Facebookの利用率は全人口の81%、草原での乗馬アクティビティもキャッシュレス決済が主流…「デジタル化」が進むモンゴルで今起こっている〈深刻な問題〉
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月17日 11時15分
(※画像はイメージです/PIXTA)
昨年大ヒットした民放ドラマ「VIVANT」の舞台にもなったモンゴル。「牧草地」や「ゲル」のイメージがありつつも、実はデジタル化が進んでいるモンゴルでは現在、ある問題が深刻化しているといいます。『モンゴルがいま熱い! モンゴル不動産投資をおススメするこれだけの理由』(WAC)の著者である安藤義人氏が詳しく解説します。
モンゴルの「観光立国への可能性」
モンゴルの第3の産業として注目されているのが「観光業」です。
実はモンゴルでは、社会主義時代は観光客の受け入れを制限していました。しかし、民主化されて以降、多くの観光客が訪れるようになり、政府は観光業を基幹産業のひとつに育てるため、効果的なマーケティングを行いながら、他の国・地域から観光客を呼び込む施策を行ってきました。
その結果、2023年の観光客数は65万人超え。これは、新型コロナウイルス感染症が拡大する前の2019年の観光客数57万7,300人を超えて過去最高の数字を更新したことになります。
さらに現在、モンゴル政府は、長期的に観光客数を200万人に増やす目標を掲げています。
主要国の航空会社も直行便や増便を予定しており、たとえばユナイテッド航空は、2024年から、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港からウランバートルの「チンギス・ハーン国際空港」への直行便を運航する予定です。また、JALは2023年7月に運行を開始した成田からの直行便に加えて、2024年からは大阪国際空港からも直行便の運航を検討しているとしています。
このように主要国が直行便や増便を増やそうとしているのは、観光だけでなくビジネス目的の意味合いも強いと思いますが、海外からの旅行客が来ればお金が動き、雇用も創出することができます。モンゴル経済への恩恵は小さくないと考えています。
さて、コロナ禍前の2019年の観光客の内訳も見ておきましょう。
最も多かった中国人が全体の29%、次いでロシアの25%、韓国の17%と続き、観光業でも中国とロシアに依存していました。しかし、米国をはじめ日本などからの直行便が増えれば、この構図を変えることもできるでしょう。
ちなみに、2019年の日本からの観光客は2万4,419人と少なめですが、ドラマ効果もあって今後モンゴルへの観光客は増えるのではないでしょうか。
ここで少しだけ、モンゴルの観光スポットも紹介します。
牧草地やゲルのイメージが強いモンゴルですが、有名な観光地が数多く存在しています。
まず、首都ウランバートルの中心にある「チンギス・ハーン広場」(通称スフバートル広場)には、モンゴルの国会議事堂の役割を果たす政府宮殿や中央郵便局、労働組合などが並び、世界最大の帝国「元」の始祖であるチンギス・ハーンの像が置かれているなど、モンゴルを象徴するスポットからショッピングまで、さまざまな観光を楽しむことができます。
私のお勧めスポットは「テレルジ国立公園」です。この国立公園は、ウランバートルの中心地から北東に70キロメートルほどの場所にあります。
高山地帯で、山々に囲まれた自然豊かな場所で、さまざまな高山植物を見ることができる上、観光客向けのツーリストキャンプも用意されていることから、ゲルなどを使うモンゴルの伝統的な生活を体験することもできます。ただし、こういった観光地のゲルはホテル並みの環境が整えられていて、冷暖房も完備。日本でここ数年、話題になっているグランピングのような施設となっています。機会があればぜひ足を運んでみてください。
日本は、モンゴルの最大の支援国だ
日本は長きにわたってモンゴル経済を支援してきました。1977年に日本政府によるモンゴルに対するODA(政府開発援助)が締結されて以降、発電所や通信設備、食肉・乳製品加工施設、60校近い学校や病院を建設するなど、モンゴル国民の生活に必要なインフラ整備を行ってきました。
モンゴルの基幹産業であるカシミアもそのひとつです。日本が生産工場の設計から製造のノウハウなどすべてを無償提供し、世界水準のカシミア製品を生産できるようになりました。このODAで立ち上げたカシミアメーカー「GOBI(ゴビ)」は、現在は民営化され、日本にも羽田空港第1旅客ターミナル内に店舗があるほか、ECでもその製品を購入することができます。
さらに、国内外からの玄関口として、経済発展への重要な役割を果たしている「チンギス・ハーン国際空港」も、日本の総力を挙げてつくられた施設のひとつです。
