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【話題の広告】お~いオオタニサン!伊藤園の〈大谷翔平×『お~いお茶』プロモーション戦略〉の“仕掛け”を徹底分析

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月20日 12時0分

【話題の広告】お~いオオタニサン!伊藤園の〈大谷翔平×『お~いお茶』プロモーション戦略〉の“仕掛け”を徹底分析

(※写真はイメージです/PIXTA)

伊藤園が『お~いお茶』と大谷翔平選手のグローバル契約を発表してから約2ヵ月。新聞広告、街頭ボード、プレゼントキャンペーン数種がすでに実施されています。この大谷選手起用プロモーションは突然始まりましたが、企業の広報戦略に詳しい江里洋平氏(MOPS代表取締役)は、いくつか話題になるべくしてなった「仕掛け」があったと指摘します。伊藤園の広報戦略を、PR会社の視点で分析・解説します。

「大谷選手×『お~いお茶』」が世界各地で話題に

2024年4月30日、伊藤園は『お~いお茶』と大谷翔平選手のグローバル契約を発表しました。

春は新茶を控える季節ということで、毎年お茶市場は盛り上がるわけですが、それより少し早めに大谷選手を仕掛けた伊藤園が、6月10日にグローバルアンバサダー効果について発表しました。

まず、新聞広告を世界各地に出したことで、各国から反響があったこと。ニューヨークの巨大広告には「大きいことには慣れているはずの現地」でも驚きの声があがり、写真撮影の人だかりができる等、話題性としては上々だとのこと。SNSでも次々と拡散されているようです。

また、日本では出身地の岩手県を含む東北地区で、5月20日週の1店舗あたりの販売本数が前年比25.5%増となったという発表もありました。

大谷選手のアンバサダー契約発表から約2ヵ月。新聞広告、街頭ボード、プレゼントキャンペーン数種がすでに実施されています。そこには話題になる仕掛けが数多く盛り込まれ、「次の手はどのような?」とすでにファンの期待をかなり煽っているようです。

伊藤園の「大谷選手起用プロモーション」に施された“仕掛け”

今回の伊藤園の大谷選手起用プロモーションは突然始まりましたが、いくつか話題になるべくしてなった仕掛けがありました。まずその点を整理してみます。

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●4月30日 日本全国および世界60紙以上の新聞にて、「伊藤園から大谷選手へのエールを込めた“お手紙”を公開。」という体裁の全面広告を出稿

(1)唐突さで驚きを誘う

⇒プレスリリースの出稿日と同日に、朝刊を手にして巨大な大谷選手の顔やメッセージがカラーで4面も続く紙面を目にした人は、意表をつかれたに違いない。

(2)一見落ち着いたビジュアルに、心温まる細工

⇒広告紙面そのものにも、しっかりひと手間かけている。一見落ち着いた雰囲気の絵柄なのだが、最初の紙面の写真に映る『お~いお茶』のボトルは真横から写されていて、商品名がよく見えない。が、2面目以降を読むと、この4面にわたる広告自体は伊藤園と大谷選手のメッセージのやりとりで構成されており、1面目のボトルの真横には大谷選手自作の俳句が印刷されているとわかる。俳句の面が読者と向かい合うようにボトルは置かれていたのだ。この俳句こそ、大谷選手が伊藤園からのメッセージに対する返事という、鮮やかな“オチ”で4面つづりの紙面はピリオドとなる。

実に凝ったつくりなのだが、この仕掛けがわかると、かなりの文字数が詰まった4面つづりの広告ながら、全部読まずにはいられない気持ちになる。

実際、この大谷選手の俳句入りのボトルで『お~いお茶』を売り出してほしいという要望が、伊藤園に多数届いたという。

(3)なぜネット広告やTVCMではなく「新聞広告」なのか

⇒そもそも、昨今広告といえば、インターネットの時代、あるいはTVCMファーストだ。大きなプロモーションであればなおさら。なぜ新聞を選んだのかという引っ掛かりが残る。

これに関しては伊藤園も考えに考えて出した結論だと、スポーツ文化・育成&総合ニュースサイトTHE ANSWERの取材で答えている。要は、新聞の広告は現物をアナログで残すことができ、手元に置いておけることを重視したというのだ。『お~いお茶』が大谷選手のそばにあるように、広告そのものを身近に置いてほしいという、それが伊藤園の考え方だということだ。

(4)実はさりげなくギネス認定企業であることも訴求

⇒4月30日の広告では、伊藤園が世界No.1の緑茶飲料ブランドであり、それが3年連続ギネスに認定されていることで裏付けされているといったことをまとめたコーナーもあり、その他の紙面でも“広告らしく”『お~いお茶』の魅力にもいろいろと触れている。

●5月20日 アンバサダー就任第一弾「♯お~いLAの大谷さん」キャンペーン開始

この日も、国内紙では全国紙5紙と主要スポーツ紙、米国はLA Times、Financial Times(世界62ヵ国配信)、Honolulu Star Advertiser(ハワイ)、韓国は韓国日報や東亜日報はじめ主要5紙といった新聞に広告を出稿。

