株式投資、勝つ人だけが知っている…市場で〈理屈を超えた値動き〉が起こるワケ【経済評論家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月20日 9時15分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
株価や為替レートの値動きは、ときに人々の「ウワサ」で大きく上昇・下降することもあり、予測は容易ではありません。そのような「理論を超えた動き」のあるなかで利益を得るには、ぜひとも心得ておきたいことがあるのです。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
「株価・為替」は「噂・思惑」で動く
株価や為替レート(ドルの値段など)は、理屈通りに動かないことが多く、投資初心者は頭を抱えてしまうことも多いようです。予想が困難なだけでなく、なにが起きているのかを理解することさえも容易でない場合が多いからです。
株価などは、人々が「上がる」と思うと買い注文が増えるので実際に上がります。つまり、「上がりそうだ」という噂が流れただけで、実際に上がる場合が多いのです。それを経済学者ケインズは「株価は美人投票のようなものだ」と表現しました。
つまり「株で儲けようと思ったら、真実を知ることよりも、周囲の噂話に耳を傾けるほうがよい」ということなのですが、それを理解するためには当時の美人投票のシステムを知る必要があるでしょう。
ケインズ時代の美人投票の「特殊な仕組み」
現在の美人投票は、審査員が美人だと思った人に投票し、最も得票を集めた候補者が優勝してトロフィーを受け取る、というものです。ケインズ時代の美人投票も、そこまでは同じなのですが、優勝者に投票した審査員も景品がもらえたのです。
そうなると、審査員の行動パターンが変わってきます。自分が美人だと思う候補よりも、優勝しそうな候補に投票する方が得をする可能性が高いからです。たとえば、自分は候補Aが美人だと思っても、候補Bが登場した時に審査員たちが拍手喝采したとすれば、Bが勝つ可能性が高いので、Bに投票すべきなのです。
拍手喝采が起きなくても、周囲の審査員がだれに投票するのか、誰が勝つという噂が流れているのか、周囲の審査員に聞いてまわったほうが壇上の候補者を見つめるよりよい、ということで、みんなが噂の収集に注力するはずです。
では、「候補Cが審査員たちに賄賂を配っているから、Cが勝つだろう」という噂を聞いたら、どうすべきでしょうか。勝ちそうなCに投票すべきでしょうね。「どうして自分には賄賂をくれないのだ」などと憤ってもしかたありませんから(笑)。
問題は「噂が誤りであっても関係ない」ということです。多くの審査員が噂を信じてCに投票すればCが勝つわけですから。審査員のなかには、噂が誤りだという真実を知っている人がいるかもしれませんが、その人は「自分だけが真実を知っている」と自己満足するのではなく、やはりCに投票すべきなのです。ケインズの教えるとおり、真実より周囲の噂のほうが重要なのです。
黒田日銀総裁、「効かないはずの薬」で不況を「治療」!?
黒田氏が日銀総裁に就任したとき、「大胆に金融を緩和します。それにより、世の中に資金が出回り、株などが値上がりするでしょう」と自信満々の記者会見をしました。それを聞いた投資家たちは、株等に買い注文を出したので、株等が値上がりし、それが景気を押し上げました。金融緩和で景気が回復したのです。
筆者は、元銀行員ですから「金融緩和をしても世の中に資金が出回らない」ことを知っていました。借り手がいなければ、銀行は日銀から受け取った資金を日銀に送り返してしまうからです。
しかし筆者は「元銀行員だけが真実を知っている」などといった自己満足に浸ることなく、「多くの投資家は元銀行員ではないから、総裁の記者会見を見て株を買うだろう。自分も買おう」と考えて株を買いました。
結果として儲かったので、何度も飲みに行きましたが、そのときに「黒田総裁ありがとう」と言って乾杯したのは間違いでした。黒田総裁が金融を緩和しても、ケインズの教えを知らなければ筆者は株を買わなかったでしょうから、儲けることができなかったはずなのです。したがって、「ケインズ先生ありがとう」と言わなければならなかったのです。
講演でこの話をしたところ、「黒田総裁は世の中に資金が出回らないことを知っていたのですか」という質問が出ました。大変答えにくかったので、「黒田総裁は、効かないはずの薬で不況という病を治したのだから、名医です」とだけ答えました。
医学の世界では、患者に「よい薬だ」と言って小麦粉を渡すと、患者の病気が治癒することがあり、「偽薬効果」と呼ばれているようです。薬のない場所で医者が患者に小麦粉を渡して、病が治癒したとすれば、それは名医と呼ぶべきでしょう。「小麦粉だと知らなかった愚か者」「小麦粉を薬だと偽った詐欺師」などと呼ぶべきではありませんから。
長期投資の場合は、噂より「真実」が重要
ケインズの教えは、短期投資には大いに役立ちますが、長期投資には役立たないので注意が必要です。10年持つつもりで株を買うならば、真実を見つめる(10年後も利益を稼いでいる会社か否かを検討する)ことが重要です。
悪い噂が流れているなら、株価が安値に放置されている可能性が高いので、むしろ買い材料でしょう。「人の噂は75日で消えるから、株価が適正水準に戻ると期待される。いまが買い時だ」と考えるわけですね。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
筆者への取材、講演、原稿等のご相談は「ゴールドオンライン事務局」までお願いします。「THE GOLD ONLINE」トップページの下にある「お問い合わせ」からご連絡ください。
塚崎 公義 経済評論家
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