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【消えた580兆円】住宅投資をしても残高の増加は限定的…日本の住宅投資はなぜ「資産化」しないのか

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月3日 7時0分

【消えた580兆円】住宅投資をしても残高の増加は限定的…日本の住宅投資はなぜ「資産化」しないのか

(写真はイメージです/PIXTA)

2022年末時点の日本の住宅の総額は472兆円余。さかのぼること30年前の1993年末時点では367兆円余だが、この間、建設された住宅の投資累計額は685兆円。果たして580兆円はどこに消えてしまったのか。ニッセイ基礎研究所の小林正宏氏が解説する。

日本の住宅資産残高と変動要因

内閣府「国民経済計算年次推計」によれば、2022年末時点の日本の住宅(建物のみ)の総額は472兆円余となっている。現行の系列で遡れる1993年末時点の残高は367兆円余であり、29年間で105兆円増加した。しかし、この間に建設された住宅の投資累計額は685兆円に上り、367兆円にこの金額を足すと1052兆円となる。つまり、1052兆円―472兆円=580兆円が消えた計算となる*1

足元では建設資材や人件費の高騰で住宅価格も上昇しているが、そのような価格変動の影響は105兆円であり、580兆円+105兆円=685兆円が固定資本減耗となる。この間、阪神淡路大震災、東日本大震災、熊本地震など、住宅が倒壊する等して滅失した額が6兆円余あるが、これを除いた679兆円は主に経年減価、すなわち、建物が年を経て劣化して価値が下がった分であり、住宅投資の累計額685兆円と拮抗する水準となっている(図表1)

アメリカの住宅資産残高と変動要因

アメリカでは、1993年末の住宅ストックは6.48兆ドル、1994年から2022年にかけて17.75兆ドルの住宅投資が行われ、2022年末の住宅ストックは32.69兆ドルと、1993年末の残高に住宅投資の累計額を足した水準よりも高くなっている。この間、減価償却により10.78兆ドル減っているが、インフレ等により19.24兆ドル増えている(図表2)

インフレ率の違いによる価格変動の影響を除いたベースで比較しても、1993年から2022年にかけてアメリカが2.05倍になっているのに対し、日本は1.05倍であり、経年減価による滅失が日本でいかに大きいかがわかる。

滅失住宅の平均築後年数・住宅の築後経過年数別残存価値

日本の住宅は木造が中心だからと思われるかもしれないが、アメリカの住宅も木造が基本であり、2009~2023年に竣工した戸建て住宅の91.7%を占めている*2。にもかかわらず、滅失住宅の平均築後年数を見ると、アメリカの55.0年に対し日本はは38.2年となっている(図表3)。これでも格差が縮小してきた方で、かつては日本の住宅の平均寿命は26年でアメリカの半分以下、などとも言われた。日本でも100年住宅、200年住宅と言われるように、新築住宅の物理的な耐用年数は大きく伸びている。しかし、国民経済計算上の木造住宅の実効償却率は0.055となっており*3、0.0114のアメリカ*4よりも早く償却される 。実際の市場での取引データもほぼこれに準じている(図表4)

市場データベースでは築後30年を超えたあたりから建物の価値がマイナスになっているが、これは取り壊し費用の方が大きいことを意味している。実際、首都圏では相続等で比較的大きな住宅が売却される場合、そのままでは価格が高く購入者を見つけることが困難な場合が多いことから、物理的には使用可能であっても建物を取り壊して敷地を2分割、3分割して宅地を売る、あるいは建売住宅を販売するといった取引がよく見られる。

アメリカでは、住宅について古いから壊す、ではなく、手入れして長持ちさせることを是とする空気があり、維持管理の状況はインスペクション*5に反映され、中古住宅価格にも影響する。

住宅取得理由

一方、日本では、住宅金融支援機構の調査*6によれば、中古住宅の建物部分の担保評価については、戸建て、マンションともに、「経過年数に基づき評価(維持管理・経年劣化状況(リフォームを含む。)による物件毎の品質差を考慮していない)」する金融機関が約8割を占める。住宅取得の多くのケースでローンが利用される現状に鑑み、資金的な制約があれば中古住宅価格に対して抑制要因となりうる。この点に関しては鶏が先か卵が先かの議論になるが、金融機関による担保評価がより精緻化してくれば建物の評価、中古住宅の価格にも反映されてくるのではないかと思われる。

