「新NISAなんてやるんじゃなかった…」老後資金不足で投資を始めた年金月13万円・元会社員65歳がスマホを握りしめ「後悔に震えた」ワケ【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月1日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
「老後資金を増やしたい」その一心で、貯金の半分近くを新NISAに投資した65歳の西郷徳太郎さん。しかし、その決断が彼の生活を一変させることに……。市場の荒波に翻弄される心と眠れぬ夜を過ごす日々。徳太郎さんの経験から、年金生活者が陥りやすい投資の罠と、それを回避するための具体的な方法を、FPの青山創星氏が解説します。
65歳、年金暮らしが始まったが…毎月赤字で頭を抱える日々
西郷徳太郎さん(仮名、65歳・独身)は、長年勤めた会社を定年退職し、ようやく年金生活のスタートラインに立ちました。しかし、その生活は想像以上に厳しいものでした。
「月々の年金が13万円。でも、生活費は賃貸住居費や税金・社会保険料も含めると最低でも20万円かかる。毎月7万円の赤字だ……」
貯金800万円は70歳台半ばで底をつく。この現実に直面した徳太郎さんは、何とかして貯金を増やさなければと焦りました。
そこで思いついた手段が「投資」です。最近テレビ番組で「投資ブームが来ている」「新NISAはお得」といった情報をよく目にしていた徳太郎さんは、投資で増やすしかないと考えたのです。
そして投資に詳しい知人に勧められた「ニコニコ・ハッピー老後」(仮称)というアクティブ型投資信託を、新NISAの成長投資枠240万円(満額)で一括購入。つみたて投資枠120万円も別のアクティブ型投資信託の積立購入を月10万円ずつで設定してしまいました。
投資ブームに飛びつき、市場の荒波に揺れる心、眠れぬ夜を過ごす日々
投資信託を購入した翌日から、徳太郎さんの生活は一変しました。スマートフォンで暇があれば価格をチェックする習慣が始まったのです。
「上がった!」と喜んだかと思えば、翌日には「下がってる……」と落胆する。この繰り返しに、徳太郎さんの心は翻弄されました。
「投資ってこんなにしんどい思いをするものだったのか? 大切な老後資金が減るかと思うと夜もおちおち寝ていられない」
常に投資のことを考えてしまい、儲かるかもしれないという期待よりも、損するかもしれない不安が大きくなりました。とうとう投資を始めたこと自体を後悔するようになった徳太郎さんは、友人の紹介でFPの永瀬財也さん(仮名)に相談することにしました。
永瀬さんは徳太郎さんの状況を聞いて、こう説明しました。
「老後資金の不足分を投資でまかないたいと考えたことは間違いではありませんよ。しかし、リスクをしっかり理解したうえで投資をしないと、不安から誤った行動を引き起こしてしまうこともあります」
新NISAでストレスなく投資をするために知っておくべきこと
永瀬さんは、徳太郎さんの投資状況を詳しく聞いた後、投資初心者の注意点を含めて、どのような選択肢があるのかについて説明しました。
1.新NISA口座の特徴と注意点 新NISAは非課税で投資できる、メリットの大きい制度ですが、この口座を使えば必ず儲かるわけではありません。通常は売却時に利益があると約20%の税金が引かれますが、新NISA口座を利用すれば、その税金がかからないというのがこの制度の仕組みです。儲けがなければ得することはありません。
2.新NISAの投資枠別特性 つみたて投資枠の商品は、金融庁の条件を満たした低コスト長期運用商品に絞られているので比較的安心です。一方、成長投資枠の商品は商品数は多いですが、積立投資枠よりも条件が緩く、選択には慎重さが必要です。両枠の商品とも金融庁は利益や元本を保証しているわけではありません。
3.長期投資の重要性 徳太郎さんは現在65歳ですが、65歳の男性の平均余命から計算した平均寿命は84歳です。老後資金としてなら約20年間の投資期間があります。これは長期投資に十分な期間です。
4.積立投資と一括投資の比較 一般的に、積立投資は安全と思われがちですが、必ずしもそうではありません。5年間の元本割れ確率は一括投資で14.1%、積立投資で17.8%、20年では各2.0%、3.2%というデータがあります(世界の株価平均と同様の動きをする投資信託の場合)。
つまり一括投資の方が元本割れ確率は低くなります。積立投資では後半に購入する資産の運用期間は短くなるためです。ただし、積立投資は心理的負担が少ないメリットがあります。購入価格が平均化され、評価損益の変動が穏やかになるためです。一括投資は投資開始後から価格変動による評価損益の変化が大きくなります。価格変動に敏感な方には積立投資が有効な場合もあります。
結局、積立が良いか一括が良いかは一律に決められません。データと自分の状況、心理的耐性を考慮しての選択が重要です。
