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念願の一戸建てを購入し「これで俺も一人前」と幸せを噛みしめたが…25年後、年金生活に突入した65歳・元会社員に市営住宅への転居を決断させた「厳しい現実」

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年8月31日 12時15分

念願の一戸建てを購入し「これで俺も一人前」と幸せを噛みしめたが…25年後、年金生活に突入した65歳・元会社員に市営住宅への転居を決断させた「厳しい現実」

(※写真はイメージです/PIXTA)

「結婚して所帯を持ったらマイホームを持つことは当たり前」「家こそ幸せの象徴」…かつては多くの人がこのように考えていたものです。しかし、やっとの思いで手に入れた家が原因で老後に苦しむケースもあるようです。今回はまさしくそんな状況に陥った65歳年金暮らしの男性の事例を、小川洋平FPが解説します。

夢のマイホーム購入も、定年後に厳しい現実に直面

渡辺正さん(65歳)は長年勤めた会社を退職し、今は年金を受け取りながらアルバイトで生活しています。

現役時代は地方の中堅企業で長年勤務し、ようやく40歳で夢の一戸建てを購入しました。当時は同期や子育て世代の友人達も住宅ローンを組みマイホームを買う人が多く、渡辺さんもマイホームを買うことが「人並みの幸せ」と信じて疑いませんでした。

家計は決して楽とはいえませんでしたが、月々の返済計画も「賃貸の家賃を払うよりローンを払って自分の物になった方が良い」「今は大変だけど、これから給料も増えるだろうし」「何より家を買ってこそ一人前。社会的な信用も得られる」と考えて購入を決めたのでした。

少し背伸びして手に入れたマイホーム。当時は狭い賃貸住宅から広い部屋のある家に引っ越すことができ、妻も子どもたちも喜んだものです。ローンの返済負担は大きかったものの、それでもかなりの満足感がありました。

しかし、その後しばらくして当時の不況の影響を受け、渡辺さんの勤務先では昇給がほとんどなくなりました。賞与も減額されてしまい、手取りの収入はほとんど増えることがなかったのです。

それに加えて、2人の子どもたちの教育費もかさみます。こうした理由で現役の頃はギリギリの家計でなんとか生活をしていて、満足に貯蓄ができる状況ではありませんでした。そして、そうこうしているうちにほとんど預貯金の無いまま定年退職を迎えることに。退職後は、アルバイトで毎月10万円程度収入を得ながら生活していくことにしたのでした。

65歳時点での貯蓄は世帯で500万円ほど、退職金も500万円程度の金額で、住宅ローンは1,500万円程残っている状況でした。

想像上にかかる修繕費に苦慮。渡辺さんが下した決断は…

渡辺さんは厳しい家計の中でもなんとか頑張ってローンを返済し続けていたものの、ローンはあと10年残っています。一方で、マイホームは25年も経つと老朽化が目立つようになりました。屋根や外壁の塗装も色あせてしまい、所々に錆(さび)が見えるようになってきていました。

渡辺さんが地元の工務店に見積もりを依頼すると、屋根と外壁を合計して400万円程度が必要とのこと。それまでにもバスルームやトイレなどの水回りやキッチン、給湯機も交換やメンテナンスが必要になり、総額で200万円程度掛かっていました。今の年金は妻の分と合わせて月額で21万円程度、アルバイトで生活している状態で、ここにきて400万円も支出が必要になるという状況になったのです。

「貯蓄も少ないのに、この状況で400万円も必要なのか……」

この事実を目の当たりにして、いよいよ渡辺さんはこれまで何とか避けようとしていたことを考えなければならなくなりました。つまり、マイホームを手放すということです。子どもたち2人が巣立った今では部屋も余り、広い家を維持すべき理由もありません。

渡辺さんは妻とも相談してあれこれ考えた結果、隣町にある市営住宅への入居を検討することにしました。家賃が安いことはもちろんですが、ある程度土地勘がある場所だということもポイントでした。

