【大学全入時代】白金高級タワマンに住み、夫は年収2,100万円の42歳・エリートだが…「塾に行きたくない」と絶叫長女を引きずる妻の学歴コンプレックス〈FPの助言〉
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年7月25日 11時45分
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(※画像はイメージです/PIXTA)
年々上昇する大学進学率。大学全入時代といわれて久しいですが、ただ大学に入るだけでは社会にでたときに有利にはならないのも周知の事実です。我が子によりよい教育をと、高い学費を支払って教育に熱を入れる親も多く……。その対価は、教育という名の投資に見合うものなのでしょうか? 本記事ではSさん夫婦の事例とともに、子供の教育の実情とお金について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。
令和5年度の大学進学率は過去最高値
現代の日本における大学進学率をご存じでしょうか。
「文部科学省 令和5年度学校基本調査『状況別卒業者数』」によると、大学進学率は57.7%となり過去最高でした。都道府県別に見ると、最高は東京都の72.8%、最低でも沖縄県の46.3%と軒並み高い割合です。平成10年は全国平均が36.4%であったため、近年急激に進学率が上昇していることがわかります。
大学進学率上昇の裏側で…多くの人を苦しめる「奨学金返済」の実態
高校卒業生の半数が大学に進学する時代において問題も発生しています。そのひとつが学費です。親の所得によっては子供の学費や一人暮らしとなった場合のアパート費用などを捻出することは難しいでしょう。そのため、奨学金を利用する学生が年々増えています。
しかしこの奨学金、卒業後の返済に苦しみ滞納する人もめずらしくありません。高所得の職業に就職できたらなにも問題はありませんが、卒業後に所得が低かったり、あるいはアルバイト生活となったりした人にとって、奨学金の返済は困難を極めます。もしも返済が遅れると、信用情報機関に登録され、将来の住宅ローンの取得や賃貸入居審査に悪影響をおよぼすのです。
2017年から日本学生支援機構ではホームページ上で、すべての大学、短大、専門学校の奨学金滞納率を検索できる仕組みを公開しました。学校ごとの検索しかできないものの、メディアが滞納率の高い大学ワーストランキングを作成したところ、地方都市の偏差値40前後の大学(Fランクともいわれる大学)が並んでいることが話題となりました。
子供にとって大学進学とはなんなのか、高額なお金の負担をしてまで進学する意味がある大学なのか、奨学金の意味を親と子供が本当に理解しているのかなど、いまも議論が続いています。
高額なオール私立の学費を支払う理由
昨今は地方都市においても、夜に塾の前で子供を送迎する親の車が行列を作っている様子を見ます。大学進学のための教育熱は高まる一方です。しかし過去の進学率から考えると、その親世代の多くは大学進学の経験がないはずです。わが子はなんとしても大卒にしてあげたい、とにかく大学を出ればいい仕事に就けるはずだ、そう信じている親が多いのかもしれません。
しかし現実はそう甘くはありません。大卒というだけで就職に有利になることはないと思っていいでしょう。大学に見合った就職先になってしまうのが現実です。選ばなければ大学はどこかに入学できる「全入時代」ですが、そのなかでも優秀な大学に入学するためには学力だけではなく環境の力も大きいのです。その環境のひとつが、「オール私立」という考え方です。
幼稚園から大学まですべて私立学校を選択することで、受ける教育レベルを高めることが可能です。また学力や親の収入など生活環境や価値観が似ている子が集まるため、子供にとっても安全な場となる可能性が高いのもメリットです。将来の目標に対しても知識が増えると同時に目線が高くなり、学力において大きな差にもなります。さらにこの環境の力は「卒業生人脈」という、目に見えないパワーとなり大学卒業後の仕事においても大きなプラスとなるのはいうまでもありません。
ではオール私立でいくらかかるのでしょうか。
文部科学省「令和3年度子供の学習費調査 結果の概要」によると、幼稚園から高校までオール私立だった場合の学費は約1,840万円です。一方でオール公立では約577万円。3倍以上の差となります。さらに私立大学で文系学部の場合326万円、医歯科系学部の場合は6年間の納付金だけで約1,730万円が必要となります。これらには塾の費用や生活費は入っていないので、実際にはもっと必要です。
