兄貴、5,000万円払ってくれ…フツーの専業主婦だった母の死から一転、円満なきょうだいが大金を巡って大バトルを繰り広げたワケ【弁護士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月18日 11時15分
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(※画像はイメージです/PIXTA)
相続トラブルと聞くと、確執のあるきょうだい関係を想像する方が多いかもしれませんが、必ずしもそうではなく、相続発生以前はごく普通の関係だったというケースは珍しくありません。ここでは、普通の人でも直面するかもしれない「揉めやすい相続事例」を取り上げ、具体的な解決方法を探ります。不動産と相続を専門に取り扱う、山村法律事務所の代表弁護士、山村暢彦氏が解説します。
相続のトラブルのほとんどは、ひとつの理由に帰結する
多死社会の日本では、日々多くの「相続」が発生しており、それに伴って「相続トラブル」も増えています。トラブルと聞くと、しばしばドラマに出てくる「仲の悪いきょうだい」を思い浮かべるかもしれませんが、実際はそれほど単純ではありません。
ここでは、法律の場でしばしば遭遇するケースにおいて、どんな解決方法があるのか見ていきたいと思います。
まず、相続財産に「不動産」が含まれている場合は、かなりの確率でトラブルが起こります。
原因となるのは「不動産の価値」の評価です。どういうことかというと、相続人の立場によって、遺産である不動産を「高く評価したほうが有利な人」と「低く評価したほうが有利な人」が分かれることがあり、それがいさかいの原因となりがちなのです。誤解を恐れずにいうと、相続のトラブルのほとんどは、これが理由だといっていいかもしれません。
具体的な例をあげて考えてみましょう。
《相続人関係図》
被相続人…母親
相続人……子ども2名(長男・二男)
相続財産:
不動産:東京23区内の戸建て住宅
預貯金:少額
《背景と実情》
専業主婦だった母親が亡くなり、相続が発生(父親は数年前に死去)。相続財産は自宅不動産とわずかな現金のみ。相続人は子ども2人(長男・二男)。兄(長男)は亡くなった母親と実家で同居しており、今後もそこに暮らすことを希望。弟(二男)は、遺産分割を希望し、実家の評価額の半分を「代償分割」として受け取りたいと主張している。
被相続人である母親が亡くなり、相続人として被相続人の子どもが2人(兄・弟)いるとします。この場合、法定相続割合はそれぞれ1/2になります。
相続財産はほぼ実家不動産だけで、なおかつ、実家に同居していた兄が今後も住み続けることを希望している場合、実家の評価額の半分を「代償分割」として弟に支払う必要があります。
筆者の事務所は横浜市にあることから、東京近郊の案件を扱うことが多いのですが、このエリアであれば、ごく一般の家庭の不動産一戸が数千万円の評価になり、23区内となれば、億単位の評価になることも珍しくありません。
上記の例で、仮に不動産の評価が1億円だった場合、代償分割として半額の5,000万円を払う必要がありますが、これだけの金額を現金で支払える人は、まずいないのではないでしょうか。「兄さん、自宅を相続するなら5,000万円払って!」といわれたところで、「いや、それはムリ…」となるのが普通でしょう。
このように、高額な不動産の代償金が準備できず、トラブルに発展するケースはとても多いのです。
自宅を低く評価してほしい兄、高く評価してほしい弟
上記のケースでは、お金を受け取る弟は、少しでも不動産価格を高く評価したいですし、代償金を渡さなければいけない兄は、少しでも安く評価したいため、評価の方法でも揉めることが想定されます。このように、相続人としての「立場の違い」が、トラブルを生み出すことになります。
ではなぜ、揉めることがわかっているのに「同じパターンのトラブル」が起こり続け、国や法律が手を差し伸べてくれないのかでしょうか?
これは「不動産の評価方法が定まっていない」ことに尽きるといえます。
固定資産税を算出するために不動産を評価する場合は「固定資産税評価額」、相続税を算出するために不動産を評価する場合は「路線価」という、国が決める算定基準があります。一方で、裁判所で相続トラブルを扱う場合の不動産評価基準は「実勢価格」、いわゆる市場価格や時価となっています。
裁判所での手続きを進める際に、その不動産が実際にどれほどの価値を持つのかを考えることになりますが、実勢価格には一義的な算定法がなく、市場の動向によって価格が変動することもあります。それがトラブルの原因になるのです。
例えば、「裁判所の基準は〈路線価×〇割〉」などと、算定式や算定方法を一義的に決めてしまえば、トラブル自体が起こらなくなるのではないかと思うのですが、残念ながらそのようにはなっていません。
ひとつの算出基準として「路線価を0.8で割れば実勢価格に近くなる」「固定資産税評価額を0.7で割れば実勢価格に近くなる」といった話もありますが、時価というものは、そのときによって本当に異なります。
固定資産税評価額のほうが高く、買い手がつかない土地もありますし、地域性なども千差万別です。時によって値段の付くエリアも変化し、実際に居住している状態や、再建築ができない土地の場合なら、形状や利用用途によっても変わってきます。結局のところ、算出された実勢価格に折り合わない場合は「不動産鑑定士」に鑑定してもらうほかありません。
不動産鑑定士というのは国家資格で、鑑定士がさまざまな不動産鑑定の決まりに基づいて評価を行いますが、やはりここでも「人によって評価が違う」ことになります。
このように、どの不動産評価の評価基準を採用しても、一義的ではないのです。
まとまらない話し合い…強制的に着地させる方法は?
では、どうやってこの手のトラブルを解決すればいいのでしょうか?
最も典型的な方法として、「遺産分割調停」という、裁判所を利用した話し合いベースの手続きを進めていくことがあげられます。
遺産分割調停には裁判官も関与しますが、基本的には、手続きに関する調整手続調停委員の方が間に入り、話し合いをベースに解決を図ります。
上述の事例で調停をするならば、兄が調停委員に「支払う代償金は2,000万円でいいと思います」と述べ、次に弟が「あの土地は価値が高いから、やっぱり5,000万円もらわないと割に合いません」と調停委員に伝える…というように、調停委員を介して話し合いを続け、調整していくことになります。
それでも話がまとまらない場合は、最終的にもう少し強制的な手続きで「遺産分割審判」という、裁判とかなり類似的な性格を持つ、「強制的解決」を図る手続を行うことになります。
その際、不動産の評価が折り合わないときには、この遺産分割審判のなかで、裁判所が依頼を出した不動産鑑定士に鑑定評価を出してもらい、それに従って強制的に遺産を分ける、という方法で着地させるケースが多くなります。
このような点から、いずれ「被相続人」の立場になる立場の方は、相続人がつらい思いをしないよう、よく考えて対策を立てておくことが重要なのです。
(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)
山村法律事務所 代表弁護士 山村暢彦
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