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「築古アパートの立退料、いくらでしょうか?」大家から寄せられる相談に、ベテラン弁護士の意外な回答

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月17日 11時15分

「築古アパートの立退料、いくらでしょうか?」大家から寄せられる相談に、ベテラン弁護士の意外な回答

(※画像はイメージです/PIXTA)

築古アパートの立退料について、大家さんから具体的な金額を聞かれるケースが増えています。判例をもとに、実情を見ていきましょう。不動産と相続を専門に取り扱う、山村法律事務所の代表弁護士、山村暢彦氏が解説します。

「立退料の相場を教えて」という相談が増えているが…

不動産にまつわる相談として近年とくに増えているのが、大家さんからの「立退料の相場」についてです。

質問や相談を受けた際には、裁判事例を挙げて説明をすることになりますが、それらは世間で起きている立退きトラブルのほんの一例に過ぎず、また、世の中すべての立退きトラブルが裁判になるわけでもない、という点を忘れてはいけません。

実際に裁判となるのは、高額な立退料が見込まれる、いわば「裁判になりそうな土壌」があるケースです。もちろん、裁判をすることで少しでも有利にしたいという考えは理解できますし、実際に裁判で立退料を安くすることは可能かもしれませんが、弁護士を入ればそのぶんの費用が加算され、トータルで損になることもありえます。

国が立退料の算定表を用意してくれればいいのですが、残念ながらそのようなものはなく、弁護士や裁判所が参考にできるものは「裁判例」という先例に限られます。しかも、判例に残るものは比較的相場が高く、大家側は裁判に移行されるだけで不利になることは否めません。

率直な話、弁護士が介入する前段階において、実務的な相場で解決するのがいちばん安上がりだといえます。

弁護士を入れざるを得ないケースもある

とはいえ、弁護士に依頼しないと解決できない事例もあります。

たとえば、借主側が弁護士を入れてきた場合、大家側が相手の弁護士と対峙するのは相当なストレスです。そのため、大家側も対抗して弁護士を入れたほうがいいでしょう。

また、当事者同士だと怒鳴り合いになってしまい、まともな話し合いができないケースや、相手と連絡がつかないケースも、弁護士が間に入らなければ終わりません。

最後に、8室や10室などのアパートの建て替えをしたくても、最後の1室や2室の借主がどうしても出て行ってくれないというケースも、裁判所で話をすることになります。

築古都心の賃貸物件、立退料の裁判事例

ここからは、実際の裁判例・裁判の結果・立退料の相場について見ていきましょう。

事例①立退料800万円…平成30年2月22日 東京地裁判決

【建物】

東京都豊島区

昭和40年築(築年数:約50年)

木造作り

100平米×2の2階建て

【賃料】

10万円

【事情】

①借主:理容店を営業

②大家:更地にして駐車場を希望

③耐震:一般診断で0.22(通常は1.0~1.5)

④リフォーム費用:約1,400万円必要

⑤立退料:800万円

比較的都心にある、築年数約50年の木造戸建てです。賃料は月10万円のため、いまの感覚からすると安めの印象です。

借主側は理容店を経営していますが、大家側は、築年数も経過していることから、取り壊して駐車場にしたいという希望がありました。

また、耐震性能を「一般診断」という方法で診断したところ、通常なら1.0から1.5必要となる数値が、0.22と非常に低く、リフォームする場合は約1,400万円もの費用が見込まれています。

月10万円の賃料に対して1,400万円のリフォーム費用は、大家側からすると非常に高額です。年間家賃収入120万円なので、10年でも採算が取れません。

注目すべきは、築年数が古く、かつ耐震診断の結果も「危険性あり」という数字が出ている状況でもなお、立退料が発生している点です。

ここから、立退いてもらうには立退料が前提となることがおわかりいただけるかと思います。

この事例では不動産鑑定を行って立退料を算出しましたが、3種類の鑑定方法によって、それぞれ200万円、400万円、800万円、という3通りの結果になりました。

不動産鑑定も、不動産鑑定士に頼んだからといって一義的に同じ数字が出るものではありません。また、これひとつで決定するものではないため、不動産鑑定と判決との結論にも差異が発生します。

事例の結果としては「3通りの評価が可能」との前置きのもと、結局1番高い800万円という結果になりました。

今回のように事業を行っている物件の立退きの場合、営業保障的な側面も出てきます。したがって、純粋に住居として使っているケースとは少し異なってきますが、このような結論に至っています。

事例②立退料1,000万円…平成30年2月16日 東京地裁判決

【建物】

東京都新宿区

昭和23年築(築年数:約70年)

木造作り

40平米×2の2階建て

【賃料】

5.5万円

【事情】

①借主:居住

②大家:解体して再築を希望

③耐震:構造評価で0.26(通常は0.7)

④リフォーム費用:約1,700万円必要

⑤立退料提示:1,000万円

平成30年の判決で、新宿区の物件です。裁判の当時で建築から約70年が経過していました。

木造の40平米の2階建ての戸建てで、賃料は月5.5万円と、こちらも相場感からすると相当安いといえます。

借主側は住み続けることを希望しており、大家側は解体して新しい建物を建てたい、という希望がありました。

耐震性能としても、構造評価で0.7以上必要な数値が0.26しかなく、リフォーム費用の想定は約1,700万円。事例①よりもさらに高額なうえ、今回の事例の家賃は月5.5万円のため、10年どころか20年住んでもまったく回収できません。

今回の事例が事例①と異なるのは、裁判前の時点で「立退料を1,000万円支払うから出て行ってくれませんか」と提示していた点です。

それ以外の「老朽化の戸建て物件」「東京23区で比較的都心」という状況は、事例①とよく似ているといえます。

この事例は結局、立退料は当初から提示していた1,000万円で問題ない、という判決が出ました。

立退料には幅があり、明確な数字を出すことは困難

2つの事例を見ていただくと、個別の事情によって立退料は大きく変わってくることがおわかりいただけるかと思います。事例②でも「1,000万円」という立退料を提示していたからこそ、その数字が採用されたといえるでしょう。

弁護士や裁判所に依頼しても、一義的な理屈のもとで明快な結論が出るわけではありません。2つと同じ物件・事例はありませんし、また、判決も事情によって大きく変わってきます。

立退料をご相談いただく場合も「似たような裁判例でこういったものがあるので、これぐらいの幅かもしれません」といった、ざっくりとしたお話は可能かもしれませんが、バシッと「○○円です」と回答することは、どの弁護士もできないと思います。それほど立退料には幅があるものなのです。

(※守秘義務の関係上、実際の事例と変更している部分があります。)

山村法律事務所 代表弁護士 山村暢彦

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