搾取ビジネスのエビデンスにも罠がある!民泊騒動に見る「あおりの構造」を紐解く
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月12日 11時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
誰だって搾取ビジネスに騙されたくはないですよね。行政書士の服部真和氏は著書『できる社長のお金の守り方 オイシイ話はなぜ稼げないのか』で搾取ビジネスの具体例を取り上げています。一体どんなものがあるのか、本書から紹介します。
たしかに「嘘」はついていないが……
この記事では、搾取ビジネスにハマってしまう理由を明かしていきましょう。この理由を解明できれば、最初からハマりませんし、もしハマりかけても途中で抜け出すことができます。
持ち家や別荘を他者に貸し出して収益を上げる「民泊ビジネス」について取り上げましょう。民泊ビジネスで一儲けしようとあおる側にとっては、報酬やセミナー料を貰えば「利益が確定」して終わりです。
つまり、あおりを信じて物件を買った人が、儲かろうが損しようが関係ありません。ここで考えたいのは「なぜ、その人は民泊ビジネスに期待し、大金を投資してしまったのか?」ということです。新型コロナウイルス感染拡大前後で少し事情が異なりますが、当時よく用いられたあおり文句を列挙します。
・訪日外国人数が50%近く増加しており、今後も右肩上がり
・宿泊施設が足りず、宿泊ビジネスに機会損失が生じている
・全国に空き家が820万戸もあり、活用が叫ばれている
・賃貸は1か月10万円前後の収入だが、民泊は1日2~3万円以上で収益率が高い
・早くよい立地の物件を購入しないと、有利な物件はどんどん売れていく
このように、エビデンスにもとづいた希望ある未来を示されると、大金を投資したくなります。現場をよく知る者からすると、こんなあおり文句はツッコミどころ満載です。しかし、当時はこの手のセミナーや勉強会、チラシ、DM、Webサイトが、実際にあふれかえっていました。あおり文句を真に受けて物件を購入し、民泊を始める人もたくさんいました。
誤解のないように書きますと、この箇条書きの内容はすべて「事実」です。決して嘘ではありません。しかし「事実」を並べたからといって、必ずしも最適解を導けるわけではないのです。セミナーにせよ、チラシやWebサイトにせよ「売ったタイミングで利益が確定する」ビジネス。そんなものは売りたい商材に有利な事実だけを選び、真実を歪めてセールスします。
「チェリーピッキング」に惑わされてしまう現実
こういう「都合のいい事実」だけを並べて、自らの論拠の正当性を主張する方法を「チェリーピッキング」と言います。これは数多くのチェリーの中から、食べたいものだけを取る(ピッキングする)イメージから名づけられた用語です。
たとえば「酒飲みは甘いものが嫌いだ。酒好きのAさんも、Bさんも、Cさんも、Dさんも、Eさんもみんな甘いものが嫌い。だから、あなたの知り合いの酒好きFさんも、甘いものは嫌いだ」と言われたとします。しかし、A~Eさんはチェリーピッキングだとどうでしょう? Fさんが必ずしも甘いものが嫌いとは言えません。
こんな簡単な例と異なり、ビジネスの現場では事情はさらに複雑です。主張したい事柄に対して、存在する「事実」というのは山ほどあります。仮に、民泊ビジネスに関する「確かな事実」が100個あったとしましょう。人を陥れようと、都合のいい事実を5つだけ取り上げて組み合わせることも可能です。すると(一応は)「確かな事実」にもとづくセールスができてしまいます。
しかし、実際には、100分の5にすぎない事実です。京都市内であおられて、民泊ビジネスに参入した事業者は、たくさん撤退や破産しています。民泊ビジネスを例に出すと、よく「いや、それは誰も予想できなかった新型コロナウイルス感染拡大のせいでしょ」と言う人がいます。
しかし、それも数多くある事実のうちの一つにすぎません。実際、業界では随分と早くから、京都市内での民泊ビジネスが過剰供給により破綻すると言われていました。あおっている内容一つ一つに論理矛盾があるからです。
穴だらけの理論だった「あおり文句」
訪日外国人が、前年度比50%増加して右肩上がりだったのは事実です。ですが、数年先まで(投資金額を回収し終えるまで)増加し続ける保証はありません。まず、訪日のための航空・空港の許容量が考慮されていませんし、各地の観光地の許容量も考慮されていません。そもそも、当時の宿泊施設統計には、夜行バスやネットカフェ、キャンプなどの人数が宿泊施設としてカウントされていないのです。
