境でした。新築の戸建てに住み、年に一度は大きな旅行にも行けました。両親が多忙で帰りが遅いことを除けば、Iさんは非行に走るような環境ではありません。
Iさんは高校を卒業してから大学進学のために東京都内に上京。両親や兄と同じように、地元に戻り教員になるものと思い込んでいました。しかし大学生活は退屈そのもの。高校と同じく優等生ばかりいて、会話の内容は早くも就職活動のことばかり。あるいはネットで仕入れた資産運用や起業の知識をひけらかして盛り上がっている様子は子供にしか見えませんでした。大学1年生の夏から次第に大学に足が向かなくなり、ファミレスでのアルバイトに励む状態に。
やがて、容姿に恵まれたIさんはアルバイト仲間の女性からある仕事を誘われます。それはナイトワークでした。もっと正確にいうと、性風俗店です。
「面白そう」Iさんは言葉の響きに好奇心をそそられてしまいました。
Iさんはなぜか「東京で」「風俗店」という2つの単語に、心の奥でぐっとくるなにかを感じてしまったといいます。三重県の田舎町で平凡な家庭に育ち、日ごろ感じていた退屈さを吹き飛ばすような魅力的な響きでした。好奇心から始めたその世界がIさんの性格にあっているのか、収入は順調に伸びていきました。
大学は中退。突然の退学希望に母親は激怒しましたが、ついに折れて退学の書類にサイン。今後仕送りはしないといわれてしまいました。そこから本格的に仕事にのめりこみ、初年度の年収で1,500万円+客からのチップで推定1,700万円ほどになっていたようです。
しかし確定申告はしていませんでした。その知識すらなかったのです。
Iさんが抱いた野望
当初は学生時代のアパートに住んでいましたが、性風俗店で働き始めてまもなく、Iさんは次第に野望を持つように。
「タワーマンションが欲しい」マンションの分譲と賃貸の差さえ知りませんでしたが、とりあえず機会があってFPに相談することになりました。
まだ幼いものの夢を持つIさんでしたが「タワーマンションって、いくらで買えるんですか」とFPに質問するIさん。
「希望の立地で新築または築浅なら1億円以上は必ずします」
「私でもお金貯めれば買えますか」
Iさんにとっては少し頑張れば1億円を貯められるのではないかと考えたようです。しかし、無申告のお金を1億円貯めたところで、それを使ったとたんに税務署の調査が入るでしょう。脱税したお金で家は買えないのです。
「住宅ローンならどうですか? 買えますか?」とIさんは諦めずに続けます。
確定申告もしていない風俗店従業員では、銀行はお金を貸してくれません。現時点ではいくらお金を稼いでいても無職の扱いなのです。健康保険証もまだ親の扶養に入っている状態です。
「そうなんですか……。お客さんが年収1,000万円で、奥さんと収入を合わせてタワーマンションを買ったと自慢していたので、私でも買えるのかと思いました」
しかし、Iさんは「結婚して西新宿のタワーマンションに住みたい」という夢を強く持っているようでした。ネットでしか見たことがありませんが、タワーマンションから見る都心の夜景を自分のものにできるのは、いかにも東京で成功したという感じがあるからだといいます。
かなり幼い印象のIさんが、年齢に不釣り合いな年収と都心のタワーマンションという派手な目標を持つのが危うげでFPから見て心配しかありませんでしたが、夢を持つことが素晴らしいことです。実現する手段がないわけではありません。Iさんがタワーマンションを手に入れるためには、
・確定申告をし、脱税をしない
・手取りから貯蓄する
・5,000万円をためる
・正社員として就職をする
・結婚したら残り5,000万円を夫とペアローンで借りる
維持費や家計の収支の問題は多々ありますが、タワーマンションを手に入れるだけであればそれだけで十分のはずです。20代のうちには実現するでしょう。税理士を紹介する約束をしてその場は終わったのですが……。
Iさんの3年後の様子
それから3年後、再びIさんが相談にやってきました。24歳となったIさんからは幼さが消え、少しやつれたようにも見えます。まだ同じ仕事をしているといいます。Iさんは驚くことを言います。
「いま、タワーマンションに住んでいるんです」
驚いたFPが詳しく事情を訊くと、住んでいるのはタワーマンションの賃貸物件であるようでした。家賃は35万円。Iさんが払っているわけではなく、Iさんの交際相手が部屋を借りて家賃も払ってくれているのだとか。その交際相手は店の客だった既婚男性。会社を経営していると自称していますが詳しいことはわからないといいます。
「管理会社は気づかないと思いますが、それは無断転貸という違反行為なんです。なにかがきっかけでバレたら訴えられることもありますよ」
FPがそう言ってもうわの空です。3年前からお金は貯まったのか質問すると、預貯金はほとんどゼロどころかキャッシングもしている状態。その返済もたびたび滞納し、その都度交際相手が払ってくれるとのこと。
コロナ禍によって稼げなくなったせいとIさんは説明をしますが、さまざまな男性にお金を奪われている状態なのがすぐわかりました。交際相手がお手当として毎月100万円ほどくれるそうですが、それもどこかに消えてしまいます。2,000万円近くもお金を稼ぎながら食べていくだけの生活、住まいはタワーマンションではあるものの空虚な気持ちは消えない。実家にも近寄りがたく、疎遠になったまま。
「これでもまだ結婚してタワーマンションに住む夢は叶うでしょうかね……」Iさんはいうのですが、「無理でしょう」とFP。「いまの仕事と生活環境、人間関係を変えて、リセットしてからでないと不可能だと思いますよ」今後について、
・大学に入りなおして就職をする
・両親と和解する
・遠方に引っ越し、いまの交友関係をすべて断つ
・貯蓄と資産運用の習慣をつける
タワーマンションを手に入れるためには最低限でもこれらのことをしないと無理そうです。しかしIさんは、「起業したい」「資産運用を覚えたい」「FIREしたい」などとどこかで聞きかじったようなカッコいい言葉を並べます。おそらく客から中途半端な知識を入れられているのでしょう。FIREもなにも、納税さえしていない現状でいうことではありません。
これでは大学生のころに嫌気がさした、周囲の学生と同じです。カッコいい言葉を並べて盛り上がっているだけです。
「起業を教えてください。社長になりたいです」Iさんは言います。
「あの、話を聞いていましたか……?」
タワーマンションを美化するわけではありませんが、手に入れる人には地に足のついたライフプランと資金計画が必要なのだと痛感しました。
長岡 理知
長岡FP事務所
代表
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