顧客の声を取り入れてリニューアルした商品が〈売上60%増〉を達成!宮崎発の自然食品通販「タマチャンショップ」のコミュニティ活用術【対談】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月27日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
宮城県都城市に本拠を置くネット通販の自然食品店「タマチャンショップ」。運営会社の「有限会社九南サービス」は、オンラインコミュニティ「タマリバ」の運営も行っています。本記事では『コミュニティドリブン経営 ファン起点で広げるビジネスの新潮流/著者:小父内信也氏』(幻冬舎)より一部抜粋し、幅広いファン層に愛されるタマチャンショップのコミュニティ活用術を対談形式でご紹介します。
商品開発で大切にしているのは、ビジョンのプロダクトアウト
小父内 宮崎発のネット通販「タマチャンショップ」を運営する有限会社九南サービス。同ショップは、楽天市場で何度も表彰されており、幅広いファン層に愛されています。しかし、そんなタマチャンショップも一時は赤字が続き、事業を畳む覚悟までしたといいます。多くの苦難を乗り越えてきた陰には常に支えてくれるファンの存在がありました。事業の成長を加速するコミュニティ運営のポイントや未来の姿について、田中代表(通称キャプテン)とコミュニティを切り盛りする佐々木さんにお話を伺っていきたいと思います。まずはタマチャンショップ全体のマーケティング戦略について、田中代表から教えてください。
田中代表(以下、キャプテン) タマチャンショップは全体のマーケティング戦略があるというよりは、ビジョン経営を軸にしています。我々には「食のワンダーランドをつくる」というビジョンがあり、その中で「美と健康を楽しめる世界をつくる」というコンセプトを掲げています。ビジョンをプロダクトアウトし、自分たちの作品をたくさん作ってお客様に提案していくというのが基本的な方針です。マーケットインというよりも、自分たちが好きなものや世の中にあったらいいなと思う商品を開発して作っています。
私が入社した当初は、ビジョンなどはあまりなく、とにかく売れるものを作って売り上げを伸ばすという考え方だったのですが、赤字が続いてうまくいかない時期がありました。そこで、思い切って本当に自分が好きなお店をつくろうという方向に舵を切ったのです。そこがタマチャンショップのターニングポイントになりましたね。
小父内 それは思い切りましたね。何かきっかけがあったのですか?
キャプテン 通販という世界は競合も多いですし、売り上げを伸ばそうとしていると段々と面白くなくなってしまって、事業をやめることを考えた時期もありました。その時に、1年間自分の好きなお店づくりをして、それで結果が出なかったら本当にやめようと思って、思い切って舵を切ることにしました。その結果、1年で劇的に風向きが変わり始め、自分がつくりたいお店をつくるという方向性で頑張ることに決めたのです。
その時に、どのような想いで自分たちのお店を運営していくのかというコンセプトを考え直してお客様に伝えたところ、多くのお客様から共感していただき、そこから徐々に自分たちの商品を受け入れてもらえるようになっていきました。そこからはずっと変わらずに、自分たちが作りたいものを作り続けてきましたね。
コミュニティ導入の理由は「顧客の声に触れ、距離を縮めたい」
小父内 実際にオンラインコミュニティ「タマリバ」の運営を担当されている佐々木さんにもお話をお伺いできればと思います。オンラインコミュニティを活用する施策を取り入れたのはなぜですか?
佐々木 オンラインコミュニティを導入したきっかけは大きく2つあります。
1つ目は、お客様の声に触れる機会を増やしたかったためです。タマチャンショップをご愛用いただいているお客様はInstagram などのSNSでレビューを上げてくださっています。できる限り確認するようにしているのですが、そのすべてを読むことはなかなか難しいので、コミュニティを活用することで、お客様との距離を縮めたいと考えました。
2つ目は、ご愛用いただいているお客様に、タマチャンショップのことをより好きになってもらうための場を設けたいと考えたためです。当社と同じ自然食品・健康食品ジャンルでは、大手企業を筆頭に多くの素敵な商品が販売されています。一中小企業として立ち向かっていくのはなかなか骨が折れることですので、タマリバを通してお客様と繋がり続けられる環境ができればと考えました。また、お客様と一緒にタマチャンショップの未来を創っていきたいという思いもありましたね。
小父内 お客様と一緒に未来を創りたいというスタンスは素敵ですね。ちなみに、コミュニティを開設する前にファンとの関わりはあったのですか?
佐々木 Instagram などに投稿をしてくださったお客様にDMを送ったり、レビューに返信したりすることはありました。また、キャンペーンを実施し、投稿をしてくださった方にプレゼントを贈るような施策も実施していましたね。
小父内 そのようなこともされていたのですね。しかし、個別の対応にはリソースの観点からも限界がありますよね。そうした状況に対して、会社として課題であると考えていたのでしょうか?
