“理想の自分”を体現しようとするのが失敗のもと…人前で緊張せずにスピーチができるようになるための〈簡単で有効な方法〉
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月4日 10時15分
会議やスピーチ、転職活動における面接などで緊張してしまうことを悩みに感じている人も多いのではないでしょうか? フリーランスでキャスターや社外役員などを行っている木場弘子氏の著書『次につながる対話力~「伝える」のプロがフリーランスで30年間やってきたこと~』(SDP)のなかで、木場氏は、その問題を解決する「ある真理」に気づいたことで、人前で話す仕事を続けられてきたといいます。今回は、緊張から解き放たれるために有効な方法について、詳しく解説します。
「緊張」から解き放たれるためのシンプルな“真理”
「多人数の会議やプレゼンの場で、いざ話そうとすると緊張で頭の中が真っ白になってしまうんです」
「初めての相手を前に、アガらずに話すには、どうしたらいいんでしょう?」
講演に参加してくださった方々から、こうした内容のご感想やご質問をいただくことがあります。
いえいえ、私だって今でこそ落ち着いて話しているように見えますが、TBSの新人時代はできないことだらけで自己嫌悪の毎日でした。基本的な発音や息継ぎのタイミング、それどころか自然な笑顔や笑い声を出すのさえ、どれだけ試行錯誤を重ねたかわからないほどです。
そんな私が、今もフリーランスとして仕事を続けていられるのは、それらの経験を通じて気づいた、あるシンプルな“真理”のお陰なのかもしれません。
その“真理”とは――「人間、自分を良く見せようとするから緊張する」という、ごく当たり前のこと。自分以上に見せようとして、自分で自分の首を絞めてしまっているのですね。
最近は、皆さんも人前で話す機会がかなり増えたのではないでしょうか。仕事上の会議やプレゼン、プライベートでは冠婚葬祭の挨拶やスピーチなど。また、就職や転職などでは居並ぶ面接官の前で話さなければならないこともあるでしょう。そうした多人数の前で話をする場面では、ほとんどの方が心臓がドキドキと波打ち、手のひらに汗、表情は強張ってしまうことでしょう。
頭の中に湧いてくるのは「失敗したらどうしよう」「笑われたりしないかな」などのネガティブな言葉ばかり。いざ本番が終わっても、とにかく終えた安堵とは裏腹に「ああ言えば良かった」「話そうと思ったことの半分も伝えられてない」など、自分で自分が嫌になることもあるでしょう。
これは全て、自分を実際より大きく見せようとすることが原因です。
自分を実際より大きく見せようとするから緊張する
人間は、何かをしようとする時、それがパーフェクトに成功する様子、格好良く決まった姿を「理想」として抱きます。多くの人を前に、リラックスしてスラスラと話している自分、その場の全員が自分を見て、一言一句に耳を傾け、感心して頷き、心から拍手する――そうした理想を抱くことは、それ自体、目標として意識する分には大きな励みにもなるでしょう。
しかし、理想というのは簡単に実現しないからこそ、目標となるもの。
そこへ到達するために、まずは多くを学び、経験を積み、理想の実現を見据えて、歩を進めていかなければなりません。それを忘れて、一足飛びに理想を実現しようとする時、私たちは現実とのギャップに否応なく直面し、心配や不安、自己嫌悪に駆られるのだと思います。
自分を自分以上に見せようとするから緊張する、というのはそういうことです。
人間は、自分以上には決してなれない。でも、自分以下になる必要も無い。にもかかわらず、自分で自分を金縛り状態にすることによって、自分以下になり、実力さえ出しきれないために、後悔が残ってしまうのではないでしょうか。
その、当たり前の点に気づき、受け入れることができれば、気持ちは一気に楽になります。であれば、無理に自分以上になろうとせず、まずは今の自分を出し切ることを第一に目指してみてはどうでしょう。話す仕事を始めて40年近くの私でも、「ああすれば良かった、こうすれば良かった」と後悔することが多くあり、100点満点は永遠に無いな、と思っています。ただ、そこに向かってどれだけ自分の今の力を出し切れるかが大事だと考えています。
皆さんの場合は、人前で話すことを仕事にしているわけではありませんから、いざ話し始めて、立て続けに噛んだり、つまずいたり、言葉が浮かばずに言い淀んだりしても、恥ずかしいことはひとつもありません。「すみません、もう一回最初からやります」でもいいですし、「言い間違えましたので、訂正してよろしいですか」でも大丈夫。上手くやろうと緊張したあげく、ちょっとしたミスで頭が真っ白になるより、訥々とでも過不足なく伝えることが大事です。
