1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

「踊る大捜査線」の室井管理官はそんなにえらいのか?キャリアとノンキャリアに確執はあるの?…刑事ドラマとは違う「警察のリアル」【元事件記者が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月15日 12時15分

「踊る大捜査線」の室井管理官はそんなにえらいのか?キャリアとノンキャリアに確執はあるの?…刑事ドラマとは違う「警察のリアル」【元事件記者が解説】

フジテレビ系列の『踊る大捜査線」が連続ドラマとして放送されたのは1997年。あれから25年以上たった今年10月、警視庁のキャリア室井慎次を主役にした映画が公開される予定です。熱烈なファンが多いこのシリーズですが、ドラマと現実はどの程度違うのかを知っておくと、より一層おもしろく映画を観れるかもしれません。今回は『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)より、著者の三枝玄太郎氏が、ドラマや映画ではない「警察のリアル」を解説します。

室井管理官はそんなにえらいのか

日本では昔も今も警察ドラマや刑事映画が人気です。中でも、1997年に放映されたフジテレビ系の大人気ドラマ『踊る大捜査線』をご記憶の方は多いでしょう。映画化もされ、観客動員700万人の大ヒットを記録しました。

それまでの刑事ドラマと違い、派手な銃撃戦が出てこない一方で、主人公が上司と後輩の板挟みになったり、大きな組織に翻弄されたりするペーソスが、世のサラリーマンたちの心をつかんだのもヒットの要因ではないでしょうか。

私も家族で映画館に足を運びましたし、舞台のモデルといわれている東京水上警察署(現東京湾岸警察署)で開催された交通安全運動に「スリーアミーゴス」神田総一朗署長役の北村総一朗さん、秋山晴海副署長役の斎藤暁さん、袴田健吾刑事課長役の小野武彦さんが出演した際には、取材と称して駆けつけ、ちゃっかり御三方から記者メモ帳にサインを頂いたりしたものです。

さて、『踊る〜』の重要な役どころとして、柳葉敏郎さん演じる室井慎次管理官という人物が出てきます。スリーアミーゴスら警察署の幹部たちは、ことあるごとに室井管理官にペコペコお愛想を繰り返すので、「ふうん、室井管理官はえらいんだ」と思った人も多いでしょう。ただ私はこれには若干、違和感を覚えました。

そう感じたのは私が当時まさに警視庁担当だったからでしょう。ここからは、事件記者が見た、ドラマや映画もかくやという警察のリアルをお話ししていきたいと思います。きっと事件ニュースが何倍も身近に感じられるはずです。

結論から言えば、室井管理官は袴田刑事課長よりはえらいですが、神田署長や秋山副署長よりは階級は下です。これには、警察ならではの組織構造が関係しています。

捜査一課を例にとると、トップに課長がいて、ナンバー2に理事官、補佐役として3〜4人の管理官、管理官の下に10人以上の係長と、ピラミッド式の組織になっています。警察は基本的に「ごく少数のキャリア組」と「大多数のノンキャリア組」でできている組織ですので、管理官以下はほとんどノンキャリアで構成されます。

本庁と警察署をぐるぐる回る

ノンキャリアは巡査→巡査部長→警部補→警部→警視と昇進していきます。警視庁の場合ですと、警部に昇任した段階でのポストは所轄警察署の刑事課長代理あたりが相場です。そこで3年ほど勤務したあと、本庁(東京都なら警視庁、県警なら県警本部)の刑事部捜査一課などの係長になります。

そこでまた3年ほど勤めると、再び所轄警察署に、今度は課長として出ます。その後も警察署と本庁を行ったり来たりが繰り返されます。本庁に戻って管理官↓警察署副署長↓本庁に戻って理事官……。このあたりで警視に昇任しており、大過なく過ごしていればどこかの警察署署長になります。

ノンキャリアの世界では本庁・本部の花形部署に通算何年いたかがステータスです。検事なら特捜部に何年いたとか、法務省で長く務めた(「赤レンガ組」といいます)ことを自慢するのに似ています。

一方、キャリア組は巡査、巡査部長をすっ飛ばして警部補からスタートします。2年後に警部になり、5年目くらいには警視になっています。ノンキャリアで27〜28歳というとまだ巡査部長がほとんどですから、出世のスピードがまるで違います。

『踊る〜』では神田署長(ノンキャリア)は湾岸警察署の署長で、階級は警視です。室井管理官(キャリア)は警視庁捜査一課の管理官で、階級はやはり警視です。同じなわけです。しかし、職責でいえば署長のほうが管理官より上です。これが私の感じた違和感の理由です。

ちなみに室井管理官は東北大学出身で、東京大学卒が幅を利かせる警察庁ではやや傍流というスタンスで描かれているようです。これはその通りだと思います。

警察庁でトップまで行く人の出身大学はキャリアでも東大がほとんどで、たまに京大がいる程度。早稲田や慶応などの私大組、九州大、大阪大、名古屋大、東北大などの旧帝大は警察庁長官、警視総監にはめったになれません。のちに政治家となり、法務大臣まで務めた秦野章という人がいましたが、この方は日大卒で、私大出身者では初の警視総監となりました。

キャリアとノンキャリアに確執はあるのか

「キャリア組のあいつらがいるせいで、俺たちがやりたいように捜査できないんだ」ドラマや映画ではよくこんな風にキャリアとノンキャリアを対立させますが、これも私はどうかと思います。

そもそもキャリアは捜査員というよりは行政官です。立法作業をしたり、通達を出したり、事件や統計を分析したりと、警察組織そのものを指揮、監督することが求められています。しかも難しい事件はあまり担当させてもらえません。ノンキャリアのように捜査の現場周辺を歩き回ったり、白バイに乗ったりはしないわけです。

逆に、「この若造が」というノリで、ノンキャリアがキャリアにぞんざいな口を利いたり、からかったりすることは結構あるようです。とくに警視庁捜査一課などは鼻っ柱の強い職人気質の刑事の集まりですから、トンチンカンな指示を出す管理官などは、「あんたはダメだ」と、露骨に酒席でやられるようです。

ただ、これはほどほどにしておかないとしっぺ返しを食らうことになります。若くしてキャリアで警視庁の捜査一課管理官になった人は、数年後、遅くとも10年ほどすれば、またさらに上の階級として戻ってくる可能性がかなり高いのです。警視庁の部長、参事官、課長、署長、管理官を務めるというのは、キャリアの中でもエリート。若いころに警視庁の署長、本庁の課長を務めるならなおさらです。

警察庁長官のときに銃撃されて重体となった国松孝次さんは、若いころに本富士署の署長や警視庁広報課長を務めています。私が警視庁担当記者だったころ、捜査二課長に就任した金髙雅仁さんは、その後、警視庁刑事部長を務め、最終的に警察庁長官というキャリア組トップの出世を遂げました。オウム真理教事件のときの警視総監、井上幸彦さんも警視庁警備一課長、人事一課長、警備部長などを歴任しています。

スリーアミーゴスの室井管理官へのおべんちゃらは、先々を見越してのものだったのかもしれません。

三枝 玄太郎

※本記事は『三度のメシより事件が好きな元新聞記者が教える 事件報道の裏側』(東洋経済新報社)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください