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長期金利は上昇傾向にあるものの、日本株式市場は「上昇する」と予想 ~マーケットの振り返りと見通し【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフリサーチストラテジスト】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月2日 16時10分

長期金利は上昇傾向にあるものの、日本株式市場は「上昇する」と予想 ~マーケットの振り返りと見通し【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフリサーチストラテジスト】

(※写真はイメージです/PIXTA)

※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。2024年7月のマーケットを振り返り、「1. 概観、2. 景気動向、3. 金融政策、4. 債券、5. 企業業績と株式、6. 為替、7. リート、8. まとめ」のそれぞれについて解説します。

1.概観

【株式】

7月の主要国の株式市場は高安まちまちとなりました。米国株式市場は、ハイテク株が調整したものの、米連邦準備制度理事会(FRB)が9月にも利下げを開始し、米景気がソフトランディング(軟着陸)に向かうとの期待が高まったことから上昇しました。欧州の株式市場は、米国株式市場の上昇を受けて、ドイツDAX指数や英FTSE指数が反発しました。一方、日本の株式市場は振れの大きい展開となり、小幅に下落しました。月上旬は海外投資家の買いが優勢となり、日経平均株価が最高値を更新するなど急上昇しましたが、その後半導体関連銘柄などに売りが出て急反落しました。中国株式市場は、中国景気の先行き懸念や人民元安に伴う中国からの資金流出への懸念から、上海総合指数、香港ハンセン指数ともに続落しました。

【債券】

米国の10年国債利回り(長期金利)は、物価指標が市場予想を下回ったことや、パウエル議長が米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で9月利下げの可能性を示唆したことから、大きく低下しました。ドイツの長期金利は、欧州中央銀行(ECB)が7月会合で政策金利を据え置いたなか、米長期金利の低下に連れて低下しました。日本の長期金利は、日銀による7月会合での利上げ観測と米長期金利の低下からもみ合いとなり、横ばいでした。

【為替】

円の対米ドルレートは、FRBによる利下げ観測と月末の日銀による追加利上げを受けて、日米金利差が縮小するとの見方から150円台に急反発しました。

【商品】

原油価格は、中国経済の減速懸念が高まり、原油需要が減少するとの見方が強まったことなどから下落しました。

2.景気動向

<現状>

●米国の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+2.8%となり、前期の同+1.4%から加速しました。個人消費や設備投資が堅調でした。

●欧州(ユーロ圏)の4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.0%と、インフレの落ち着きを背景に2四半期連続でプラス成長となりました。

●日本の1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率▲2.9%と、下振れしました。品質不正問題による自動車の生産停止の影響を受けました。

●中国の4-6月期の実質GDP成長率は前年同期比+4.7%と、前期の同+5.3%から減速しました。需要不足により内需が停滞しました。

●豪州の1-3月期の実質GDP成長率は前年同期比+1.1%と、前期から減速しました。物価高で個人消費が伸び悩み、前期比は+0.1%でした。

<見通し>

●米国は、大幅な利上げに伴う景気抑制効果に加え、コロナショック後の消費増加の一巡、公的部門の鈍化などから、景気が緩やかに減速すると想定しています。個人消費が底堅いことや企業収益が好調なことから、景気の急減速は避けられ、軟着陸(ソフトランディング)に至るとみています。

●欧州は、景気が持ち直しているものの、当面低成長が続くとみられます。ただし、インフレの鈍化による購買力の回復、労働力不足に伴う雇用増、利下げによる貯蓄率の低下、EU復興基金などの財政支援が景気を支えるため、腰折れはしないとみています。 

●日本は、インフレ圧力の継続により個人消費が力強さを欠くものの、賃金の上昇、経済対策(定額減税・給付金)、インバウンド消費の増加、底堅い米景気や堅調な企業収益を背景に持ち直し、緩やかな成長軌道を辿る見通しです。

●中国は、不動産市場の低迷や海外企業の投資減少で需要不足が続くなか、若年層の雇用悪化などから個人消費も力強さを欠くことから、景気の回復ペースが鈍化するとみられます。ただし、政府の住宅対策や拡張財政により急激な減速は避けられる見通しです。

●豪州は、中国景気の減速に加え、利上げの累積効果や、粘着質なインフレにより家計の実質可処分所得が圧迫されることから個人消費の回復が緩慢となるため、当面景気が緩やかに減速するとみられます。ただし、年後半のインフレ鈍化により、25年にかけては徐々に持ち直すとみています。

3.金融政策

<現状>

●FRBは7月末のFOMCで、政策金利(フェデラルファンド〔FF〕金利5.25~5.50%)を8会合連続で据え置きました。パウエル議長は記者会見で「9月の利下げ開始もありうる」と発言し、9月利下げの可能性を示唆しました。

