「ずっと会いたいと思っていた」10年ぶりに連絡の元夫に不信感、シンママ経営者が知る「醜い企み」
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月10日 7時15分
日本の企業は9割以上が中小企業ですが、なかには従業員が数人しかいない小規模企業も無数にあります。また現在、離婚率は約35%ほど。離婚は珍しくありません。そのことからも、シングルペアレントの事業経営者も少なからず存在しています。その負担は大きく、体力的にも精神的にも超人的な苦労があるでしょう。今回、シングルペアレントの経営者に対して元配偶者が突如として現れる事例から、小規模企業における採用者予定者のバックグランド調査について考えていきます。※本記事で紹介している事例は、事案特定を防ぐため設定等を変えています。
10年ぶりに連絡してきた元配偶者「改心した」と言うが…
梨花さん(仮名)はアラフォーの女性社長です。お父様は造園関係の企業を経営している地元の名士で、すでに高齢。造園の事業は弟が継ぐことになりましたが、弟ひとりにすべてを任せるのは負担が大きく、公共施設のガーデンデザインなど一部の事業は分離し、梨花さんが別会社を設立して担うことになりました。少子高齢化で肉体労働に携わりたがる若者が減り、職人の高齢化が進むのはこの業界も同じで、従業員の採用・教育、大手との差別化による生き残り、独自路線や新事業の探求と、梨花さんは非常に多忙でプレッシャーの多い毎日を過ごしています。
梨花さんには子どもがいますが、子どもの父親である知久さん(仮名)とは10年前に離婚しています。学歴、家柄、当時の彼の職業や収入が理由で、梨花さんの両親はふたりの結婚に大反対でした。しかしながら梨花さんは彼にベタ惚れで、「彼と別れるくらいなら家を出ていく、勘当してもらって構わない」とまで言い放ち同棲を始めたのです。そんななか、娘が妊娠していることを知った梨花さんの両親は、娘の幸せのためにと泣く泣くふたりの結婚を許します。ただし、知久さんが今のアルバイトを辞め、梨花さんの実家の家業に携わるという条件付きでした。
知久さんにしっかりと仕事を教え込み、息子や娘の片腕になってもらおうというご両親の計画は、残念ながら4ヵ月も経たず頓挫します。「嫁の実家の干渉がキツい」「自由がない」「面白くない」と塞ぎ込むようになった知久さんは、次第に体調不良を訴えるなどして職場に顔を出さなくなります。「XX家の人間としての自覚」「一家の長としての責任」を求める梨花さんや梨花さんの両親との溝は深まるばかり。夜泣きする赤ん坊と梨花さんを残して、友人と飲みに出かけ朝まで、あるいは翌日の夕方まで帰ってこないことも増えました。当然、夫婦喧嘩は絶えません。
そんなある日、知久さんは「離婚してくれ」と言い出します。そして離婚届一枚を置いて出ていったきり、頑なに梨花さんからの連絡にも応じず、ふたりの結婚生活は終わりを告げます。
まだ幼い子どもと残された梨花さんはメンタルが不安定になるほど苦しみましたが、実家族の厳しくも愛に満ちたサポートと、育てられた環境で育まれた「家の一員」という思いが、彼女を再出発へ向かわせます。折しも梨花さんの父親が還暦を過ぎて体力の衰えを訴えていたことから、梨花さんも経営者の娘から経営陣の一員、そして一経営者へと成長していったのでした。
忙しい毎日。成長する子の育児。そんななかでも出会いがゼロだったわけではなく、お見合いや婚活を勧められたこともあったといいます。しかしながら、再婚に繋がる縁がなかったのが、たまたまなのか、知久さんとのことが尾を引いていたのか……こればかりは当人にしかわかりません。
そんなある日、メールの受信ボックスに知久さんからのメッセージを見つけた梨花さんは、しばらく血の気が引いて頭が真っ白になりました。一気に押し寄せるさまざまな複雑な感情。もう10年も経ったのに、まだ私はこの人のメッセージ1通にこんなにも心乱されるという事実に一番驚きました。
知久さんの言い分をまとめると、こうなります。
●あの頃は若かった
●あれから10年、梨花と子どものことを忘れたことはなかったし、『二度と顔を見せるな』とあの日電話の向こうのお義父さんに言われた以上、会いにいけなかっただけで、ずっと会いたいと思っていた
●自分勝手だと思われるだろうが、自分があの子の父親であることは紛れもない事実であり、もし許してもらえるのであればやり直したい
●自分もいろいろ苦労や経験をして、今ならお義父さんの気持ちもわかる。お詫びし、会社に貢献できるよう真剣に働きたい
口を開けば「共同親権」…元配偶者に違和感
一見、辻褄は合う主張ですが、梨花さんが戸惑ったのは和久さんから立て続けに届くメッセージの次のような部分です。まず通称“ロミオメール”に近い、大げさとも言える愛情表現。ライブやパーティーを行うバーでDJ兼バンドマンと客として知り合った頃から浮ついたところがあった人ですが、もう和久さんも40代。世間では立派な「おじさん」です。しかもあれからどうしていたのか、今は何をしているのか聞いたところ営業や講師などだと言い、チャラチャラした世界で生きているわけでもなさそうです。
