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「糖尿病だから、糖質制限をする」が実は危険な理由【総合内科専門医が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月24日 11時0分

「糖尿病だから、糖質制限をする」が実は危険な理由【総合内科専門医が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

血糖値が高いということから誤解されていますが、実は、糖尿病の方の体は「糖質不足」に陥っています。血液中は糖が溢れているはずなのに、なぜ糖質不足なのか。糖質を摂らないとどうなるのか。また、糖質はどれだけ摂るとよいのか。糖尿病治療に詳しい團茂樹(だん・しげき)医師が解説します。

糖尿病のコントロールでは、食後血糖スパイクを抑えることも大切

糖尿病の方は、毎食ご飯一膳(もしくはご飯一膳相当の主食)を摂って、かつできる限り主菜と副菜をいっぱい食べてください。

血糖値というのは血液中のブドウ糖濃度のことであり、食後血糖値に直接影響するのは、その食事における「ブドウ糖換算量(wtGL)」です。ブドウ糖換算量とは、その食品が血糖値に与える影響を、ブドウ糖に換算して表現した指標です。ざっくりと「食品中のブドウ糖量」と理解して構いません。

糖尿病のコントロールでは、HbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)を改善することだけでなく、食後血糖スパイクを抑えることも大切です。

HbA1cとは、血糖コントロールの状態を示す指標です。6.5%以上だと糖尿病が疑われます。

HbA1cを7%未満に維持することが推奨されてきましたが、糖尿病に関連して起こる脳梗塞や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患を防ぐには、それだけでは足りず、食後血糖スパイクを抑える必要があることがわかってきたのです。

糖尿病の方は、食後血糖スパイクを防止し、かつ大事なエネルギー源としてのブドウ糖をしっかり体内に取り込むことが大事です。そのために必要なのが、「適正糖質」の概念です。

(※本稿は、炭水化物食の過剰摂取かつカロリー過剰摂取に起因する高度肥満型糖尿病に関するものではない点にご留意ください。こちらのタイプは、血液中はもちろんのこと、筋肉を含む内臓組織にまで糖は行き渡っており、むしろそれが過剰なために、種々の臓器で脂肪新生まで生じていると考えられます。こちらのタイプは、程度によっては短期のカロリー制限を含む教育入院が必要かもしれません。)

適正糖質とは?

私の提唱する適正糖質とは、糖尿病というインスリン作用低下状態に合わせた下記条件を満たすブドウ糖換算量(wtGL)のことです。

【条件①】食後血糖スパイクを起こさないこと  ⇒食後血糖スパイクを放置し続けていると、膵臓からのインスリン分泌反応が悪化します。インスリン分泌反応が低下すると食後血糖スパイクを起こし、悪循環に陥ります。

【条件②】エネルギーとしてのブドウ糖を体内に十分届けること  ⇒糖尿病の方の筋肉や内臓組織は、本来必要なエネルギーであるブドウ糖が不足している状態にあります。

上記2つの条件を満たすブドウ糖換算量(wtGL)が、適正糖質です。

糖尿病の方の適正糖質 ~1食の基本は「wtGL値40」で決まり

理想的な糖尿病の治療域として、HbA1c7以下のみならず80〜180mg/dlが勧められている現状から、食後血糖スパイクを180以下にするブドウ糖換算量の設定が必要と考えます。

以前お話しした75gブドウ糖負荷試験とテストミール糖尿病負荷試験の結果から、糖尿病の方の1食における適正糖質はブドウ糖換算量にして40gあたりが妥当と判断します。ご飯単独でいうと一膳150g相当ですので、覚えやすいのではないでしょうか。

しかしご飯単独で食べるのではなく、主菜や副菜をしっかり加えた料理全体として考えると、ご飯の量は150gより多くできます(※)。

※ご飯などの主食食材の量が同じなら、主食を単独で摂るよりも、料理全体のwtGLはより低下します。つまり血糖値はより下がるということです。詳しくは関連記事『「ご飯だけ」より、「牛丼」や「天丼」のほうが血糖値に良い理由【総合内科専門医が解説】』で解説しています。

糖尿病の「体」は、実は「糖質不足」に陥っている

糖尿病の方の血糖値が高いことについて、「単に糖質をいっぱい摂っているから、身体中のブドウ糖が過剰にあるのでは?」と考えてしまう方は多いのではないでしょうか。

しかし、ちょっと考えてみてください。

糖尿病のない健康な方は、糖質をある程度いっぱい摂ったとしても、血糖値は基準範囲内でコントロールされています。それは、膵臓から分泌されるインスリン(ホルモンの1種)がきちんと働いて、血液中のブドウ糖を筋肉や肝臓などの内臓組織へエネルギー源として供給しているからです。

