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お願い、出て行って…アパートオーナー、賃借人の「立ち退き問題」のあまりに高いハードルに絶望【弁護士も心痛】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月26日 11時15分

お願い、出て行って…アパートオーナー、賃借人の「立ち退き問題」のあまりに高いハードルに絶望【弁護士も心痛】

(※画像はイメージです/PIXTA)

多くの人が憧れる賃貸物件の「大家さん」ですが、実態は決して楽ではありません。「借地借家法」の実情と、大家さん側が置かれている厳しい実情について、法的見地から見ていきます。不動産と相続を専門に取り扱う、山村法律事務所の代表弁護士、山村暢彦氏が解説します。

貸主にとって、あまりに不利…「借地借家法」の実情

「不動産は貸したら返ってこない」。そのような話もまことしやかに囁かれるほど、大家側が不利な立場に立たされるのが不動産の賃貸です。

不動産の貸し借りは「借地借家法」という法律のもとに行われますが、大家さんならご存じの通り、「借地借家法」は賃借人、つまり「借り手」側を非常に強く守る法律となっています。

そのため、大家さん側から「立ち退いてほしい」「出ていってほしい」という要望があったとしても、「基本、非常に難しい」というのが、いまの法律的見地からの回答です。

いまでこそ賃借人が強い法律になっていますが、このような法律が成立した歴史的な背景として、かつては大家さん側の方が立場が強かったことがあげられます。

家を貸す側である大家さんの立場の強さから、大家さんの都合でいきなり「出ていけ!」といわれるようなケースもあったのです。

しかし当然ですが、いきなり大家さんの都合で追い出されたら、借主さんは即、行き場を失い困ってしまいます。そんな事態にならないよう、現在では、借主さんが一方的に追い出されることがないように、借主さんを守る法律が制定され、力関係が修正されたのです。

しかしながら、この10~20年、しばしば聞かれるようになったのが「借り手側の保護が強すぎて、大家さんが困った事態になっている」ということです。

なぜ大家さんがそこまで困るのかというと、「建物が古くなったから建て替えたい」「子どもが帰ってくるから住まわせたい」等の正当な理由で立ち退きを求めても、立ち退き料を支払わないと出てってもらえない、という実情があるからです。

このような「借り手が有利」な状況では、大家さんの負担はとても大きいのです。

「禁止のペットを飼う」「騒音を出す」程度では追い出せない

立ち退きをしてほしい理由のうちの「自己使用目的」、つまり「自分の家を自分の親族が使いたい」等については、条文上に書かれている正当理由のひとつなのですが、実際のところ、ほぼ認められることはありません。

「海外に転勤していた息子夫婦が帰ってくるから、借家に住まわせたい」という理由に対し、「それは、いま現在住んでいる人を追い出すほどの切迫した理由なのか?」という見方をされてしまうのです。このような相談例は多いのですが、ほとんど認められないというのが実情です。

ほかにも、禁止されているペットを飼う、騒音を出すといった、いわゆる「迷惑だから」という理由で立ち退いて欲しいケースも多いのですが、これらもほとんど認められることはありません。

内容的に軽微な違反でしかない、という判断もありますし、そもそも「ペット飼育」や「騒音」という事実の立証の難しさが、賃貸人が不利なことに拍車をかけています。

契約に違反した場合、基本的には「債務不履行解除」といって「賃貸から出ていってもらえる(契約解除できる)」という原則はあるのですが、建物の貸し借りという点においては、借地借家法と裁判例によってさまざまな修正が積み重なり、借主側が有利になっています。

「信頼関係破壊の法律」というのですが、軽微な契約違反があったとしても「それぐらいで、いきなり解除はやりすぎだ」として、賃借人が被る不利益を考慮し、大家さん側からの契約違反による債務不履行の解除が制限されるのです。したがって、よほど重大な違反でない限り、出て行ってもらうことはできません。

上記の説明から「借り主有利」な法律の現状がおわかりいただけるかと思います。

立ち退きが認められるのは、ほぼ「賃料不払い3ヵ月以上」のみ

では、実際に立ち退きが認められるのはどのような場合でしょうか?

これは「賃料不払い3ヵ月以上のケースのみ」といっても過言ではないと思います。

とはいえ、これもまた微妙で「まるまる1ヵ月家賃が遅れた」「2ヵ月家賃が遅れていたが、1ヵ月だけ入ってきた」というような状況では、まだ認められません。

「3ヵ月以上払っていない」という状況になっても、「3ヵ月経ったら必ず追い出せる」というものではなく、「不払いとなってから3ヵ月経過したが、4ヵ月目・5ヵ月目に家賃が入ってきた」といったケースだと、裁判所での判断も難しくなります。

ようやく立ち退きが認められるのは「賃料不払いが3ヵ月以上継続しそう」であり、なおかつ「今後も払われる見込みがなさそう」というほどの、厳しい状況になってからです。

「ゴミはこっちで片づけるから、出て行って!」

ただし、立ち退きが認められたとしても、そこからがまた大変です。家賃を払わないような相手ですから、すんなりと「わかりました。では引っ越します」といって立ち退いてもらえるわけがないのです。

このような人を追い出すには、訴訟の手続きも必要となり、訴訟中に任意で出ていってくれる和解が結べないと、「強制執行」というさらにお金がかかる手続きに進む必要があります。

これらの費用を逆算していくと、法的に追い出せるようなケースであっても、「2ヵ月ぐらい家賃不払でもいいから、出て行ってください」「ゴミはこっちで捨てておくから、出て行ってください」といった和解で着地させる方が、コスパがいい・経済合理性に合うといえます。

大家さん側にはしんどく、また不本意なものでもありますが、これが立ち退き法務のリアルな実情なのです。

(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)

山村法律事務所 代表弁護士 山村暢彦

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