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「コミュニティ」を通してオンラインとオフラインを融合…ホームセンター〈カインズ〉が目指す「DIY」の未来のカタチ【対談】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月20日 11時15分

「コミュニティ」を通してオンラインとオフラインを融合…ホームセンター〈カインズ〉が目指す「DIY」の未来のカタチ【対談】

(※写真はイメージです/PIXTA)

29都道府県下に239店舗のホームセンターを展開する「カインズ」。DIYを「文化」にすることを目標に掲げ、DIY専門のオンラインコミュニティ「CAINZ DIY Square」を運営しています。本記事では『コミュニティドリブン経営 ファン起点で広げるビジネスの新潮流/著者:小父内信也氏』(幻冬舎)より一部抜粋し、DIYの普及に精力的に取り組んでいるカインズがどのようにコミュニティを活用しているのか、対談形式でご紹介していきます。

コミュニティを立ち上げ、オン・オフ両面で顧客をサポート

小父内 あのカインズが本気でDIYコミュニティに取り組んでいる! 3年前にご担当の澁谷さんと初めてお話しした時、大変興奮したことを鮮明に覚えています。全社戦略の根幹とも言えるコミュニティについて、あらためて、澁谷さんにお話を伺いたいと思います。2021年にスタートした、オンラインのDIYコミュニティ「CAINZ DIY Square」には2024年5月時点で4万人のメンバーが在籍しています。このコミュニティの運営は、「DIYer 100万人プロジェクト」の一環だそうですね。

澁谷 カインズでは2019年から「DIYer 100万人プロジェクト」をスタートしました。くらしを良くするために自分でやってみることのすべてを「DIY」と捉え、日曜大工や、調理・洗濯等の家事、キャンプ、ガーデニング等を行う「DIYer(ディーアイワイヤー)」をサポートするための取り組みを行っています。将来的には「DIYer」を増やし、DIYを日本人の生活文化にすることを目指しています。

小父内 私は以前、御社がDIYを趣味で終わらせず、生活の一部と捉えることが当たり前になる世界を目指していると聞き、大変ワクワクしました。その夢を実現するために、オンラインコミュニティを導入されたのでしょうか?

澁谷 これまでは店舗・ワークショップというオフラインでのお客様との接点がメインでしたが、オフラインだけでなく、オンラインという新たな接点をつくることで、お客様のくらしをトータルでサポートし、DIYを生活文化にしていきたいという想いから「CAINZ DIY Square」を立ち上げることになりました。「店舗でのワークショップにお越しいただいたあと、作った作品をどう活用されているのだろう」とこちらが疑問に思っても、オフラインのつながりだけではなかなか把握しきれません。ですが、オンラインのコミュニティがあれば、お客様のお声も集まりやすいので、お客様をもっと具体的にイメージすることができると考えました。

小父内 たしかに、ワークショップだけだと接点を持てるのは一瞬だけですよね。実際にコミュニティを立ち上げてみて、どのような反応がありましたか?

澁谷 実際にコミュニティを運営してみると、ご自宅でのDIYの困り事を投稿してくれる方が多くいらっしゃいました。それに対して、お客様同士でアイデアを出し合い、解決に向けてサポートするという流れも生まれています。「顧客理解を深めたい」、そして「お客様のくらしをサポートしたい」という想いでコミュニティを立ち上げたのですが、それが実現できているのかなと感じています。

小父内 オンラインコミュニティであれば、お客様同士の物理的な距離も超えられますし、過去のやり取りなども資産になるという点では時間も超えられる。ボーダーレスで、タイムレス。その価値は非常に高いものだと思います。

澁谷 たしかに、そうですね。店舗に来て質問していただくこともできますが、実際のお客様のお部屋の間取りや状況が見えないのでオフラインだとできるサポートにも限界があります。しかし、オンラインであれば、具体的なイメージをもとにお悩みに合った商品のご提案までサポートすることができます。実際にお部屋の内装を変えたお客様がいらっしゃったのですが、部屋が変わっていく過程を投稿してくださったので、見ている私たちもお客様と一緒に部屋を作っているようなイメージを持つことができ、完成した際はとても嬉しかったですね。

ID連携により、オン・オフの行動を紐付け、顧客理解を促進

小父内 コミュニティを盛り上げるためには、施策が必要です。どのようなものを展開されているのでしょうか?

