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森永卓郎「私は人体実験の材料ではない」…ステージ4末期がんで〈余命宣告〉を受けた後、各所から届いた「手紙」の驚きの中身

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月22日 11時0分

森永卓郎「私は人体実験の材料ではない」…ステージ4末期がんで〈余命宣告〉を受けた後、各所から届いた「手紙」の驚きの中身

(※写真はイメージです/PIXTA)

昨年末に膵臓がんであることを公表した、経済アナリストの森永卓郎氏。がんが発覚した時にはすでにステージ4で、余命4ヵ月の宣告を受けました。がんを公表後、森永氏のもとには、がん治療に関するさまざまなアドバイスが届いているといいます。今回、森永氏の著書『がん闘病日記』(三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売)より、現在も精力的に執筆活動を継続する森永氏が、方々から届く「がんの治療法」にまつわる情報に対して抱いている「社会科学者」としての見解について、見ていきましょう。

森永氏が推奨された「体を温める」がん退治法

体を温めるのががん退治に有効だという説も複数寄せられた。

真偽のほどは別にして、がん細胞は熱に弱く、42℃を超えると死んでしまうというのだ。だから体を温めることを優先すべきだという。

がん細胞が42℃で死んでしまうかどうかは別にして、体温を上げると健康になるということは昔から知られている。

体が弱った人が温泉旅館に長期宿泊して湯治をするという風習は、日本でも古代から存在するから、一定の効果があることは事実だろう。

実際、私も冬場は「貼るカイロ」を体の前後につけていたし、風呂も長めに入るようにしている。週に1回は近所のスーパー銭湯に出かけて、温泉にも入っている。

ただ、それでがんが縮小したという証拠はいまのところない。

森永氏が推奨された「がんに有効」な抗寄生虫薬

イベルメクチンは、2015年にノーベル賞を受賞した北里大学の大村智教授とアメリカのメルク社の共同研究で開発された抗寄生虫薬だ。

イベルメクチンは、新型コロナウイルス感染症が拡大したときも、効果があるのではないかと言われたのだが、治験が行なわれた結果、有意な効果は見られないという結論になった。

そのイベルメクチンががん治療に大きな効果をもたらすという見立てが一部の医療関係者のあいだで広がっている。

実際、私の知人でも海外から通販でイベルメクチンを取り寄せて服用している人がいる。コストも安くて、副作用もほとんどないというのだ。

ただ、主治医に尋ねたところ、副作用は存在するそうで、効果もたしかではないということで、私は服用をあきらめた。

「多くのがん患者を救う」名医がいるクリニック

「この病院やクリニックにがん治療の名医がいて、多くの患者を救っている」という情報も数多く寄せられた。

わが家はトカイナカ暮らしで、提案された医療機関は、家から少なくとも数時間以上かかる場所ばかりだったので、受診しようとは思わなかったが、そもそもがん治療にブラックジャックのような名医が存在するのだろうか。

たとえば、手先が器用で、とてつもないスピードで正確な手術ができる脳神経外科医は存在している。がんの場合も手術で患部を摘出することはあるが、多くは抗がん剤による化学療法や放射線治療だ。そのときに、医師の技量によって、結果にとてつもない差が生まれるとは考えにくいのだ。

アドバイスしてくれる人は3タイプに分類できる

正直言うと、私のところに寄せられた大量のアドバイスのなかで、これはやってみようと判断した対策はひとつもなかった。

ただ、多くの人が極めて熱心にアドバイスをしてきてくれる。それはなぜなのか。アドバイスをしてくれる人は、おおまかに3種類に分かれていると思われる。

第一は、純粋に私の快復を祈っている人たちだ。

自分にできることは何かを考えて、その知識の範囲内で提言をしてくる。

「この本を読んだらいいですよ」「このネット記事を見てください」というのが、典型的なものだ。

第二は、私を広告塔として利用しようと考えている人だ。

新興宗教のお誘いが典型だ。もし私が入信したあと、がんからの生還を果たしたとする。それは新興宗教にとって格好の宣伝材料になる。

一方、私が命を落としたとしても、入信したことを無視しておけばよい。つまり、ノーリスクの賭けになるのだ。

また、がん治療に関する「独自理論」を持つ人にとっても、私がその理論に従った治療を行なって快復したら、それは自身の理論が正しかったという証明になるので、大きな満足が得られる。