子供にいい環境を与えようと思っても、問題となるのはお金のことです。子育て期間は親にとって住宅ローンを借りてマイホームを手に入れる時期と重なります。教育費と住宅ローンの返済は両立するのでしょうか。高所得世帯ほど高価格帯の住宅に住まう傾向があるため、教育費の問題は誰であっても簡単な問題にはなりません。
また、お金だけではく、教育熱心になるがあまりに家族間の精神的な問題を引き起こすケースも多々あります。高所得でありながら教育費に追われ家族関係の危機に陥ったエリート会社員の事例をみていきましょう。
白金タワマンに住まう40代夫婦
<事例>
夫Sさん 42歳 投資銀行勤務 年収2,100万円 富山県生まれ
妻Eさん 40歳 専業主婦 千葉県生まれ
子供 10歳
数年前に白金のタワーマンションを購入(9,700万円)
預貯金 4,500万円
Sさんは投資銀行に勤務する42歳の会社員です。年収は約2,100万円。住まいは数年前に購入した白金のタワーマンションです。価格は1億2,000万円でした。現在では値上がりしてしまい、2億円を下回る価格では到底無理でしょう。窓から見える東京タワーが気に入っています。妻のEさんは40歳。千葉県の公立高校を中退してから一時期モデル事務所に所属していたという、長身で非常に容姿端麗な女性です。
一見誰もが羨むエリート会社員の生活のように見えますが、実は夫Sさんにとってこの住宅環境は特に望んだものではありません。白金のタワーマンションを購入したのは妻Eさんの「人生の理想」を実現するためのものでした。
妻Eさんは長女を医師にしたいと考えています。そのための教育環境として理想的な場所は港区と考えているらしく、この白金にかなり無理をしてタワーマンションを購入しました。長女は現在、公立小学校に通っていますが、中学校からは大学まで私立と妻Eさんがすでに(勝手に)決めています。
夫Sさんはそういう妻の野心を目撃するたびに、とても息苦しく感じてしまいます。子供の進路など子供自身が決めればいいと考えているのです。夫Sさんは富山県生まれ。父親が地元企業の会社員、母親が保育士というごく普通の家庭で育ちました。Sさんは小学校のときから野球に打ち込み、高校までずっと野球部でした。中学時代はさほど勉強漬けではなかったものの、地元の優秀な公立高校に進学。高校でも野球中心の生活でしたが、都内の国立大に現役で合格しました。塾通いをした経験は一度もありません。
子供のころ、父親が毎日勉強する習慣をつけてくれたのが幸いしたと思っています。どこで聞いてきたのか、「小学生は学年+10分、中学生は学年+1時間」自宅で机に座り勉強する習慣をつけなさいと言い続けたのです。つまり小学6年生であれば60分、中学2年生であれば3時間だけ、家庭学習をすればそれなりの学力になるという意味です。非常に優秀な大学でしたが、必死に勉強してきたタイプは周囲にいなかったように思います。多くは高校までスポーツなど好きなことをしてきた話をする人が多く、「ガリ勉タイプ」は見たことがありません。
そんなSさんですから、妻Eさんの教育熱を見るたびに面食らってしまいます。「東京ってみんなそうなのか」とことあるごとにカルチャーギャップを感じてしまうのです。
教育熱を生んだ妻の過去
妻Eさんを見るたびにふと、「なにかのコンプレックスでもあるの?」と思うこともしばしばです。妻から聞いている話では、Eさんは高校時代から学校に隠れてモデルの仕事をするようになったそうです。千葉県のあまり偏差値の高くない公立高校では、Eさんに激しく嫉妬する同級生もいて、仕事のことを学校に密告され発覚。遅刻などもあり素行が悪かったEさんは、不運にも高校3年生の夏に退学処分となってしまいました。
モデルといってもアルバイト程度のもの。それだけで生計を立てることはまったく不可能でした。Eさんは父親が建設会社の社長であったため、わずかな仕送りをしてもらいながら東京で1人暮らしをはじめたのです。夫Sさんが想像するには、若く美人なSさんには沢山の男性が集まり、分不相応な生活レベルを自慢したのだろうと思っています。学歴、卒業校、勤務先、年収、子供の学校、住んでいる場所と建物、持っているブランド品、高級車、高級時計、旅行、出入りする店など、即物的なマウンティングをし合う、あまり上品でも知的でもない世界にいたのではないかと想像しています。
