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2025年4月「建築基準法改正」は改悪か…「耐震・断熱・気密リノベができなくなる」の真相

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月2日 8時15分

2025年4月「建築基準法改正」は改悪か…「耐震・断熱・気密リノベができなくなる」の真相

写真提供:えぬぷらす一級建築士事務所

知られざる「日本の住宅とその性能」について焦点をあてる本連載。今回のテーマは「建築基準法改正」。2025年4月から施行される法改正により、耐震補強や断熱・気密リノベーションを行うことが難しくなりそうだといいます。リノベーションを考えている人には心穏やかな話ではない事の真相を解説していきます。

断熱・気密フルリノベの増加傾向に水を差す建築基準法改正

2025年の4月から建築基準法の改正により、来年4月以降、耐震補強や断熱・気密リノベーションを行うことがとても難しくなりそうです。というのは、改正建築基準法の施行後しばらくは、かなりの混乱が予想され、フルリノベができるのはいつになるのかわからないという事態が起こりそうです。

リノベを考えている方は、間違いなく急いだほうがいい状況です。

官製不況で「中小工務店の倒産ラッシュ」が始まる?

かつて2007年に、姉歯事件に端を発した建築基準法改正によって引き起こされた「改正建築基準法不況」という官製不況が起こりました。姉歯建築設計事務所の構造計算書の偽造の発覚により、同様の問題の再発を防ぐために、建築基準法が改正され、新たに構造計算適合判定制度が導入されました。また、建築確認や完了検査が厳格に運用されました。

このときは、法施行の準備不足で建築確認・検査の実務に関するガイドラインなどを示したのが法施行日の直前になり、構造計算を厳格にするための大臣認定プログラムは施行日を過ぎても完成していませんでした。さらに厳格すぎる新規定が審査日数の長期化を引き起し、住宅着工数が激減しました。それにより、倒産する住宅会社が増加し、建材メーカーなどにも悪影響がおよび、不況を引き起こしたのです。

2007年度の実質経済成長率は当初見通しの2.0%増が1.3%増へと下方修正されています。当時政府は、実質経済成長率の0.7%の下方修正分が主として建築基準法の改正に基づくものであると認めています。

今回、もしかすると、この時の不況を大きく超える深刻な官製建設不況が起こるかもしれない状況にあります。

そもそも断熱・気密フルリノベとは?

断熱・気密フルリノベとは、通常の水回りやクロスの張替え等のリフォームにとどまらず、断熱・気密性能と耐震性能の向上を伴う改修工事のことを言います。一般的には写真の様に、柱・梁等の構造材をむき出しの状態(スケルトン状態)にして、耐震補強・シロアリ対策、床(基礎)・壁・天井(屋根)に断熱材を十分に施し、同時に気密処理も行って気密性能も確保します。

築40年以上の築古の既存住宅でもフルリノベにより、一般的な新築住宅よりも耐震・断熱・気密性能を高性能にできるということを知らない方は、意外にまだ多いようです。

中古住宅購入+断熱フルリノベは住宅取得の貴重な選択肢

古い家を解体して、新築するのに比べると、解体費がかからないことや、新築よりも工事費が安いため、一般的な新築住宅よりも高性能にしても、新築に比べて数百万円程度安く収まります。

さらに国は、既存住宅の性能向上に力を入れており、新築に比べると国や自治体の補助金も手厚くなっています。そのため、既存住宅を解体して建て直すのに比べれば、概ね6~700万円程度安く高性能住宅での暮らしを実現することができます。

新築の住宅価格の上昇が続いている中で、性能にこだわった住まいを指向する方々の貴重な選択肢になっています。

断熱・気密フルリノベに水を差す法改正

そのような中で、耐震、断熱・気密リノベを行うことを実質的に非常に困難にする改正建築基準法が来年4月から施行されます。法改正により、消費者の負担が重くなるだけでなく、場合によっては、半年以上にわたり計画をストップせざるを得なくなる可能性が高そうなのです。

さらに、検査済証がない住宅の場合は、手続きに非常に手間、費用、時間がかかるようになります。

なぜ、断熱・気密リノベができなくなるのか?

