「こんなことなら独身のまま正社員で働いていればよかった…」夫は単身赴任のワンオペ37歳パート妻、遺族年金見直し案に嘆き…70歳母は娘の行く末が不安で夜も眠れず【社労士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月8日 6時15分
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(※写真はイメージです/PIXTA)
厚生年金に加入する会社員などが死亡した際に20代~50代の配偶者が受け取る「遺族厚生年金」について、厚生労働省が見直し案を示したことに物議を醸しています。内容は遺族厚生年金について男女差を是正するものですが、SNSを中心に「改悪」と反発する声も。年金相談会に寄せられた事例をもとに、角村FP社労士事務所の特定社会保険労務士・CFPの角村俊一氏が解説します。
37歳の娘の将来が心配で夜も眠れない…
市役所で定期的に行われている年金相談会に1人の女性(70歳)が相談に来ました。相談内容は次の通りです。
「先日、37歳の娘から電話があり、遺族年金の見直しが話題となりました。娘はパート主婦で2歳と4歳の男の子がいます。『もし遺族年金が見直されると、例えば、私が55歳になったときに夫が死んだら、私は生活できなくなるのでは? 不安でたまらない』と言っています。
娘は独身の頃は正社員で働いていたのですが、夫が転勤になってしまい家のことがまわらなくなって泣く泣く仕事をやめました。今は近くのスーパーでパートで働いています。娘の夫も激務で大変そうです。
そんな中、遺族年金の話を聞いて、社会が子育てから介護まで女性に押し付けておいてあんまりではないかと思いました。娘は『こんなことなら独身のまま正社員でバリバリ働いていればよかった』と嘆いています。
正社員に復職しようにもまだまだ子育てには手がかかるし、私たち夫婦も離れて暮らしているので手伝うことができません。保育園も待機児童でいっぱいと聞きました。自分のことも心配ですが、娘たちの未来も心配で夜も眠れません。これから遺族年金はどうなるのでしょうか?」
相談員は遺族年金の見直し案について丁寧に説明しました。
遺族厚生年金の男女差是正へ
遺族年金は、一家の支え手が亡くなった場合に遺された家族の生活を支える保険給付です。制度設計上、男性が主たる家計の担い手であるという考え方が強く反映されていますが、厚生労働省は7月に開催された「第17回社会保障審議会年金部会」において、社会経済状況の変化や制度上の男女差を解消していく観点から、遺族厚生年金の見直し案を審議会に示しました。
見直しの方向性として打ち出されているのは、「20代から50代に死別した子のない配偶者に対する遺族厚生年金を、配偶者の死亡といった生活状況の激変に際し、生活を再建することを目的とする5年間の有期給付と位置付け、年齢要件に係る男女差を解消すること」(同審議会資料)。
つまり、性別にかかわらず、20代から50代に死別した子のない配偶者に対する遺族厚生年金を5年間の有期年金にするというものです。
【現行制度】 20代から50代に死別した子のない配偶者の遺族厚生年金の年齢要件に男女差が存在している。妻に対しては年齢要件が設けられていない一方で、55歳未満の夫には受給権が発生しない
【見直しの方向性】 20代から50代に死別した子のない妻に対する有期給付の対象年齢を現行制度における30歳未満から段階的に引き上げるとともに、新たに60歳未満の夫を有期給付の支給対象とする
遺族厚生年金の概要
遺族厚生年金は、厚生年金保険の被保険者が死亡したときや、老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したときなどに、その遺族に支給されます。
遺族厚生年金の額は、死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3です。報酬比例部分は加入月数(厚生年金の被保険者期間)が多いほど増えますが、加入月数が300月(25年)未満の場合は300月とみなして計算してくれます。ちなみに、妻への遺族厚生年金の平均額は84,012円となっています(2023年7月28日「第6回社会保障審議会年金部会」資料)。
遺族の範囲をみてみると、配偶者や子だけではなく、孫や父母、祖父母も対象です。なお、子や孫には要件があり、18歳になった年度の3月31日までにあるか、20歳未満で障害等級1級または2級の障害状態にあることが必要です。
【遺族厚生年金の遺族】 死亡した方に生計を維持されていた次の遺族
①子のある妻、または子 ②子のない妻 ※夫の死亡時に30歳未満であれば5年間の有期給付 ③孫 ④死亡当時55歳以上の夫、父母、祖父母(支給開始は60歳から)
※遺族基礎年金の支給対象となっている夫の遺族厚生年金は55歳から支給される
先にみたとおり、現行の遺族厚生年金には男女差が設けられています。遺族厚生年金を受給するに当たり妻には年齢制限がない一方、夫は55歳以上であることが必要です。しかも、夫が受給できるのは原則60歳からです。遺族年金制度の特徴である「男性が主たる家計の担い手である」という考え方が色濃く反映されているといえるでしょう。
具体的な見直し案は?
今回、子のない妻に関する遺族厚生年金の見直しが図られています。子のない妻の場合、現行制度では、夫の死亡時に30歳未満であれば遺族厚生年金は5年間の有期給付となりますが、見直し案では有期給付の対象年齢を段階的に引き上げていきます。
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年齢制限が設けられている夫に関しては、新たに60歳未満の夫を有期給付の支給対象とすることが示されています。
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なお、養育する子がいる世帯、高齢期の夫婦及び既に受給権が発生している方への遺族厚生年金については、現行制度の仕組みが維持されるとしています。
中高齢寡婦加算も見直しへ
中高齢寡婦加算は、夫によって生計を維持されていた中高齢の妻は、夫の死亡後に就労して十分な所得を得ることが困難であること、また遺族基礎年金が支給されない場合は遺族厚生年金だけでは生活を営むのが難しいことを理由に支給されます。
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例えば、会社員の夫が亡くなった場合、子がいる妻は遺族基礎年金と遺族厚生年金を受給できます。しかし、子が18歳年度末を迎えると「子のない妻」となるので遺族基礎年金の受給権を失います。そこで、自身の老齢基礎年金が受給できる65歳になるまで中高齢寡婦加算(令和6年度は年額612,000円)が支給されるのです。中高齢「寡婦」加算ですから、「寡夫」には支給されません。
見直し案では、中高齢寡婦加算に関し、「女性の就業の進展等を踏まえ、かつ、年金制度上の男女差を解消すべきという観点からも、将来に向かって段階的に廃止することを検討する」としています。
通常、年金制度を見直す場合、経過措置や激変緩和措置が採られます。遺族厚生年金の見直しに関しては、「現行制度の遺族厚生年金額よりも金額を充実させるための有期給付加算(仮称)の創設」や、「現行制度の離婚分割を参考に、死亡者との婚姻期間中の厚年期間に係る標準報酬等を分割する死亡時分割(仮称)の創設」を検討するなどとしていますので、続報を待ちましょう。
また、中高齢寡婦加算については、「廃止にあたっては、激変緩和の観点から十分な経過措置を設ける」としています。
最後に相談員は女性に対し、「資料によると、今回の見直し案がすべて完了するのは法律が施行されてから20年~25年後です。まだ決定事項ではありませんが相当先の話ですので、少しでも将来の不安が和らぐよう、お子さんの成長とともに働く時間を増やすとか、生命保険に加入することなどを考えてみてはいかがでしょうか」とアドバイスしました。
角村 俊一 角村FP社労士事務所代表・CFP
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