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生涯独身だった80代長男「全財産を看病してくれた妹へ」→次男・三男「納得できない」…結局、遺産分割することに。原因は“問題だらけの遺言書”【弁護士が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月6日 11時30分

生涯独身だった80代長男「全財産を看病してくれた妹へ」→次男・三男「納得できない」…結局、遺産分割することに。原因は“問題だらけの遺言書”【弁護士が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

多くの方が遺言書を作成する理由は、自身の死後に残された人々が遺産で揉めることを避けたいという思いからです。しかし、遺言書に不備があると、法的に有効と認められないことがあり、結果的に遺産を巡る争いの原因となってしまうこともあります。本稿では、80代の兄が看病をしてくれた妹へ遺産を遺そうとした遺言書の事例をもとに、弁護士の根本達矢氏が解説します。

母の相続で揉めた4人兄妹。長男が逝去し……

クリスマスも終わり、年内の仕事を片付けている途中、私、根本(弁護士)の携帯に知り合いの行政書士から電話が入りました。内容は、「私が担当している顧客の名前が書かれた遺言書があるが、その遺言書通りに遺産整理を実行するために力を貸してくれないか?」ということでした。

詳細を本人から直接聞く必要があると思った私は、依頼者である松井さん(仮名)の連絡先を聞き、ご自宅に伺うこととなりました。

そして、私は千葉県にある松井さんの家を訪れました。呼び鈴を鳴らすと、しばらくしてドアが開き、そこには小柄な高齢の女性が立っていました。

室内に案内され、用意された座布団に座ると、「昨年亡くなった兄の遺言書に私の名前が書かれていて、これって兄の財産を全部私がもらえるってことかい?」と松井さんは早速本題について話し始めました。話を聞くと、松井さんは長男、次男、三男、松井さんの4人兄妹で、昨年春に80代の長男が亡くなったとのこと。

「元々兄弟の仲は悪くなかったけど、母が亡くなった時の相続で揉めてしまって……。次男と三男が希望する内容にならなかったから、二人はすっかり仲が悪くなって、私と兄さん(長男)の前に顔を見せなくなってしまったのよ」お茶をすすりながら寂しそうに話す松井さん。

「兄さん(長男)は亡くなる2年前くらいから病院で過ごしててね。あの人、生涯独身だったから身寄りがなくて、可哀想だから、私は亡くなるまでの間、行ける時は病院に行って看病をしてきたけど、次男と三男は一回も顔を出すことはなかったのよ。母の時の遺恨もあったから亡くなったら自分の財産は次男と三男に渡したくなくて、遺言書で私を指名したんじゃないかなと」

「なるほど、そうでしたか。もしよろしければ、お兄様が残された遺言書を見せていただくことはできますか?」

すると松井さんは「これこれ、これだよ」とダイニングテーブルの上に置いていた紙を私に渡しました。

遺言書に書かれていた“兄の思い”

受け取った遺言書は確かに、「財産は全て看病してくれた妹に」と書かれていましたが、いくつかの点で思わず顔を曇らせてしまいました。まず、松井さんに宛てた遺言書のはずが、記載されている名前が【松本】になっていました。

それだけではありません。「この遺言書は、亡くなる20日くらい前に兄さんが自分で書いたと聞いたよ」と松井さんは話していましたが、亡くなる20日前であれば記入年は2019年のはずです。しかし、遺言書の記入年は2007年となっていました。

更に、長男が遺言書の中で間違えて記入した文字を、二重線を引いて訂正印を押す方法で訂正しておらず、間違えた文字を黒で塗りつぶして新たに書き直してもいました。

「なにかちょっと間違っているところはあるけれど、できたら兄さんの思いを受け取りたいのよ」

話を一通り聞いた私は少し考えた後、「松井さんの思いはわかりました。今この遺言書を見る限り、内容を実現できる確率は0ではないですが、もしかすると実現できない可能性もあります」と松井さんにはっきりお伝えしました。

「ですが、お話を聞いて松井さんの思い、そしてお兄様の思いを実現するために尽力したいと思います。お時間はかかるかもしれませんが、実現に向けて何ができるか、私と一緒に考えながら動いてみませんか?」

そう私が提案すると、「……わかりました。できる限りのことはしたいからね」と松井さんは静かに答えました。

次男、三男共に「遺言書の内容には同意できない」

私は事務所に戻ると、すぐにどのような対応ができるか考えることにしました。そして松井さんにお会いした日から約3週間後、私は再び松井さん宅を訪れました。

そして早速、松井さんに二つの案を提示しました。まず一つは、遺言書の内容が有効であるという前提で、死後の手続きを進めていくこと。もう一つは、おそらく松井さん宛の遺言書ではあるがその有効性が問われてしまう内容になっているので、落とし所を見つけて和解を前提に話し合いを進めていくこと。

「違いとしては、前者の案では遺言書の有効性が認められた場合、すべての財産が松井さんの元に来るということになります。ですが、この遺言書の内容が認められない可能性も高いとも考えられますし、時間がかかることが予想されます。ですので、なるべく早く解決をしたいということでしたら、後者の案がいいと思いました」