建物を新築や大規模修繕や模様替えの工事を行う場合、確認申請が必要です。自治体や民間の指定確認検査機関に申請することになります。

ただし、2階建て以下の小規模な木造建築物を対象に、建築確認で構造審査を省略する「4号特例」という制度があり、従来、新築では構造審査が不要でした。リノベにおいては確認申請自体が不要でした。

それが今回の改正で、「4号特例」の対象建築物が大幅に縮小されます。新築は構造審査が必要になり、既存戸建住宅の大規模修繕や模様替えでも確認申請が必要になります。この改正で、既存住宅の場合は、現行法に適合していない箇所があれば、リノベを考えている箇所でなくても、その部分も現行法に適合させる改修工事が必要になります(既存遡及に関してはかなりの部分で緩和あり)。たとえばカーポートですが、本来、建蔽率に算入されるべきものです。家の新築後に設置したことで、現状では建蔽率を超過している住宅は少なくありません。この場合は、断熱リノベをしたいだけでも、カーポートの撤去が必要になります。このように、やりたい工事だけでなく、想定外の工事を行うことが必要になる可能性があります。

そして、それ以上に問題なのは、とても大きな改正であるのにも関わらず、制度設計があまりにも準備不足の状況下での見切り発車となりそうだということです。そのため、少なく見積もっても6か月間程度は、戸建住宅で大規模修繕や模様替えの確認申請手続きは、ほぼできない状況に陥るのではないかと言われています。

大規模修繕や模様替えの確認申請手続きが停止しそうな理由

指定確認検査機関等が、大規模修繕や模様替えの確認申請手続きに対応できなくなり、ストップしてしまいそうだと言われているのには、大きく三つの要因があります。

第一に、新築の手続きの変更により、自治体や指定確認検査機関が新築対応で、業務がかなりひっ迫し、既存建築物に対応できない状況が予想されるということです。2025年の4月には、「4号特例」の縮小以外に、改正建築物省エネ法も施行されます。これにより、新築時には、確認申請と同時に、「省エネ適判」という省エネ基準への適合判定の手続きが必要になります。「省エネ適合判定通知書」がないと、建築確認はおりなくなります。

通常、「指定確認検査機関」と「省エネ適合判定機関」は、同じ会社が行っているため、指定確認検査機関等は、この2つの変更で、新築の手続きの負荷がかなり増えます。そのため、確認申請手続きが停滞し、着工できるまでかなりの時間がかかるようになることが予想されています。

新築よりも影響が大きい既存住宅の大規模修繕や模様替え

第二に、既存住宅の大規模修繕や模様替え手続きに関するマニュアルの整備が遅れており、一方、指定確認検査機関の既存住宅対応の体制整備も全く進んでいないという問題です。

新築住宅の確認申請手続きでは、ルールが明確になっており、指定確認検査機関等の担当者が判断に迷うことはそれほど多くありません。ところが、既存住宅については、現行法に適合していない場合、例えば基礎の耐力が足りていない際にどの程度の補強が必要なのか等、どのような改修を持って適合とするのか、審査時の判断に困ることが多くなります。そのために、判断基準を明確にするマニュアルが絶対に必要です。特に、民間の指定確認検査機関の場合は、明確な判断基準がなく独自の判断で行うと、国土交通省から処分を受けるリスクがあります。その判断基準が示されない状況での施行になりそうなので、指定確認検査機関は、大規模修繕等の確認申請を受けたくないのが本音かもしれません。

そして、指定確認検査機関は、いままで新築の確認業務ばかりを行ってきましたから、要求される知識が異なる既存住宅の大規模修繕等について、経験・知見を積んでいる確認検査員が圧倒的に足りていないのです。判断基準となるマニュアルが示されず、十分な経験のある確認検査員が足りておらず、新築の確認業務の負荷増大でパンク状態になると予想されるのです。そのため、既存住宅の大規模修繕等の確認申請業務に積極的に対応する指定確認検査機関がどれくらいあるのか、はなはだ疑問です。申請したくても、受け付けてくれる指定確認検査機関探しにかなり苦労する事態に陥り、見つかっても審査期間が長引く可能性が高そうなのです。

検査済証のない既存住宅はさらに大きな手間・時間と費用が必要

第三の問題は、「検査済証」のない住宅の手続きです。

建築物の新築時には確認申請手続きを行い、「確認済証」が交付されてから着工します。そして建築工事が完了した際に、確認申請通りに工事が行われたことを現地で確認を受けて、「検査済証」の交付を受けます。あらたに、確認申請手続きが必要な大規模修繕等の工事を行う際には、「検査済証」が手元にあることが前提となります。

