ウチの不正を疑うのか!? 税務調査で激怒した68歳社長、追徴税額450万円も…後日、調査官に感謝したワケ【税理士の助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月28日 11時15分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
税務調査というと、「やっかい」「面倒」「弱いものイジメ(政治家に対して甘すぎる)」といったネガティブなイメージを抱いている人も少なくありません。しかし、なかには税務調査で追徴税を課されたにもかかわらず、税務署に感謝する人も……。いったいなぜなのか、事例をもとに詳しくみていきましょう。多賀谷会計事務所の税理士でCFPの宮路幸人氏が解説します。
ウチの社員を疑うのか!? 調査官に激怒した68歳のAさん
Aさん(68歳)は、従業員十数名を抱えるX社の社長です。ある日、Aさんの携帯に、税務署から電話が入りました。聞けば、「税務調査のために、X社に伺いたい」とのこと。
Aさんは「クソッ、めんどうだな……まあでもここでゴネて目をつけられても損だし、仕方がないか」と、渋々調査を受けることに。
そして、税務調査当日。X社に2人の調査官が訪れました。担当の税理士やインターネットの情報から、かなり警戒していたAさんでしたが、調査官の穏やかな話し方や、雑談を交えたフランクな聞き取りに拍子抜け。
「なんだ、こんなもんか……」と安心しかけていたAさんでしたが、調査官のひと言で和やかな雰囲気が一変します。それは、ある仕入先について念入りに帳簿を調べていた調査官からの質問でした。
調査官「粗利益率が年々少しずつ低下していますね。特にZ社に対する支払いが年々増えているようですが……なにか心当たりはありますか?」
Aさん「そうですか? 仕入れは営業担当のYに任せているから詳細はちょっと……。ちゃんとやってもらえているはずですが」
調査官「Z社に対する仕入に不審な点があるので、ご担当のYさんを呼んでいただくことはできますか?」
Aさん「ええっと……それはウチの不正を疑っているということですか? しかも、彼は長年私についてきてくれた優秀な男です。そんな彼を疑うのか!?」
調査官「いえ、そういうことではなく……。Z社との取引に疑問があるので、御社のなかでもっともお詳しいであろうYさんに詳細を伺いたいということです」
Aさん「私たちだってプライドをもってやっているんだ。言葉には気をつけていただきたい!」
従業員の不正を疑う調査官に、Aさんは激怒。しかし……
Aさんの怒りも虚しく、調査官がYさんに聞き取りを行った結果、Yさんはある仕入先と結託し、仕入額の水増しを行っていたことが発覚しました。
実は、取引先であるZ社へ先に調査が入っており、そのなかで取引履歴等を調べるうちに、X社からの外注費について疑惑が浮上。X社にも税務調査に入ることになったようです。
Yさんが着服していた金額は、なんと1,000万円近くにのぼります。これにより、X社は450万円ほどの追徴課税を命じられることとなりました。
税務署が不正行為を見逃さないワケ
税務調査では、会計処理は適正であるか、また収益の計上時期や内容に漏れなどがなく、納税が正しく行われているかについて調べられます。
この調査の過程で脱税がバレてしまうこともありますし、今回のように、社長すら気づいていなかった社員による横領が発覚するケースもあります。
税務調査官は、国税局のデータベースや本人の長年の経験から、申告漏れが起きやすいケースや税金をごまかそうとする手口については熟知しています。また、同業他社の申告状況なども把握しているため、業種によってどのような経費がどの程度計上されるのかというのもある程度把握しています。
したがって、同業他社と比べて外注費の比率がやけに高い、現金収入がほとんど計上されていない、といった事業者は、税務調査の対象に選ばれやすいです。
また、ある法人の調査を行った際に、取引先に多額の外注費を支払っているにもかかわらず、取引先では収益として計上されていない場合などは、調査対象となる可能性が高いでしょう。
このほか、従業員や第三者からのタレコミにより情報をつかんでいるようなケースも存在します。
近年ではDXが進みデータがクラウド上に保存されていることも多く、これまでバレにくかった不正行為なども発覚しやすくなっているようです。
信じていても…従業員の不正は「身近」な問題
にわかには信じがたいことかもしれませんが、役員や従業員の不正は、皆さんが思っている以上に起きています。金額が大きい場合はニュースになりますが、ニュースにならないレベルの横領などはあちこちで起こっているといっても過言ではありません。
東京商工リサーチの資料によると、2023年度に不適切会計を開示した上場企業は62社ありました。
もっとも多かったものは、経理や会計処理の「誤り」などで30件。次いで多いのが子会社・関係会社の役員・従業員による「着服横領」で、21件あります。ちなみに第3位は架空売り上げの計上などの粉飾で、件数は11件です。
また、警察庁の「刑法犯に関する統計資料」によると、業務上横領の検挙数は令和2年だけで1,200件ほど発生しています。
表に出てない事件も含めると、従業員の横領や不正行為は身近な問題として捉えたほうが無難かもしれません。
「信じていたのに」は無責任…不正を生まないためにできること
従業員や経理による横領は、なぜ起きてしまうのでしょうか? 考えられる主な原因は以下の2つです。
1.横領が“しやすい”環境になっている
不正行為が起こる最大の理由は、気づかぬうちに横領がしやすい環境をつくっていることが挙げられます。
たとえば飲食店などの現金商売において、売上げの入金を特定の従業員に任せてしまうと横領がしやすくなります。現金のチェックは1人に任せず、ダブルチェック体制をつくり複数人が確認するようにしましょう。
2.横領が“発覚しにくい”環境になっている
中小企業では、「信頼しているから」と営業や仕入担当を1人に任せきりにしているケースも少なくありません。
しかし、チェックする第三者がいなければ、今回の事例のように得意先や仕入先と癒着して不正行為が行われることが考えられます。経理担当者を信用して通帳や印鑑などの管理を1人に任せるのもキケンです。
社長からの信頼が厚い人ほど実は長年横領や不正行為を行っていたということも多いため、属人化は極力避け、社長も不正行為を防ぐために定期的にチェックする必要があるでしょう。
450万円の追徴課税も…最終的に調査官に「感謝」したAさん
今回、税務調査で従業員の横領が発覚し450万円の追徴税額を納めたAさん。
信頼している従業員の横領にショックを受けましたが、調査が終わりしばらく経ったころ、ぼそっと従業員にこう話しました。
「考えてみると、あのまま税務調査がなくYを信頼しきっていたら、被害額はもっと多くなったはず。会社はより大きなダメージを受けたかもしれないと考えると、今回指摘してくれてよかった」
Aさんは最終的に、税務調査官に感謝したのでした。
経営者であれば、普段一生懸命働いてくれている従業員を疑いたくはないかもしれません。そのためにも、不正を起こさないような「仕組みづくり」が重要です。
宮路 幸人
多賀谷会計事務所
税理士/CFP
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