絶対にイヤ!…施設入所の90代母を「周囲が引くほど号泣」させた、60代長女・二女からの「相続対策の提案」
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月11日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
60代の姉妹は、90代の母が施設入所後、空き家となった実家不動産をどうするべきか、思いあぐねていました。2人がよかれと思い提案した相続対策を、施設の母親へ伝えたところ号泣されてしまい…。相続実務士である曽根惠子氏(株式会社夢相続代表取締役)が、事例をもとに解説します。
90代の母の資産、およそ1億円…父の相続時より増えたワケ
今回の相談者は、60代の佐藤さんです。将来発生する母親の相続について相談したいと、筆者の事務所を訪れました。
父親が亡くなってからずっとひとり暮らしだった母親も、80代後半となって体が弱ってきたことから、一昨年、自宅と同じ市内にある介護施設に入所しました。
「実家が空き家になってもう数年たちます。母が実家に戻ることはないでしょう。いずれ相続が発生すると思いますが、いまのうちにやっておくべき対策はありますでしょうか?」
佐藤さんは2人姉妹の長女で、同じく60代の妹がいます。2人とも家庭を築いており、佐藤さんは同じ市内に、妹は静岡県在住です。母親の相続人は佐藤さん姉妹で、基礎控除は4,200万円。父親が亡くなった20年前はすべてを母親が相続し、佐藤さん姉妹はなにも相続していません。父親の財産は自宅と預金で、当時の基礎控除額が大きかったことから、相続税の申告も不要でした。
現在の母親の財産は、自宅の土地建物と預貯金、生命保険の合計で、およそ1億円です。父親の相続時よりも金額が大きくなっているとのことですが、それは、資産家の末娘だったという母親が親族から相続した金融資産によるものです。
佐藤さん姉妹は2人とも持ち家があり、同居もしていないため、母親の相続では小規模宅地等の特例が使えず、かなりの相続税がかかってきそうです。かなりの金融資産が遺されていることから、納税資金には困りませんが、少しでも圧縮できたらと考えています。
「売却して、収益不動産にしよう」「それ、イイね!」→結果…
筆者と提携先の税理士からは、まず自宅の売却と資産の組み換えを提案しました。所有者が自宅を売却すると、所有期間に関係なく、売却時の利益の3,000万円まで控除できる「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」という特例があります。こちらを活用したうえで、収益不動産に組み替えるなどしたら、空き家となっている自宅が姿を変えて有効活用できるようになります。
説明を聞いた佐藤さんは「すごくいい方法だと思うので、母と妹に聞いてみます」といって、まずは最初の面談を終了しました。
ところが2週間後の2回目の打ち合わせで、佐藤さんはしょんぼりと落ち込んでいました。
「ダメでした…」
「自宅は絶対手放したくない!」母、周囲が引くほど号泣し…
筆者と税理士が詳しく事情を聞いたところ、最初に相談した妹とは意見が一致して盛り上がり、時間をおかず施設に行き、母親に提案したとのことでした。
「妹は、すぐ話に乗ってくれました。〈あの雑草だらけの古い空き家を売ったお金でマンションを買って、家賃が入るようになるならサイコーじゃない!〉って…。妹に静岡から出て来てもらって、2人でそのことを母へ提案しに行ったら、職員の人が引くほどの大声で、ワンワン泣かれてしまいました…」
母親は「自宅は絶対手放したくない」「あの家を人手に渡すのはイヤ」と強く訴えたといいます。
「本人が首を縦に振らなければ、空き家も売却できないし、対策もしようがないですよね…」
佐藤さんの実家は横浜市内にあります。普通の戸建て住宅として賃貸するには土地が70坪と広く、最寄り駅まで徒歩20分かかります。広い家を好む、若くて元気な子育て世代でも、学区の小中学校まで徒歩30分と聞けば、敬遠される可能性が高そうです。
「一体どうしたらいいでしょう。あの空き家、相続が発生するまで放置するしかないのでしょうか?」
貸家にするのも選択肢ですが、不便な立地がネックであり、借り手が見つかるかどうかわかりません。それ以前に、室内の荷物の整理やリフォームが必要で、数百万円単位の費用が発生します。
頭を悩ませていると、税理士が「グループホームはどうでしょう?」と切り出しました。