5.分散投資の重要性 一つの資産に集中投資すると、万が一投資先が暴落したときに資産全体がダメージを受けることになります。そのため、投資先は分散することが大切です。株式だけではなく債券やその他の資産にも分散して投資する商品である「バランス型」の投資信託を使えば、期待リターンは低くなりますが、比較的安定した運用ができます。
6.リスク許容度に応じた商品選び 全世界の株価に連動した投資信託を選んでおけば大丈夫と誤解している方も多いですが、そうではありません。リターン重視の方は株価連動のもの、リスクを下げたい方や価格の動きが気になる方はバランス型のもの、価格の動くものは嫌という方は預貯金や国債というようにリスク許容度に応じた商品選びが重要です。
7.投資信託の選び方 アクティブ型の投資信託は、プロでも選ぶのが難しいです。投資初心者には、つみたて投資枠の手数料も安いインデックス型の投資信託が有力な選択肢の一つです。
8.資金の性質に応じた運用 日常の生活費や緊急時用の資金は預貯金、短期(10年程度以内)で使う特定目的のお金は低リスクの商品(預貯金や個人向国債、バランス型投資信託等)、にしておくという選択肢があります。老後資金として20年間程度以上の投資期間がある場合は、ある程度リスクをとって株価連動の投資信託で大きく増やすという選択肢もあります。ただし、この場合は自分の心理的耐性を考慮しての選択が重要です。
9.投資教育の重要性 投資には、最低限の勉強が必須です。自分で自信をもって判断できる力を身につけることが大切です。しっかり学び自信があれば、価格下落時に怖くなってあわてて投げ売りしてしまうことも避けられます。
投資に正解はない!あなたに合った投資法を見つける努力を
徳太郎さんは永瀬さんの説明を聞いて、投資に対する見方が大きく変わりました。特に、積立投資と一括投資の特性について新たな視点を得ることができました。
「これまで新NISAで投資していれば大丈夫だと思っていましたが、実はそうとも限らないんですね。自分の性格や資金状況、資金の目的などをよく考えて選ぶ必要があるということがよくわかりました」
永瀬さんからの助言を参考に、徳太郎さんは自分の投資戦略を下記の通り見直すことにしました。
1.アクティブ型投資信託の売却 徳太郎さんは、アクティブ型投資信託を数回に分けて売却しました。幸いにも、10万円ほどの利益が出て、胸をなでおろしました。
2.新NISAの活用 新NISAの制度上、売却して空いた枠を使えるのは翌年以降というルールがあります。そこで、徳太郎さんは未使用で今年まだ使うことのできる「つみたて投資枠」の残枠について、バランス型の投資信託で積立設定することとしました。
3.資金の分散 売却して得た資金は、以下のように分散することにしました。
●日常生活費や緊急時用の資金:預貯金 ●10年程度以内に必要な特定目的の資金(車の買い替えや家のメンテナンス等):低リスクの商品(預貯金や個人向国債) ●長期投資可能な老後資金:自分の性格を勘案して、大きなリターンは犠牲にしつつバランス型投資信託での積立投資
4.継続的な学習と相談 投資についての知識を深めるため、定期的に勉強会に参加することにしました。
後悔から学ぶ、シニアのための賢明な投資戦略
今回のことを通して、徳太郎さんは、「The biggest reward is not the money,but the peace of mind.」という格言を思い出していました。お金は確かに重要ですが、それ以上に心の安らぎや満足感が人生の質を高めるという意味です。
徳太郎さんの経験が教えてくれるのは、投資には「正解」がないということ。そして、自分自身の生活設計やリスク許容度に合わせて、柔軟に戦略を立てることの大切さです。
最後に、徳太郎さんは笑顔でこう語りました。
「投資に回すお金を減らしたので、増えたとしてもそこまで大きな金額ではないかもしれません。それでも自分にはこれぐらいが合っています。いきなり360万円も投資に回そうとしたのは私には無茶だった。それに気づくことができました。その代わり、生活費を下げる努力をして、少しアルバイトも始めようと思っています。今では、毎日株価をチェックすることはなくなりました。精神的に余裕ができたので、趣味の園芸にも時間を使っています。植物が育つのを見るのは、投資以上にワクワクしますよ。これからは無理のない安定した運用をしていきます」
経済的な安定を得ることは重要ですが、それと同時に、自分の人生を楽しむことも忘れてはいけません。徳太郎さんの経験が、多くのシニアの方々の心に響き、より安心で豊かな老後生活への道しるべとなることを願っています。
青山創星 ファイナンシャル・プランナー
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