新聞広告は、大谷選手のアンバサダー就任の所信表明的な文章と『お~いお茶』を手にした同選手の上半身アップ写真で構成。

『「#お~いLAの大谷さん」キャンペーン』と銘打った、豪華なプレゼントキャンペーンもこの日より開始された(7月15日応募締切)。ただし、これに関する告知は先の新聞広告には掲載されていない。

キャンペーンの概要は以下の通り。

・『「#お~いLAの大谷さん」キャンペーン』①

羽田・成田⇔ロサンゼルス間 往復エコノミーチケット 2名様分

ロサンゼルス市内ご宿泊2名1室利用・ツインルーム 3泊分

ロサンゼルス野球観戦チケット 2名様分

応募はXまたはWeb、店頭設置の専用はがき。商品購入の条件はなし。

・『「#お~いLAの大谷さん」キャンペーン』②

大谷選手のビジュアルを使用したポスターや等身大の人型パネルなどを販売店に設置し、店頭で『お~いお茶』を4本まとめ買いすると、景品として大谷選手の限定クリアファイル(全2種類)を先着順でプレゼント

●5月30日 国内外85ヵ所以上に「大谷選手×『お~いお茶』」の巨大屋外広告を掲出

国内ではターミナル駅構内の壁面や柱、さらに繁華街の野外広告スペ―ス等にポスターやデジタルサイネージといった形式で巨大広告が街をジャック。

85ヵ所といっても85点のポスター等という意味ではなく、渋谷ならスクランブルスクエア壁面のポスターから始まり周辺駅構内の柱という柱にお茶のボトルのようなラッピングが施されるといった具合だ。国内85ヵ所の至るところに大谷選手と『お~いお茶』に遭遇する仕掛け。

これを、NY(ヤンキースvs.ドジャース戦を意識してタイムズスクェアにも掲載)、LA、ソウル、台北の全世界6ヵ所でも展開し、世界の大谷とともに『お~いお茶』の認知も高めていった。

●7月10日 社会貢献プロジェクト「Green Tea for Good」を始動。関連パッケージ商品も発売開始

伊藤園がグローバルアンバサダーの大谷選手と立ち上げるグローバル社会貢献プロジェクト「Green Tea for Good」を始動させる。

第1弾の取組みとして『お~いお茶』ブランドの飲料・リーフ製品の売上の一部などを、日本および海外の森林・水・生物多様性をはじめとする保全活動などに充てるとした。伊藤園が2010年度から取組む「お茶で日本を美しく。」プロジェクトを、世界にも広がるようにアップデートしたものだそうだ。

この取組みの一環として、大谷選手のバストアップ画像が『お~いお茶』のボトルラップに描かれた期間限定パッケージ製品を7月8日から販売。通称「大谷翔平ボトル」は海外でも発売され、売上の一部も「Green Tea for Good」の活動に反映させる。

なお、この取組をテーマとしたメインビジュアル広告をJRの盛岡駅や花巻駅、水沢駅(大谷選手出身地)など岩手県内の主要駅15ヵ所に、44枚掲出。広告には、『お~いお茶』飲料製品の製造時に排出された茶殻をアップサイクルした茶殻再生紙を使用。

新聞広告は、国内では日本経済新聞、さらに世界62ヵ国で販売されるFinancial Times限定で展開していく。

●7月15日 世界1店舗限定!NewDays 新宿南口中央店を茶殻再生紙で広告ラッピング

JR東日本のコンビニ・NewDays 新宿南口中央店を前項で紹介した『お~いお茶』の茶殻を利用した再生紙を使用して、「Green Tea for Good」のビジュアルでフルラッピング。

JR新宿駅内のNewDays 5店舗限定で、『お~いお茶』の販売商品などを拡充した特設販売コーナーを展開。さらにすでに全国特定店舗で展開中の4本まとめ買いで大谷選手の限定クリアファイルをプレゼントするキャンペーンを、NewDays全店(一部店舗を除く)で、7月16日~29日まで実施する。

茶殻リサイクルシステムによる茶殻を配合した茶殻再生紙を使用した屋外広告を、7月15日より新宿三丁目駅構内に掲出。この屋外広告は今後世界中に拡大予定で、掲載場所限定で「Green Tea for Good」の大谷選手プロモーションカードを配布する。

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……といったところまでが、MLBオールスター戦前までの伊藤園の大谷選手を使った広報戦略です。

大谷選手とスポンサー契約を結んでいる企業は現在全世界で20社近くに及ぶといいますが、伊藤園はそのなかで14番目の契約だそうです。契約が発表されたのが4月30日ですから、故障明けの復帰と元通訳逮捕事件から始まった今季スタートから間もなくと、あまりピンとこないタイミングのような気がします。

しかし、これまでの伊藤園の広報戦略を振り返ると、そこにはとんでもない広報戦略が潜んでいそうに思えてなりません。

「これぞブランディング!」と、息を飲むような仕掛けが伊藤園の歴史には散りばめられているからです。最後に少しだけ伊藤園の広報戦略をおさらいして、まとめといたします。

