資産家の親の相続に悩む経営者、相続税の試算“数千万円”に思わず唸るも、最後は母親の目に嬉し涙…全員が幸せになった「3つの提案」とは【経営者専門FPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月6日 10時15分
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(写真はイメージです/PIXTA)
両親から受けた経済的支援を返済しないまま法人を経営する相談者から舞い込んだ「両親の相続税対策」についての依頼。不動産事業を個人で行う両親の資産にかかる相続税は数千万円……。今からできる対策とは? 本稿では、株式会社FPイノベーションの代表取締役・奥田雅也氏が、相談事例を基に解決のポイントを解説していきます。
法人を経営している相談者「両親の相続対策がしたい」
ある日、過去に法人と個人で生命保険契約をお預かりしている経営者Aさんから、私の携帯電話に「相談があるので来てもらえないか?」と連絡が入りました。「両親の相続対策ができていないので、気になっています」とのこと。こちらの相談者の概要は以下のとおりです。
相談者:50歳代男性経営者 業種:小売業 年商:8,000万円Aさんは3人兄弟の次男で、長男と妹がいます。両親は某県の地方都市に在住で、それなりに土地を持っている資産家で「いまは元気だからよいが、両親に何かあると相続でいろいろと問題が起きそうで心配」だと言います。
両親とは少し疎遠になっており、事業を始める際に経済的な援助をしてもらってはいるもののその返済は行っていない。また、毎年の年末年始に子どもを連れて帰省はしているが、一同が集まっているので金銭的な話や相続の話は一切できていないとのことでした。
相続を考えるために…相談者の法人経営状況
まずは法人の経営状況を確認するため、直前期の決算書と月次試算表を拝見しました。利益は多少出ているものの、借入金返済をした後のキャッシュフローはギリギリ+αで決して好調とは言えない内容です。ただ、いくつか明るい材料もあり、決して悲観する内容ではありません。
これを踏まえて私からAさんに、「一度、ご両親にこの資料を持ってご報告に行きませんか? 近くに来る用事があったので、と寄られてはどうでしょうか。そこで経営のことや相続のことを話し合われてはどうでしょうか?」とご提案しました。
しかし、私からのいきなりの提案に戸惑われた様子で「う〜ん、考えてみます」とだけおっしゃられて、その日の面談は終わりました。
1週間ほど経過したある日、Aさんから「奥田さんが先日おっしゃった両親との面談ですが、いろいろと考えた結果、行こうと思っています。ただ厚かましいお願いなのですが、一緒に来てもらえませんか? どうも一人ではキチンと話せる自信がなくて……」とおっしゃられたので、二つ返事で「行きましょう!」とお答えしました。
両親への状況説明
当日、少し緊張をしたAさんと私で、Aさんのご実家へ向かいました。その道中も「このアパートは親父の名義です」とか「ここの畑も親父の名義のはずです」など案内をしていただき、いよいよ到着しました。
ご両親は70歳後半ですが、お元気そうな様子でした。私を見て「この人は?」と戸惑いの様子を見せられたので、「実はAさんの会社経営についてアドバイスをさせてもらっている保険屋です。今日は会社の現状を報告させて頂くためにご一緒させていただきました」。名刺を差し出すと、怪訝な表情をしながらも「そうですか。それはご苦労様です」と居間に通していただきました。
お母様が淹れたお茶を置いて、それに口をつけたところで、事前の打ち合わせ通りにAさんから「おかげ様で最近になって、なんとかやれるようになりました」と切り出してもらいました。Aさんのお話をお父様はじっと黙って、お母様は心配そうに聞かれていましたのが印象的でした。
話し終えたAさんがカバンから決算資料と月次試算表を「今はこんな感じ」と照れ臭そうに出しました。お父様は資産家で個人事業として不動産事業を行なっているので、多少なりとも決算資料はご理解できる様子で、ざっと一通り目を通して「そうか……でもまだまだ厳しそうやな」とだけおっしゃられました。
