おとなしい人がリーダーになってもうまくいく?リーダーシップと性格に関する意外な事実【脳科学者が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月20日 11時0分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
おとなしい人はリーダーシップをとるのが得意じゃないイメージがありますよね。脳科学者の西剛志氏は著書『「おとなしい人」の完全成功マニュアル 内向型の強みを活かして人生を切り拓く方法』の中で、「リーダーシップは従業員によって決まる」と言っています。一体どういうことでしょうか? それはなぜなのか、本書から紹介します。
リーダーシップは従業員で決まる
そうはいっても、内向型がもっとも苦手に感じやすいのが、リーダーとしての仕事をまかされたときです。人を動かすよりも、自分一人で仕事をしたほうが速くて楽だと思ってしまう傾向があるからです。実際に内向型は、世の中的にもリーダーシップを発揮できないというふうに思われています。
米国の2015年の研究では、企業のマネージャー層の内向型の割合は、なんとわずか4%という結果が出ました。すなわち、管理職の96%は外向型ということになります。ぐいぐい周りを引っ張っていく外向型リーダーのほうが、かつてはよく目立っていたのでしょう。外向型は、よく話し、明るく、会議でも注目を集めやすく、優れたコミュニケーターやリーダーになりやすいことがわかっています。
研究者たちのなかにも、「よいリーダーとは外向型である」という先入観のようなものがあり、内向型リーダーの成果は見過ごされてきた歴史があります。これらの過去の事実だけを見ればたしかに、外向型のほうがリーダーに向いているように思えるかもしれません。
ところが、近年、意外な事実が判明しました。「外向型と内向型、どちらがリーダーに向いているかは『従業員のタイプ』で決まる」というのです。具体的には、次のような結果でした。
・受け身な従業員が多い → 外向的なリーダーが優位
・積極的な従業員が多い → 内向的なリーダーが優位
上司の命令に従う、いわゆる軍隊的・トップダウン式組織の場合は、外向型リーダーのほうがうまくいきます。他方、積極性に溢れ、自発的に動くのが得意な従業員が多い場合は、実は、あれこれ指図するよりも、内向型のリーダーのほうが望ましい。そんな明確な違いが明らかになったのです。
内向型は、うしろから人をサポートするのが得意です。自分が前に出て、みんなをぐいぐい引っ張っていくよりも、仕事を各々に任せ、その人の能力を引き出すほうが適しています。今、世界的なリーダーシップの研究でも注目されている「サーヴァント・リーダーシップ(従属する奉仕型のリーダーシップ)」と共通するものです。
サーヴァント・リーダーシップとは、上から下に命令するトップダウン形式のリーダーシップとは異なり、従業員に必要なものをリーダーが提供して、メンバーの意欲を引き出していくボトムアップ型のリーダーシップです。最近は若い人が会社をすぐにやめることがよくニュースでも取り上げられます。
価値観が多様化した現代では、無理に価値観を押し付ける従来のトップダウン式のリーダーシップは、若い人の価値観の自由が奪われるため、やる気が下がってしまうからです。自分が前に立ってどんどん行動するのが得意な外向型は、トップダウン形式のリーダーシップが得意です。
しかし、意欲があって自分で考えることが好きな積極的な従業員は、その環境に違和感を感じ、チームや組織全体の士気も下がってしまいます。一方で、前に出るのが好きではない内向型は、周りが活躍できるように後ろから支援するほうが得意です。人の心に響く言葉を言える内向型は、チームメンバーのやる気をさりげなく鼓舞する役割が向いています。
一つのことを深く極めようとする内向型はビジネスからスポーツ、芸術でも第一線のプレーヤーや職人として活躍できますが、チームの場合はどちらかというと後方から支援する監督やプロデューサーのような立ち位置のほうが本来の力を発揮しやすいと言えます。アジアのことわざに、「小心な人が豪快な人を砕く」という言葉がありますが、まさに、積極的なチームを導くのはおとなしい人の強みなのかもしれません。
もちろん、内向型が無理にリーダーになる必要はありませんが、内向型がリーダーになってもうまくいく可能性は多分にあるということです。これに外向性が備わった、両向型の人になれば、受け身のメンバーにも積極的なメンバーにもより大きな影響を与えられるため、素晴らしいリーダーシップを発揮できるでしょう。
