年金はアテにならないから…頑張って「1億円」貯めた、鬼の節約家の71歳・元先生。なぜかリタイア後、あっという間に「貯金がなくなった理由」【CFPの助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月11日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
年金制度に不安を感じ、現役時代に蓄えを少しでも多く増やさなければ……そんな意識が強い人も多いでしょう。しかし、せっかく貯めた老後資金も、使い方を誤ればあっという間に消え失せてしまいます。本記事では、新田さん(仮名)の事例とともに、老後資金における年金の立ち位置についてFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。
「年金制度は崩壊する」…年金未納のまま1億円の資産を形成
「年金なんてアテにならない……。年金のために保険料を払うより、自分で貯金したほうがいい」こう考えて、コツコツと貯金に励んできた新田肇さん(仮名/71歳)。新田さんは若いころに学習塾の講師として勤務し、30歳を手前で元同僚が立ち上げた学習塾の講師として働いていたのでした。
新田さんは少子高齢化に対し若いころから危機感を持っており、「このままじゃ年金制度は崩壊する、年金なんて払ってたら損するだけ。保険料を貯金に回して自分で貯めるほうがよっぽど有意義だ」このように考えて国民年金に加入しないままでいました。
通常、会社員であれば会社で厚生年金に加入義務があるものです。しかし、新田さんは業務委託としての勤務形態。授業1コマあたりの金額が収入に直結し、個別指導や家庭教師の仕事も掛け持つ、半分個人事業主のような働き方をしていたので厚生年金には加入していません。国民年金保険料も未納のままにしていました。
また、現在では保険料を滞納すると日本年金機構より督促があり、督促に応じない場合、資産の差し押さえも行われていますが、以前は厳しい徴収はされず、新田さんのように未納のままにしていた人もいました。
そして、そんな新田さんが勤めていた学習塾も新田さんが62歳のころにM&Aで売却され、それを機に新田さんも退職することにします。
真面目で無駄遣いをしない新田さんは、コツコツと長い時間を掛けて貯金に励んできました。節約に精を出し、移動は基本徒歩、無駄遣いの温床(と新田さんはいいます)コンビニには近づかないようにしています。その結果、退職時には1億円以上もの金融資産ができていました。退職は、「このくらいあれば十分だろう」と考えてのことだったのです。
しかし、新田さんに想定外のことが起きます。
人生の転機…かつての教え子と再会
新田さんが退職する前、新田さんが58歳のころに以前新田さんが教えていた教え子の絵里さん(仮名/当時30歳)が塾講師として入社してきました。
新田さんとは28歳差。しかし、もともと先生と教え子という関係だったこともあってか、2人のあいだには久しぶりの再会を感じさせないような空気が流れていたのです。
2人が親密な関係となるのに、そう時間はいりませんでした。
めでたく年の差婚、62歳で1児の父に
新田さんが退職するタイミングで28歳の年の差婚をすることになり、結婚生活はスタート。
絵里さんには離婚歴があり、結婚のときには8歳になる男の子がいました。ずっと独身だった新田さんでしたが、夫になるだけでなく、62歳にして8歳の男の子の父親にもなることに。
1億円以上もの金融資産を持つ新田さんは、28歳も年下の妻との再婚で舞い上がりました。3,000万円で中古のマンションを購入し、3人の新居を確保。年下妻のため、都内の高級レストランで食事をしたり、服を買ってあげたり、とこれまでの新田さんからは想像もつかないようなお金の使い方をします。妻が欲しがるハイブランドのカバンを初めてプレゼントしたときには、想像を超える金額に会計時に手汗が止まらなかったそうです。
さらに、妻の絵里さんは息子の教育に熱心で、学習塾だけでなく英語塾にも通わせ、学校も「勉強しないレベルの低い子がいる環境では足を引っ張られてしまう」と、私立の小学校に通わせていました。月にかかる教育費は約15万円。元夫からの養育費の支払いはなくなっていました。そのため、必然的に教育費は新田さんが支払うことになります。
これまで自分のためだけにお金を貯めてきた新田さんでしたが、愛する家族のためにお金を使う喜びを覚え、幸せな毎日が続きました。