伊藤園の歴史はまさに「ブランディングの教科書」

伊藤園は、茶製品を主軸とした清涼飲料メーカーです。創業は1966年ですから、約60年で老舗というほどでもないでしょう。特にお茶市場に強いパイプもなく創業した日用品訪問販売の企業が、わずか30年で昔で言う東証二部に上場を果たします。現在は東証プライムに登録されています。

そして、競合はというと、茶葉という観点から考えると、同社と同じ東証プライムに登録された企業としてはほかに例がありません。清涼飲料メーカーまで広げれば、サントリーやコカ・コーラ、キリンビバレッジなどビッグネームが続々登場します。

つまり伊藤園のライバルは超大手飲料メーカーということになります。

しかも伊藤園の主力商品である緑茶系飲料の売り上げに限れば、もう何年も他社の追従を許さないレベルでシェアトップの座を守り続けています。

なぜ、こんなポジションを伊藤園がとれたかと同社の歩みをたどれば、ブランディングの教科書のような事実が続々と出てきます。

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●緑茶製造販売が主力になると、早々に業種になじむような社名に変更

当初日用品訪問販売の会社だったのを茶葉製造・販売を主軸に方向転換すると、日本茶問屋から称号を買い取り、伊藤園という「製茶業らしい名前」に変更。

●真空パッケージ入り茶葉や缶入り緑茶系飲料など、「業界初」を次々と発表

茶葉の販売は紙袋入りが一般的だった時代に、香りや風味を損ないにくい真空パッケージで売り出したのも、缶入り緑茶系飲料を売り出したのも、伊藤園が最初。ペットボトル入り緑茶系飲料の発売も世界一速く、ウーロン茶を日本で販売したのも伊藤園が日本初。

●模倣困難な強みの追及

伊藤園が緑茶系飲料のトップを走り出した、並みいる大手飲料メーカーもその市場に参入。それは予測できていたことだけに、先行の強みを活かし「他が模倣困難な強み」を編み出すことに注力する伊藤園。

国内外に茶葉の大規模な生産農家を育成する計画を開始し、実現。生産者に対しては売買の関係だけではなく、機械化や技術的支援、安定した買取価格の保証等を条件に、『お~いお茶』専用の茶葉栽培の委託にまでこぎつける。

これらが成就するまで10年の年月を要し、遅れてきたメーカーにはなかなか真似のできない強みを、伊藤園は作り上げた。

●主力の緑茶系飲料は、トップランナーにこだわる

『お~いお茶』は2022年8月に累計販売本数400億本を突破。2000年初頭より、同ブランドは全茶系飲料の販売量ナンバーワンとなる。その他、健康ミネラルむぎ茶が「最も販売されているRTD麦茶ブランド(最新年間販売量)」実績世界No.1としてギネス世界記録に認定。

●トレーサビリティをはじめ環境問題にも注力し、CSRにも着手

生産農家との契約によって、生産・消費・廃棄までの一連の流れにおいて、「いつ、誰が、どこで」を追跡可能なシステムを確立し、環境問題に取り組むとともに、事故防止にも役立てる。

●お茶は日本のもの。だから緑茶のトップランナーは日本の伝統芸能を大切にする

伊藤園は、俳句コンテストで有名だが、ほかにも将棋タイトルスポンサーや歌舞伎等の日本の伝統文化伝承にも力を注いでいる(※)。最初のTVCMに起用したのは新国劇の看板役者・島田正吾氏、以後市川團十郎(旧海老蔵)氏などが続く。企業の公式サイトでは、現在はわかりづらい場所に移動してしまったが、長期にわたり「伝統文化の取り組み」というコンテンツでお茶のみならず、俳句・相撲・歌舞伎・囲碁・将棋といった文化を楽しめる。

※伊藤園HP『伝統文化の取り組み』(https://www.itoen.jp/oiocha/culture/)

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以上、一部ですが、伊藤園の歩みの中で「ブランディングのポイント」のような事例を拾ってみました。

次に伊藤園が目指すものは、「世界」だと言われています。

だからこそ、今、大谷選手なのでしょう。彼との契約は社内でも超秘密裡に行われ、しかも伊藤園側は大谷選手とは直接会わずに締結のサインを交わしたといいます。これこそお互いに信頼している証でしょう。まさにブランドな関係です。

国内では少しずつ、緑茶系飲料の消費量事態が減少傾向にあり、極論すると緑茶系飲料に偏った状態で商戦に立ち向かう伊藤園は、「市場を世界に広げて戦力を増強」という道を選ばざるを得なかったのかもしれません。

ダイエットに注目が集まり、和が好まれる欧米に向けて『お~いお茶』を羽ばたかせる伊藤園。

6月3日、伊藤園は2025年4月期の連結純利益が前期比10%増、海外事業全体の営業利益は前期比31%増だと、それぞれ見込みを発表しました。

さらに、今年2024年に発売35周年を迎える『お~いお茶』の販売地域を世界100以上の国・地域に引き上げるとも発表しています(現在の販売国・地域は40超)。

大谷選手効果で、国外の販売数は順調に伸びているとのことですが、さて、これから先、伊藤園は大谷選手でどのような手を打ってくるのでしょうか? 楽しみです。

江里 洋平 MOPS代表取締役

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