「信長の天下統一を邪魔した卑怯者」?ナゾ多き反逆者・明智光秀、実は地元で「神」としてまつられる名君だった【偉人研究家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月21日 12時0分
福知山城(※写真/PIXTA)
歴史上の人物のなかには、皆が認める偉業を成し遂げたヒーローたちがいる一方で、悪名高い「嫌われ偉人」たちも存在しています。嫌われる理由は様々ですが、なかにはひどい誤解を受けていたり、功績もあるのに悪い側面ばかりが強調されていたりするケースも。実は明智光秀もその一人です。織田信長の天下統一を邪魔して混乱させた逆臣として語られがちですが、実際は頭脳明晰で領民思いの優しき名君だったとか。偉人研究家・真山知幸氏の著書『実はすごかった!? 嫌われ偉人伝』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、見ていきましょう。
明智光秀って「天下統一を邪魔して混乱させた裏切り者」じゃないの?
◆これまでの明智光秀(?〜1582)といえば…
1582年に起きた「本能寺の変」は日本史最大のミステリーといってよいだろう。織田信長の重臣である明智光秀が突然クーデターを起こして、主君の信長を討ち取ってしまった。なぜ、そんなことをしたのか? その動機はいまだに謎のままである。反逆に成功したかにみえた光秀だが、裏切り者に味方する者はおらずに孤立。「信長様の仇をとる!」と猛スピードで中国地方から戻って来た羽柴(豊臣)秀吉に追いつめられて、最期は落ち武者狩りにあっさりとやられている。恩知らずの裏切り者にふさわしい、みじめな最期だった。
実は…安定した社会の実現を目指していた
◆実は秀吉と同じタイプ?の努力家
明智光秀は、織田信長が討たれた「本能寺の変」の首謀者だ。織田家の重臣でありながら、なぜそんな裏切りを行ったのか? 真相はナゾだが、そもそも光秀はわかっていないことが多い。
なにしろ、生まれた年すらよくわかっていない。文献によって1516年生まれか1528年生まれかで見解が分かれている。
明智一族の出自についても、どうも怪しい。後世にまとめられた系図では、「室町時代に美濃国(みののくに)で守護を務めた名門・土岐(とき)氏の流れをくむ明智氏の出身」とされてきたが、同時代の史料では証拠がなく、はっきりとしていない。
何ともつかみどころがないが、この得体の知れなさこそが、光秀という男の特徴だ。たとえ名門出身でなくても、その才覚のみを武器に戦国大名へとのし上がっていく――。現代社会でいえば「腕一本で勝負するフリーランス」のような精神で、光秀は戦国の荒波を乗り越え、あわや天下をもつかみかけた。
そう考えると、秀吉にも通じるところがある。ただの「卑怯な裏切り者」とも言えなさそうだ。どのようにして信長に仕えるようになったのだろうか。
◆信長と将軍の連絡役として登場
光秀が表舞台に現れたのは、足利義昭(あしかがよしあき)に仕えるようになってからのことだ。それまでは、出身地の美濃国から越前国(えちぜんのくに)に移り、長崎称念寺(ながさきしょうねんじ)の門前で、10年あまりも牢人(ろうにん)として暮らしていたらしい。医学の初歩的な知識を持っていた光秀は、医師のようなこともしながら、なんとか生活していたという説もある。
しかし、光秀が仕えた義昭もまた、不安定な状況下にあった。兄で第13代将軍・足利義輝(あしかがよしてる)が三好三人衆(三好長逸〔みよしながやす〕・三好宗渭〔みよしそうい〕・岩成友通〔いわなりともみち〕)らに殺害されたのを受けて、義昭は姉婿である若狭国(わかさのくに)守護・武田義統(たけだよしずみ)のもとに逃れた。そこから越前へと移り朝倉義景(あさくらよしかげ)を頼りながら、京都に何とか復帰しようと画策。そんなときに、光秀は義昭に接近して気に入られたといわれている。
義昭は京に入って将軍に就任しようとするも、どうも朝倉家の動きがにぶい。そんななか、「幕府のために力を貸したい」とアピールする信長の存在感が際立った。