「なるほどねぇ……」と言ったきり、松井さんはしばらく黙り込んでしまいました。しばらくしてから、松井さんはゆっくり顔を上げて「……でも、やっぱり兄の思いを叶えてあげたいな」と小さな声で言いました。

「では遺言書が有効であるという前提で物事を進めていきましょう。早速他のご兄弟様にもご連絡します。連絡内容は、お兄様が亡くなったことと、このような遺言書があり、内容的には松井さん宛てになっているので、お兄様の相続は全て松井さんが受け取るものとした上で相続しようと思うが、異論はあるかないかというものにします」

「わかりました。手間かけてごめんね。頼んだよ」

私は次男と三男に送る書面内容を作成し、完成後、すぐに二人に送付しました。

書面をお送りしてから約1ヵ月後、私の事務所に次男、三男からの返信が届きました。連絡内容に対する返信を見てみると、二人共遺言書の内容に同意できないという回答でした。

理由として、遺言書の有効性、そして、松井さんが以前に話していた、母親の相続時に次男、三男それぞれの思った通りにならなかったことが見受けられました。二人の返信を受け取り、私は今後どうすればいいのかを考え、再び松井さん宅に伺いました。

居間に案内された後、私は早速新たな二つの案を松井さんに提案しました。一つは、兄弟間でこの相続に関する話し合いを続けるために、調停を起こすか。もう一つは、遺言書が存在するとし、遺言執行者選任の申し立てにするか。

「やっぱり、この遺言書の内容をそのままの内容として認められるのは難しいのかね」

少し曇った表情で話す松井さんに対し、私は「遺言書の評価としては、やはり難しい部分はあると思います。ですが、話し合いになれば遺言書通りの相続を手にすることはできないかもしれませんが、何より早く解決させることができます」と答えました。

松井さんは再度熟考した上で、調停を起こすことにしました。

3兄妹間で調停へ…次男・三男が“吐き捨てたセリフ”

調停に向けて次男、三男にも連絡を取り、全員が集まれる日から調停日が決定しました。

季節もすっかり変わり、桜が散り始めた頃、第一回目の調停が開始されました。私と松井さんが会場で待っていると、次男と三男が入ってきました。二人はどかっと椅子に座り、背もたれに寄りかかりながら腕と足を組んだ姿は、少し横柄な態度に見えました。

私は早めに終わらせようと早速本題を切り出しましたが、私が話すとすぐに次男が「俺らは妹と話す気なんてない。今後このような調停が行われても、俺らはもう来ないからな」とだけ吐き捨て、二人揃ってすぐに部屋から退室してしまいました。

松井さんは「やはり話し合いは無理なんかねぇ……」とひどく落ち込んだ様子でしたが、私は「確かに話し合いは今後難しそうですね。ですがここで折れてしまっては、お兄様の思いが報われません。ここは一緒に最後まで実現に向けて頑張っていきませんか?」そう声をかけました。

「……そうだね。ここまできたなら最後までやってみるかね」

ここから私たちは松井さんの思いを実現するために、改めて遺言執行者選任の申し立てをしたり、銀行や二人の兄弟を相手に訴訟を起こしたりと、次々と行動に移していきました。

その中で私は、以前に起きた、母親が亡くなった際の相続で次男と三男の思い通りにならなかったことが理由なのであれば、相続の一部を二人にも提供することでもしかしたら飲み込んでくれるのではないかとも考えました。

そこで、私は亡くなった兄の土地や家の不動産評価をしてもらいました。すると兄が所有していた家と土地は約6,000万円の評価となりました。これを次男、三男、松井さんの三人均等の三分の一ずつの配当では松井さんにとって有利にはならないので、松井さんに3,000万円、次男、三男にそれぞれ1,500万円配当する案はどうかと提案しました。

この提案をしてから数日後。次男、三男より書面にて連絡があり、この条件であれば応じるとの返答が届きました。

松井さんにこのことを告げると、「本音を言えば遺言書通り100%の相続が欲しかったけど、あなたがそれが難しい中ここまでやってくれたので、このくらいなら御の字かね」と納得した様子で話してくれました。

「法的に問題のない遺言書作成」が円満相続の鍵

今回の松井さんの件から思うこととして、結果的にお金と時間はかかってしまいましたが、リスクを取ってもご本人の意向を踏まえて動いたことで、ご本人が納得できる結論を導くことができたのではないかということです。

しかし、そもそもお兄さんが亡くなる前に法的に問題のない遺言書を作れてさえいれば、希望通り松井さんに全て相続することができたこともまた事実です。

遺言書があったからといって、相続が万事スムーズに進むわけでは必ずしもありません。この事例を読んで、あなたの遺言書に問題がないか不安に感じた方、ご家族が亡くなられてこの先の対応をどうしようと思われた方は、すぐプロに相談されることをお勧めします。

根本 達矢

弁護士

東池袋法律事務所所属

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