澁谷 「CAINZ DIY Square」には大きく3つのメニューがあります。1つ目は自分で作ったDIY作品の写真を投稿することができる「作品投稿」、2つ目は作品の作り方をシェアできる「DIYレシピ」、3つ目はDIYに関する質問ができる「DIYトーク」です。他には、プレゼントが当たるキャンペーンの実施や、コミュニティ内で獲得したポイントに応じてコミュニティランクが上がるランク制度を導入しています。ポイントはオンラインだけでなく、オフラインのワークショップ参加でもたまる仕組みになっており、ポイントのランクに応じた特典をプレゼントしています。

小父内 どの施策も素敵ですね。ちなみに、「DIYトーク」では、どのような質問が多いですか?

澁谷 「DIYトーク」にはさまざまな投稿をいただいています。たとえば「この絵を飾りたいのですが、どのような飾り方をすればいいですか?」や「このお花の元気がないのですが、誰かアドバイスをください」など、DIYのことならなんでも気軽に質問ができる場になっています。また、コミュニティ内には「教えて!キャプテン」というメニューがあり、カインズの専門スタッフ=キャプテンから、プロのアドバイスを受けることができるようになっています。実際にはキャプテンよりも先にコミュニティメンバーのみなさまが回答してくださることも多いですね。

小父内 プロであるキャプテンよりも先に回答されるメンバーがいるのはすごいですね! 熱量が高く、知識も豊富なDIY好きが集まっている、とてもやさしくて温かいコミュニティなのではないでしょうか。

澁谷 たしかに、そうですね。「DIYのカプセルトイを見つけました」というような何気ない日常のトークなどでも盛り上がっており、とても温かい空気感がつくられていると思います。

顧客からの喜びの声が、社員のやりがい創出にも寄与

小父内 安心して発言できる、つまり、コミュニティメンバーにとって、心理的安全性がある場所なのでしょうね。しっかりと、ファンに愛されているコミュニティという印象を受けます。

澁谷 ファンの中には「このコミュニティが生き甲斐です」と言ってくださる方もいらっしゃいます。コミュニティがお客様の日々の生活に潤いを与えているのではないかと考えています。コロナ禍でなかなか人との交流ができなかった時期もあったのですが、オンラインコミュニティでは常に誰かとつながっており、自分で作った作品に対して反応がもらえることは大きなモチベーションになっていたのかなと感じています。

小父内 コミュニティの開設当初(2021年)は、まさにコロナ禍でしたよね。DIYは自分一人でも楽しめるかもしれませんが、誰からも反応がもらえないというのは寂しいですよね。そのなかで、つながる場を求めた方も多かったでしょうね。一方で、社内の反応はいかがだったのでしょうか?

澁谷 社内でも大きな反響がありましたね。ワークショップで一緒に作った作品がその後、お客様のご自宅でどのように使われているのかということをコミュニティの投稿を通して知ることができるようになったので、店舗スタッフのやりがいにもつながっているようです。また、社内メンバーから「この新商品のキャンペーンを展開したいのですが、コミュニティでできないですか?」などと声をかけてもらう機会が増えました。社内のメンバーの中でもコミュニティの存在が日に日に大きくなっていることを実感しています。

小父内 社内のメンバーもファンが集うコミュニティに価値を感じ、活用法を模索しているのですね。実際にコミュニティを活用した施策があれば、教えてください。

澁谷 カインズでオーダーカット家具を販売するサービスが新たに始まったのですが、そのオーダーカット家具を実際に使ってDIYでアレンジしてくれるモニターを募集しました。短期間の募集にもかかわらず、約120件もの応募があり、その反響の大きさに驚きました。

小父内 短期間かつ、濃いユーザーだけにアプローチできるのもコミュニティの強みです。DIYが大好きなファン120人のモニターを集めるのも、コミュニティなしではきっと大変だったはずです。これは、非常に大きな価値ですよね。

ポイントは、小さい火を徐々に広げていくこと

小父内 ファンコミュニティ立ち上げのポイントを教えてください。

澁谷 コミュニティ立ち上げ当初に小父内さんに教えていただいたなかで印象的だったのが、「コミュニティでは小さい火を徐々に広げていくことが重要だ」という言葉です。教えていただいた通りに最初は10名のコアメンバーから始めたのですが、正直にお話しすると、もっと勢いよく大きく始めたほうが良いのではないかという声も社内で上がっていました。ですが、少人数のコアメンバーから始めたおかげで、運営の土台を築くことができ、コミュニティの活性化に大きくつながりました。小さい火を徐々に広げていくことは非常に重要なポイントだと思います。

小父内 まずは小さいことからコツコツ積み上げていくことが本当に重要です。「CAINZ DIY Square」は、今では年間15万アクションがある熱狂的なコミュニティとなっています。これまでコミュニティを見てきたなかで、印象的なユーザーのことやエピソードなどがあれば教えてください。

澁谷 先ほどお話ししたコアメンバーのうちの一人は、カインズのことが好きになりすぎて、今ではカインズでアルバイトメンバーとして働いています。その方の自宅をコミュニティの取材で訪ねたことがあるのですが、DIYで作った作品で溢れていましたね。

小父内 一緒に働く仲間になってくれるというのは、コミュニティの究極の姿ですね! 他に印象的なエピソードはありますか?

