「業務の進め方、対応が話題になっております」司法書士はじめ各業界で話題…『地面師たち』人気の理由は?
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月10日 7時15分
![「業務の進め方、対応が話題になっております」司法書士はじめ各業界で話題…『地面師たち』人気の理由は?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/goldonline/goldonline_62732_0-small.jpg)
(C)新庄耕/集英社
「仕事で人に会うたびに地面師は話題に上りますね」と話すのは、不動産業界とも関わりが深い金融機関出身の男性(49)だ。「地面師」とは、Netflixで独占配信中のドラマ『地面師たち』(大根仁脚本・監督)で、東京・渋谷と大阪・道頓堀に屋外広告「STOP!地面師詐欺」が掲出されたのも話題になった。また、別の司法書士の男性(49)も「ドラマ内の司法書士の業務の進め方、対応が話題になっております」と明かし、司法書士の業界でも話題になっているらしい。Netflixシリーズ『地面師たち』人気の理由に迫った。
2017年の不動産詐欺事件をきっかけに知られるようになった「地面師」とは?
2019年に刊行された新庄耕さんの小説『地面師たち』(集英社)を『モテキ』や『エルピス‐希望、あるいは災い』などで知られる大根監督がドラマ化。地面師グループと大手デベロッパー、地面師グループを追う刑事の三つ巴の争いを描く。
「地面師」とは、他人の土地の所有者になりすまして売却を持ちかけ、偽造書類を使って多額の代金を騙し取る、不動産詐欺を行う集団を指し、2017年に東京都品川区五反田の土地をめぐる不動産詐欺事件が広く報道されたことをきっかけに知られるようになった。
地面師詐欺は、戦後間もない混沌とした社会情勢や、役所内の混乱期に全国で発生。バブル時代には、土地の価格が高騰し、都市部を中心に多発。だがその後、不動産取引に必要な書類の電子化が進んだことによって、他人のなりすましが困難になり、鎮静化したように見えた。しかし2010年代半ば、東京オリンピック招致決定を機に、土地の価格が上昇。管理の行き届かない土地や、所有者の不在など、表面化しにくい土地を中心に、再び地面師事件が発生するようになった。
ドラマでは、過去の出来事によってすべてを失いながら、ある男との出会いをきっかけに「地面師」の道を歩むことになった「辻本拓海」を綾野剛さんが、拓海をアウトローの世界へと招き入れる謎の大物地面師「ハリソン山中」を豊川悦司さんがダブル主演で演じているほか、北村一輝さん、小池栄子さん、ピエール瀧さん、染谷将太さんがハリソン率いる地面師グループのメンバーとして脇を固める。
一方、上記の地面師グループにだまされる側である大手デベロッパー「石洋ハウス」の幹部を山本耕史さん、ハリソンを追う定年間近の刑事をリリー・フランキーさん、新人刑事を池田エライザさんが演じ、「だます側」と「だまされる側」、そして地面師グループを追う側の“三つ巴の争い”が大きな見どころだ。
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まるで「日曜劇場」!? 企業ものとしても楽しめる仕掛け
公式インタビューで大根監督は「いつかドラマでも映画でも、ジャンルを混ぜ合わせたものを作りたいと思っていた」と話し、「詐欺師グループにだまされる大手デベロッパー側の描写が、実はポイントなんじゃないかと思った」と明かしているが、確かに、同作品では地面師たち側だけではなく、会長派と社長派に分かれた派閥争いや、やたら時間がかかる稟議書承認の描写など、TBSの「日曜劇場」で描かれるような大企業で働くサラリーマンの世界も丁寧に描かれる。
冒頭の金融機関出身の男性も「あそこまでの大型案件ってもっと時間をかけてしっかり交渉しなければいけないのに、(地面師たちに急かされて)急がなければいけない理由に派閥争いという要素も加わって非常にリアルだなあと。(山本さん演じる)青柳のパワハラの感じも昭和のサラリーマンというかちょっと前のサラリーマンを彷彿とさせますよね」と話す。