実際、私のところに届いた手紙のなかにも、「森永さんのがんをこの方法で治癒させれば、私の理論が正しかったことを世間に納得させることができるので、ぜひチャレンジしてほしい」と書いたものがあった。

とても正直な人だと思ったが、私は人体実験の材料ではないのだ。

第三は、がん治療ビジネスだ。

がんの自由診療には、高額の費用がかかることが多い。たとえば、健康食品でも、1つ数千円もするものは珍しくないし、奇跡の水でも、ペットボトル1本が1万円を超えるものもある。さらにマイクロウェーブでがん細胞を殺す温熱療法も、治療ワンセットで200万円を超えるサービスを複数のクリニックが提供している。明らかに高収益のビジネスだ。

そうしたところを私が利用して成功すれば、格好の宣伝材料にもなるのだ。

さらに月額負担が数万円程度という金額でも、マルチ商法を採用している健康食品メーカーがある。がんに効くという健康食品を買うためには、その会社に会員登録をしないといけない。会員登録をすると、自ら健康食品を定期購入する必要が出てくるだけでなく、健康食品を世のなかに普及させる義務を負う。そして、新規顧客を獲得すれば、メーカーから一定の報酬が支払われるという仕組みだ。

私はマルチ商法の片棒をかつぐ気持ちをまったく持っていない。

がん治療に対する社会科学者としての見解

なぜ、がん治療に関して、こうした百家争鳴のような状況が起きているのかというと、がんの治療に関しては、まだまだわかっていないことが多いからだと思う。

実際、がんには特効薬がない。たとえば、A型インフルエンザの患者に治療薬のタミフルを投与すると、発熱期間を1日短縮するということが統計的に明らかになっている。また臨床面でいうと、大部分の患者が、投与後すぐに症状が改善すると医師は言う。

ところが、がんの場合はそうはいかない。

効果がすぐに出ることはないし、同じ治療をしても、患者によって効果を発揮する人としない人が明確に分かれるのだ。

実際、私のところに来た「この治療法が効く」というアドバイスの大部分が「私はこの方法でがんからの生還を果たした」とか、「私の知り合いがこの方法で治癒した」というものだった。サンプル数は1が大部分で、最大でも3だ。

私はこれでも社会科学者のはしくれで、これまで多くの調査の分析をしてきた。大雑把に言うと、少なくとも100くらいのサンプルがないと、本当の効果はわからないことが多いのだ。

たとえば、新薬の治験を行なう際には、被験者を2つのグループに分けて、1つのグループにはなんの効果もない偽薬を与える。そして、もう1つのグループには新薬を与える。そして、両方のグループの症状改善に有意な差があるのかを検証する。

新薬に効果があるという仮説を立て、その仮説が間違いである確率を統計学ではP値というのだが、一般的にはP値が5%を切るようでないと効果は立証できないとされる。そして、このP値は、劇的な効果があるものほど、少ないサンプル数でも下がる特徴がある。がんの場合は、劇的な効果を持つ治療法がないのだから、効果の立証のためには、より多くのサンプルが必要になるのだ。

あくまでもイメージだが、ある治療法が効果を発揮する確率が2分の1だとしよう。悪くなる可能性も2分の1だから、効果はまったくないということになる。それでも世の中の人の半分は、この治療法で治ったと考える。仮に3人の人が、全員快復したとする。そうしたことが偶然起きる可能性は2分の1の3乗、すなわち8分の1だから、12.5%の確率で起きることになる。全体の1割以上のケースで起きるのだから、それを目の前にした国民が「効果がある」との声を上げれば、相当な数になるのだ。

もちろん、そうしたことをわかっていて、きちんとした医学論文を送ってきてくれた医療関係者もいた。

ただ、そうした論文を読んでみると、新しい治療法がもたらす5年後生存率の改善は、数%にとどまっている。劇的な効果はない。がん治療というのは、そういうものなのだ。

これは統計的に立証されたものではないのだが、ある医師に話を聞いたところ、がん治療薬として認められて、保険診療の対象にもなっているオプジーボでも、効果を発揮してがんが消滅する人は、全体の2割程度にとどまるという。8割の人を救うことはできないのだ。

森永卓郎

経済アナリスト

獨協大学経済学部 教授

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