佐々木 そうですね。リソースにも限りがあるので、ひとつに集約したいというニーズはありました。個別の対応だけだと会社に資産としてたまっていかないという面も課題に感じていましたね。また、弊社の経営の考え方としてお客様第一ということを掲げていたので、よりお客様の声やリクエストを商品開発などに活かしていきたいと考えていました。
小父内 なるほど、個別の対応で属人化してしまう課題もありますし、何より会社の資産として残っていくことが重要と考えていたのですね。御社としてはコミュニティの開設を以前より考えていたのでしょうか?
佐々木 代表の田中の頭の中にはコミュニティの構想は数年前からあったと聞いており、ずっとそのようなサービスを探していたようです。
顧客の声を商品開発に活かし、売上60%増を達成
小父内 現在、「タマリバ」で行っている施策を教えてください。
佐々木 コンテンツメニューは大きく分けて5つあります。
1つ目は「しあわシェア」です。タマチャンショップの商品に対する感想や、日常の嬉しかったことや楽しかったことをみんなでシェアしてもらう場になっています。今まではお客様によってSNSに投稿されていたものをここに集約しています。
2つ目は「わたしのひとさら」です。タマチャンショップの商品を使ったレシピを集約する場となっています。お客様から日々、さまざまな商品の活用方法がアップされています。
3つ目は「目安箱」です。お客様からのリクエストや質問などをここで受け付けており、コミュニティスタッフがなるべく早く回答していきます。タマチャンショップのカスタマーセンターは別にあるのですが、カスタマーセンターとも連携しながら回答しています。
4つ目は「回覧板」です。キャンペーンやイベントなどタマチャンショップ側からの大切なお知らせをこのメニューで実施しています。現在は毎月30名のコミュニティメンバーが当選するプレゼントキャンペーンをやっています。
5つ目は「食通新聞」です。このメニューでは読み物を掲載しており、私が実施したコミュニティメンバーへのインタビューをまとめた記事などがあります。
小父内 聞いただけでもすごく楽しそうです。先日、コミュニティ内のファンの声を活かし、ヘルシーなおつまみ「キノコッチ」という商品をリニューアルしたそうですね。販売の状況やお客様の反応、社内の反応はいかがですか?
佐々木 「キノコッチ」はスケジュールがタイトだったこともあり、我々も完全に納得した状態で商品をリリースできたわけではありませんでした。そこで、一旦リリースした後にコミュニティメンバーから意見を募集し、その声をもとに新しい味の開発を進めていきました。リニューアルした後、売り上げが約60%上がり、商品への評価も20%ほど改善しました。今では「キノコッチ」は健康おやつ商品のひとつの柱として、ずっと売れ続けています。社内でもリニューアルした「キノコッチ」は好評で、その経験からもお客様の声を商品に反映させる重要性を社員に理解してもらえました。
小父内 実は「キノコッチ」は私も大好きでリピートさせていただいています(笑)。商品改善にも寄与したコミュニティですが、開設前、抱えていた不安などはありましたか?
佐々木 コミュニティを開設するとポジティブな声ばかりでなく、ネガティブな声も集まってくるのではないかという不安がありました。しかし、実際には本当にやさしくて温かい世界観でコミュニティの運営ができています。この状況は私の想像を超えており、コミュニティメンバーのみなさまがそれぞれ楽しめるように居心地の良い空間をつくってくださっていると感じています。
小父内 コミュニティを運営する側としては、やってみないと分からないことも多いですし、不安もありますよね。弊社のお客様の多くも、最初は不安そうです。しかし、佐々木さんと同じように、やってみたら想像以上にポジティブで温かい場になっていると驚かれます。ちなみに、今後お客様と何か共創していく計画はあるのですか?
佐々木 ゼロから商品開発を進めていくのは少し体力が必要なので、まずはある程度の形ができている商品のサンプルをお客様に送ってフィードバックをもらうということを積極的にやっていきたいと考えています。実際にコミュニティメンバーのみなさまもそのようなことをしたいと考えてくださっている方が多いので、弊社としても非常に心強く感じています。
また、オンライン上の交流だけではなく、オフラインでのお客様との接点も増やしていきたいです。実際にお会いするとお客様の「熱狂度」を感じることもできるので、そのような機会を増やしていければと考えています。
コミュニティ内での交流が促進する、顧客のロイヤル化
小父内 コミュニティ運営を通して、ファンの方と触れ合う場面もあると思うのですが、これまで見てきたなかで、印象的なユーザーのことやエピソードがあれば教えてください。
佐々木 あるお客様の話なのですが、「タマリバ」に参加するまではタマチャンショップの商品を4つほどしか購入していなかったところ、タマリバに参加してからは約60商品を購入してくださったという方がいらっしゃいました。タマリバ内でさまざまなメンバーがアップしてくださっている口コミやレシピを見て、購入を決めていただいたそうです。私の想像以上に、タマリバで得られる情報の存在は大きいみたいですね。
小父内 およそ15倍ですか! すごいですね。それはきっと、「タマリバ」というコミュニティが信頼できる場になっているからこそだと思うのですが、佐々木さんはどのような見解をお持ちですか?