また今すぐにでも一緒に暮らし再度入籍したいという知久さんに梨花さんが月2回の面会から始めたいと伝えてから、知久さんが共同親権という言葉をやたら使うようになったのにも、なんともいえない違和感がありました。現行法では離婚に際し、片方の親が親権を持ちます。親権者と実際の養育者が違っていても構いませんが、多くの場合、親権者が子の養育を行い、もう片方の元配偶者は養育費支払の義務を負い、また子に害がない限り面会請求権を有します。養育費の支払が面会の必須条件ではないものの、現実には養育費を払っていない元配偶者が面会は好きなだけできるというケースはレアでしょう。
ところが現行法の改正案では、夫婦が共同親権を有するように変更され、面会の拒否が原則できなくなるだけでなく、進学、手術、転居といった子の人生の重要事項については両親の同意が必要になるなど、言い方は悪いですが「育てていない側」の影響力が強くなります。SNSでもこの共同親権については多方面で激しい論争が巻き起こっています。
まだ正式に細部まで決定したわけでも、運用されているわけでもありませんが、いずれ共同親権が始まるのだからと強い口調で主張する知久さんに対して、梨花さんの頭の中で警報がなりました。子の気持ち、生活リズム、経営者としての立場、そういったものを無視するかの如くグイグイと性急に進めようとする彼の態度。こんな時、普通の女性であれば判断に迷い、せいぜい自分で彼のSNSをチェックするくらいしか思い浮かばないかもしれません。
幸い、梨花さんたちの会社では、コロナ明けから採用時バックグラウンドチェックを導入していました。きっかけは、経理担当者の不正だったそうです。バックグラウンドチェック導入後、経験豊かで腕の良さそうな中途採用候補者に反社との繋がりや経歴詐称が判明したことがあり、プロの調査への信頼は厚かったのです。そこで、今回、和久さんが経営に携わる気であることから、徹底した全項目調査を依頼しました。
【調査結果】多重債務者で逮捕歴あり 目的は金か、乗っ取りか
反社データベース紹介、犯罪歴チェック、金融事故チェック、借金はないか、前職など経歴に虚偽はないか、勤務ぶりはどうであったかの元上司や同僚への聞き取り、そしてあれから現在までどのような生活をしているのか近所への聞き取りなど多岐にわたる調査を行った結果は、真っ黒でした。和久さんは現在、多重債務者であり、まさに借金で首が回らない状態だったのです。さらに過去には詐欺、脅迫の罪で逮捕されていることも判明しました。起訴猶予や執行猶予になると前科はつきませんが、それでも罪を犯したことには違いありません。
さらに梨花さんに話していた10年間の経緯も、すべてが嘘ではないものの、都合よく盛ったり塗り替えられた虚飾まみれのストーリーだったのです。営業は押し売りまがいの宝石販売、講師は詐欺まがいの投資講座、その他、女性のヒモ状態だったことや、脱法ドラッグや大麻の使用など、次々と子の父としても会社の役員としても相応しくない真の姿が暴露されたのです。
梨花さんが自分のデザイン会社の取締役社長と、父親と弟が会長、社長である造園会社の取締役を兼務していることについても、知久さんはどこで調べたのか知っていました。梨花さんの父親が、一昨年、癌で手術を受けたことも。梨花さん自身にも、もちろん実家にも、資産があります。また会社自体、資本もあれば、不動産もあります。和久さんは梨花さんとよりを戻すことは、まさに金のなる木を手に入れることになります。
調査結果が出る前から、梨花さんの気持ちはある程度決まっていたようです。「あの頃とは違うんです。私は親として経営者として、10年間真摯に生きてきました。まだあの頃と同じ場所にいる彼とは差がついてしまいました」と少し悲しそうに笑う梨花さん。これまでの経験や調査結果から和久さんの目的が、「金」、または「乗っ取り」であることは明白です。梨花さんはこの調査結果をもとに、和久さんの接近を禁止し、会社と家族を守るため、相手の出方によっては法的に戦うと決めたといいます。
中小企業庁によると、2023年、中小企業の倒産件数は8,690社、負債額は2兆4,023億円に上りました。そのすべてが経営悪化というわけではなく、経営改善を行わず過去の資産を使い果たす「既往のしわよせ」や、後継者不足、放漫経営など、さまざまな倒産理由があります。そして家族経営が中心となる中小企業においては、今回のように元配偶者ではなくても誰かしら不適切な者が入り込み、資産を食い潰されるケースも珍しくはありません。
不適切者であることに気付かずに採用してしまった社員。その影響は、従業員数が少ない中小企業のほうが甚大です。採用者予定者のバッググランド調査は、中小企業のほうが重要といえるのです。
[参考資料]
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