職場の環境によっても、うまくいきやすい性格は変わる
これは余談ですが、リーダーシップと同じように、特定の分野でうまくいくためには、その分野ごとに成功に必要な性格が異なるようです。実際に、8458人を対象にしたリサーチでも、「協調性」が求められる仕事では「協調性」がある人はより収入が高い傾向にありました。
しかし、「開放性」が求められる職種では「協調性」よりも「開放性」のスコアが高いほうがより年収が多い傾向にあったのです。研究職や職人のように周りに合わせるよりも独自性の高い仕事を求められる職場では、人に合わせすぎる人(協調性が高すぎる人)はうまくいかないということを意味しています。人は自分に合った場所にいることで、はじめて花開くということなのかもしれません。
脳は価値観よりも行動を重視する
一方で、内向性が高い人がリーダーとなったときに避けたほうがよい場面もあります。それは緊急性を要する場面です。そこでは外向型リーダーに軍配が上がります。たとえば、災害時の避難指示を出さなくてはならない、会社が倒産の危機にあるなど、緊急の即断的な対応が必要な場合は、外向型リーダーが力を発揮します。
落ち着いていて、もの静かな内向型が話すよりも、熱意をもって緊急度の高さを訴えかけたほうが、大勢の人を動かしやすいのでしょう。とはいえ、内向的な人が陣頭指揮をとって、緊急トラブルの対処をしなければならない場面もあります。そんなときは、必要に応じて「外向的なふるまい」をすることで、外向型リーダーと同程度の効果が発揮できる、というクイーンズランド大学の研究結果もあります。
大きな声を出したり、身ぶり手ぶりをいつもとは変えてみたりと、一時的に「外向型」の仮面をつけて、それらしい態度をとるだけでも、周囲に影響を与えられるそうです。私たちの脳はリーダーを感じるために、メンタルよりもその人の行動を重視する傾向があります。そのため、「有言実行」がリーダーシップに最も有効な方法の一つと言えるでしょう。
静かなリーダーが直面する壁
孤独に強く、部下に考えさせるのがうまい内向型リーダーですが、外向型リーダーが多い中で、もちろんストレスを感じる場面もあります。フロリダ・アトランティック大学でリーダーシップを研究するローズ・O・シャーマン教授は、内向的な人がリーダーになったときのエピソードをこう伝えています。
あるスタッフが、組織のマネージャー職に昇進しました。最初は不安でしたが、新しい環境に慣れてくると楽しく、メンバーと一緒に働けることに喜びを感じていました。しかし、ある日突然、上司に呼び出され、こんな言葉を伝えられたのです。
「君は社会性が十分じゃない。毎日カフェに行って、チームメンバーとランチをとるように」この言葉を聞いて、そのマネージャーはかなりショックを受けたそうです。なぜなら、自分は一人で食事をするのが大好きで、仕事の合間に唯一リラックスできる大切な時間だったからです。物静かで、一人を好む、そんな自分が本当にリーダーに向いているのか、改めて考えさせられたという話です。
内向的な人は、外向的な人が思い描く理想の世界で生きているため、周りと比較すると自分には仕事が向いていないと感じてしまうことがあります。しかし、内向性がある人は、決してリーダーに向いていない訳ではありません。内向的な人は深く考え、具体的に話す。そして、外向的な人より相手の話を聞き、浅い部分ではなく深い部分に目を向けます。中心にいることには関心がなく、穏やかさを通して人にリラックスを与えることができます。
米国の研究でも、内向性があるリーダーは会社のプロジェクトが計画段階にあるときに力を発揮するという報告もあります。全体を広く俯瞰して方向性を深く考える能力が高いと言えるでしょう。あまり表には出ようとはしませんが、内向型の人は孤独感に強く、リスクやマネージングの問題に対してより創造的で注意深い一面があるため、後方で支援するようなスタイルだと内向性を生かせて、より成功しやすくなるのです。
地球上には太古の昔から「長老」という形のリーダーが存在しました。落ち着きがあり全体を俯瞰して言葉をかけ、人を動かすその姿はまさに内向型がとるべきリーダーシップの姿なのかもしれません。
西剛志
脳科学者
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