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誰が来てくれと頼んだ!…年金月23万円・元消防署長の79歳父、1年ぶりに帰省した54歳長男を追い返そうとした“切なすぎる理由”【CFPの助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月30日 10時15分

誰が来てくれと頼んだ!…年金月23万円・元消防署長の79歳父、1年ぶりに帰省した54歳長男を追い返そうとした“切なすぎる理由”【CFPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

熟年離婚や配偶者の死によって一人暮らしとなった高齢者は、急激な環境の変化が大きなストレスとなり、本人にさまざまな悪影響をおよぼすことが少なくありません。79歳の父親も、3年前に妻を亡くし、悲しみから「驚きの行動」に。父親の異変を感じとった長男が帰省すると、そこにはまさかの光景が広がっていたのでした……詳しくみていきましょう。

父の「こっちは大丈夫だから」に感じた“異変”

剛さん(仮名・54歳)は、大手企業に勤めるサラリーマンです。都内の分譲マンションに、1歳年下の妻と2人で暮らしています。

剛さんの母親は3年前に亡くなっており、現在は79歳の父親が1人、剛さんも高校まで過ごした戸建ての実家に住んでいます。

剛さんが父親と最後に会ったのは約1年前、母親の3回忌のときです。それ以来、仕事が忙しく帰省できていません。しかし月に1度はテレビ電話で安否確認を行っていました。

そんななか、数ヵ月前から父親が「機械の調子が悪い」と、テレビ電話を拒否するようになりました。仕方なく声だけで安否を確認しますが、以前に比べ少し怒りっぽい様子で、「あぁ、なにも変わりはないから」とすぐに切られてしまいます。

ある日、母が亡くなって3年目の命日に備え、久しぶりに実家に帰ろうと日程を相談したところ、父親は次のように言い、遠回しに断られてしまいました。

「あぁ、こっちは大丈夫だから。住職と話してさ、今後は3年と7年ごとに法要をお願いすることにしたから。だから次は7回忌でいいよ。祥月命日や月命日は、住職に来てもらって俺がやっとくから、わざわざ帰ってこなくていい。交通費がもったいないだろう」

これまでは「今度はいつ帰ってくるんだ」と剛さん一家に会うのを楽しみにしていた父親なのに、なにかがおかしい……胸騒ぎがした剛さんは、思い切ってアポなしで帰省することにしました。

次の休日、妻を連れて実家に帰ったところ、父親は留守のようです。持っていた合鍵で引き戸を開けると、そこにはまさかの光景が……。

剛さん夫婦が“アポなし帰省”で目にした「まさかの光景」

剛さん夫婦が居間に入ると、明らかに使っていない真新しい健康器具や未開封の羽毛布団、高級ゴルフセットなど、溢れんばかりの「物」でギュウギュウになっています。

さらに、お風呂やトイレも剛さんにとっては過度なバリアフリー化が行われ最新設備が施されており、知らないあいだにリフォームが行われていたようです。

「おいおいおい……父さん、なんだよこれ……!」

剛さん夫婦が呆気にとられていると、玄関のほうからガサゴソと音がします。どうやら父親が帰宅したようです。

「……お、おい! なんでここにいるんだ! 誰が来てくれと頼んだ! いますぐ帰れ!」

見たことのない形相で、父親は顔を真っ赤にして怒鳴っています。剛さんと妻は追い返そうとする父親をなんとかなだめ、「大丈夫、怒らないから。なんでこんなことになったのか理由を教えてくれ」と懇願。

しばらくすると、父親は小さな声で、次のように理由を教えてくれました。

「母さんを失ってから、どうにも出かける気にならなくてな……。知り合いにも散歩くらい行けって言われてたんだが、コロナもあっただろ? テレビをつければ不要不急の外出がどうのこうの言ってるし、思うようにいかなかった。

それでさ、家にいても暇で、だんだんテレビばっかり見るようになってな。朝起きると毎日毎日、通販番組で……。そんで、気がついたらこうだ。いやあ、ダメだとはわかってるんだが、どうにもやめられなくてな……」

誰にも話すことができず、ひとりで悩んでいたと思うと、剛さんは怒りより同情の気持ちのほうが大きくなりました。心なしか父親が以前より小さく、寂しそうにみえます。

落ち着いた剛さんはその後、父親の資産状況を確認しました。父親は現役時代消防士で、消防署長まで昇り詰めました。60歳で退職した際には、退職金約2,200万円を受け取り、65歳からは月に約23万円の老齢年金を受給しています。本来であれば金銭的な不安は一切ないはずでしたが、通販やリフォームで散財した結果、父親の預金はすでに100万円を切っています。

「このままじゃ老後破産じゃないか……!」父親の老後に不安を感じた剛さんは、父の古い知人であるファイナンシャルプランナーのもとに連絡。今後のマネープランについて相談することにしました。

通販は原則「クーリング・オフ」の対象外

筆者は、まず電話で剛さんから一連の話を聞きました。剛さんは、「父親が購入したものを返品したいのですが、クーリング・オフは使えるでしょうか」と尋ねます。そこで筆者は、「クーリング・オフ」についてかいつまんで説明しました。

クーリング・オフとは、いったん契約の申し込みや締結した場合でも、契約を再考できるよう、一定期間であれば無条件で申し込みを撤回したり、契約を解除したりできる制度です。

