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〈日銀利上げ〉変動金利を選んだ年収650万円の42歳会社員、マイホームを失う日までのカウントダウン…「実質賃金マイナスで打撃を受けているなか、詰みました」【FPが解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月8日 10時45分

〈日銀利上げ〉変動金利を選んだ年収650万円の42歳会社員、マイホームを失う日までのカウントダウン…「実質賃金マイナスで打撃を受けているなか、詰みました」【FPが解説】

(※画像はイメージです/PIXTA)

2024年3月、日銀の異次元緩和が終了し17年ぶりに利上げが実施されました。そして7月の追加利上げ。そうなると、多くの人が気になるのが住宅ローン金利への影響です。なかでも、住宅ローン利用者の7割の人が利用する「変動金利」へは、どのような影響をおよぼすのでしょうか? 本記事ではSさん夫婦の事例とともに、日銀の利上げによる住宅ローンへの影響について長岡FP事務所代表の長岡理知氏が解説します。

アメリカの景気悪化懸念が円高と株安に…最もインパクトのあるタイミングでの「利上げ」

日本銀行は2024年7月31日の金融政策決定会合で、追加利上げを決めました。無担保コール翌日物の誘導目標は0.15%上がり、0.25%に。同時に円高への進行、米国景気が後退する懸念も受けて、8月5日の日経平均株価が4,451円安という大暴落といえるような、下げ幅を記録したのはご存じのことと思います。この下げ幅は史上最大です。

しかし大暴落といっても別に想定外の災害ではありません。投資をしている以上、定期的かつ高確率で起こりうるリスクのひとつです。数十年間というスパンで見ると何度も価格変動が起こるというのは投資知識の基礎中の基礎のはず。

ところがSNSでは「新NISAは政府の陰謀だった」などという陰謀論まで飛び交う阿鼻叫喚の様相。ここ数年は日本人にも投資が身近になったように見えたようで、実のところ金融リテラシーが低いまま、高利回りが永遠に続くと勘違いしていた人達が相当数いるのではないかと想像できます。

日銀総裁は「ある程度見通しどおりであることが判断できれば、そこで次の判断をしていく」と発言していることから、今後も追加利上げがあるものと判断できるでしょう。最終着地地点は1%であると考えている専門家が多いようです。投資環境はさらに先行き不透明に、難易度が高くなっているといえます。

先行きが不透明になっているのは投資環境だけではありません。無担保コール翌日物と関係性が深い住宅ローンの「変動金利」も同じです。

変動金利は本当に上昇するのか?

住宅ローンの変動金利は、各金融機関が定める「短期プライムレート」や「全銀協TIBOR」などをもとに決められています。短期プライムレートは無担保コール翌日物を参考にして決定されます。そのため、日本銀行の利上げには影響を受けるものの、すぐに変動金利の上昇に繋がる仕組みではありません。

実務としては各金融機関の経営上の都合によって、いつ変動金利を上げるかという判断がなされます。住宅ローンには「基準金利」と「適用金利」の2種類があります。基準金利から優遇幅を差し引いて適用金利が決定されます。住宅ローンを借りた消費者は、適用金利で計算された利息を支払っていくことになります。

たとえばauじぶん銀行の場合、基準金利は2.341%ですが、変動金利の新規借り入れの優遇幅はマイナス2.012%、適用金利は0.329%となります。2%もの乖離があるのです。

金融機関としては基準金利を上げざるをえない一方で、競争力を維持するために適用金利をなるべく低く抑えたいという思惑があります。既存客に対しても突然適用金利を上げてしまうと、顧客離れが起きてしまいます。また、今後の追加利上げによっては自己破産に至る顧客も少なくないはずです。

しばらくのあいだ、住宅ローン市場は金融機関同士の消耗戦が続いていくと思われます。しかしもともと住宅ローンは利ザヤが少ない商品であり、適用金利を0.733%まで引き上げた楽天銀行のように消耗戦からイチ抜けして健全化に舵をとった企業も出始めました。

金利競争の消耗戦も長くは続かず、遠くない将来に適用金利が上昇し、確実に家計に対する負担が重くなっていくと覚悟しておく必要があります。

「変動金利は今後も変動しない、低金利のままだ」と信じていた人が多いのではないでしょうか。しかし消費者としては、毎月の返済額が大幅に上昇し家計のバランスが変わってしまう局面に入って来たのは間違いありません。

変動金利を利用している人の割合

住宅金融支援機構「住宅ローン利用者の実態調査【住宅ローン利用者調査(2023年4月調査)】」によると、変動金利を利用している人の割合は72.3%。低金利時代が続いたこともあり、圧倒的多数が変動金利を選択しています。

全期間固定金利と比べて変動金利は圧倒的に安いため、住宅営業マンは変動金利の利用を前提として商談していたはずです。毎月の返済額を低く見せることもできたためです。ハウスメーカーではFPを紹介されることがめずらしくありませんが、FPでさえ変動金利の選択を前提としてライフプランを計算していたケースが多いでしょう。

