月収40万円!? 喜んで働きます!再雇用の誘いに飛びついた64歳・定年直前サラリーマン…1年後に待ち受ける「大誤算」【FPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月16日 11時15分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
老後の生活に不安を抱え、定年後も働く人が増えています。しかし、老後資金を増やすための仕事が、かえって年金を減らすことも……。定年後も働くことを決意したAさんの事例をもとに、株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが解説します。
いいんですか!?…思わぬ“好条件”に浮かれるサラリーマン
定年直前のサラリーマンAさん(64歳)。現在の年収は約600万円と、60歳で役職定年を迎えたにもかかわらず結構な額をもらっています。というのも、Aさんの会社は慢性的な人手不足で、シニア人材も重宝しているそう。そのため、会社が辞めてほしくないと評価する人材に対しては、役職定年前とほぼ変わらない給与を提示していたのでした。
そんなAさんももうすぐ65歳。さすがに引退だと思っていたところ、人事から「再雇用」の打診がめぐってきたのです。
会社の人手不足とこれまでの実績、会社への貢献等が評価され、再雇用の給与は月収約40万円、ボーナスは年間で約120万円。
この破格の条件に「月収40万円にボーナス120万円!? いいんですか……? もちろん、喜んで働きます!」と再雇用を二つ返事で快諾しました。
65歳からは年金生活に突入するため、いろいろと支出を抑えなければと考えていたAさん。「この給料と年金さえあれば、来年からはいま以上に良い生活ができるな」とワクワクしていました。
Aさん困惑…「なにかの間違いでは?」
ところが、初めての年金支給日にまさかの事態が発生します。年金の支給額が予想していた金額より約7万円も少なかったのです。
「なにかの間違いじゃないか?」困惑したAさんが年金事務所に確認したところ、「在職老齢年金制度」について説明され、愕然。とはいえ、どうしても納得のいかないAさんは、役職定年前に老後の生活費について相談したFPに話を聞くことにしました。
以前は“ありがたい制度”だったが…いまや“厄介な制度”に
在職老齢年金制度は、以前まで「働いていても年金がもらえるありがたい制度」でした。
しかし現在、高齢者の労働人口は増加しています。65歳以上でも働く人が増え、「70歳定年」に向けて進んでいる状況では、むしろ「働いていると年金が減額される厄介な制度」という位置づけになりつつあるのです。
Aさんの年金が予想よりも7万円少なかった理由
【在職老齢年金とは】
60歳以降に在職(厚生年金保険に加入)しながら受ける老齢厚生年金。賃金と年金額に応じて、年金額の一部または全部が支給停止される場合があります。
賃金と年金額の合計額が50万円(※)を超える場合、50万円を超えた金額の半分が年金額より支給停止されます(ただし、老齢基礎年金は全額支給)。
※ 令和6年度の支給停止調整額
参考:在職老齢年金|日本年金機構
つまり、給与収入があると、年金が減額されたり、受け取れなかったりするのです。
在職老齢年金の計算の対象となる給与は、1ヵ月あたりの賞与額(1年間の賞与を12で割った金額)を含み、税金等を控除する前の額で計算されます。
Aさんの場合は給与40万円(月額)、賞与120万円(年間)、老齢厚生年金14万円(月額)、老齢基礎年金6万円(月額)です。
給与と老齢厚生年金の合計が1ヵ月あたり64万円で、支給停止調整額である50万円を14万円超えてしまっています。
そのため、支給される老齢厚生年金から、14万円の2分の1の額である7万円が支給停止されます。この支給停止された年金は繰り延べられるわけではありません。
これによりAさんは、毎月7万円を損している気分になり、すっきりしない日々を過ごしているとのことでした。
Aさんがいまからできること
Aさんは、年金が減額したことで金銭的に困窮しているわけではありません。しかし、働いているからといって本来もらえるはずの年金がもらえないのは、なんだか不公平だと感じているようです。
そんなAさんに対して、筆者は次のような情報を伝えました。
①年金繰下げ受給
繰下げ受給制度は、65歳から老齢年金を受け取らずに、受給開始年齢を遅らせることにより将来の年金額を増額させる制度です。増額率は、66歳から70歳までの間で1ヵ月遅らせるごとに、0.7%ずつ増えていきます。そのため60ヵ月繰下げすると、将来の年金を42%増額することができるのです。
ただし「在職老齢年金によって年金の支給が調整されている人が、老齢厚生年金を繰下げる場合」には、65歳時点の年金額の全額ではなく、調整後の額が増額の対象となります。
このことを知らないと、いざ繰下げ受給の請求をしたときに「思っていたより増額されていない」ということがあるため注意しておきましょう。ただし、老齢基礎年金は在職老齢年金の対象外であり、支給を停止されることはありません。
そのため、Aさんについては次の②③の対策がおすすめです。
筆者がAさんに助言した2つの対策
➁基本給(月給)を抑えて賞与を増やす
賞与については算定上限が150万円と定められています。そのため、月々の給与を下げて賞与を150万円以上にすることで、総報酬月額を下げることが可能です。
たとえば給与を月23万円に下げ、残りを賞与で受け取れば、在職老齢年金によって年金額を調整されることはありません。給与の受け取り方について会社と相談してみましょう。
③フリーランス(個人事業主)として業務委託の形で仕事を受注する
厚生年金保険に加入しながら働く場合、在職老齢年金が適用されるため、年金額の一部または全部が支給停止となります。そのため、厚生年金保険に加入しない働き方にすれば年金の支給停止を回避できます。会社に業務委託で仕事ができないか交渉してみましょう。
こんなはずでは…後悔しないためにできること
日本では長寿化とインフレにより、年金だけで長い老後を過ごすことが年々難しくなっています。
そのようななか、老後の生活に対する不安から、定年を迎えても退職する人は減り、再就職する人も少なくありません。
安心して老後を過ごせるよう、年金の受給額と老後に必要なお金を確認して早めの準備を心がけましょう。Aさんのように「こんなはずでは」と後悔しないためにも、年金の仕組みをしっかり理解して、損をしないように対策することが重要です。
武田拓也 株式会社FAMORE 代表取締役
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