しかし、訪問販売や電話勧誘販売などはクーリング・オフ制度の対象となっている一方、通信販売は、対象にはあたりません。

通信販売で返品可能な条件については、販売事業者が定めています。たとえば、番組内で「返品可能」などと紹介されていても、「未開封・未通電に限る」など、販売事業者の定めたルール(特約)の範囲内であれば返品が可能です。

また、特約がない場合には、商品を受け取った日を含めて8日以内であれば返品することができますが、その場合、返品にかかる費用は消費者が負担するのが原則です。

父親が購入した商品は未開封のものも多くありましたが、すべて買ってから8日以上経過しており、返品は難しそうです。

剛さんはそれでも、「わかりました。なんとか返品できるよう、業者に相談してみます」と答えました。それから、「父親には認知症と買い物依存症の疑いがあるので、有給をとって病院に連れていきます」と話してくれました。

息子の交渉で破産回避も…明らかになった父親の「思惑」

それから約1ヵ月後、剛さんと筆者は、筆者の事務所で直接会う機会を設けました。先日の電話のあと、剛さんは早速、購入した業者に返品の交渉をしたそうです。

「粘り強く交渉したら、送料をこちらが負担すれば、返品に応じてくれる業者もあったんです。あとはフリマアプリで出品したり、リサイクルショップに出向いたりして、結局180万円ほどは取り戻すことができました」

また、心配していた父親の健康状態については、

「父親のかかりつけ医に診てもらったんですが、認知症の疑いはないそうです。だけど、年齢を考えるといつなってもおかしくないとのことで、外出の機会を増やすためにも、自治体の地域包括支援センターや社会福祉事務所などで実施されている認知症予防の催しに参加したらどうかと勧められました。父親も乗り気で、早速行ってみるそうです」

さらに剛さんは、実家をリフォームした業者にも会いに行ったそうです。

「いわゆる悪徳業者かと思って覚悟して行ったんですが、全然そうではなくて、社長が父親と知り合いだったみたいで。社長の話では、父親は『要介護5になっても自宅で住めるようにバリアフリー化してくれ』と注文したんだそうです。

バリアフリーだと結構お金かかっちゃうし、ちゃんと俺(息子)に相談したのかって聞いてくれたみたいなんですけど、『息子に迷惑かけないように、早くリフォームしてもらいたい』と言って、工事を急がせたそうです」

「たしかに、改めて実家を眺めると、設備としては十分なんです。でも相談してほしかったし、介護が必要になったら介護をする“人”が必要ですよね」と剛さんは苦笑い。

「親父に聞いてみたら、『今後認知症になっても、介護が必要な状態になっても、施設には入りたくない。母さんの位牌と仏壇のあるここで過ごしたいんだ』って言うんです。父親がリフォームしてでも生涯住みたいなら、その考えは尊重してあげたいんですが……そんなこと可能なんですかね?」

剛さんが尋ねた内容に、筆者は次のように回答しました。

息子のおかげで家計は黒字も…息子夫婦の人生は激変

現在の父親の収支状況ですが、通販をやめたいま、支出は18万円と、平均額以上ではあるものの、家計は黒字です。

※ 平均77.4歳の単身無職の世帯の月平均収入は12万6,905円。生活費などの消費支出14万円5,430円+税金などの非消費支出1万2,243円を合計して13万9,148円(総務省「家計調査報告(家計収支編)2023年平均値の概要」より)。

また、100万円を切っていた貯蓄額も、剛さんが返品を行ったことで280万円ほどに戻っています。今後大きな病気や介護の状態にならなければ、経済的には1人での生活が可能です。

今後、父親に介護が必要になった場合、剛さん夫婦が実家に戻り父親の面倒をみる必要が出てきます。「介護休暇制度」や「介護休業制度」を利用して、介護と仕事との両立ができる体制を整えていきたいところです。

実家で父親の介護をすることになれば、剛さん夫婦も実家に住み、片道1時間以上をかけ新幹線通勤をすることになるでしょう。あるいは、剛さんだけが実家に戻り、妻とは別居生活をするという選択も考えられます。

どちらにしても、剛家には負担がかかりますし、剛さん夫婦は共働きですので、日中はヘルパーなどを頼る必要があるでしょう。

ちなみに、筆者が剛さん夫婦の家計収支や退職金、65歳から受け取る年金収入を確認したところ、65歳からは夫婦で月30万円前後年金収入が見込めるほか、現在住んでいるマンションの住宅ローンは完済していることから、リフォームしたうえで売却や賃貸に出すといった選択肢もあります。したがって、経済的には、剛さん夫婦に破産の心配はありません。

しかし、現在54歳の剛さんは、今後役員になるのか、60歳で1度退職して再雇用してもらうか大切な時期です。

剛さんに聞くと、「いっそのこと、ここで会社を辞めて実家に帰っても、いままでに積み上げたキャリアがあるので、地元でも勤め先はすぐに見つかる自信があるのですが」と言います。

突如、人生が激変することとなった剛さんですが、「妻ともよく話し合い、今後のライフプランを決めていきたいと思います」といって、その日は帰られました。

剛さんは帰り道ふと、「息子には将来こんな思いをさせたくないな……いまのうちに話し合って、困らせないようにしよう」と決意を新たにしたのでした。

牧野 寿和

牧野FP事務所合同会社

代表社員

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