佐々木 口コミやレシピを投稿してくださる方はたくさんいらっしゃいますが、投稿にはその方の人柄が出てきます。それらに触れるうち、投稿者自体のことを好きになるということがあるのではないかと考えています。実際に「この人が紹介している商品なら間違いない」というような認識をされているお客様が多く、安心して新しい商品を注文してくださっているのだと思います。自分が信頼している投稿者が紹介している商品を購入してみて、その商品の良さを感じていただき、また別の投稿を見て、新しい商品を買いたくなるというサイクルがうまく回っていると感じていますね。
小父内 それは理想的なコミュニティの姿ですし、信頼関係が育まれている証拠です。理想型のオンラインコミュニティが形成されているわけですが、どのようなKPIを設定されているのですか?
佐々木 当初は、登録者数を増やすことをKPIとして定めていたのですが、コミュニティを運営していくうちに、単純に登録者数の多さではなく、アクティブユーザー率を上げることのほうが重要なのではないかと気付きました。今後はアクティブユーザー率を維持していくような施策に注力していく予定です。
小父内 ネクストステップとして、実際にメンバーの方に行動してもらうことを重視しているのですね。個人的には、「タマリバ」というコミュニティの名前も秀逸だと思います。
タマチャンショップ好きの人が集まる場所ですし、口コミやレシピがストックされていく場所でもあります。開設して1年でここまで成長しているのは、驚きしかありません。
佐々木 本当にコミュニティメンバーのみなさまには感謝しかありません。2023年の9月にはコミュニティメンバー主導で「タマリバ」のオフ会も開催されました。タマチャンショップの商品を使った料理を提供して交流するようなイベントだったのですが、朝から仕込みを行うなど、本当に熱量高く取り組んでいただきました。
コミュニティで目指しているのは、一体感のある「村」づくり
小父内 2023年冬に、タマチャンショップ主催で大規模なオフラインイベント「タマフェス」を開催されたと聞きました。どのようなイベントなのか教えていただけますか?
佐々木 「タマフェス」は、タマチャンショップの20周年を記念して都城市で開催された食のリアルイベントです。このイベントには、前日の仕込みから当日の販売までをお手伝いしてくださるコミュニティメンバーの方がいらっしゃいました。
小父内 まるで社員のように一緒になってイベントの成功を目指してくれたのですね。なぜメンバーの方は、そこまで高いモチベーションで取り組んでくださったのでしょうか?
佐々木 普段はオンラインのコミュニティで交流しているメンバー同士なのですが、こういったオフラインのイベントで何かをリアルに創り上げるということに楽しさを見いだしてくださる方が多かったですね。弊社はタマリバという「村」を作りたいということを打ち出していて、まさに村のような関係性が築けているのかなと思っています。「タマフェス」に関しては、タマチャンショップの本拠地である都城に来てみたいという気持ちを持ってくださった方もいらっしゃいました。
また、タマチャンショップが一から作り上げたイベントに参加できることにメリットを感じてくださった方もいらっしゃったのかなと思います。実は昨日は「タマフェス」に参加してくださったコミュニティメンバーの誕生日だったのですが、社員みんなでお祝いの動画を撮影して贈りました。ものすごく喜んでくださったのですが、その方から「タマチャンファミリーの一員になれた気がする」という嬉しいコメントもいただきました。コミュニティを開設して1年が経ちますが、温かいコミュニティが出来上がりつつあるのかなと感じています。
小父内 すごく良い関係性ですね。「タマフェス」を通して得られた顧客インサイトについて、キャプテンの見解を教えてください。
キャプテン 「タマフェス」を開催するまでは、自然食品などに興味があるお客様ばかりが来場されるのかと思っていました。しかし、実際に始まってみると本当に幅広い年代のお客様が来てくださり、ご家族で来場されるお客様もいらっしゃいました。オフラインでイベントを開催して、お客様の美容や健康に対するハードルがそこまで高くないことを実感しましたね。
雑穀米の商品もあるのですが、セール時には1週間で10万個も売れます。本当にそんなに多くのお客様が購入してくれているのかと疑問に感じることもあるのですが、雑穀米のような健康食品が家庭に根付いてきたのだと思います。以前はあまりお客様のことを深く知りすぎないようにしようと思っていたのですが、オフラインのイベントを通してニーズを知れたことで、今後のビジョンなどを変える必要性を感じましたね。
小父内 信也
株式会社Asobica
取締役CCO
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