白金の高級マンションを欲しがったのはそのころに植え付けられた価値観の影響でしょう。夫Sさんは大学時代を過ごした文京区の下町感あふれるところに住みたかったのですが、妻は全否定でした。夫Sさんは興味もなかったのですが、マンション購入の翌年には駐車場の車がベンツになりました。主に運転するのは妻です。Sさんは移動など電車で十分だと思っているのですが。
妻Eさんが「マンションの上の階の人と話したらマウンティングされた」などと言っているのを聞くと、「相手はそんなつもりはないだろうに、マウントと捉える君に問題があるよ……」とため息が出てしまいます。
妻の目下の関心は長女の中学受験。そして将来の医学部合格です。
「あの子がそれを望むなら必死で応援したいところだけど、まだ10歳だよね? 親が娘の将来を決めてしまうってよくないと思うよ」夫Sさんがそう言うと、妻Eさんは激昂します。「あなたのように田舎でのんびり育った人にはわからないだろうけど、東京で生きていくのは大変なの!」
田舎でのんびりしていたというのは偏見だろうと憤慨するSさん。君自身は中卒だし望むことがなにもかも背伸びしすぎじゃないの?と言いたいのを堪えました。東京で生きるといっても戦いじゃあるまいし。子供は子供らしく育った方が楽しい大人になるよと、しみじみ思います。でも妻が言うとおり、それが田舎の価値観だということなのでしょうか。
長女が塾に行きたくないと泣くのを大声で叱責する妻。見ていられなくなります。高額な費用をかけて複数の塾に通わせています。自宅に娘の友達が遊びに来たことなど一度もありません。
この生活は今後も成り立つのでしょうか。私立中学から私立大医学部まで進学させたらいったいどのくらいの学費がかかるのか、Sさんには想像もつきません。また住宅ローンはまだまだ残っています。教育費と住宅ローンは両立するのでしょうか。そして老後はどうなるのでしょう。
Sさんは妻には内緒でFPに相談することにしました。
FPに聞いてみた
FPと現在の状況を整理しました。
住宅ローンは残り4,000万円ほどです。Sさんにとって無理のない余裕の残高でしょう。7年前の購入時に、自己資金として自分の預貯金3,000万円と、酒屋を経営していた祖父が亡くなったときに相続した3,000万円、そして父親からの購入支援1,000万円、あわせて計7,000万円を用意したことがよかったようです。
Sさんの年収は今後も増えていく予定であること、子供が1人であることから私立医学部に進学しても、「机上の計算上」では問題が起こらないと思われます。リスクとしては、マンションの管理費や修繕費が高騰しつつあるため負担増となりますが、ギリギリの家計ではないため大丈夫でしょう。また、Sさん本人が病気や障害で働けなくなったときに大問題が起こるため、保険等での備えは万全にしておくべきです。
とここまではお金だけの話です。
「実は、心理的なものなのですが、妻のことを少々心配していまして……」とSさんが言います。
「自分の夢というかなんというか、大きなものを子供に背負わせているように見えます。お金だけは僕が払えるので大丈夫ですが、最近娘は元気がなく、ストレスが溜まっているのかもしれません。このまま母親の理想を押し付けたら、いつか大人になった娘に絶縁を突きつけられるのではと心配しています」。
いわゆる毒親の問題となりかねないということでしょう。FPとして相談を受けていると教育熱心が毒親問題に発展していく様子を多く見ます。子供の精神面に深い傷を残してしまい、母親だけではなく父親に対しても「あのとき助けてくれなかった」という怒りを向けることも多くあります。子供の怒りと恨みによって家族が崩壊していまいます。
親が心に持つなにかが子供の心を壊してしまうのかもしれません。
ただ、現在は教育上恵まれた環境を子供に用意できています。私立中学に進学し、子供同士の環境から影響を受けて進路を決めるでしょうから、自然と親の望むような職業に就くかもしれません。しかし、「親ができなかったこと」をまるで恨みを晴らすかのように子供を利用するのは、毒親そのものになってしまいます。
やるべきことは夫婦間での冷静な話し合いでしょう。環境とお金は用意しても、進路を決めるのは最終的には子供の決断だと確認し合えたらいいと思います。また、妻Eさんが心の中に深刻なハードルを抱えている場合、カウンセリングなどによって吐き出してみるのも大切かもしれません。
長岡 理知
長岡FP事務所
代表
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