澁谷 今までワークショップに一度も参加したことがなかったお客様なのですが、コミュニティの投稿を見たことがきっかけで、年間100回以上もワークショップに参加してくださるようになった方もいらっしゃいました。また最近では、お客様同士、オンラインでつながったことをきっかけに、リアルでもつながっている方々もいらっしゃいます。中にはご自宅でワークショップを開催して、そこに他のコミュニティメンバーを招待している方もいらっしゃいますね。

小父内 自宅でワークショップを開催するのはすごいですね。どんどん広げてくれるアンバサダーのような存在になっているのですね。ちなみにコミュニティを始めるにあたって、大変だったことはありましたか?

澁谷 コミュニティを盛り上げるという意味でも、立ち上げた当初は誰も反応しない状態をつくらないようにスピーディなコミュニケーションを心がけていたので、少し大変な部分がありました。投稿があったらすぐ運営からコメントを返したり、〝いいね〟を付けたりして、コミュニティに投稿することへの心理的なハードルを下げる努力をしました。今考えると、必要なプロセスでしたね。

小父内 たしかに、当時の澁谷さんは、コミュニティ活性化のために、運営サイドとしてできる限りのことをされていましたし、非常に努力されていましたよね。現在、コミュニティに所属しているメンバーの属性はどのようなものでしょうか?

澁谷 当初は女性の割合が多くなると想定していたのですが、男女比はおよそ1:1です。投稿が多いのはどのような属性の方なのかという分析はこれから進めていきたいと思っています。

小父内 ちなみに、コミュニティでの投稿を見て、商品の購入につながるケースはありますか?

澁谷 そのようなこともあります。積極的に投稿してくださるお客様がいるのですが、そのお客様が使っていたカインズのオリジナル商品のドライバーを、投稿を見て購入したという方がいらっしゃいましたね。

小父内 それは良い流れですね。さらにコミュニティ内で商品を購入できたらいいですよね。

澁谷 それはとてもやりたいと思っていることのひとつです。さらに、DIYを極めているコミュニティメンバーの中には、自分の作品を販売したいと思っているような方もいらっしゃいます。そのようなマッチングなどもできたら面白いと考えています。

コミュニティメンバーの年間購入額は、会員平均の1.8倍

小父内 コミュニティ内では、さまざまなデータが取得できます。御社がコミュニティ内で行っているデータ分析と、その結果について教えてください。

澁谷 コミュニティに所属するメンバーはカインズ会員様の平均と比較して、1.8倍ほどカインズでの年間購入額が高いことが分かっています。また、コミュニティメンバーはアクション回数などに応じて1~5段階にランク分けされているのですが、ランクごとに見てみると、ランク5(最高ランク)のメンバーはカインズ会員様の平均と比較して、年間購入額が6.4倍高いという結果が出ました。購買時点以外でお客様と継続的に関わり続け、コミュニケーションをとることができるため、お客様のロイヤル化にもつながっています。

小父内 それはとてもわかりやすい結果ですね。ランク5の方たちの属性をさらに細かく分析していくと、より詳細なデータが取れるかもしれませんね。ちなみに、ランク5になると何か特典のようなものはあるのですか?

澁谷 ランク5になると最上位を表すバッジが付いた非売品の「プラチナエプロン」やオリジナルのノベルティ等がもらえるという特典があります。プラチナエプロンをつけてワークショップに参加されたり、刺繍やペイントをしてオリジナルのものにカスタムされたりしている方もおり、金銭的な価値よりもモチベーションにつながっているようです。

小父内 プラチナエプロンというのは面白いですね。非常に活性化している御社のコミュニティですが、運営する上で、どのようなKPIを設定されていますか?

澁谷 KPIは会員数のみを設定しています。DIYを文化にするということがミッションですので、コミュニティがあることで売上を上げるのではなく、ファンを増やしていくことでおのずと売上が上がっていくと考えています。

小父内 どのような導線でファンを増やしていこうとしているのでしょうか?

澁谷 現在はカインズアプリを中心に告知を行っています。最近はキャンペーンをきっかけに告知をしている形なので、継続的な流入が課題となっています。カインズは「DIYer100万人プロジェクト」としてDIYを文化にすることを目指しているので、今後はカインズ会員様以外のDIYが好きな方に向けてもコミュニティを拡大していきたいと考えています。

小父内 信也

株式会社Asobica

取締役CCO

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