屋根の修理、トイレの修理、廃品回収…あの手この手の詐欺に引っかかってきた82歳の義母が悪徳業者に差し出したモノは?【義父母の介護】<br />
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月19日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
ありとあらゆる悪徳業者の詐欺に引っかかってきた義両親。ついに「不用品高価買取!」を謳った業者に82歳の義母が差し出したのは? 仕事と家事を抱えながら、義父母のケアに奔走する日々が始まった翻訳家・エッセイストとして知られる村井理子さんのエッセイ『義父母の介護』(新潮社)より、義父母の介護に奔走する奮闘記をお届けします。
私の敏感な「妖怪アンテナ」
ここのところ、あまり大きな事件もなく、平穏な生活を送ってくれているはずと思っていた義理の両親だったのだが……。先日、夫の実家に立ち寄った際に義父から聞いた話が若干ホラーだったので、報告させていただこう。
私は自称「妖怪アンテナ(高齢者を騙す妖怪を検知するアンテナ)」の持ち主で、高齢者を狙った詐欺を防止・撃退することに日々執念を燃やしているのだが、そんな妖怪アンテナをすり抜ける業者があとを絶たない。高性能のはずだったアンテナに対抗するように、相手が技を磨いて挑んでくるようになったからだ。手を替え、品を替え、彼らは連日のように高齢者の家にやってきては、様々なトークを繰り広げ、多数のチラシをポストにねじ込み、高齢者のなけなしの現金を搾り取ろうとする。やめてあげてくれないか。弱者をいじめて何がしたいのだ?
振り返ってみれば、義理の両親は過去数年間で、両手では足りないほど様々な詐欺にひっかかってきた。床下の扇風機、屋根の修理、トイレの修理、キッチンの詰まり、廃品回収、ケーブルテレビ、格安電気、格安電話、キャンセルが困難過ぎて十年ぐらい送られて来ているサプリメント……もう、本当にきりがない。騙され耐性が低すぎる。そのたびに、私が解約などの後始末をしてきた。そんな私の悪徳業者への恨みは相当なものである。
そして、毎度思うことなのだが、わが家の義理の両親の場合、半分程度のケースで、わざわざ自分から詐欺に引っかかっているような傾向がある。つまり、こちらから詐欺集団にアクセスして、そしてあっさり騙されているというわけだ。日々、ポストに投げ込まれるチラシやマグネット、あるいは営業電話でコロッと騙されてしまうのである。
私が渡す大事な書類は読まないくせに、チラシは熱心に読むのが高齢者というものだとは重々承知している。やめろと言ったって、不審な業者が無作為にポストへねじ込むチラシを丹念に読むことをやめはしない。なにせ、上手に作られている。高齢者の不安をじわじわと煽るカラーリングや文言が、これは見事だと思うくらいに並べられているのである。例えば「不用品高価買い取り!」だ。世の中、そんなにうまい話はないのだと百回ぐらい言ってやりたい。というか、そういう知恵は高齢者のほうが蓄積してきていると思っていたが、そうでもないのか?
最近、わが家にも、そんな不用品買い取り業者(シャツ一枚からでも買い取りますなどと言い、回収にやってきて、そのまま家に居座り、最終的には高価な品を安く買い叩いて去る)から頻繁に営業電話がかかってくる。私は知らない番号からの電話にはほとんど出ないが、ときどきうっかり出てしまうことがあって、「奥様でいらっしゃいますか? こちらは不用品高価買い取りの……」と始まったら、無慈悲なガチャ切りをするようにしている。
こんな私を見て、夫や息子は「もう少し優しくしてあげても……」と言うが、相手はそもそも私を騙そうとして電話をかけてきており、なんの遠慮がいるのだろう。そのうえ、私にはそういった業者に対する積年の恨みもある。限りある命の、一瞬たりとも業者側に与えたくはない。だから、義父にも義母にも、口を酸っぱくして、「知らない番号の電話には出なくていいです」、「万が一、それが何かのサービスの営業電話だったら、理由をつけて一刻も早く切る!」と言っている。言っているのだが……。
生ごみで撃退⁉
先日、夫の実家に立ち寄った際に義父から聞いた話は、とても恐ろしいものだった。その日、義母はデイサービスに行っていて実家におらず、義父はその隙を狙うようにして私にこっそりと打ち明けてくれたのだ。私はワクワクした。どっきどきだった。楽しんではダメだと思いながらも、次は何があったのかと好奇心を抑えることができなかった。
「実はな……わしが知らないあいだに、母さんが不用品の買い取り業者に買い取りを頼んでしまったようなんや。ほら、よく電話がかかってくるやろ、『どんなものでも買い取ります』とか言ってくる業者。あれや……」
私は、義父の目をしっかりと見ながらウムと頷き、iPhoneのボイスメモの録音スイッチを押した。
「それで、先週のことや。わしは昼寝してたんや。そしたら、なんだか長い間、誰かと母さんが揉めているような声が遠くから聞こえてくる。わしも半分眠ったような状態でな……夢なんか、現実なんか、ようわからんような感じやったんや」
「ほう……」
「そしたらな、男の声で、『いくらうちが買い取り業者だからって、これはアカン!』って、大きな声が聞こえてきたんや。だから、わしは飛び起きた。飛び起きたんやけど、なかなか体が動かない。だから、必死になって、這うようにして玄関に行ったんや。母さんがたぶん、何かやってしもたんやろと思ってなあ」
九十歳の義父、這うようにして玄関に急ぐ、の図である。気の毒過ぎる。
「玄関に行ったら、生ごみの入った袋が置いてあって、業者の男が『信じられへん』みたいな顔して立ってたわ。よくよく話を聞いたら、その男が不用品回収業者で、母さんが回収を頼んだことがわかったんや。だから、わしが真ん中に入って、業者の男には『勘弁したってくれ、本人は何もわかってないんや』って説明してな……それでようやく帰ってもらったんや……恐ろしかったわ……」
義母は義父の知らない間に、不用品買い取り詐欺業者からの営業電話に応じて、買い取りの依頼をし、業者が買い取りに来た当日、生ごみを差し出して逆ギレされた。それが、義父が語ったストーリーだった。
一瞬、爆笑しそうになったのだが、よくよく考えると、非常に危険だったと思う。義父がいなかったら(そのようなシチュエーションは、発生しないようにはしているが)どうなっていたのだろう? 義母が最後まで対応しきれたとは到底思えない。
私は義父に、「お義母さんが電話に出ないようには、できないものですかねえ」と言った。すると義父は、「わしもそう思うんだが、最近は妄想もひどくてな。電話が鳴ると、わしの愛人からの電話だと思って、急いで取ってしまうんや……」
「ヒィッ! 何重にもややこしいッ!」
「いろいろと難しくてなあ……アッ、せっかく来てもらってこんなこと言うのは申し訳ないんだが、そろそろ帰ってくれるか? もう少ししたら母さんがデイから戻ってくる時間や。わしとあんたがここで話しているところなんて見られたら、後からどうなるかわからへん……最近はわしとあんたのことまで疑っているんや……」ということだった。
詐欺、嫁との浮気、愛人からの電話連絡。村井家の大変な日々は、まだまだ続くのであった。
村井理子
翻訳家/エッセイスト
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