●ECBは7月の理事会で、前回6月会合で引き下げた政策金利(預金ファシリティ金利3.75%など)の据え置きを決めました。ラガルド総裁は記者会見で、今後の利下げペースについては「何も決まっていない」としてガイダンスを示しませんでした。

●日銀は7月末の金融政策決定会合で、政策金利(無担保コール翌日物レート)を0〜0.1%から0.25%程度に引き上げることを決めました。また、国債買い入れ額を現在の月6兆円程度から26年1〜3月に同3兆円に減らす方針を決めました。

<見通し>

●FRBは、インフレが鈍化しつつあることや米景気減速の兆しがみられることから、24年9月に利下げを開始するとみています。その後は四半期に1回のペースで0.25%の利下げを実施し、年内の利下げ回数は2回になると想定しています。

●ECBは、インフレが落ち着いていることから、9月の理事会で追加利下げを決めると予想します。ECBは賃金、インフレのデータを確認しながら、四半期に1回のペースで0.25%の利下げを行うと想定しています。

●日銀は、景気が力強さを欠いているため当面政策金利を据え置くものの、先行きは金融政策の正常化に向けて追加利上げを実施するとみています。政策金利は、24年12月に0.50%、25年6月に0.75%への引き上げを想定しています。

4.債券

<現状>

●米国の10年国債利回り(長期金利)は、米消費者物価指数(CPI)が市場予想を下回る伸びとなったことや、パウエル議長がFOMC後の記者会見で9月利下げの可能性を示唆したことから、大きく低下しました。

●ドイツの長期金利は、ECBが7月会合で政策金利を据え置いたなか、米長期金利の低下に連れて低下しました。

●日本の長期金利は、日銀による7月会合での利上げ観測と米長期金利の低下からもみ合いとなり、前月から横ばいでした。

●米国の投資適格社債については、社債スプレッド(国債と社債の利回り差)が前月比ほぼ横ばいでした。

<見通し>

●米国の長期金利は、当面もみ合いを続けた後、緩やかに低下すると想定しています。底堅い景気やインフレの高止まりにより利下げ開始時期が後ずれする可能性はあるものの、FRBによる利下げが9月にも実施されると見込んでおり、徐々にレンジを切り下げていく展開を予想します。

●欧州の長期金利は、ECBが四半期に一度のペースで追加利下げを行うと想定していることから、緩やかに低下する展開を予想します。

●日本の長期金利は、日銀が金融政策の正常化に向けて舵を切っていることから、追加利上げが警戒され、やや上昇すると予想します。

5.企業業績と株式

<現状>

●米ファクトセット(FactSet)によれば、日米の企業業績は過去最高水準を更新しており、好調を維持しています。7月末の米S&P500種指数の予想1株当たり純利益(EPS)は前年同月比+12.2%、TOPIXの予想EPSは同+18.7%と、いずれも2桁の伸びとなりました。

●米国株式市場は、FRBが9月にも利下げを開始し、米景気がソフトランディングに向かうとの期待が高まり、上昇しました。ただし、ハイテク株は利益確定の売りなどから調整しました。NYダウは前月比+4.4%、S&P500種指数は同+1.1%の上昇となりました。

●日本株式市場は、振れの大きい展開となり、小幅に下落しました。月上旬は海外投資家の買いが優勢となり、日経平均株価が最高値を更新するなど急上昇しましたが、その後半導体関連銘柄などに売りが出て急反落しました。日経平均株価は前月比▲1.2%、TOPIXは同▲0.5%となりました。

<見通し>

●米国株式市場は、インフレの鈍化によるFRBの利下げ開始が見込まれるなか、米景気のソフトランディングを前提とした適温相場が続くとみています。FRBによる利下げが先送りされる可能性や、大統領選挙、地政学リスクの不透明感などから変動性が高まる局面が想定されるものの、米景気のソフトランディングに伴い企業業績の拡大が見込まれることから、米国株式市場は緩やかにレンジを切り上げる展開を予想しています。

●日本株式市場は、日本の名目GDP成長や製造業における景気循環の底打ちに伴う企業業績の拡大を背景に上昇すると予想します。日銀の政策変更に伴い長期金利は上昇傾向にあるものの、業績相場が続くことで下値は限られそうです。コーポレート・ガバナンス(企業統治)改革進展への期待に加え、自社株買いや新NISA(少額投資非課税制度)の資金流入など良好な株式需給も相場上昇を支えるとみています。

6.為替

<現状>

●円の対米ドルレートは、FRBによる利下げ観測の高まりに伴い米長期金利が低下したことや月末の日銀による追加利上げを受けて、日米金利差が縮小するとの見方が強まり、大きく反発しました。円は前月末の160円台後半から、150円台半ばに急上昇しました。

