詐欺師たちは日々技術水準を上げている…がん罹患公表後、一層増えた〈SNS型投資詐欺〉の被害報告に森永卓郎氏が思うこと
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年10月3日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
経済アナリストの森永卓郎氏は、膵臓がんへの罹患を公表したことをきっかけに、自身の名前もSNSが舞台となる投資詐欺詐欺の広告に利用されることが急増したと言います。森永氏の著書『がん闘病日記』(三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売)より、投資被害が巧妙化している現状について、本記事で詳しくみていきましょう。
「短期間で数倍、数十倍のリターン」投資詐欺の被害急増
2024年3月7日、警察庁がSNS型投資詐欺の被害状況を初めてまとめた。2023年の認知件数は2,271件、被害総額は277億9,000万円だった。
問題は、被害が急増していることだ。月別の状況をみると、2023年前半は、1カ月あたり100件前後だったのが、7月には204件と倍増し、12月には369件と4倍近くに増えている。
詐欺の典型的な手口は、SNS上に著名人が投資を勧誘する広告を掲載し、それをクリックさせることから始まる。男性の場合フェイスブック、女性の場合はインスタグラムがもっとも利用されている。
クリックすると、LINEのグループチャットに誘導され、そこで著名人自ら、あるいはそのアシスタントを名乗る人物が投資のアドバイスをしてくる。短期間で数倍、数十倍のリターンが得られる投資商品を推奨してくるのだ。
広告に登場する著名人は、堀江貴文、前澤友作、澤上篤人、岸博幸、村上世彰、桐谷広人といった経済の専門家たちなのだが、じつは私も2023年の初めくらいから、盛んに詐欺広告に利用されてきた。
詐欺へ利用され始めたのは「がん罹患」がきっかけ
私のところには、詐欺を疑う人たちから頻繁にメールで連絡が来るのだが、がんへの罹患を発表してから、連絡が激増するようになった。
ITの専門家が調べてくれたところによると、私の名前を騙ったネット上の詐欺広告は400種類以上あるというのだが、がん罹患を公表してからの詐欺広告は、病気を逆手にとったものに変わった。
「私はすい臓がんにかかってしまって、余命が長くありません。そのため、これまでの研究で獲得した投資のノウハウをすべてお伝えしたいと思います」というのが基本的なストーリーだ。
広告をクリックして誘導されたグループチャットには、数十人から数百人が参加していて、それぞれが「大儲けができた」と自慢をするが、そのほぼすべてがサクラだ。もちろん投資を勧誘する著名人も、写真を勝手に使われただけの偽物なのだが、被害が急増しているひとつの要因が手口が巧妙化していることだ。
たとえば、グループチャット上で指導する著名人に対して、「本物の先生ですか?」という質問をすると、運転免許証の画像を送ってきたり、生成AIを用いて作成した本人に似せた音声メッセージを送ってくる。
私のところには、いまでも毎日平均3人ほどの被害者から連絡が来るのだが、詐欺師たちが日々技術水準を上げていることが、その連絡内容からもよくわかる。
被害者は本当に「ファン」だったのか?
ただ私は、被害者にも一定の責任はあると考えている。たとえば、偽造された私の免許証は、住所が代官山のタワーマンションになっている。私がそんなところに住んでいないことは、私のことを少しでも知っていればわかるはずだ。
音声メッセージも、私のラジオを聴いているリスナーであれば、違和感を覚えるはずだ。 何より、ふだんから投資のリスクを叫び続けている私が、大儲け確実の投資など勧誘するはずがないのだ。
被害者の多くが、私のファンだから、ついつい騙されてしまったと言うのだが、正直言って、本当のファンなのか、疑わしいと思う。それは、私と同様に、投資のリスクを警告し続けている荻原博子氏の偽物に騙されてしまう被害者がたくさんいることからもわかる。
投資への「アドバイス」を鵜呑みにすべからず
もうひとつの問題は、最近の投資熱だ。
警察庁も「SNSの普及に加え、投資への関心が高まっていることが影響しているのではないか」とみている。政府自体が「投資元年」「貯蓄から投資へ」と投資推奨をしているのだから、投資熱が高まるのはある意味当然だ。
しかし、株価の裏付けは、企業の純資産なのだから、経済成長率以上の平均株価の上昇は、通常はありえない。だから「数ヵ月で10倍」といった高利回りを提示された段階で「それはおかしい」と思わないといけないのだ。
また、投資のアドバイスをするためには、金融商品取引法第29条に基づく登録を受ける必要がある。誰が登録しているのかは、金融庁のホームページで確認できる。もちろん私は登録などしていないから、投資助言業の資格のない私から投資のアドバイスと言われた途端に詐欺を疑わないといけないのだ。もちろん、もっとも悪いのは詐欺師たちだ。
警察庁も、2024年3月5日に全国の警察に対して、専門の捜査班を作って実態解明を進めるよう指示した。ただ、犯行が海外で行なわれているとみられることから、犯人にたどり着くためには、海外の捜査機関との強力な連携が不可欠だ。
現にこれだけの被害が出ながら、いまだに1人の犯人にもたどり着いていない。国会は、SNS型投資詐欺に対抗するための新法を早急に整備していく必要があるだろう。
森永卓郎
経済アナリスト
獨協大学経済学部 教授
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