円借款の供与を通じて、建設工事からターミナル施設のテナント運営、顧客サービスなど、空港運営に必要な幅広い分野において支援したほか、運営についても、モンゴルの空港事業としては初めて民間企業に委託され、三菱商事や成田国際空港、羽田空港のターミナルビル運営を担う日本空港ビルデング、日本航空関連会社であるJALUXによる日本企業連合(出資比率51%)と、モンゴル国営企業が出資参画する企業(出資比率49%)が運営しています。まさに“オールジャパン”で臨むということです。
旧空港ではできなかった大型旅客機や貨物機の離着陸も可能な構造となっており、経済成長とあわせて旅客数や貨物量、航空便が増加したとしても対応することができるそうです。
その他、首都ウランバートルへの急速な人口一極集中に伴う大気汚染や交通渋滞などの都市問題を解消する技術指導なども行っており、2022年3月末時点の無償資金協力は1,254億円、円借款1,829億円、技術協力584億円と、総額で3,670億円近い支援です。
最後にもうひとつ。
日本がODAでモンゴルに架けた橋の名は「太陽橋」と名付けられています。
この橋は、モンゴル最大の鋼鉄製の橋梁であり、鉄道で分断されていた南北の市民の生活をつなぐ重要な橋です。実は、この橋の名はモンゴル語で日本を指す「太陽(nar)」。日本への感謝の想いが込められているように感じられます。
草原にいてもスマホを片手に
モンゴルは、日本の4倍(156万4,100平方キロメートル)ほどの国土に、日本の人口の約36分の1にあたる約345万人(2022年・モンゴル国家統計局)が住む、世界で一番「人口密度の低い国」です。
大草原の中にたったひとつのゲルしかなく、あたりを見わたしても、そこにいるのは自分と遊牧民のご家族、家畜だけ、なんてことは当たり前にある光景です。
しかし、近年ではその状況が変わってきました。
民主化・市場経済化の流れや、数年に一度起こる深刻な雪害などにより、地方から首都ウランバートルに人々が流入し、都市人口が急速に増加しているのです。
そもそもモンゴルでは、1992年に「人々は自由に居住地を選択できる」と土地私有化法で定められ、人口移動が自由化されています。また、2003年に施行された土地所有法で一世帯あたり最大700平方メートルの土地が配分されることになりました。さらに、2008年には土地所有法が改正され、すべてのモンゴル国民の個人に対して、最大700平方メートルの土地が追加配分されることになりました。
そのため、1998年に65万人だったウランバートルの人口は、2022年には約169万人(モンゴル国家統計局)へと増え、いまや国全体の人口の約半数が住むようになりました。
ウランバートルには「ゲル地区」があります。
これは、山の斜面などに、ゲルが無秩序に並ぶ場所です。毎年数万人ずつ移住してくる人たちの多くは、その「ゲル地区」にゲルを建てて生活するため、ウランバートルの人口の約6割がこの地区に住んでいるとされています。
しかし、都市型の暮らし方とゲルでの生活の仕方が大きく違うことで、さまざまな問題が生じました。
まず、「ゲル地区」には電気が供給されているものの、道路はもちろん上下水道などのインフラはほとんど整備されていません。水は給水所から購入するのだとか。また、汚水も処理されないままに排水されるため、土壌や水質汚染は大きな問題です。
さらにマイナス30度まで気温が下がるモンゴルの冬には暖房器具の使用が不可欠ですが、ゲル地区では暖房の多くを石炭ストーブに頼っていることから、周囲には煙が立ち上り、ひどいときには視界もさえぎられるほどです。この排煙による大気汚染も年々深刻化しています。
余談ですが、モンゴルでは近年、スマートフォンの普及が進んでいます。
その普及率は100%を超えているという分析もあるほどです。ゲル地区では電気が供給されている一方、電線のない草原では電力が供給されないことから、ゲルに設置する「独立小型太陽光発電システム」が普及しているそうです。豊富な日射量を活用して自家発電し、草原にいてもテレビを見たり、スマホを利用したりしています。
モンゴルではフェイスブックを利用する人も多く、全人口の81%が利用していると言います。これは、フェイスブックが誕生した米国(69%)、日本(70%)よりも高い水準です。
ゲルでの暮らしぶりはアナログそのものに見えるかもしれませんが、実は、デジタル化が進んでおり、ウランバートルにある小売店や飲食店ではQRコード決済が当然のように使えますし、草原で乗馬やラクダに乗るというアクティビティですら料金はピピっとQR決済。キャッシュはほぼ使いません。
ちなみに、一般的なゲルの大きさは直径5メートル前後で、床板を除くと、その重量は300キロほどですが、遊牧民なら1時間から2時間あれば組み立てられるとのことです。
安藤 義人
ココザス株式会社代表取締役CEO
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