これからの高齢化社会を考えると、グループホーム型の老人ホームには需要があり、最近では、住宅街にも施設が増えています。グループホームを運営したいと考えている企業があれば、そちらとのマッチングを検討してみるのも選択肢だとの提案でした。
佐藤さんは、空き家にせずに自宅を活用できる可能性があるのなら、ぜひ前向きに検討してみたいということで、現状の自宅の活用方法と、その後の相続について、改めて母親を交えて家族で相談することにして、打ち合わせは終了しました。
実家は長女が相続、活用の道を探る
その後、佐藤さんは、再び妹と2人、母親が暮らす施設に出向き、話し合いを行いました。
●自宅は手放すことなく、残す
●空き家となっている自宅は、グループホーム型の老人ホームとして活用の道を探る
●将来的には、不動産を長女である佐藤さんが相続し、妹は現預金を多く相続することでバランスをとる
家を残したいという母親の意向を汲み取り、佐藤さんが自宅を相続しますが、佐藤さんには、すでに夫と共有名義の自宅があるので、郊外の実家には住まないのは明らかです。
そのため、場所的にニーズがありそうな高齢者のグループホームとして活用する方向で、実現に向けて動くことになりました。
「妹とも話し合いましたが、母の希望にかなうかたちで、活用の道を探れたらと思います」
まずは業者を探すところから、相続対策をスタートすることになりました。
生前にできる対策、3つ
親の資産として、次世代が利用しない自宅不動産がある方、多額の現金がある方が、親が存命のうちに取れる相続対策としては、下記の3つがあります。
①自宅の売却
②自宅の活用(賃貸に出す)
③金融資産の対策(生命保険加入・現金贈与・不動産購入など)
①自宅の売却
自宅に住んでいた本人が売却すると、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」という、利益の3,000万円まで控除できる特例があり、かなりお得だといえます。自宅を売却したお金で収益不動産を購入すれば、資産の評価を圧縮できるうえ、建物は固定資産税評価から貸家評価になります。一般的に、区分マンションのような賃貸物件は、時価の3割程度の評価となります。
資産を圧縮することで相続税が下がり、同時に家賃収入が得られるようになるのはメリットです。しかし、当然ですが長年住んできた自宅はなくなってしまいますので、そこはデメリットだといえます。
②自宅の活用
自宅を売りたくない場合は、自宅の活用を検討します。空家では評価や特例等のメリットがありませんが、リフォームして賃貸すれば、土地は貸家建付地となり時価の6割程度に、建物は固定資産税評価の7割の貸家評価になります。さらには貸付用の小規模宅地等の特例が使えるので、土地評価が200m2まで50%減にできます。家賃も入ります。
ただし、建物内の荷物の整理とリフォームが必須で、数百万円のリフォーム代がかかります。仮に月額20万円の家賃が入るとしても1~3年程度の回収期間が必要です。
③金融資産の対策
預金や有価証券は「金額=財産の価値」であるため、保有しているだけでは節税対策ができません。そこで、生命保険加入・現金贈与・不動産購入などが選択肢となります。
※登場人物は仮名です。プライバシーに配慮し、実際の相談内容と変えている部分があります。
曽根 惠子 株式会社夢相続代表取締役 公認不動産コンサルティングマスター 相続対策専門士
◆相続対策専門士とは?◆
公益財団法人 不動産流通推進センター(旧 不動産流通近代化センター、retpc.jp) 認定資格。国土交通大臣の登録を受け、不動産コンサルティングを円滑に行うために必要な知識及び技能に関する試験に合格し、宅建取引士・不動産鑑定士・一級建築士の資格を有する者が「公認 不動産コンサルティングマスター」と認定され、そのなかから相続に関する専門コースを修了したものが「相続対策専門士」として認定されます。相続対策専門士は、顧客のニーズを把握し、ワンストップで解決に導くための提案を行います。なお、資格は1年ごとの更新制で、業務を通じて更新要件を満たす必要があります。
「相続対策専門士」は問題解決の窓口となり、弁護士、税理士の業務につなげていく役割であり、業法に抵触する職務を担当することはありません。
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