信長に頼るべきかどうか――。幕臣たちのなかでも意見が分かれるなか、義昭は側近の細川藤孝(ほそかわふじたか)を介して信長に接近。その連絡役となったのが光秀だった。信長との交渉をこっそり進めるために、朝倉家で顔が知られていない光秀が織田家とかかわるようになった。
1568年、信長は義昭を連れて京に入り、義昭はめでたく将軍に就任。光秀は京都支配の担当者に任命され、信長の家臣とともに仕事をするようになる。
信長と義昭の架け橋となった光秀だが、やがて信長と義昭の関係は悪化。信長が室町幕府を亡ぼすと、光秀は織田家の家臣として活動していくことになる。
◆多彩な家臣団をまとめるルールを徹底
信長のもとで出世した人物といえば豊臣秀吉が知られるが、家中で最初の城持ち大名となったのは光秀である。本能寺の変の直前には、与力(配下につけられた武士・大名)も含めれば、畿内(きない)一円の統治を任されるまでになっている。
光秀を支えた家臣たちは、大きく分けて3つ。まず、明智秀満(あけちひでみつ)や斉藤利三(さいとうとしみつ)など、光秀と同じく美濃出身の武士たち。次に、光秀が領地とした近江国や丹波国(たんばのくに)から登用した武士たち。そして、室町幕府に仕えていた武士たちだ。信長が幕府を滅ぼした際に、幕府に仕えた多くの武士たちが京都にとどまり、光秀の下についた者もいた。さらに光秀は、義昭に仕えていた武士たちも家臣や与力にした。
このように光秀は、出自にこだわらずに多種多様な人材を登用。彼らをまとめるために、光秀は18条に及ぶ「家中軍法」を定めて、約束事や禁止事項を家臣たちに細かく示した。
例えば、戦場での雑談や抜け駆けを禁止し、自分の命令に従わせることを徹底。その理由もきちんと説明している。
「明智軍のルールが乱れていると、《戦で役に立っていない》などとバカにされて、周囲にも迷惑をかけてしまう。自分勝手な行動は、信長様の耳にすぐ届くことだろう」
光秀の気配りにおどろかされると同時に、信長への恐怖心も伝わってくる。宣教師のルイス・フロイスの記録によると、信長が手でわずかに合図するだけでも家臣たちはただちにその場から居なくなり、信長が一人だけ呼んだはずなのに、部屋の外から100人もの家臣たちが大声で返事をしたとか。よほど怖かったのだろう。
おっかない信長の下で働くのはとても大変そうだが、優秀な光秀は細やかな統制をとることで家臣をまとめ上げ、信長の期待に応え続けたのである。
◆領民に神様としてあがめられる名君
出自の異なる家臣たちにきっちりルールを守らせながら、光秀は大名としての内政においても手腕を発揮した。
本拠地である丹波国の亀山城に加えて、横山城(よこやまじょう)を福知山城(ふくちやまじょう)として改築し、さらに周山城(しゅうざんじょう)を築城。城郭を整備しながら家臣たちを適切に配置し、各地の支配を任せた。
そうして支配体制を整備する一方で、住民を苦しめる問題にもきちんと向き合った。由良川(ゆらがわ)の治水工事に着手したり、「地子銭(じしせん)」という税金を免除したりするなど、さまざま政策を行って領内を安定させている。
リーダーとして申し分ない実力を発揮した光秀。「本能寺の変」は、信長の横暴なふるまいに我慢の限界がきたともいわれている。家臣や領民たちにとってよりよい社会を築くためには、「横暴な信長を排除するしかない」と思いつめたのかもしれない。
京都府福知山市にある御霊神社では、光秀が「神」としてまつられている。光秀は「街を発展させた名君」として、今でもなお地元で愛され続けている。
真山 知幸 伝記作家、偉人研究家、名言収集家
1979年、兵庫県生まれ。2002年、同志社大学法学部法律学科卒業。上京後、業界誌出版社の編集長を経て、2020年より独立。偉人や名言を研究するほか、名古屋外国語大学現代国際学特殊講義、宮崎大学公開講座などで講師活動も行う。『10分で世界が広がる15人の偉人のおはなし』『賢者に学ぶ、「心が折れない」生き方』『ヤバすぎる!偉人の勉強やり方図鑑』など著作は60冊以上。
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