気に食わない芸能人にSNSで誹謗中傷したら休業に…でも「表現の自由」があるから私は守られますよね?【弁護士の回答】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月27日 6時15分
SNSの匿名性を利用した誹謗中傷で傷ついている人がいます。「表現の自由」は「何を言ってもいい」ということではなく、権利にはかならず責任が伴います。法整備が進む中で、SNS上での過ちを犯さないために、繰り返さないために、上谷さくら弁護士の著書『新おとめ六法』(KADOKAWA)より一部抜粋して、具体的なSNS上の被害の例と対処法について解説します。
事例1:芸能人への誹謗中傷…休業に追い込む結果に
CASE:ある芸能人が嫌いでSNSで誹謗中傷していたら、休業してしまった。
ANSWER:意見を持つことは自由ですが、ネット上の発言は、それを直接本人の前で告げるのと同様の効果があります。「死ね」などという言葉は、言ったのが一人でも深く傷つき、恐怖を覚えるのは当然です。それを1万人から言われたら、耐えられずに精神を病んだり、自死を選んでしまったりすることは容易に想像できます。そのような社会的背景もあり、刑法の侮辱罪が改正され、刑罰が一気に重くなりました。
解説:「表現の自由」とそれに伴う責任
インターネットは100%自由な場ではない現在、インターネット上では、匿名性を悪用した誹謗中傷などの問題が多数生じており、大きな社会問題となっています。インターネットは手軽に誰でも意見を発信できるという利点があり、時に社会的議論を巻き起こすこともあり、非常に有意義なツールです。したがって、プロバイダは「表現の自由」という重要な憲法上の権利の実現を担っているといえます。しかし、個人がなにを言ってもよいということではありません。そのため、プロバイダが責任を負う場面を制限して明確化する一方で、誹謗中傷などの権利侵害を行った者に責任追及しやすいように、プロバイダ責任法が改正されました。
あなたを守る法律
プロバイダ責任制限法 第1条 趣旨
この法律は、特定電気通信による情報の流通によって権利の侵害があった場合について、特定電気通信役務提供者の損害賠償責任の制限および発信者情報の開示を請求する権利について定めるとともに、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続きに関し必要な事項を定めるものとする。
事例2:軽い気持ちで犯罪行為
CASE:高校生です。飲食チェーン店で、友人がテーブルの調味料のボトルを舐めたりするのがおもしろくて、撮影してSNSにアップした。
ANSWER:刑法の偽計業務妨害、器物損壊にあたります。また民事的にも追及される可能性があります。「仲間内でウケるから」「SNSでバズりたい」などの軽い動機からそんなことをしても、誰も得しません。
解説:「迷惑動画」=「犯罪動画」
投稿された動画は犯罪の証拠動画2023年1月、回転寿司チェーン店で、備え付けの醤油の差し口や未使用の湯呑みを舐め回して元の位置に戻したり、回転レーン上の寿司に、指につけた唾液を何度も擦りつけたりする様子を投稿した少年の動画が炎上。そのチェーン店の株価は暴落し、一時、時価総額が160億円以上も下落したとされる大損害を被りました。この事件では、会社が少年に対し損害賠償請求訴訟を提起したほか、警察が器物損壊罪で少年らを書類送検し、検察庁は家庭裁判所に送致しました。このような「迷惑動画」の内実は「犯罪動画」であり、犯罪の動かぬ証拠です。刑事・民事ともに重い責任を負い、深く反省しても、デジタルタトゥーにより今後長きにわたって人生がうまくいかない可能性もあります。他人が同じことをしたら自分はどう感じるか、誰かに迷惑がかからないかということをよく考えて行動することが重要です。
<ポイント> デジタルタトゥーを完全に消すのは難しい
デジタルタトゥーとは、インターネット上に流れた情報やコメント、動画は、完全に消去することが難しく、半永久的に残るという現象のことです。最近は、企業が人を採用する際、名前をネットで検索して過去に犯罪歴がないかどうか、SNSで不適切な投稿をしていないかなどを調べることも多いようです。単なる悪ふざけのつもりが、取り返しのつかないことになりかねません。ただし、そのような情報がネットに残り続けることには問題もあります。重大犯罪や公共性のある情報ならともかく、罪を償って新たに出発することもとても重要だからです。「忘れられる権利」と呼ばれているものです。最高裁は、検索結果の表示の社会的意義と比較し、個人のプライバシー保護が明らかに優越する場合には削除が認められるという判断をしています。
関連条文
刑法 第231条 侮辱
刑法 第233条 信用毀損および業務妨害
刑法 第234条 威力業務妨害
刑法 第261条 器物損壊等
1. 前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、または傷害した者は、3年以下の懲役、または30万円以下の罰金、もしくは科料に処する。
上谷 さくら
弁護士(第一東京弁護士会所属)、犯罪被害者支援弁護士フォーラム事務次長
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