「株式会社」のしくみ…会社運営に必要な「資本・負債」それぞれの目的と違いとは?【経済評論家が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月3日 9時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
「株式会社」がビジネスを行うには「資金」が必要です。資金には、株主からお金を集めた「資本」と、銀行からお金を借りた「負債」の2種類があり、集めたお金は同じ目的のために使われます。しかし、株主と銀行、それぞれの視点から眺めると、それぞれ異なる事情が見えてきます。経済評論家の塚崎公義氏が解説します。
株式会社は、株主と銀行から「資金」を調達する
株式会社を設立して事業をするには「資金」が必要です。設立のときに資金を出してくれた人には「株券」を渡します。株券を持っている人は「株主」と呼ばれます。銀行から借金をするときは「借用証書」を渡します。
株券には、下記の3つのことが書いてあります。
●会社が儲かったら、配当という形で株主が山分けする
●会社が解散するときは、資産を売って負債(借金)を返し、残りは株主が山分けする
●株主総会で社長の選挙等に投票できる
借用証書にも3つの事柄が書いてあります。
●100万円借りました
●1年経ったら返します
●金利は3%払います
株券と借用証書の最も重要な違いは、「会社が儲かったら」という単語が、借用証書にはないということです。銀行は、会社が儲かっても損しても、貸した金を返してもらって金利を払ってもらえればそれでよいのです。
したがって、銀行は社長がだれであるかには、あまり興味を持っていません。もちろん、悪人や無能な人では困りますが、金儲けがうまい人である必要はないのです。
一方で株主は、社長が悪人や無能な人ではもちろん困りますし、金儲けがうまい人でなくてはなりません。したがって、株式会社という法律を作った人は、株主にだけ社長選挙の投票をさせることにしたわけです。
株主は儲けを期待できるが、リスクも大きい
たとえば「塚崎パン株式会社」という会社が、100万円の資本金と100万円の借金で200万円分のパンを仕入れたとします。パンが220万円で売れた場合、銀行には100万円返すだけなので、株主の財産が120万円に増えます。会社全体としては200万円で仕入れたパンが220万円で売れただけですから、10%しか儲かっていないのですが、株主の財産は100万円から120万円と、20%も増えていますね。
それは「株主から集めた資金で買ったパンが高く売れた儲けは株主のものであり、銀行から借りた金で買ったパンが高く売れた儲けも株主のもの」だからです。銀行は、「儲かったのなら高い金利を払え」などとはいいませんから。
もっとも、株主に都合のいいことばかりではありません。200万円で仕入れたパンの一部が売れ残って傷み、180万円の現金しか手元に残らなかった場合には、株主の財産が80万円に減ってしまうからです。銀行には100万円返す必要があるため、株主の財産は20%も減ってしまうのです。
つまり、株主は大儲けが期待できる一方で、大損のリスクもあり、銀行は大儲けが期待できない一方で大損のリスクもない(例外あり。後述します)、ということになります。
銀行の心配は「株主有限責任」に伴う貸倒損失
では、株式会社が大損をして借金が返せなくなったとき、株主が銀行に借金を返す必要があるのでしょうか? 法律は「その必要はない」と定めています。「株主有限責任」という制度です。
この制度を作った人は、2つのことを考えたようです。ひとつは「株式会社が巨額の損失を被ったときに、銀行から零細株主に巨額の請求書が行くのはかわいそうだ」ということです。会社が巨額の損失を被りそうか否か、銀行のほうが零細株主よりも予想できるだろう、ということもあるでしょう。
もうひとつは「株主有限責任の制度がないと、投資家が安心して株を買えないから、株式会社を作ることがむずかしくなる」ということです。「零細株主が株式投資で儲けようと思って気楽に投資をしたら、銀行から巨額の請求書を突きつけられて破産した」などということが起きると、だれも株式投資をしなくなってしまうかもしれないからです。
筆者は元銀行員ですから、この制度が好きではありませんが、日本経済のために作られた制度ですから仕方ありません。そうした制度がある以上、銀行としても自衛策を講じる必要があるわけです。
ひとつは、貸す前に企業のことをしっかり調べて、借金が返済できない事態に陥る可能性が高そうなら貸さない、ということです。
もうひとつは、担保や保証によって万が一の場合でも貸出金が回収できるようにする、ということです。
担保というのは「我が社が借金を返せない場合は、我が社の工場を勝手に売却して返済に使ってください」といった文言を借用証書に書き込むことです。借金が返せないということは、銀行業界全体としては損をするわけですが、担保を持っている銀行はしっかり回収できて、担保のない銀行が大きく損をする、ということになるわけですね。
ちなみに、借り手企業が多くの銀行に同じ約束をしていると困るので、不動産の場合には「登記」をすることになります。役所の書類に「我が銀行がこの工場を担保に取っているよ」と書き込むことで、ほかの銀行よりも優先的に工場を売却する権利を持つことになるのです。
保証というのは「借り手企業が借金を返せない場合、我が社が代わりに返済します」という書類を他社から受け取るものです。親会社が子会社の借金の補償をする、という場合が多いようです。
今回は、以上です。なお、本稿はわかりやすさを重視しているため、細部が厳密ではない場合があります。ご了承いただければ幸いです。
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塚崎 公義 経済評論家
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