CMでおなじみ!1934年には「ファスナー加工会社」に過ぎなかったが…現在では、世界市場で圧倒的な存在感をみせる「日本企業の名前」
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月9日 7時15分
![CMでおなじみ!1934年には「ファスナー加工会社」に過ぎなかったが…現在では、世界市場で圧倒的な存在感をみせる「日本企業の名前」](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/goldonline/goldonline_62362_0-small.jpg)
新規事業開発に成功した企業は、どのように事業を進めてきたのでしょうか? 本記事では、中野正也氏の著書『成功率を高める新規事業のつくり方』(ごきげんビジネス出版)より一部を抜粋・再編集し、YKK株式会社の事例とともに、自社の技術や強みから新しい顧客を獲得し、さらにその先へ展開させる方法を紐解いていきます。
窓で有名な「YKK」の新規事業開発
YKK株式会社(以下:YKK)は、1934年にファスナーの加工・販売をはじめた会社です。
1959年にアルミ・銅用の押出機を輸入し、それによって加工能力が大きくなりました。ファスナー用に使う以上のアルミ合金を生産できるようになったことから、その能力を活用するために、同じアルミ製品であるアルミサッシの製造をはじめました。
当時のCFTチャート※を図表1に示します。
※顧客・機能・技術の3点を頂点とした三角形型のチャートのこと。新規事業開発の担当者が議論を重ね、自社ならではの他社とは一味違う新規事業を考えるためのキャンバスとなる。![](https://ggo.ismcdn.jp/mwimgs/f/3/800m/img_f3c37cfc44f7d6353b75d9bc422ea84c488741.png)
YKKは原材料から機械までを自前で製造する川上遡上主義の下で、高品質な製品を低コストで生産することを徹底していました。このことからファスナー事業・アルミサッシ事業ともに、F(顧客に提供する機能)は「高品質・低コスト」といえます。
それを支えるT(技術)は、アルミ製品の生産技術になります。C(顧客)を見ると、ファスナー事業のC(顧客)はアパレルメーカーやバッグメーカー。一方、アルミサッシ事業のC(顧客)は工務店やハウスメーカーであり、従来のファスナー事業の顧客とは異なります。
すなわち図表1のCFTチャートから、当時の新規事業の展開は、既存事業であるファスナー事業のF(機能)とT(技術)を活用しながら、新しい顧客に向けて展開した新規事業であるといえます。
「高品質・低コスト」で差別化することのむずかしさ
通常ですと、F(機能)に高品質や低コストとすることは、あまりありません。どちらもよくいわれるものである反面、それを徹底し、競合企業のなかでダントツの低コストや、他社をしのぐ高品質を維持することがむずかしいからです。
YKKはこれを徹底し持続性のある競争力としている、といえます。ファスナー事業は競合他社をしのぐ高品質低コストを武器に、世界各国へ展開していきました。
その結果、既存事業だけではさらに事業を拡大することが見込めないことから、アルミサッシ事業を起点として新規事業開発をおこないました。それが建材(アルミサッシ)事業です。
1976年に、シンガポールに建材事業のための現地法人を設立し、アルミサッシの海外での製造販売をはじめました。さらに、ビルの窓部分を構成するカーテンウォールや、カーテンウォールのなかでもとくにメッセージ性が高く、高難度のものであるファサードの製造販売に展開しています。
「窓の部材メーカー」から、「窓メーカー」へ
アルミサッシ事業はさらに進化していきます。住宅向けアルミサッシ事業では、2004 年ごろに「アルミサッシメーカー」から「窓メーカー」になると業界で初めて宣言し、川下業界への事業展開をおこないました。
アルミサッシという「窓の部材を供給する事業」から、アルミサッシとガラスを組み合わせて「窓部分を製造販売する事業」に展開したわけです。
窓全体を製造するようになったことから、プラスチック枠を採用した断熱性に優れた窓や、ガラスにコーティングをおこない断熱性を高めた窓を製造、といったさまざまな展開ができるようになりました。
「新しい価値」の獲得に成功…近年のYKKは?
窓事業やカーテンウォール/ファサード事業を含めた、近年のYKKのCFTチャートを図表2に示しました。
![](https://ggo.ismcdn.jp/mwimgs/3/e/800m/img_3e8958be81bd7cdb14ca11816ab972d1540318.png)
図表1と比較すると、最初のファスナー事業・アルミサッシ事業から、窓事業とカーテンウォール/ファサード事業が加わり、企業が拡大していることがわかるでしょう。
窓事業も、カーテンウォール/ファサード事業も、用途はビルと住宅と異なるものの、これらはいずれも建物の顔であり、かつ外と内とを分ける重要な機能をもっています。
どちらも意匠性が求められるとともに、保温性・強度などの性能に対する要求も高く、これを実現することが両者に共通するF「顧客に提供する機能」となるといえるでしょう。
これを実現するT(技術)としては、カーテンウォール/ファサード事業は意匠性と性能を両立させ、さらにはニーズに合わせてコスト・納期を圧縮するための設計から調達、組み立てまでの総合的なエンジニアリング技術が挙げられ、窓事業はさまざまな性能向上技術が挙げられます。
YKKはファスナー事業から展開したアルミサッシ事業を起点として、建材部門において窓事業やカーテンウォール/ファサード事業へと展開しました。
これらの新規事業開発によって、「ビル建築主」といった新たな顧客を開拓するとともに、新技術を自分のものとし、「意匠と性能の実現」といった新しい顧客に提供する機能、新しい顧客から見た価値を獲得したといえます。
中野 正也
株式会社グローバル事業開発研究所
代表取締役
※本記事は『成功率を高める新規事業のつくり方』(ごきげんビジネス出版)の一部を抜粋し、THE GOLD ONLINE編集部が本文を一部改変しております。
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