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40代独身・超優秀な営業マン、急成長ベンチャーに執行役員として華々しく転職が決まったが…初日に出社しなかった「衝撃の理由」【転職業界のプロの実体験】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月14日 7時45分

40代独身・超優秀な営業マン、急成長ベンチャーに執行役員として華々しく転職が決まったが…初日に出社しなかった「衝撃の理由」【転職業界のプロの実体験】

(※写真はイメージです/PIXTA)

中途採用、新卒採用、アルバイトなどの雇用形態を問わず、入社、転職、退職にともなうトラブルには数多くのエピソードがあり、時折思わぬことが発生するものです。今回は、人材コンサルティング会社の東京エグゼクティブ・サーチ(TESCO)代表取締役社長・福留拓人氏が、自身が遭遇したというめずらしい事例について、対処に奔走したことなど振り返りながらご紹介していきます。

ベンチャーに執行役員として転職が決まったのに、初日に出社しない…いったいなぜ?

ここでは仮にAさんとしますが、この人物は40代で独身、広告業界で非常に優秀な人材として知られる営業マンでした。当時はインターネット広告が世に生まれ、社会を席捲し始めている頃。インターネット広告のベンチャー企業は急速に成長する市場に対して組織づくりが間に合わず、伝統的な広告ビジネスを知っている人材を喉から手が出るほど欲している時期でした。

そのようなタイミングで、Aさんは広告業界の豊富な経験を評価され、急成長しているインターネット広告のベンチャー企業に執行役員として入社することが決定。退職交渉なども円満に進み、入社数日前には私たちTESCOもお祝いの一席を設けました。そして前日の夜には本人から丁寧に「このたびは大変お世話になりました。明日からは粉骨砕身、頑張ってまいります」と電話が入るなど、この段階で何ら懸念することはありませんでした。

そして入社日を迎えました。私たちの業界では入社の確認をするために、初日の午前中に企業に対して連絡を入れるという慣習がありました。しかし、確認の電話をした時には担当者が離席しているということで連絡がつきませんでした。折り返しを待っていたところ、お昼を少し過ぎた頃に人事担当者から電話が入り、「A氏が出社しておらず、本人に連絡がつかない」と告げられたのです。

ここで読者のみなさまは、どういうことを想像されるでしょうか。多くの方は次のように考えると思います。

①事故や急病で連絡がつかない状態にある

②思うところがあり急に出社を取りやめた

他にも何か思いつくケースがあるかもしれませんが、おおむねこの2項目に集約されると思います。

これをAさんに置き換えると、①はどうでしょう。事故や急病だとしても電話1本できない深刻な状況なのかどうか。そういう事態が発生していれば大変なことになるため即刻対応を取らなければなりません。独身ということもあり、近くに誰もいない可能性は残ります。ただ、このようなことは起き得るけれども、発生率は高くないと思われます。

一方、②は考えにくいと思われました。なぜなら前夜の段階でお礼の電話をもらっており、翌朝に職場を放棄したとは考えにくいからです。しかも、執行役員としての栄転ですからなおさらです。

Aさんが入社する企業はまだ若いベンチャー企業でした。人事担当者も状況が把握できておらず、混乱しているようでした。それを報告してきた弊社の担当者も動転していました。その点、私にはそこそこの経験がありましたから、話を聞いた瞬間に思いついたことがありました。実はこのひらめきが正解だったのです。

まさかの「警察に拘留」という事態…その後の対応

何が起きていたかというと、Aさんは警察に拘留されていたのです。拘留されるにはいろいろな要因があるでしょう。もともと何かの捜査線上にあり、逮捕された日が偶然初出社の日だったとか、そんな想像もしてしまいます。

あるいは、通勤時に痴漢の疑いで現行犯逮捕され、拘留される場合もあります。この場合、原則として所持品はすべて警察に没収されます。連絡の手段である携帯電話は警察が使用している電波を遮断する特殊な袋に入れられて、電源が切れていなくても強制的にオフにされます。この時点で48時間の拘留がはじまります。

こうなると本人から会社に連絡が来ないのも致し方ありません。しかも警察は携帯電話を操作しませんから、充電がなくなります。この時点で二重に連絡が取れなくなるわけです。