糖尿病の方は、インスリンがうまく作用しないために、筋肉や内臓組織にとって必要なエネルギーであるブドウ糖が血液からうまく取り込まれていない状態になっています。その結果、血液中にブドウ糖が溢れてしまうのです。

糖尿病の方とそうでない方の違いは「インスリン作用」です。

血糖値が高いということから誤解されていますが、本当は、糖尿病の方の体は「糖質不足」なのです。

<糖質制限で糖尿病が悪化した実例>

糖尿病の悪化を気にするあまり、無理な糖質制限を繰り返す患者さんたちを何人か診察してきました。先ほど、糖尿病の方はエネルギー源としてのブドウ糖を体にうまく取り込めないと説明しましたね。ですので意外なことでしたが、その患者さんたちのほとんどは元気で、大した自覚症状はありませんでした。これは、不足するブドウ糖に代わるエネルギーとして、脂肪(遊離脂肪酸)がカバーするように体質変換されていたからでしょう。

とはいえ、どの方も共通して脂質異常や糖尿病の悪化をきたしていました。

一体なぜなのか。糖尿病自体だけでもインスリン分泌反応は低下してるにも関わらず、その上さらに糖質制限下では当然、体内へ糖を取り込むのに欠かせないインスリン分泌反応は極端に低下しています。その状態でわずかな糖が食事として入ってきても、インスリンはうまく働かないばかりか、体内は脂肪のエネルギーに占拠されている…。そう考えるとどうでしょう? 食事の糖は血液中にとどまってしまいます。

具体的に、ご飯半分くらいのわずかな食事を摂ったとしましょう。これはブドウ糖でいうと約20g程度です。平均的の血液量は大体5Lくらいです。血液から糖が出ていかないという仮定で計算すると、20g÷5L=400mg/dl。つまり、ご飯半膳で血糖値400mg/dlという計算になります。

糖質制限は恐ろしいのです。

wtGL値40でも血糖コントロールが芳しくないときは…

wtGL値40で血糖コントロールが芳しくないときは、次のようにします。

①wtGL値40を基本に、体内に十分なエネルギーとしてのブドウ糖を届ける方針は貫く

②食後血糖スパイクを避ける工夫  《工夫1》主菜でタンパク質を増やし、インスリン分泌追加反応に期待  ⇒インスリン反応を少しでも高めてブドウ糖をエネルギーとして血液から体内へ伝達すれば、体内はブドウ糖で潤い、筋肉をはじめとする組織細胞の活性化に繋がり、血糖値は下がる。win-winの関係を築けるのです。腎機能にもよりますが、一食につき最低でもタンパク質20g以上になるよう工夫することが大事です。

《工夫2》副菜によるブドウ糖吸収抑制反応に期待

《工夫3》経口薬や注射薬の併用  ⇒インスリン反応低下が著しいときは、食事療法だけでは難しい症例も多いことは事実です。食後血糖スパイクを放置し続ければ、膵臓からのインスリン分泌反応のさらなる悪化を招きます。それ防ぐには当然、機を見て便なる医薬品介入が必要となります。その一方で、食後血糖スパイクを抑える工夫を続けると、たとえ長くインスリン注射に頼っていた方でも、やめることができた方もいます。

2型糖尿病は良くも悪くも、あなたや主治医との協力のもとで変化します。

しかし、何事にも言えますが、早期発見・早期治療に越したことはありません。

繰り返しますが、糖尿病における1食の基本は「wtGL値40」で決まりです。適正糖質で食後血糖スパイクを防止しつつ、大事なエネルギー源としてのブドウ糖をしっかり体内に取り込んでいきましょう。

團 茂樹(だん・しげき)  宇部内科小児科医院 院長、総合内科専門医

日本大学医学部附属病院で血液のガン治療に従事した後、自治医科大学へ国内留学、基礎研究分野の経験を経て大学病院や地方病院に勤務。その後、遺伝子研究の本場・カナダオンタリオ州立ガンセンターで遺伝子生物学に関する基礎研究に従事。帰国後、那須中央病院の内科部長を経て、宇部内科小児科医院副院長に就任。その後3年間、千代田漢方クリニック院長を兼任。以来16年余り漢方治療を導入。2010年から現職。2015年に総合内科専門医を取得。 総合臨床医として様々な症例に携わるとともに、臨床で培った経験や医療情報の中から選りすぐったアドバイスを行うダイエット法には定評がある。著書に『糖尿病は炭水化物コントロールでよくなる』(2022年6月刊行、合同フォレスト)がある。

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