最近の新築建築物は、「検査済証」の発行を受けるのが当たり前になっていますが、以前はそうではなかったのです。国土交通省によると、平成11年以前は、「検査済証」の交付を受けていない建物が過半を占めています。フルリノベニーズが高い築40年前後の建物となると、その比率は間違いなくさらに高くなります。

大規模修繕等を行う際の確認申請の手続きでは、建築時点の建築基準法令に適合していることを確かめる必要があります。そのため、「検査済証」がないままでは、大規模修繕等のための確認申請を行うことはできません。そこで、まず現況の図面起こしからはじめて、法適合状況の調査を行うことが必要になります。

ところが、さらにやっかいなのが、法適合状況調査の手続きは、その建物がある行政によって異なっているのです。国土交通省が定めた法適合状況調査(検査済証のない建築物に係る指定確認検査機関を活用した建築基準法適合状況調査のためのガイドライン)に基づく運用をしている自治体と、そうではなく、一級建築士事務所による調査でよいとしている自治体等、対応が分かれているようです。

国は、新たなガイドラインの策定を進めているとも聞きますが、少なくても現時点では、「検査済証」がない戸建住宅のリノベの手続きが来年4月以降どうなるのかは、極めて不透明です。

いずれにしても、フルリノベを行う際の手間と費用と着工までの時間がまったく変わってきます。特に改正法施行からしばらくの間は、業界が大混乱することが予想されます。そのため、フルリノベを行おうにも、いつ着工できるか、まったくわからない状況に陥る可能性が高いことを住宅業界は懸念しています。

悪徳リフォーム会社がはびこる事態に?

今回の制度変更でもう一つ大きな問題があります。それは、確認申請が必要なリノベなのかどうかが、あいまいなところがあり、おそらくリフォーム会社・工務店によって、判断が異なってくるということです。

フルリノベになれば、確認申請が必要になることは明らかです。ですが、おそらく、この手続きを踏まないでも工事を請けるコンプラ意識の低いリフォーム会社・工務店が出てくると思います。遵法意識の高いリフォーム会社・工務店が工事を請けようにも請けられない事態になれば、コンプラ意識の低い悪徳リフォーム会社にリノベを発注せざるを得なくなると思われます。

今回の法改正は、遵法意識の高い優良なリフォーム会社・工務店が淘汰され、悪徳リフォーム会社がはびこる事態も引き起こしかねません。

消費者はどうしたらいいのか?

では、耐震リノベや断熱・気密リノベを考えている消費者はどうしたらいいのでしょうか?

来年4月以降の状況がまったくわからないため、現時点でとれる対策は、3月中に着工するという選択肢しかありません。フルリノベーションの設計や見積り期間を考えると、そろそろ、そのためのタイムリミットが迫りつつあります。新築住宅価格が高騰する中で、貴重な高性能住宅に住むための選択肢が大幅に狭められる事態に陥りそうなのですから、フルリノベを検討中の方は、とにかく急ぐことをお勧めします。

工務店の生き残り戦略を奪う法改正

最近、住宅着工戸数が減少しており、特に注文住宅の着工戸数の減少が深刻になっています。多くの工務店は、生き残りをかけて、新築からリノベーションにシフトを進めています。工務店にとっては、新築とは異なるノウハウが必要になるため、必死で勉強しているところです。また、国や自治体は、近年、新築よりも既存住宅の省エネ化に力を入れており、かなり手厚い補助制度が用意されています。つまり、国や自治体も既存住宅の性能向上に力を入れており、巨額の予算措置を行っています。

今回の法改正は、その大きな流れとまったく整合が取れていません。そして、フルリノベの受注をストップせざるを得ない状況になれば、新築注文住宅の激減で苦しむ中小工務店や建材メーカー等の倒産が一気に増加する可能性があります。

高度な政治判断が大至急必要では?

住宅業界は、国土交通省に対して、今回の法改正の問題点を再三指摘してきているようです。ところがこのままでは、準備が整わないままに来年4月に施行されてしまう可能性が高そうな模様です。政治家の方々は、このように、消費者の貴重な選択肢が奪われ、さらに官製不況が起ころうとしている状況をどれくらい認識しているのでしょうか?

物価高に賃金が追いつかず、実質所得のマイナス傾向が続き、個人消費も低迷している中で、状況をさらに悪化させる可能性が高いこの法改正について、政治家の方々がどれくらい認識しているのか、ぜひ聞いてみたいものです。

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