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「1億6,000万円控除」の罠?相続税の“配偶者控除”が絶対お得とは限らないワケ【FPの助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月3日 11時15分

「1億6,000万円控除」の罠?相続税の“配偶者控除”が絶対お得とは限らないワケ【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

相続について調べると、「相続税の配偶者控除は1億6,000万円」という情報が出てくると思います。これだけ聞くと、相続において配偶者はとても優遇されているように思えるかもしれません。これ自体は事実ですが、1億6,000万円という数字だけで判断すると、かえって多くの税金を払うことになるかもしれないことをご存知でしょうか? 今回は夫を亡くされた奥様からの「配偶者である自分が全額相続するべきかどうか」という相談内容を用いながら、相続税の配偶者控除について見ていきたいと思います。

夫を亡くした妻から「全額自分が相続していいのか?」という相談

【今回の相談事例】

資産額:夫(死亡)1億円、妻5,000万円

一次相続の被相続人:夫(死亡)、相続人:妻と子1人の合計3人

二次相続の被相続人:妻、相続人:子1人

2024年5月にご主人を亡くされた奥様(82歳)から、こんな相談をいただきました。ご主人(死亡時84歳)の遺言書を確認したところ、 自分(=配偶者)に全額相続させる旨の内容が書かれていたそうです。しかし本当に全額自分が相続した方がいいのか、息子(48歳)にも一部資産を分割した方がいいのかがわからないとのことでした。

相続税の配偶者控除とは?

【今回の相談事例】

①相続税の課税価額の合計額×配偶者の法定相続分

②1億6,000万円

上記①・②のいずれか大きい金額が相続税の配偶者控除額となる

相続税の配偶者控除とは、配偶者が相続した遺産のうち、課税対象となるものが1億6,000万円までであれば相続税が課税されない制度のことで、もし1億6,000万円を超えても配偶者の法定相続分までであれば相続税は課税されません。

なお、相続人が配偶者と子どもの場合、配偶者の法定相続分は2分の1になり、相続人が配偶者と被相続人の親である場合、配偶者の法定相続分は3分の2になります。また、相続人が配偶者と被相続人の兄弟姉妹の場合、配偶者の法定相続分は4分の3になります。

例えば、資産が3億円あるとして、相続人が配偶者とお子さま1人だった場合、配偶者の法定相続分は2分の1なので、法定相続分は1.5億円となります。この場合、1.6億円の方が法定相続分よりも大きくなるので、1.6億円までは無税となります。

一方で、資産が6億円、同じく相続人が配偶者とお子さま1人だった場合、配偶者の法定相続分は同じく2分の1の3億円となります。この場合は1.6億円よりも法定相続分の方が多くなるので、3億円までは無税となります。

配偶者がもらう財産が相続税の課税価格の法定相続分か1億6,000万円のいずれか多い金額までは、相続税がかからない、と覚えておきましょう。

相続税の配偶者控除を適用させるためには

相続税の配偶者控除を適用させるためには、下記の3点を把握しておきましょう。最後の要件は見落としがちなので、特に注意する必要があります。

①戸籍上の配偶者である

適用されるのは戸籍上の配偶者となります。内縁関係や事実婚では、戸籍上の配偶者ではないので適用されません。婚姻期間については特に規定はないので、1か月であっても適用されます。

②相続税の申告期限までに遺産分割の方法が決められている

相続税の申告期限までに、遺産分割についての話し合いができており、確定している必要があります。遺産分割について話し合うことを遺産分割協議と言いますが、これをしていない、もしくは遺産の分け方が決まっていない場合、この制度を使うことはできません。また相続税の申告期限は、被相続人が亡くなった日の翌日から10か月以内となっています。

③税務署に相続税の申告をする

相続税の申告書を税務署に提出する必要があります。配偶者控除を受けると相続税が無税になるので、手続きをする必要がない、と考えてしまう人が多いのですが、相続税の申告手続きをしないと配偶者控除を受けることができません。よく見落としがちなので、相続税がかからないとわかっても、必ず申告手続きをする必要があるということを覚えておきましょう。

一次相続と二次相続は大違い!

今回の相談内容にあたり私は、一次相続(夫婦の一方が亡くなったときの相続)だけでなく二次相続(残された配偶者が亡くなったときの相続)の際に起こりうることを奥様に説明しました。主に下記の2点となります。

①相続税の配偶者控除が使えない

今回説明した相続税の配偶者控除は、二次相続時では使用できません。二次相続は配偶者が亡くなったときの相続なので、この控除は使えないのです。

②相続人数が減ることによる非課税枠の減少

相続財産から引くことができる相続の基礎控除額は、「3,000万円+600万円×法定相続人数」で計算されます。二次相続は一次相続より法定相続人が減るため、基礎控除額が減ることになります。

このように、一次相続に比べて二次相続は相続税において不利になる可能性が高くなります。これを元に今回の相談内容をみていきましょう。

まず一次相続時に資産を配偶者にすべて相続させた場合(今回の例でいくと1億円)、相続税の配偶者控除を利用して相続税は無税になります。しかし問題は二次相続。一次相続で得た資産に合わせて、配偶者が既に持っていた5,000万円、合わせて1億5,000万円を相続することになります。

前述の通り、相続税の配偶者控除は使えず、基礎控除も3,600万円(3,000万円+600万円×1人)なので、相続税にかかる金額は、およそ1億1,400万円ほどになります。

では、一次相続時に子どもにすべて相続させるとどうなるのでしょうか? 一次相続時、子どもに相続させた場合、相続税の配偶者控除は使えません。そして1億円に対して基礎控除額4,200万(3,000万円+600万円×2人)なので、相続税にかかる金額はおよそ5,800万円となります。

次に二次相続。一次相続時の資産はそのときに既に相続しているので考える必要はなく、配偶者の資産である5,000万円が相続の対象となります。基礎控除は前述の通り3,600万円のため、相続税がかかる金額は、およそ1,400万円となります。

私はFPという立場上、個別具体的な税額計算はできないので、この内容を元に後日税理士に確認をしてもらうよう伝えました。遺言状には、「妻に全額渡す」と記載されていましたが、二人で話し合い、息子に全額相続させることにしました(遺言状があっても、相続人全員の合意があれば、遺産分割協議は可能)。結果として、配偶者控除を使う時と比べて1,500万円以上も税金を抑えることができました。

1.6億円の非課税枠は魅力的だが、それだけを考えて相続するのは危険

相続税の配偶者控除は控除の額も大きいし、とても魅力的な制度だと思います。しかし配偶者控除は捉え方を変えると、税の繰延と同じようなものだということを忘れてはいけません。

次の世代へ資産を残すことも考えれば、配偶者だけに資産を残すのではなく、二次相続に関わる相続人である子に資産を残すことも考える必要があるのかもしれません。一次相続と二次相続の間が短期間になる可能性が高い夫婦がともに高齢の場合は、特に慎重な判断が重要となります。

相続は一時のお得感で考えるのではなく、次の世代のことも踏まえた上で、冷静に判断をすることが大事なのかもしれません。

松本 耕太郎

ファイナンシャル・プランナー

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