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子との共感を重視する「日本の親」と、子も自律した個人ととらえる「スウェーデンの親」…子育て文化の違いによって生まれる驚愕の結果【慶應義塾大学名誉教授が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月1日 15時0分

子との共感を重視する「日本の親」と、子も自律した個人ととらえる「スウェーデンの親」…子育て文化の違いによって生まれる驚愕の結果【慶應義塾大学名誉教授が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

遺伝が人生の選択肢に強く影響することは、もはや周知の事実です。しかし、遺伝についての人々の認識は、多くの誤解もあって……。本記事では、日本における双生児法による研究の第一人者である安藤寿康氏の著書『教育は遺伝に勝てるか?』(朝日新聞出版)から一部抜粋し、双生児による行動遺伝学研究という観点から「遺伝」と「環境」の関係について、データに基づいて解説します。

都会と田舎はどちらが自由か?

家庭の裕福さ以外に、自由度を左右する環境の違いは、一体何があるでしょうか。

行動遺伝学の研究でよく着目される環境は、住んでいるところが田舎か都会かの違いです。何万人もの人が密集し、人々の行き来も激しい都会と、人口が数千人程度と少なく、限られた人との付き合いが中心となる田舎とでは、行動の仕方に及ぼす遺伝と環境のかかわり方まで変わってくることが明らかにされています(これを示したミネソタ大学の研究では、人口5万人以上を都会、1万人以下を田舎としています)。

田舎と都会では、果たしてどちらが行動の自由度が大きいでしょう。

田舎はのびのびとしているし、知らない人の目も気にする必要がないから自由度が大きいのに対して、都会は人間関係も窮屈そうだし、いつもたくさんの人の目を気にしなければならないから自由度が小さいと考える人もいるでしょう。

逆に田舎では親類や昔からの知り合いばかりに囲まれているし、古くから伝わる習慣に縛られやすいし、選べる仕事も限られているし、自由に好きなものが買える大きなショッピングセンターもないし、アマゾンで買い物をしてもなかなか届かなくて不自由なのに対して、都会なら違った価値観の人が互いに干渉せずに生きていけるし、たくさんのお店や仕事の機会があるので自由度が大きいと考える人もいるでしょう。

どちらの可能性もありますね。読者の皆さんはどのようにお考えですか。

遺伝的に劣っているからではない…人生の選択肢を狭める、最大の「足かせ要因」とは

双生児による行動遺伝学研究からわかること

これを頭の中だけで考えるのではなく、実際のデータで示してくれるのが双生児による行動遺伝学研究です。もしどちらかの環境で遺伝率が大きくなれば、それは、それだけ環境が自由だから遺伝的な素質に合わせた行動が選べた、と考えられます。しかしもし共有環境や非共有環境の影響が大きければ、それだけ環境に左右され、自由な選択ができていないということになります。

ここで遺伝と環境の考え方が、ふつうと逆転していることに気づくでしょう。ともすれば遺伝は人間を内側から縛るもの、それに対して環境はそれを自由に解放するものと考えられがちです。ところが遺伝側からすれば、環境の方が遺伝の進みたい自由に足かせをはめる要因と位置付けられているのが重要です。

しつけの文化比較

最後にご紹介するのは、子育ての国際比較の話です。西欧では早くから子どもを両親とは違う部屋で寝かせるのに対して、日本では親子で川の字になって寝ると言います。子育ての仕方にはこのように文化差があるわけですが、ここに遺伝と環境のあらわれ方の違いが見出されるのです。

日本とスウェーデンのふたごを対象に、自分が親からどんな態度で子育てをされたかを聞きました。養育態度には、温かさ、権威主義的態度、庇護性といった異なる側面があることが知られています。子どもに温かく接するか冷たいかかわりをするか、親として権威をもって子育てにあたるか権威を感じさせないように育てるか、危ないことは極力させないよう子どもを守ろうとするか突き放して子ども自身に任せるか、それぞれの姿勢が家庭によって違い、子どもの受け止め方も違います。

これはもっぱら環境の違いだろうと思われるかもしれませんが、子育てのスタイルは親が一方的に決めるのではなく、子どもの性格や行動によっても変わってきますので、そこに子どもの遺伝要因も入ってきます。また同じふたごのきょうだいでも、子ども自身の遺伝的な傾向により、親の同じ子育てスタイルが違って受け止められることもあります。

この個人差が遺伝と環境のそれぞれに関して、どの程度効いているのかを算出し、それを日本とスウェーデンとで比べると、[図表1]のように、温かみと権威主義に関して、スウェーデンより日本のほうが遺伝の影響が大きいことがわかります。逆にスウェーデンでは共有環境の方が大きいようです。特に父親が権威主義的かどうかのとらえ方が、スウェーデンでは遺伝要因が見られないくらいです。

これは日本人は子どもの性質に合わせて子育てをする傾向が強いのに対して、スウェーデンでは親の考え方に合わせるような子育てをする傾向が強いことをあらわしていると考えられます。

文化比較の研究でもすでによく言われていることですが、日本の親は子どもに共感を強く示し、子どもと同じ目線でしつけをしようとしますが、欧米では親も子も自律した個人ととらえ、親自身の価値観を子どもにはっきり示そうとする、そのことが遺伝と環境の関係の中にもあらわれているのだと考えられるのではないでしょうか。

微妙な違いに注目してみると…

これは子育てとしてどちらが良い、悪いというものではないと思われます。実際、親主体のしつけか、子ども主体のしつけかは完全に分けられるものではなく、どの親も時と場合によって使い分けているもので、ここで示された文化による違いも、あくまでも程度問題であることを忘れてはいけません。

それをふまえたうえで、その程度の違いが生まれた国による違い、それがさらに子どもの遺伝的素質の違いとも絡まってくるのだということを知っていただければ、子育ての仕方、考え方も変わってくるのではないでしょうか。

Chizuru Shikishima,Kai Hiraishi,Shinji Yamagata,Jenae M.Neiderhiser,Juko Ando(2013)culture moderates the geneticandenviron mentaletiologies of parenting:Aculturalbehavior geneticapproach,Social Psychologicaland Personality Science,4(4): 434-444. doi: 10.1177/19 48550612460058

安藤 寿康 慶應義塾大学名誉教授・教育学博士

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