ということで、何らかのトラブルが発生して拘留された可能性があるのではないかと考えました。私は若い頃修業を兼ねて探偵をしていたことがあるので、このようなことに多少知識がありました。そこでAさんの居住地や通勤経路をたどって該当する警察署に聞き込みをしてみました。これは裏技ですが実に有効でした。

結果として、やはりAさんは痴漢の疑いで拘留されていました。関係者に事情を聞いてみると本人は否認しているということで、48時間が経過した後も拘留が延長されることが確実になりました。この時点で本人が罪を犯したのか冤罪なのかはわかりませんでしたが、私たちエージェントができることは内々に企業側に事情を伝えて善後策を講じることでした。

大きな会社や経験豊かな人事がいる会社であれば、連絡がつかなくなって丸一日経過する頃に「警察に拘留されているのではないか」と気がつくと思います。しかしAさんが入社する会社は人事担当者がそこまで知見を持っていなかったので、私は人事部長に直接アポイントメントを取り、その日の夕方に秘密裡に面談し、事情を伝えました。

私たちの独断であるけれども確認を取ったところ拘留されていることがわかったと伝え、本人が否認している(現在は個人情報の管理が厳しくなっているが当時は人脈を駆使して情報を入手できた)ことも伝えました。

そして本人が否認している以上、この段階で最終的な判断をするのが軽率に思えたので、「この問題はいったん本当のことを伏せた状態で社内に告知しませんか」と提言しました。その理由を人事部長が訪ねたので、こう答えました。

「この段階で、御社の人事担当者様は警察に拘留されていると推測している様子はありませんでした。しかしAさんとは数日間は連絡がつかない可能性が高く、人事担当者様から雑談に尾ひれがついてこの話が拡散すると、無罪であってもAさんの復職の望みが断たれてしまう可能性があります。本人が事実を認めたら入社辞退もしくは解雇ということで入社取り消しの事由に該当しますが、このタイミングではまだ判断が難しいと思われます。事態を知られないように、人事部長の裁量で急病といった理由にしてはどうでしょうか」

このように、その日にできる範囲の措置を行いました。

思わぬトラブルが起きた時のエージェントとしての立ち回り方

弊社の担当者は履歴書で住所がわかっていたので、本人のいない自宅まで様子を見てきてもらいました。私が指示したのは、「郵便受けをのぞいてくるように」ということです。もし郵便受けに新聞や郵便物がたくさん入っていれば、入社直前でありながら自宅にいなかったということになり、私生活に何らかの問題を抱えていた可能性が出てきます。そのあたりを探る意味もあって担当者に指示したわけです。

ところが、Aさん宅の外観を観察したところ郵便受けはカラで、ベランダに洗濯物もありません。これはやはり前日までは出社の準備を万端にして備えていたであろうと判断できました。出社初日に痴漢という心理が私には理解できませんでしたが、当日はこのようなドタバタ劇がありました。

その後の展開について詳細は省略しますが、この件では本が1冊書けるほど内容の濃い経験をしました。結果的にAさんは起訴されて裁判を受けることもなく、痴漢は冤罪ということで釈放されました。というのは、痴漢を仕掛けた男女のペアがいて、オヤジ狩りをしていたことが判明したからです。その後、被害届は取り下げられ、比較的早期にこの問題は解決することになりました。すったもんだはありましたがAさんは無事に着任し、その後6年半にわたって執行役員として活躍されました。

このような不運があったとしてもAさんにツキがあったのは、入社される会社がベンチャー企業で、こうした問題に対してのマニュアルが整備されていなかったことです。社内に「問題を起こした人」と断定する雰囲気が醸成されず、後ろ盾になった社長や役員の尽力も功を奏し、入社が許されたということです。

もうひとつ、痴漢行為は否認しても裁判になれば被告が負ける可能性が高く、メディアに報じられることもあり得ます。そのため事態の収拾が難しくなるのですが、早い段階で仕掛けた者たちがAさんを吊るし上げたという事実が判明したこと。この2点が幸運に作用したといえるでしょう。

この事例を振り返ると、候補者の名誉や利益を保全するのはエージェントであり、当局が最終的な判断をするまで私たちが推測で物事を決めるのではなく、できる限り時間をかけるようにして、候補者を守ることが重要だと思います。自画自賛するわけではありませんが、Aさんの事案でも結果的にそのようになったことを誇りに思っています。

福留 拓人

東京エグゼクティブ・サーチ株式会社

代表取締役社長

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