少し重たい空気になったので、私があとを引き継いで決算書と月次試算表をゆっくりと丁寧に説明し、見た目の数字ほどは悪くない状況をお伝えしました。お父様はいくつか質問を交え、頷きながらじっくりと聞いていました。そして、それなりにご安心をされた様子で、「まぁ景気はよくないけど、このまましっかり頑張れよ」とだけおっしゃいました。
不動産持ち、生命保険ナシの両親。資産にかかるヘビーな相続税
少し場が和んだところを見計らって、私のほうから「ところで、今日こちらへの道中Aさんから教えていただいたのですが、かなり不動産をお持ちなんですね。その管理も大変ではないですか?」と投げかけをしました。
それに対しては「ええまぁ」とお茶を濁すような反応しかなかったので、私の方から顧客に経営者で資産家の方が多いこと、大阪の不動産市況のこと、多くの資産家が悩まれている一般的なお悩みや事例などを一通りお話ししました。
するとお父様がおもむろに立ち上がって「実はね……Aには一切言っていないけど、先日、とある業者に相続税の試算をして貰ったんですよ」と言って、その資料を持って来られました。その資料の表紙には有名な不動産業者と某税理士法人の名前が入っており、ページをめくりながら「概算ではこんな税額らしいです」と私に見せられました。
そこに書かれていた税額は数千万円と、それなりの金額が書かれており、横で見ていたAさんが思わず「うわぁ〜」と声に出す金額でした。お父様に許可を得て、そのシミュレーション資料を拝見したところ、課税財産には所有されている不動産や金融資産だけでなく、Aさんへ貸付した金額も記載されており、ある程度きちんと試算がされている様子が伺えました。
ただ気になったのが、生命保険金と死亡退職金の記載がなかったこと。確認をすると、ご両親ともに生命保険は一切加入しておらず、不動産事業は個人事業で行っていました。それをお伺いしてから、私は持っていた紙とボールペンを出して家系図を書きながら、相続財産の非課税枠について説明を行いました。
ご両親は興味深そうに聞きながら、時折質問も交えてようやくご理解をされた様子でした。一通り聞き終えたところで「で、どうすればよいのですか?」と質問をされましたので、私の方から「もしよろしければ次の機会に具体的な提案をさせて下さい」とお願いをして了承をいただき、3時間近い面談を終えて退出しました。
導き出した相続税対策プラン
そして日を改めてAさんと共にご両親を訪問し、私がご提案したのは、以下の3点です。
①もめないように遺言を書いていただく ②保険金額1,500万円の一時払い終身保険に加入する ③Aさんの法人を契約者にした1,500万円の定期保険に加入する②の「一時払い終身保険」は、このご時世なので、円建てと外貨建て、そして変額タイプの3パターンを持参し、預金を保険に変えるだけで相続税の対象財産から外せることを説明。
そして③の「法人契約」は、ご両親にAさんの法人で役員になっていただき、経営のお目付役となっていただく。それと同時に、借りた資金の返済の意味を込めて少しだけ役員報酬を支払いつつ、保険料はAさんの法人で負担をする。これにより、ご両親には一円の負担がなく相続税納税資金準備と二次相続対策になることを説明しました。
私が一通り説明をした後、Aさんが「今まで父さんと母さんに迷惑と心配をかけてきたから、これくらいはさせてもらいたいと思って奥田さんにお願いをして考えてもらった」と言った瞬間に、横に座っていたお母さんが泣き始められました。
そのお母様を横目で見ながら、お父様は「よく分かりました。私達の個人で入る分は考えますが、遺言は書かないといけないと思っていたので書くつもりです。それとAがくれる分は、断る理由がないのでよいですよ」とおっしゃられました。
そのご決断を聞いてホッとしたご様子のAさんが「ありがとう」と言い、お父様はにこやかにうなずかれていたのが印象的でした。
奥田 雅也
株式会社FPイノベーション
代表取締役
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