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脚の痛みに悩む70代男性、医者が伝えた「老化現象です」の一言に怒り…自らの「老い」を受け入れられない高齢者たちの実態

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月14日 8時0分

脚の痛みに悩む70代男性、医者が伝えた「老化現象です」の一言に怒り…自らの「老い」を受け入れられない高齢者たちの実態

高齢者になると、医者に「病気」と言われると喜ぶという話があります。というのも病気は治るけれど「年のせいです」と言われたら治すことができないからです。老化とともに身体が衰えていくのは自然なことですが、老いを自然に受け入れられる人もいれば、なかなか受け入れることができない人もいます。本記事では、久坂部氏の著書『健康の分かれ道 死ねない時代に老いる』(KADOKAWA)から一部抜粋し、老いを認めたくない高齢者の実態をご紹介します。

自分の老いを認めたくない高齢者

健康診断の問診で、「健康上、何か気になることはありませんか」と聞くと、50代の男性が、「膝が痛むんです。走ったりすると特に左の膝の裏が痛みます」と答えました。

「日常生活に差し障るくらいですか」と聞くと、「それほどではない」と言います。「それなら病気ではなく、自然な老化現象ですよ」そう説明すると、相手はいやそうに顔をしかめました。

どうやら老化現象を認めたくないようです。しかし、認めざるを得ないという思いもあるようだったので、私はこう言い足しました。「これからいろいろな不具合が起こりますから、心の準備をしておいたほうがいいですよ」

すると男性は「うわーっ」と声を出して、表情を歪めました。私は笑顔でさらに続けました。「老化現象でいろいろな症状が出た人の多くが、今までなかったのにとおっしゃいます。でも、今までなかったことが起こるのが老化なんです」

「はあ……」男性はあきらめの苦笑いで、肩を落としました。

別の50代の男性は、問診にこう答えました。

「さっき、聴力検査で高い音が聞こえていないと言われたんですが、老化現象でしょうか」「そうですね。老化現象と病気はよく似ていますから」「そんなことを言われたのははじめてなので、気になって」「だれでも老化は初体験なので、これまでなかったことが起こります。病気か老化かは、検査をしてみないとわかりません。病気なら治療でよくなる可能性もありますが、老化は受け入れるしかありません」

意地が悪いようですが、良薬口に苦し、あとの喧嘩は先にという言葉もあります。「いつまでも元気に若々しく」などと言うより、よほど親切だと思います。高齢者は医者に行って、病気だと言われたら喜ぶと聞いたことがあります。病気なら治る可能性があるけれど、「年です」と言われたら治らないからです。

老化の事実を拒みたいという心情は、多くの高齢者に見られます。自然な老化は自分が悪いわけでもないし、恥ずかしいことでもないのに、認めたくないのは老化の悪い面ばかりを見ているからでしょう。

上方落語の桂文喬師匠のまくらに、右膝の関節が痛いという患者が、医者に「年です」と言われたら、「そんなことないでしょう。左膝も同い年ですけど、なんともないですよ」と答えるというのがあります。これなども老化を認めたくない高齢者の思いを如実に表しています。

老化現象を受け入れられない苦しみ

ある70代の男性は、筋骨隆々で診察室に入ってくるときから胸を張り、肩を怒らせていかにも若さをアピールしているようでした。健康診断の問診をするとこう答えました。

「15分ほど歩くと脚が痛くて歩けなくなるんです。少し休むとまた歩けます。整形外科で診てもらったら、脊柱管狭窄症だと言われました。若いころから筋トレをして、不摂生もせず、健康に万全を期してきたのに、なぜこんな病気になるんですか」

脊柱管狭窄症は、脊椎の管が狭くなって神経が圧迫される病気で、脚に痺れや痛みが出ます。70代では特に珍しいものではありませんが、男性は不本意で仕方ないという顔でした。

「筋トレもやりすぎると骨に負担をかけますから、そのせいかもしれませんね」私が言うと、とても受け入れられないという表情をしたので、私はこう補足しました。

「脊柱管狭窄症は病気のような名前がついていますが、自然な老化現象でもあります。長年、身体を使っていることによる症状ですから」

すると男性は気色ばみ、「私はまだ72ですよ。若いときから鍛えてきたのに、老化現象などあり得ないでしょう。人生100年時代なんですから、70代はまだまだ現役じゃないですか。ましてや私はこれまで大病もせず、血圧も血液検査も心電図も正常で、タバコも吸わないし、肥満もしていないのに、なぜ脚が痛くなるんですか」

血圧も血液検査も心電図も、脊柱管狭窄症とは何の関係もありませんが、男性の頭の中では「健康関連」ということでひとまとめになっているようです。脚が痛いのは気の毒ですが、老化による不具合はだれにも止められません。それを拒むことが、いたずらに怒りや不満を強めているように見えました。

別の50代の女性は、左の足がよくつると言い、「水分が足りないのでしょうか」と聞くので、「それは関係ないと思いますよ」と答えると、「でも、よく言うじゃないですか、水が足りないと脚がつると」と不審そうな表情をしました。答えずにいると、

「でも、左の足だけがつるのは、左の筋肉に問題があるということでしょう。筋肉を鍛えようと思って、フラメンコは習っているんですけど、やりすぎて足首を痛めて、湿布を貼ってますけど、なかなか痛みが取れなくて。腰椎すべり症の手術もしたんですが、それが悪かったのでしょうか。もう一度、手術をしたほうがいいでしょうか。フラメンコを踊っているときでも身体がふらつくし、背骨もまっすぐ伸びなくていい形にならないんです。どうしたらいいんでしょうか」などと、取り留めなくしゃべります。

うまく答えられないので、「年齢的な変化もありますからね」と、老化現象を仄めかすと、とたんに顔が強こわばり、うなずきもしませんでした。「そうですね」と、苦笑しながらでも納得してくれるかと思ったのですが、甘かったようです。

老化現象を鷹揚に受け入れる人もいますが、頑として拒む人もいます。前者は穏やかですが、後者は苛立ち、不満、怒りなどに顔を引きつらせています。

93歳で亡くなった私の母親は、老いていろいろなことができなくなったことを嘆き、それでも何とか受け入れようと努力していました。亡くなる直前まで独り暮らしをしていたので、一般に比べればずいぶん健康だと思っていましたが、本人は情けない、歯がゆい、と悔やんでいました。

もっと若くして寝たきりや半身不随になる人が大勢いるのに、元気なころの自分と比べるので、どうしても落ち込むのです。排泄機能も低下して、尿失禁があるようでしたが、おむつは頑として受け入れず、尿取りパッドで凌いでいました。おむつはプライドが許さなかったようです。

逆に87歳で亡くなった私の父は、老いを受け入れ、亡くなる一年あまり前から腰椎圧迫骨折のため寝たきりとなっていましたが、早々におむつにして平気な顔をしていました。

「年を取ったら赤ちゃんに還るんや」

そう言っていましたから、精神面ではごく落ち着いていました。

久坂部 羊 小説家・医師

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