しかし残念ながら「変動金利が上昇したらどうなるのか」というリスクを真剣にシミュレーションしたFPや住宅営業マンは多くありません。それほど変動金利が変動しない時期が長かったということです。

本来、変動金利には教科書的なリスク管理方法が存在します。変動金利型の住宅ローンはいかに早く元金を減らしていくかが勝負です。35年返済であれば、最初の約10年で全期間の利息の半分を払う計算になります。変動金利の低金利で返済をスタートし、元金の返済を早く進めていきます。そしていつか金利が上昇し家計にとって危険水域に達する前に、数百万円単位の一部繰上げ返済を行います。繰上げ返済として入れたお金は元金の返済に充てられるため、金利が上昇したとしても返済額を抑え利息を節約することが可能になります。

そのため、変動金利型の住宅ローンを借りる場合には、「現金での貯金が確実に作れる家計であること」が絶対条件なのです。

本格的なFP相談を行っているハウスメーカーであれば購入時に必ず教えてくれたはずの、リスクヘッジの基本中の基本動作です。貯金が作れない人は、変動金利は選ぶべきではない、全期間固定金利型にすべきとアドバイスされたと思います。繰上げ返済の原資としていくら手元に残しておくべきか精緻なキャッシュフローを作成したのではないでしょう(そんなアドバイスは受けなかったという方は、すぐにほかのFPにセカンドオピニオンを依頼をすることを強くお勧めします)。

特に金利が上昇するときには数百万円単位の繰上げ返済を行い、元金を減らすことが有効な優先すべき手立てです。借換えを行う選択肢もありますが、手数料の負担が大きく、団信の条件も変わってしまうこともあり、優先順位は高くありません。

投資に回しすぎて…現金の預貯金が多くない場合

問題は、繰上げ返済としてリスクヘッジするための現金が手元にない場合です。

無理のある住宅ローンを借りてしまい貯蓄が作れていない人はもちろん、本来現金として手元に置いておくべき分まで投資に回してしまった人もいます。動画サイトやSNSでそれを美化した人達が非常に多かったのが現実です。「繰上げ返済よりも投資に回しましょう」という言葉を見かけた人も多いでしょう。

投資に回してもいいのは、リスクヘッジのための予備資金を除いた余剰資金だけです。つまりすぐには必要のないお金ということです。今後住宅ローン金利が上昇し、家計が危険水域に入った時は、損切りをしてでも現金化し、繰り上げ返済に回す必要があります。住宅ローンを抱えながら投資を行う時のリスクを理解している人は非常に少ない印象です。

そもそも金融資産がない人はどうなるのか?

では投資も行っていなく、現金の預貯金もほとんどない人はどうなるのでしょうか。

残念ながらそもそも変動金利を選択すべきではなかったのです。いま取るべきリスク回避は、借り換えではなく家計支出の緊縮しかありません。携帯電話、生命保険、損害保険、自動車の所有と維持、サブスクリプション、光熱費などの固定費を大幅削減していくのはもちろん、それで足りなければ食費、小遣い、子供の進学は奨学金を前提とする、などあまり手をつけたくない部分に手を入れていく必要が出てくるでしょう。あるいは家計が危険水域に達するまえに住宅の任意売却を考えていくべきかもしれません。

金利が高くなっていくと、生活に必要な物価も高くなっていくことが一般的です。もはや節約では追い付かないほど家計の収支バランスが変わってしまうと、無理な住宅ローン返済を続けることによって家族が壊れてしまいます。今後の金利上昇と物価動向を見て、早めの決断を迫られるかもしれません。

ここからは無謀な住宅ローンを借りた末に、金利上昇のリスクが直撃してしまう家計の事例をご紹介します。

ペアローンでぎりぎり購入できた理想の住まいだったが…

<事例>

夫Sさん 42歳 会社員 年収650万円

妻Tさん 40歳 主婦

子供2人

7年前に7,500万円で住宅購入

当初の金利 0.6%(35年返済、変動金利型)

現在の残債 約6,000万円

毎月の返済 16万6,000円

預貯金 35万円

Sさんは首都圏近郊に住む会社員です。7年前に7,500万円で戸建て住宅を購入しました。当時は妻Tさんも正社員として働いていて、世帯年収は1,020万円ありました。

住宅の見積もりは7,500万円。当時のSさんの年収は550万円だったため、必然的にペアローンを利用せざるをえませんでした。世帯年収1,020万円に対して7,500万円の住宅をフルローンで購入するのは無謀かと感じましたが、住宅営業マンが「バブル崩壊後最も低金利の状態です、今後もこの金利で続くはずです」と熱心に教えてくれて気持ちが緩んでしまいました。

提示された金利は0.6%でした。変動金利で35年返済、毎月の返済額は16万6,000円です。妻のTさんは「高すぎる、まだ若いし賃貸でいいと思う」と不安がっていましたが、夫Sさんが「家は一生に一度の大きな買い物。妥協して、不満を持ちながら住み続けるより、多少無理してでも理想にできるだけ近い家を買いたい」と説得。妻を押し切るようなかたちで契約しました。