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「念入りな本人確認」「鉛筆書きで一言添えた稟議書」…あるあるも満載
大企業のサラリーマンものという要素のほかに、各業界やビジネスの場で実際に行われている手続きややり取りも「あるある」が詰め込まれている。例えば、稟議書承認のシーン一つとっても「後から消せるように鉛筆書きで稟議書に一言添える」だったり、土地の売買交渉における本人確認で「免許証や本人確認書類を司法書士が徹底的に調べる」であったり、何気ない「業務」が、その世界や業界を知る者にとっては「あるある」の一方で、知らない者にとっても「こういう手続きを踏むのね」「こういうことをやっているのか」と新鮮に映るのだ。
実際に司法書士の間でも同作品は話題になっているという。話を聞かせてくれた司法書士の男性は「2017年の事件もあって、司法書士業界では、なりすまし、本人確認に関しての注意喚起が強くされており、このドラマにも自分たちの仕事と大きく関係する内容が登場するため、ドラマ内の司法書士の業務の進め方、対応が話題になっております」と話す。
ドラマの中では、土地の売り手側である地主の本人確認で干支を聞かれるシーンが何度も登場するが、「印鑑証明書と捺印書類の印影の照合や、住所、氏名、生年月日、干支等の口頭での確認は、決済会場での書類の確認時に実際に行います。免許証をライトで当てたり、データを読み込んだりする場面もありますが、一部の司法書士で行っている方がいるかもしれませんが、ほとんどの司法書士は本人確認書類を目視して終わります」とリアルな声を寄せた。
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大根監督「リアリティとファンタジーのバランス」を意識
ドラマでは地面師たちが「リー ダー」ハリソンを筆頭に「交渉役」の拓海(綾野さん)、「情報屋」の竹下(北村さん)、「手配師」の麗子(小池さん)、「法律屋」の後藤(ピエールさん)、偽装書類を作成する「ニンベン師」の長井(染谷さん)がチームを組み用意周到に計画を実行していくが、彼らが詐欺で使う偽造書類や免許証やパスポートなどは実際に「完璧に偽造しました」(大根監督インタビューより)という。
そんなふうに美術や小道具、ロケ地にかなりこだわりリアリティを追求する一方で、大根監督が「今回は嘘をつくところは徹底して嘘をつきましたね。特に地面師チームの描写とか。そういうリアリティとファンタジーのバランスにいちばん気を使ったんじゃないかと思います」とも。リアルとファンタジーの絶妙なバランスがエンタメ作品としての完成度を高めている要因の一つと言える。
「大手の映画会社やテレビ局は難色」Netflixだからこそ生まれた作品
そして、最後にどうしても触れておかなければならないのが同作品がNetflix配信という点だ。同作品は大根監督が自らNetflixに持ち込んで実現した企画で、大根監督が知り合いのプロデューサーたちに軽く話を持ちかけたところ、大手の映画会社やテレビ局は作品の内容的に難色を示したという。
「全世界配信ということも含めて、“自分が観たい日本発のNetflixドラマ”ということはすごく意識しました。しかもこの題材って地面師詐欺っていう特性とか、サラリーマン社会とかも含めてめちゃくちゃ日本独特というか、ドメスティックですよね。『サンクチュアリ -聖域-』も『忍びの家 House of Ninjas』もそうですけど、せっかく世界のいろんな国で配信されるなら、日本で作るNetflix作品は、海外のヒット作をトレースしたようなものではなく、日本独特のドメスティックなものを描くべきというのもずっと思っていて 」(公式インタビューより)
綾野さんも「作品ファーストであり、それぞれの個性や魅力を尊重し、なによりクリエイターに対するリスペクトがあります」と公式インタビューで答えている通り、Netflixだからこそ生まれた作品であるというのも、見逃せないポイントだ。
THE GOLD 60編集部
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