さらに、大きなホテルなどは、有事に備えて宿泊許容量を100%で設定していません。また、当時から大型ホテルの建設が(当時の東京五輪に向け)建設中でした。なにより、すでにあふれかえった観光客対策として、京都市内では宿泊施設(民泊)に対する法規制強化が決定していました。つまり、あおり文句である収益率の根拠(売上−費用)は、絵にかいた餅だったのです。
また、民泊に参入する者が増えるほど、需要に対して供給過多になります。すると参入者(宿泊させようとするホスト)は、一泊あたりの宿泊料を大幅に下げざるをえません(価格競争)。実際、2016年時点で一泊2万~3万円だった京都市内の宿泊料金は、2019年には1万円程度まで下がりました。
そもそも民泊ビジネスは、文化の異なる外国人を「宿泊施設ではない普通の住居」に宿泊させるビジネスです。想像以上に高度な「おもてなし」が必要なのです。民泊ブームの火付け役となった「Airbnb(エアビーアンドビー)」は「誠実な人間関係」や「多様な絆」を大切にしています。
つまり民泊は、宿泊客とホストのつながりを大切にするという、かなり上質な宿泊ビジネスが前提なのです。安易な気持ちで取り組む投機対象ではありません。民泊の基礎となる「空き家の多さ」についても同様です。単に人が住まなくなった家があるから、それを「お手軽に収益施設に転用して終わり」という話ではありません。
空き家の周辺には、長いあいだ生活をしている住民がいて、空き家の「マイナス」「プラス」いずれの部分も踏まえて向き合っています。生半可な知識と気持ちで参入できる領域ではないのです。不動産業や工務店、建築士、宿泊管理業者、弁護士、行政書士など、様々なプロでさえ手を焼くのが、民泊ビジネスという分野の実態です。
民泊がダメならグランピング! それでいいのか?
民泊ビジネスがコロナ禍で急速に下火になったころに、今度はグランピングビジネスが流行りました。経緯としてはこういう流れです。まず、コロナ禍で人混みを避けた外出をする人が増え、リモートワーク(テレワーク)を自宅ですることで、どこでも仕事ができるようになりました。
やがて「ワーケーション」と称して、リゾート地などでリモートワークをする人も出てきます。さらに、アニメ「ゆるキャン△」などをきっかけに火がつき始めていたキャンプブームもあり、グランピングに注目が集まりました。
状況の変化による新たなブームの発生自体はよいのですが、問題はこのような流れに搾取を目的とした輩が集まることです。「状況の変化」があるとオイシイ話に惑わされやすいです。状況の変化時に「お金の不安」が伴うと、なお危険です。
当時も、見事に「民泊ビジネスで負債を抱えた人たち」が、グランピングビジネスで二次被害にあっています。コロナ禍に出た事業再構築補助金という制度などを利用させて、グランピングビジネスをあおるビジネスが大量に出現したのです。
民泊にしろ、グランピングにしろ、本当にそのビジネスが儲かるなら、その人がこっそり手広くこなせばいいだけです。わざわざ他者をあおる必要はありませんよね? いちいちあおってくる時点で、そのビジネスは怪しいと疑っていいでしょう。
そもそも、ブームだったのは「ゆるキャン△(△はテントです)」や「ワーケーション」ですが、グランピングは、わりと大がかりなドームでアウトドアを楽しむものです。つまり「ゆるキャン△層」や「ワーケーション層」とは、規模感が合わないのです。本来のターゲットは、家族連れやコロナ禍で旅行に行けないグループなどになります。
極めつけは、グランピングには法規制的な課題もありました。テントを使うサービスは、あくまで利用者が機材を持参するか、機材をレンタルすることになるので、旅館業の許可が不要です。しかし、グランピングは、これらの持参やレンタルは不可能です。設備として、ドームを設置する必要があります。
建築基準法という建物の規制法では、ドームを置くだけでは「建物」として扱われず、旅館業の許可は取れません。許可を取るには、地面に基礎工事をして固着させる大がかりな工事が必要となります。
商材を売った時点、あるいは報酬を得た時点で利益が確定する輩が、そんな後のことまでフォローを考えているわけがありません。結果、どうなったかというと、違法状態でグランピングを開始した人たちが増加します。当然、あちこちで行政機関による強制撤去が相次ぎました。残念なことにコロナ禍は、こんな二次被害にあう人がとても多かったのです。
服部真和
行政書士
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