土地の坪数は70坪、建物の延べ床面積は36坪。申し分のない立派な邸宅を買うことができました。最寄り駅まで徒歩10分ほどで、学校やスーパーも近くにあります。広い駐車スペースがあるため、ついでにと思い、それまでの軽自動車をSUVに買い替えました。黒いボディのSUVが建物によく似合うと夫Sさんはご満悦でした。

ところが購入から3年が経ったころ、38歳だった夫Sさんに病が襲い掛かります。S状結腸がんでした。腸管とリンパ節を切除する手術を受け、3ヵ月ほど仕事を休みました。無事職場に復帰できたものの、妻Tさんは今後のことについてひどく不安になったようです。

「がん保障付の団信に加入できていたらいまごろ住宅ローンがチャラになっていたんですけどね……」と悔やむ夫Tさん。0.1%金利が上乗せされることに躊躇して加入しませんでした。しかし、自分で加入していた医療保険からがん保険の診断一時金が300万円支払われ、それでSUVの残債を完済できたのは助かりました。

仕事も復帰できたしまた頑張っていこうと思った矢先、さらなる問題が発生。妻Tさんがうつ病の診断を受け、仕事を辞めざるを得なくなったのです。コロナ禍で外出ができなくなったこと、勤務先の業績が下がりボーナスが減額されたこと、大きな住宅ローンの負担があることなどがストレスになっていたのかもしれません。

仕事を辞めた時点で、残債で3,000万円程度あったTさん分の返済は、夫Sさんが肩代りするしかありませんでした。Tさんの病状はさらに悪化していき、この3年間で2回入院をしています。

夫Sさんだけの収入では生活と住宅ローン返済は厳しいのが現実です。かといって妻に負担をかけたくないので話し合いもできません。妻は「私を責めている」と激昂することもあり、とても実務的な話ができる状態ではないのです。

2024年に入り、日銀の利上げのニュースに不安になった夫Sさん、FPに相談してみることにしました。

ツラく厳しい現実

「実質賃金マイナスで打撃を受けているなか、私と妻の病気、収入減。追い打ちをかけるように今回の利上げ……もう、辛すぎます」Sさんは非常に落ち込んだ様子です。

FPがSさんの家計を分析してみたところ、さらにツラく厳しい現実がわかりました。

・このまま金利が据え置かれたとしても老後破綻は免れない ・子供の大学資金は用意できない ・住宅ローンの金利が上昇したら家計破綻が早まる

とFPは全否定だったのです。

「金利上昇に備えて安い金利に借換えするのはどうでしょうか?」となんとか希望を見出そうと、夫Sさんが訊きます。

しかしFPの答えはこうでした「がんの既往歴があるため、銀行での借換えはもう不可能に近いです。団信に加入できないため、審査がNGになってしまいます」。

「そうでした……」

「団信に加入しなくても融資される金融機関や住宅ローン商品もありますが、その場合は自分の生命保険でカバーしておく必要があります。加入している保険の死亡保障は6,000万円以上あるでしょうか」

「ないですね……」

「それに、Sさん1人の年収では残債の6,000万円を借り換えることは不可能です。奥さんが正社員として復職したら可能かもしれませんが、無理はできません」

現在Sさん1人の収入で家計をやりくりしていますが、住宅ローンの負担が際立って大きくなっています。16万6,000円という現在の返済額は世帯年収650万円の家計では極めて難しいはずです。さらに金利が上昇し、返済額の見直しが上限の125%まで到達したら、毎月の返済は20万7,500円にもなってしまい、完全に生活が成り立たなくなります。

家計破綻を免れるには

「詰みました……。もうだめですね」と夫Sさん。

しかし、諦めている場合ではありません。なんとかして家計破綻を免れる努力をしなければならないのです。では、Sさんとその家族の家計を改善するにはどうすればよいのでしょうか?

もし住宅ローンの変動金利が上昇したとしても、返済額が高くなるまでにはあと数年の猶予があります。それまでになるべく早く自宅を任意売却するべきかもしれません。幸いSさんが居住している地域は地価が上がっています。建物の相場も上がっているため、多少売却が有利に進められるかもしれません。

とはいえ、住宅ローンを相殺できるほどの値段にはならないでしょう。損失の部分は給与所得から数年にわたって損益通算し控除することはできます。オーバーローンとなった部分をなんとか返済しながら、いまは賃貸に転居すべきかもしれません。妻Tさんの負担感も減り、療養にはいい影響となるでしょう。もちろんそれを決して責めることがないように気を配ることが大切です。

変動金利の上昇は、同時に違うリスクを露見させてしまう可能性があります。金利が上昇したら借換えればいい、繰上げ返済すればいい、という教科書どおりの方法が必ず可能になるわけではありません。

住宅ローンを借りるときは眠れないほどの不安を抱える人も多いものですが、すぐに慣れてしまいます。年数が経過すると、家計に気づいていないリスクが生まれている可能性があります。常に専門家に家計分析を依頼し、リスク対策を最適化させていく必要があります。  

長岡 理知

長岡FP事務所

代表

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