年間6,000万円の損失を訴えられ…「M&A後」契約は白紙に。賠償問題となった売り手の悲劇【弁護士が解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月27日 11時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
事業の譲渡は多くの企業にとって一大決断であり、その過程にはさまざまなリスクが伴います。特に、債務超過の状況での売却は、買い手側にとっても大きな負担となりえます。そのため、売却後に契約不履行や不備を理由に契約解除や賠償請求を求められることは少なくありません。今回は、実際にココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」によせられた質問をもとに、M&A後のトラブルについて、足立啓輔弁護士が詳しく解説します。
M&Aの買い手が膨大な損失が出ていると主張
相談者は昨年、M&Aにより会社を売却しました。
しかし、買い手から重大な不備があるとして、賠償請求または契約解除を検討されています。譲渡金額は100万円で、契約書では賠償の上限を50%と定めています。相談者の在籍中に起きた取引先への商品不備が現在の業務に支障を来しており、年間売上に6,000万円ほどの損失が出ていると主張されています。
そこで、ココナラ法律相談「法律Q&A」に、50万円以上の賠償請求がされる可能性はあるのか、また、裁判に発展する可能性はあるのかについて相談しました。
賠償請求され、裁判へ発展する可能性も
一般論としては、50万円以上の賠償請求がされる可能性があり、それが裁判に発展する可能性もあると考えられます。
賠償額を限定する合意の有効性
私的自治ないし契約自由の原則のもと、本件のような賠償額を制限する合意も、原則として有効であると考えられます。事業者間の契約であるため、消費者契約法の適用により条項が無効となることもありません。もっとも、裁判例では、このような事業者間の免責条項・責任制限条項について、その効力、適用を否定しているものがあります。
業務・資本提携契約が問題となった東京地判平15.1.17判時1823号82頁では、
免責条項は、本件基金拠出に必要な被告の経営内容の開示が信義則に基づき透明性を確保して行われることをその前提としているとしたうえで、
信義則に基づき透明性を確保して本件基金拠出に必要な被告の経営内容を開示しなかった場合には、本件免責条項は適用されないとして、免責条項の適用を否定しています。本件でも、個別具体的な事情によっては、賠償額の上限についての条項の適用が否定される余地があります。
表明保証違反と損害賠償請求の可否
取引先とのトラブルや訴訟の存否については、M&Aの契約における表明保証条項(対象企業に関する財務や法務等に関する一定の事項が真実かつ正確であることを表明する条項)により、その存在について告知、説明の対象となっていることも多いです。また、本件の場合には損失額も高額であることから、事前に売主においてその事情を把握していたのであれば、買主に対し、告知、説明する義務があったと評価される可能性があります。
したがって、事情を把握をしながら事前に告知、説明をしていなかったのであれば、損害賠償責任を問われる可能性があると考えられます。
片方に著しく不利益な契約は無効になることも
まったく別のケースになりますが、事業者間の賃貸借契約において、中途解約の際に残存期間分の賃料を違約金として支払う旨の条項が一部無効と判断された事例があります。
東京地判平8.8.22判タ933号155頁では、
賃貸人と賃借人が、4年の期間を定めて建物賃貸借契約を締結し、当該契約において賃貸人が、 期間満了前に解約する場合は、解約予告日の翌日より期間満了日までの賃料相当額を違約金として支払うという旨の条項を定めていました。
その後、賃借人において賃料の支払が困難となり、約10ヵ月後に契約を解約したため、賃貸人が賃借に対し、条項に基づいて、約3年2ヵ月分の賃料相当額を損害賠償として請求。すると裁判所は、
「解約に至った原因が被告会社側にあること、被告会社に有利な異例の契約内容になっている部分があることを考慮しても、約三年二か月分の賃料及び共益費相当額の違約金が請求可能な約定は、賃借人である被告会社に著しく不利であり、賃借人の解約の自由を極端に制約することになるから、その効力を全面的に認めることはできず」
「一年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり、その余の部分は公序良俗に反して無効と解する」
と判断しました。事業者間においても、片方に著しく不利益な契約は無効になる可能性がありますので、このような請求をされた場合にも、まず弁護士にご相談いただくのがよいと思います。
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