●円の対ユーロレートは、日銀が追加利上げを決めたことから円が買い戻され、162円台に大きく反発しました。

●円の対豪ドルレートは、円が幅広い通貨に対して買い戻されたことから、大きく反発しました。

<見通し>

●円の対米ドルレートは、米金利の低下に伴い、緩やかに上昇すると想定します。先行きのFRBの利下げ開始と日銀の追加利上げによる日米金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。ただし、日銀は連続的な利上げを急がず、円の上昇余地は限られそうです。

●円の対ユーロレートは、先行きのECBによる追加利下げと日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

●円の対豪ドルレートは、中国経済の減速懸念や日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

7.リート

<現状>

●グローバルリート市場(米ドルベース)は、FRBによる9月の利下げ観測が高まり、米長期金利が低下したことを好感して、上昇しました。S&Pグローバルリート指数のリターンは前月末比+5.9%でした。また、円ベースのリターンは、為替効果がマイナスに寄与し、同▲0.9%となりました。

●米国は、FRBによる9月の利下げ観測を受けて投資家のリスク選好姿勢が高まったことから上昇しました。欧州やアジアは、長期金利低下や米国リート上昇を好感して上昇しました。一方、日本は、日銀の追加利上げに対する警戒感や需給悪化懸念から上値が重く、ほぼ横ばいでした。

<見通し>

●グローバルリート市場は、米欧の中央銀行の利下げに伴い長期金利の低下が見込まれ、借り入れコストが改善することや、米景気のソフトランディングにより世界景気が底堅く推移し、賃料収入の安定推移が期待できることから、回復基調を辿ると予想します。

●米国はFRBによる利下げ開始や景気のソフトランディングを背景に緩やかな上昇を予想します。欧州はECBの利下げに伴う上昇を予想します。アジア・オセアニアは景気の回復基調を背景に上昇を予想します。日本はオフィス賃料の改善を背景に持ち直すと予想します。

8.まとめ

【債券】

●米国の長期金利は、当面もみ合いを続けた後、緩やかに低下すると想定しています。底堅い景気やインフレの高止まりにより利下げ開始時期が後ずれする可能性はあるものの、FRBによる利下げが9月にも実施されると見込んでおり、徐々にレンジを切り下げていく展開を予想します。

●欧州の長期金利は、ECBが四半期に一度のペースで追加利下げを行うと想定していることから、緩やかに低下する展開を予想します。

●日本の長期金利は、日銀が金融政策の正常化に向けて舵を切っていることから、追加利上げが警戒され、やや上昇すると予想します。

【株式】

●米国株式市場は、インフレの鈍化によるFRBの利下げ開始が見込まれるなか、米景気のソフトランディングを前提とした適温相場が続くとみています。FRBによる利下げが先送りされる可能性や、大統領選挙、地政学リスクの不透明感などから変動性が高まる局面が想定されるものの、米景気のソフトランディングに伴い企業業績の拡大が見込まれることから、米国株式市場は緩やかにレンジを切り上げる展開を予想しています。

●日本株式市場は、日本の名目GDP成長や製造業における景気循環の底打ちに伴う企業業績の拡大を背景に上昇すると予想します。日銀の政策変更に伴い長期金利は上昇傾向にあるものの、業績相場が続くことで下値は限られそうです。コーポレート・ガバナンス改革進展への期待に加え、自社株買いや新NISAの資金流入など良好な株式需給も相場上昇を支えるとみています。

【為替】

●円の対米ドルレートは、米金利の低下に伴い、緩やかに上昇すると想定します。先行きのFRBの利下げ開始と日銀の追加利上げによる日米金利差縮小が円の上昇要因となるとみています。ただし、日銀は連続的な利上げを急がず、円の上昇余地は限られそうです。

●円の対ユーロレートは、先行きのECBによる追加利下げと日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

●円の対豪ドルレートは、中国経済の減速懸念や日銀の追加利上げが意識され、緩やかに上昇するとみています。

【リート】

●グローバルリート市場は、米欧の中央銀行の利下げに伴い長期金利の低下が見込まれ、借り入れコストが改善することや、米景気のソフトランディングにより世界景気が底堅く推移し、賃料収入の安定推移が期待できることから、回復基調を辿ると予想します。

●米国はFRBによる利下げ開始や景気のソフトランディングを背景に緩やかな上昇を予想します。欧州はECBの利下げに伴う上昇を予想します。アジア・オセアニアは景気の回復基調を背景に上昇を予想します。日本はオフィス賃料の改善を背景に持ち直すと予想します。

(2024年8月2日)

石井 康之

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフリサーチストラテジスト

※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『長期金利は上昇傾向にあるものの、日本株式市場は「上昇する」と予想 ~マーケットの振り返りと見通し【解説:三井住友DSアセットマネジメント・チーフリサーチストラテジスト】』を参照)。

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