もとより、日本では新築志向が強く*7、中古住宅市場の活性化がながらく叫ばれながら、なかなか実態が伴ってこなかった。国土交通省「住宅市場動向調査(令和4年度)」を見ても、新築住宅を購入した者は「新築だったから」購入した比率が6割前後なのに対し、中古住宅購入層のうち「新築住宅にこだわらなかったから」とした比率は4割に満たず、「予算的にみて中古住宅が手頃だったから」との回答が7割近くを占めている(図表5)

首都圏中古マンション価格/首都圏戸建て住宅価格

また、日本では新築住宅着工戸数が年間80万戸程度に対して中古住宅の取引戸数は13万戸程度*8と新築の市場規模が大きい。一方、アメリカは2023年の新築着工142万戸に対して中古住宅売買戸数は409万戸と中古市場がメインである。これは利上げに伴う金利ロックイン効果で中古住宅の供給戸数が大きく減少しての水準であり*9、過去には新築に対する中古の倍率はさらに高かった。こうした市場構造が住宅価格を維持し、中間層を中心とした国民の資産形成に寄与し*10、キャッシュ・アウト・リファイナンスのような金融手法も普及して個人消費を下支えてきたと言える*11

アメリカでは移民の流入もあり世帯形成に住宅着工が追いつかず慢性的に需給関係が逼迫している。日本では人口減少が続く中でもなお人口比ではアメリカよりも多くの住宅が着工されており、総務省統計局「令和5年住宅・土地統計調査 住宅数概数集計(速報集計)結果」によれば、空き家4戸数が900万戸、空き家率が13.8%になっており、着工を制限すべきなのではないかとの声も聞かれる。しかしそのような供給調整は市場経済には馴染まないであろう。

むしろ日本でも建設労働者が不足し、労賃が上がり、資材価格や用地取得費の上昇も相まって新築住宅の販売価格が上昇する中、住宅の一次取得者は中古市場に向かう流れができつつある。特に首都圏マンション市場では中古マンション成約件数と新築マンション販売戸数が逆転し8年が経過した。そのような需給の逼迫により中古マンションの成約価格も上昇を続けており、一対一で対応しているわけではないが、成約価格が登録価格を上回る状況*12となっている(図表6)。中古戸建住宅については、成約価格が登録価格を2割程度下回る状態が続き、価格自体も概ね横ばいで推移してきたが、2020年以降は成約価格が上昇基調となり、登録価格との差も縮小傾向にある(図表7)

いずれにしても、これまで「作っては壊す」傾向が強かった日本の住宅市場で、使用可能であっても壊して建て替える慣習が住宅投資の資産化を妨げてきた一因であったことは間違いない。住宅の供給戸数に制限を課すことが現実的でない中、市場経済における価格調整メカニズムが機能し、これらの問題が改善されつつあるのだとすれば、アメリカのように住宅が中間層の資産形成、そして個人消費に寄与する状況に向かっているのではないか、と期待したい。

*1:この分析手法を最初に発表したのは野村総合研究所のリチャード・クー氏

*2:米商務省より

*3:内閣府「国民経済計算推計手法解説書(年次推計編)2015年(平成27年)基準版」第 10 章 資本勘定・金融勘定の推計より

*4:米商務省のU.S. National Income and Product Accounts(NIPA)上の取扱であり、税法上の扱いとは異なる。

*5:住宅の状態の検査。日本でも類似の精度が2018年に導入されたが、利用率はまだアメリカには及ばない。

*6:「2023年度 住宅ローン貸出動向調査結果」

*7:財団法人ベターリビング「長持ち住宅の手引き」

*8:公益財団法人不動産流通推進センター「2024不動産業統計集(3月期改訂)」の「売り物件成約報告件数」はマンションが70,674件、一戸建てが64,869件(令和5年)。

*9:詳しくは「米新築住宅価格は前年同月比で過去最大の下落幅~前年同月比でプラスを維持する中古住宅との違い~」を参照。

*10:FRBの「Survey of Consumer Finances」を見ても、金融資産と比較すると住宅は中間層が保有している比率が相対的に高い。

*11:詳しくは「キャッシュ・アウト・リファイナンス(Cash Out Refinance)~「住宅を現金化する仕組み」はひとまず終了か?」を参照。

*12:登録物件の方が成約物件よりも床面積が小さいことも要因の一つだが、足元では㎡単価も逆転してきている。

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