私も本番前はとても緊張します。でも、悩むのは本番前までにして、始まった瞬間から「なるようにしかならない」と割り切るようにしています。いざ、本番、相手に伝えたいことが伝わって、リアクションがあったと感じると、嬉しさがこみ上げて、どんどん乗っていく自分がいるのです。
ただし、今の自分をありのままというのは、成長しなくていいという意味ではありません。無理をしないことと、努力を放棄することは全く違います。
「進まざる者は必ず退き、退かざる者は必ず進む」とは、かの福沢諭吉の名言ですが、油断をすると明日の自分はすぐに今日の自分以下になってしまうもの。一歩、一歩でいいので前へ進んでいきましょう。
スマホを相手に、等身大の自分をチェック
初めての人を相手に緊張すること無く話すためには、まず今の自分を100%出すことを目指す――そうお話ししましたが、では肝心の「今の自分」は? と考えると、これが案外あやふやなことに驚くのではないでしょうか。
自分自身を頭に思い浮かべる時、私たちは「こうありたい」という願望に引っ張られがちです。そのため、自らのイメージは多少なりとも美化され、等身大の今の自分を客観的に把握するというのは、意外に簡単ではありません。
私もアナウンサーを目指して就活をしていた頃、各社の現役のアナウンサーさんが講師になってのセミナーに参加する機会がありました。授業の一環で、録画された自分の顔を見て衝撃を受けたことを思い出します。普段、鏡などで知り尽くしているはずの顔なのに、「私って、こんなに目が小さいの?」「エラが張ってるの?」など、テレビのカメラを通じて映し出された自分の顔に衝撃を受けました。つくづく人は自分が好きではない箇所を外して、見たい箇所しか見ていないということに気づかされ、以後はメイクの際にもしっかり気を遣うようになりました。
自分で自分に気づかないと言えば、話し方に直接関わる声そのものもその典型かもしれません。聞き慣れた自分の声というのは、頭蓋骨の中をじかに響いてくるために、空気中を伝わって相手が知覚する声とは随分違うものです。実際、録音や録画をした自分の声に、違和感を覚えた経験はどなたにもあるでしょう。
そこで、等身大の自分の話し方を把握するためにも、お勧めなのがスマホを使った“自撮り”トレーニングです。かつては、自分の声を録音して聴くにもテープレコーダーなどを用意しなければならず、簡単ではありませんでしたが、今やスマホでいつでも手軽に動画が撮れる時代。自分が話しているところを撮って、確認してみれば、自分の声質や高低などのトーン、話すスピード、音量を知ることができるでしょう。
その場合、録画された自分をチェックする時は、あくまで聴く側に徹することが大切で、「声が低い、早口で聞き取りにくい、もっと大きな声で」などと客観的に評価するようにして下さい。できれば、ちょっとした言葉の断片でなく、近々発表するプレゼンの内容や、面接の際の自己紹介などのまとまった内容を撮ってみると、声質などの他に、話す時の表情、話自体の順序やメリハリなどもチェックできるはずです。
その上で、今度はそれらの気になった点を意識して、もう一度、同じように録画してみる。それを何度も繰り返すことで、等身大の自分を把握しながら、少しずつ話し方のチューニングをできます。スマホばかりでなく、時には家族や同僚などに、面と向かって聴いてもらうと、冷静な耳での有益なアドバイスをもらえるでしょう。
この方法を用いてチェックすると、気になる口癖があることにも気づくはずです。一番多いのは、何かを話し出す前に「えー」や「あのー」と長く引っ張る癖です。これを言わないと調子が出ないわけです。たまにならいいですが、毎回必ずだととても気になります。練習によって無くしましょう。それから、人からの指摘に「でも」「いや」を連発すると、後ろ向きな印象を持たれかねないので気をつけたいですね。
最近多いのは、物事をはっきり言い切るのを避けるためか「~な感じ」や「~みたいな」と曖昧にぼかす人。それから、どこまでいってもマルを打たず、延々と「~ですけれども」「ですけれども」で文章が終わらない人。ビジネスでの改まった対話や何かを決める場面では短い文にして、明確に言い切るほうが断然いいでしょう。「~な感じ」には話の間口を広げ、周囲の共感を得ようとする配慮があるのかもしれませんが、こうした場面では自分の意思を明確にするほうが議論も深まり、印象に残るものです。
ただ、曖昧とは違う意味で“婉曲”な表現というのもあって、ミスを指摘する時や否定的なことを話す場合は、「~なのは残念です」や「~なのは勿体無いと思います」といった表現のほうが、相手も受け入れやすくなります。
何事も現状把握があった上で、課題が見つかるもの。スマホを使って話し方をチェックし、課題を見つけることから始めてみましょう。客観的に自分の「今」を確認するいい機会だと思って、ぜひトライしてみて下さい。
木場弘子
フリーキャスター
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