会話力だけでは〈越えられない壁〉がある…“初対面”の仕事相手と一気に距離を縮められる「服選び」の極意とは?【キャスターが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月9日 16時0分
職場でのコミュニケーションがうまくいかなかったり、話が相手に伝わらなかったり、「対話」に関する悩みを抱えている人も多いのではないでしょうか? フリーランスでキャスターや社外役員などを行っている木場弘子氏は、著書『次につながる対話力~「伝える」のプロがフリーランスで30年間やってきたこと~』(SDP)のなかで、「コミュニケーションの場で、声にして出す言葉だけが相手との共感を生み出すとは限らない」といいます。初対面の人への呼びかけ方や視覚に訴えかける対話について、詳しく見ていきましょう。
仕事相手を「名前」で呼ぶ効果について
挨拶と自己紹介で相手との距離を縮め、共感を生み出すきっかけを掴めたら、いよいよ具体的な対話へ――すでにいい雰囲気はできていますので、一気に話を進めて参りましょう。
と、その時に意外に戸惑うのが、相手に対する二人称の呼び方です。特に1対1や会議の席で特定の相手に対し、意見を聞いたり、逆に相手の意見に反応する時など、こちらから呼びかける場面というのはかなり多く、何と呼びかけたらいいのか悩みどころだと思います。
そんな時、たとえば英語であれば“テッパンの二人称”であるyouが使えるので、迷うことはありません。ところが、日本語でこれをストレートに真似してしまうと――
「あなたは、これをどう思いますか?」
「賛成、反対、あなたはどちらでしょう?」
「あなたに一つ、質問があります」
――「あなた」はビジネスの場では使いづらいですね。まず、目上の方には使えません。
日本では、このあたりを曖昧にぼかすのが一般的です。具体的には、相手にチラッと視線を送りつつ「どう思いますか?」と、相手を呼ばなくとも会話は何とか成立してしまう。呼びかけるにしても「部長さん」や「課長さん」といったその人の「役職」が使われるため、名前で呼ぶ場面は意外に少ないかもしれません。
これでは、折角その場に生まれ始めていた共感も、時間が経つにつれ少しずつ薄れていきかねません。
そこでお勧めしたいのが、対話の際はできるだけ「相手の名前で呼びかける」という方法です。私はその効果を野球中継での夫の話し方に学びました。
夫(与田剛氏)は、中日ドラゴンズを引退後、長くNHKで解説をさせていただきました。彼の放送を聴いていると、実況のアナウンサーの方を立てるように名前を呼ぶ機会がとても多いのです。
「先ほど、○○さんのおっしゃったように」
「○○さん、次の球をよく見ておいて下さい」
――折々にそんな風に呼ぶのを聴いて、本人に尋ねると「意識して心掛けている」とのこと。3時間の中継の間、解説者は30回は「与田さん」と呼ばれるのに対し、実況の方が自分の名前を言えるのは番組最初の自己紹介と締めの時だけ。そこを10回でも名前が出れば、(ご家族もご覧になっているでしょうし)嬉しくてテンションがアップしてノリノリで実況をされるかもしれません。
人間というのは、誰しも少なからず自己顕示欲がありますので、自分に興味を持ち、存在を認めてもらえると嬉しくなります。ですから、「人を立てる」「存在を認める」ためにも名前を呼ぶことは良いことだと感心しました。
特に初対面の際など、呼びかけ抜きで「どう思いますか?」や「課長さん、どう思われますか?」と聞くより、「○○さんは、どう思われますか?」と直接呼びかけられれば、相手はきっとこちらの言葉をひと膝乗り出す気持ちで聞き、積極的に答えてくれるでしょう。
私も日頃から、意識的に名前での呼びかけをするようにしています。
マナーやハラスメント予防の面からは、いきなり下の名前で呼んだり、「ちゃん」付けにしたり、年下だからと呼び捨てにするなど、馴れ馴れしい声がけは当然ながらタブーです。
ですが、思い切って敬意を込めて名前を呼ぶことで、相手との距離をいっそう近づけることは確実にできます。どうか、トライしてみて下さい。
着ている服も立派な「意思表示」
コミュニケーションの場において、声にして出す言葉だけが相手との共感を生み出すとは限りません。
視覚にも心に届くメッセージがあり、その点をうまく活用することも、実りある対話には重要なことです。
「視覚に訴える」というと、いわゆる「人は見かけが9割」的な身だしなみ、服装や髪型に注意して不快感を与えない――そんな広い意味でのTPOのこと、あるいはマナーのことだと思うかもしれませんが、ここで取り上げるのはそうしたことの先に自分からのメッセージを発していこう、という提案です。
たとえば、視覚に訴えるメッセージの中で、最も影響の強いのは色彩だと言われています。これについては、色彩心理学という分野もあるほどで、たとえば赤は情熱的、青は冷静沈着、黄は天真爛漫など、特定の色が心に与える影響については、皆さんも聞いたことがあるかもしれません。
スポーツのチームなどには、必ずと言っていいほどそれぞれのシンボルカラーがあり、マークやロゴ、ユニフォームなどに使用されています。認知度の高いシンボルカラーであれば、その色を見ただけでファンはそのチームをイメージします。
であれば、ビジネスで取引先の方と会う場合にも、その点に気を配ることは効果的ですね。以前、ある企業のトップと対談した時のことです。
私はこういった際には、いつもコーポレートカラーを調べて自分のファッションの中に取り入れるようにしています。この企業のコーポレートカラーは赤でした。また、靴も2足用意していきます。1足は少しヒールがあるもの、もう1足はフラットなもの。それは、お相手の方の身長の情報が事前になかなかわからないからです。会社としては、折角、高額な料金を支払って紙面を買い、トップをお出しするのに、ツーショットの写真などで私のほうが大きく堂々と写っていては申し訳ありません。ですので、現場でお相手の身長を確認して、どちらかを選ぶようにしています。
この日も靴2足と、その企業のコーポレートカラーの赤い珊瑚のネックレスを持っていきました。果たして、先方のトップは赤のネクタイを取り出して「これをつけるように言われちゃってね」と、それまでしていたネクタイを外して赤をお締めになりました。それを見た私は、着けてきたパールのネックレスを外して「私も用意してきたので」と、すかさず赤い珊瑚のネックレスにつけ替えました。
「ほう、わざわざそんなご配慮をいただけるとは!」と先方は驚いたご様子。
「折角ですので、御社のシンボルカラーをつけようと」
そんなやり取りがあったお陰で、一気に打ち解けて話も弾み、楽しいインタビューになったのを思い出します。
一方、もし、こうした点に無頓着だったら、どうなっていたか? 初対面であそこまで距離を縮められたかどうか、振り返ってみて自信がありません。視覚に訴える言葉=メッセージというのは、それほど大きな効果を発揮するものなのです。また、ある時、某携帯電話会社のお仕事をさせていただいた際は、代理店さんから「競合企業のシンボルカラーは絶対に避けて下さい」と事前のご指示を受けたこともあります。
言い換えれば、企業間の競争はそれほど熾烈で、そこにも気を遣わなければならないシビアな世界だということです。
一説には、人は外界からの情報のおよそ80%を視覚から得ているとか。対話というコミュニケーションの場面でも、その点を十分に意識し味方につけるべきでしょう。ネクタイやジャケット、小物の色ひとつにまで気を配ることで、功を奏することも。そういったことが相手との距離を近付ける可能性も大きいということも頭に置いてみて下さい。
木場弘子
フリーキャスター
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