そして月日は経過し、息子が大学進学を考える高校生になると、さらに教育費が掛かるように。しかし、このときすでに新田さんの金融資産は、ほとんど枯渇してしまっていました。
さすがに強気にお金を使えなくなっていた新田さんは、長年の経験を活かし個別指導や家庭教師で少しずつ収入を得るようになってきましたが、勤務は夕方から夜に掛けての時間。不定期の仕事であるため、月に15万円程度の収入が限度です。
そして、現役時代に公的年金の保険料を払ってこなかったために公的年金も受け取ることができず、収入は業務委託の家庭教師等のみです。
新田さんは「すまないが、これ以上教育費にお金はかけられない……」と絵里さんに伝えます。絵里さんはその言葉に理解を示した様子でしたが、そのころをきっかけに度々お金のことで衝突することになり、離婚することになってしまったのでした。
離婚をきっかけに売却したマンションは、幸いほとんど購入価格と同額の3,000万円で売却することができ、生活資金を確保することはできました。しかし、業務委託はいつまで続けられるかわかりません。働けなくなったら、貯金を取り崩すだけの老後となります。一人不安な老後を送ることになってしまったのでした。
変化に応じて臨機応変にマネープランを修正する
人生の転機によって、これまでの価値観が大きく変わることもあるかもしれません。新田さんの場合は、お金の価値観が大きく変わりました。
しかし、若い妻と結婚して舞い上がって散財し過ぎてしまったこと、それから結婚後の収入と支出を深く考えずに結婚生活をスタートさせてしまったことにより、幸せな結婚生活を守ることはできませんでした。
いかに1億円もの資産があったとはいえ、これから収入もなくなり、さらには公的年金の受給権もないという状況。特に注意が必要といえる状況だったでしょう。にも関わらず、目の前の金融資産の大きさで気が大きくなり、かつての金銭感覚が失われ、無計画にお金を使ってしまったことは最大の問題点です。
また、年金が破綻するという偏った考えにより、年金保険料を払ってこなかったことについて。年金制度自体は以前よりも不利にはなり、今後、制度の変更が行われるかもしれません。しかし、やはり現状も老後における生活設計の柱の1つになるということに変わりはないでしょう。公的年金だけで生活していくことは難しいものですが、公的年金も含めた生活設計と資産形成プランを現役のころから設計し、制度改正やライフプランの変化、生活スタイルの変化に応じて臨機応変に修正していくことが重要です。
また、1億円も資産があったのであれば、預金だけでなく投資信託等を活用し運用しながら取り崩すこともできたでしょう。「4%ルール」という言葉がありますが、年利5%で運用していれば資産を毎年4%ずつ取り崩しても資産が減らないといったものです。1億円の4%であれば400万円になりますし、4%とはいわずとももう少し安定的に運用し3%ずつでもいいでしょう。
せっかく貯めた資産を運用しながら計画的に取り崩し、管理していれば公的年金がなくても、セカンドライフで結婚したとしても、お金が足りなくなるような老後を送ることはなかったはずです。
年金は払ってもどうせ将来受け取れない?
厚生労働省の「国民年金保険料の月次納付率」によると、令和5年1月の国民年金保険料の未納率は約22%となっています。これは会社員や公務員など、厚生年金保険に加入する第2号被保険者を除き、個人事業主や無職者などの第1号被保険者のうち、22%が未納であるということを意味しています。
未納にする理由として、いまの生活が苦しいからという理由もありますが、新田さんのように「払ってもどうせ将来もらえない」と考えて未加入のままにしていることもあるようです。
しかし、公的年金は5年に1度財政検証結果が公表されており、いまのところ制度を大きく変えなければならないようなシミュレーションはなく、公的年金が崩壊すると考えるのは偏り過ぎているといえます。
大事なことは自分が望む生活設計に対して、現行制度の公的年金でどの程度収入を得ることができるかを試算し、資産形成プランや働いて収入を得るかを計画を立て、制度の変化やライフプランの変化、支出の変化に臨機応変に対応しながら修正していくことです。
自分が望む人生とはどのようなものか、それを実現するためにお金の使い方や資産形成、資産の取り崩し方を考えたり、公的年金の制度を活用したりしていれば、まったく違う結末になったのかもしれませんね。
小川 洋平
FP相談ねっと
CFP
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