競馬の払戻金は課税対象→実は「はずれ馬券」と損益通算が可能!? ただし…「はずれ馬券」を“経費にできる人”と“できない人”の決定的な差【税理士・公認会計士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月24日 10時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
昨今、万馬券を当てた芸人に対する巨額の追徴課税が話題となるなど、なにかと騒がれる「競馬の払戻金」に対する税金の考え方。そこで、国が課税を強化している「競馬の払戻金にかかる税金」の仕組みと「はずれ馬券との損益通算」について、税理士法人グランサーズの共同代表で税理士・公認会計士の黒瀧泰介氏が解説します。
国が積極的に課税強化する「競馬の払戻金」
黒瀧氏(以下、黒)「競馬の払戻金にかかる税金については、近年、国が積極的に課税強化している印象があります」
競馬の払戻金にかかる税金はいくら?
――競馬の払戻金に所得税がかかるということは、払戻金は所得として扱われるということですよね?
黒「はい。競馬の払戻金は基本的に一時所得です。一時所得の場合は最高50万円の特別控除があるので、払戻金が年間50万円を超えると税金が発生します。
ただし、一定の条件を満たすと、例外的に雑所得として扱われることがあります。
雑所得の場合、確定申告が必要ない人に限り、年間20万円までなら申告の必要がありません」
――一時所得と雑所得なら、年間50万円まで税金が発生しない一時所得のほうが納める税金が少なくなりそうなので、可能な限り一時所得として申告するのがよいのでしょうか?
払戻金を「一時所得」として申告したほうがよい理由
黒「それが、そうでもないんですよ。実は競馬の払戻金が雑所得として扱われた場合、はずれ馬券を経費にすることができるんです」
――え? ということは……一時所得の場合は、はずれ馬券は経費にできないんですか?
黒「はい。払戻金が一時所得として扱われた場合、経費にできるのは、当たり馬券の購入費用のみです。
一方、払戻金が雑所得として扱われれば、当たり馬券の購入費だけでなく、年間に購入したはずれ馬券の購入費も経費として計上することができます」
=====ポイント=====
一時所得……経費にできるのは当たり馬券の購入費のみ
雑所得……はずれ馬券の購入費も経費として計上可能
――競馬好きな人は、はずれ馬券の購入額もすごいと思うので、できれば経費にしたいところですよね。
競馬の払戻金にかかる税金の計算方法
黒「競馬の払戻金の所得区分が分かったところで、払戻金にどのくらい税金がかかるかシミュレーションしてみましょう。
今回はこの条件で、払戻金が『一時所得』の場合と『雑所得』の場合の税金を見ていきます。
まずは払戻金が「一時所得」だった場合です。一時所得の課税所得金額は、下記の計算式によって算出されます。
・課税所得金額=(収入金額-必要経費-特別控除額50万円)×1/2先ほどの条件に当てはめ、年間の収入金額が500万円、当たり馬券の購入費用が150万円だった場合、払戻金の課税所得金額は150万円になります。
一時所得は給与所得など、他の所得と合計した総所得金額で税額を計算することになるので、税率は総所得金額によって変化します。
他の所得が給与所得のみで、条件の通り給与所得の課税金額が600万円だった場合、総所得金額は750万円となり、このような計算で、税額は108万9,000円です」
――一時所得の場合、50万円の特別控除があるのはいいんですけど、当たり馬券しか経費にできないのが残念ですね。万馬券が当たった場合は、税額がかなり大きくなりそうです。
雑所得の場合…一時所得と比べると「約10万円」もオトク
では、雑所得の場合はどうでしょうか?
黒「雑所得の場合、こちらの計算式で課税所得金額を算出します。
・課税所得金額=収入金額-必要経費雑所得なら『はずれ馬券』も経費にできるので、先ほどの条件に当てはめると、年間の収入金額が500万円、必要経費が400万円となるので、課税所得は100万円になります。
雑所得も一時所得と同様、総所得金額で税額を計算します。条件の通り給与所得の課税金額が600万円だった場合、総所得金額は700万円となるので、税額は97万4,000円です」
――雑所得は、一時所得のような特別控除はないけど、はずれ馬券も経費にできるので、結果的に税負担が軽くなるんですね。
払戻金が雑所得になる条件…競馬が“仕事”かどうか
――年間通して何度も競馬を楽しむ人なら、なんとか払戻金を雑所得にして、はずれ馬券の購入費を経費にしたいと考えると思うのですが、払戻金を雑所得にするにはどうすれば良いんですか?
黒「競馬の払戻金が雑所得として認められるには、国税庁に馬券の購入を業務として捉えてもらう必要があります。
国税庁は、馬券の購入を業務として捉える要素として、『営利を目的とする継続的行為』に当てはまるかを重視しています。
こちらの所得税法基本通達では、
・年間を通してほぼすべてのレースで馬券を購入した上で、
・ソフトやノウハウを活用して偶然性を極力減らし、
・100%を超える回収率を達成している場合
雑所得として認めるとしています」
――具体的にはどういうことでしょうか?
黒「まず、『年間を通してほぼすべてのレースで馬券を購入していること』については、馬券の購入が業務として継続的に行われている証明になります。趣味でG1だけ競馬を楽しんでいるなど、たまにしか馬券を購入しない人は、馬券を雑所得にすることはできません」
――仕事として判断される頻度で馬券を買わないといけないんですね。
黒「次に、『ソフトやノウハウを活用して偶然性を極力減らしている』ことと『100%を超える回収率を達成している』についてです。これは勘や思い込みではなく、客観的な要素を分析して、回収率が100%を超えるような工夫がされているかが判断材料になります」
――これはかなり判断が難しくないですか?
黒「そうなんですよ。ここの判断が難しいため、払戻金を雑所得として申告したものの、財務調査で一時所得であると判断され、追徴課税の支払いを求められた人も多く、たびたび裁判になっています」
――裁判の結果はどうだったんですか?
黒「雑所得として認められた判例と認められなかった判例がそれぞれありますね。
例えば2016年4月の判例の場合、競走馬や騎手の特徴・コースの傾向などを加味した上で、緻密な計算によって馬券が購入されていたことや、実際にその方法で6年間にわたって回収率100%以上を達成していたことから、競馬の払戻金が雑所得として認められています」
――自分のなかで理論が組み上がっていて、かつ6年間も勝ち続けていたということですか。凄いですね。
黒「対して、同年の9月の判例では、継続的な馬券の購入は認められたものの、馬券の購入方法に関するノウハウがあいまいで、回収率も100%を超えていないということで、雑所得とは認められませんでした」
――やはり、払戻金が雑所得として認められるケースはかなり少なそうですね。
黒「そうですね。税務調査でも突っ込まれるポイントになるので、本当に雑所得として認められる自信がない限りは一時所得で申告するのが無難でしょう」
黒瀧 泰介
税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士・税理士
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