住み慣れた広いマイホームから市営住宅への引っ越しには当然大きな抵抗がありました。みんな当たり前に家を買って終の棲家にしているのに、人並みの幸せも叶わなかった。そんな風に気持ちも大きく落ち込んだといいます。

しかし、「お金がない」という現実が消えてなくなることもありません。渡辺さんは修繕費を払いながらあと10年もローンを払い続けることは不可能と考え、妻と相談し、マイホームを手離すという苦渋の決断をしたのでした。幸いにもマイホームはすぐに売却することができ、残りのローンも完済することができました。

こうして当初は不安を抱えながら市営住宅に入居した渡辺さん夫妻でしたが、コミュニティスペースや共用設備が充実していて、環境は思いのほか快適。同世代のシニアも多く住んでいるため、すぐに打ち解けることができました。部屋は狭いものの夫婦二人で暮らすには十分なスペースがあり、家賃が安いだけでなく光熱費も抑えることができ、夫婦二人の年金だけでも生活費は十分に賄うことができます。

それどころか、住宅にかかる費用がぐっと減ったことで、アルバイトで稼いだお金で夫婦で旅行に出かけたり、外食にお金を使ったりすることができるようになりました。結果として、市営住宅での生活は意外にも快適で、マイホームを手離して良かったと考えるようになったのでした。

「家を買ってそこに住むことが幸せだと思っていました。でも、実際に引っ越してみたら持ち家じゃなくても十分幸せです。今はローンという名の借金もなくなり、経済的にも精神的にも余裕ができました。思い切って売ることを決断してよかったと心から思っています」

賃貸の方が合理的。マイホーム購入で注意すべきこと

昔に比べれば考え方も多様化していますが、それでも結婚して家庭を持ち子どもが生まれるタイミングでマイホームの購入を考えるという方は少なくありません。

住宅会社の広告では「月々〇万円~」「家賃と同じくらいの金額でマイホームが手に入る」などのフレーズでマイホーム購入を促すものも多いです。しかし、その裏には住宅ローンの毎月の返済額だけでなく、マイホームには見えないコストが多数存在します。

固定資産税は毎年発生し、火災保険料も賃貸の保険料よりも高くなります。キッチンやトイレ、バスルームなどの設備のメンテナンスや入れ替えも、持ち家では当然自分で負担する必要があります。一方で、賃貸住宅ならば入居者が負担する必要はなく所有者が行うことになります。今回渡辺さんがマイホームを手離すきっかけとなった、屋根や外壁の塗装費用なども負担する必要はありません。

また、賃貸であれば、子どもたちが独立するなどライフステージの変化に応じて引っ越しができて家賃を抑えることができますし、転職を考える場合などでも「自宅から通える場所」といった条件を気にする必要もありません。

そういった意味では、経済的に無理をしてまでマイホームを購入して後々苦労するよりも、賃貸住宅を選びライフステージに合わせて柔軟に住み替えていく方が合理的と言えるでしょう。

マイホームは資金的に十分余裕があり、家族の人生をより豊かにしてくれるものと確信できるのであれば、経済的合理性はあまり考慮せずに購入するとよいでしょう。しかし、仕事が辛くて転職を考えているが住宅ローンがあるから辞められない、ローンの返済が大変で老後の資金が準備できずに人生の豊さを損なってしまいそうなど、マイホームが理由で大事な人生の選択肢を犠牲にしてしまうようでしたら、予算を見直したり、購入を控えたりした方がよいでしょう。

長い人生では何が起きるかはわかりません。勤務先が倒産する、離婚するなどでマイホームから離れなければならないことも起き得ることです。そういった場合にも売却しやすい条件で選ぶことも考慮しておく必要があります。

また、昨今では金利上昇による住宅ローンの負担の増加も懸念されています。現在の日本の状況ではなかなかイメージし難いものではありますが、今後経済が活性化し、企業が事業への投資を活発に行うような状態になれば、毎月の返済額が大きく増えるほどに金利が上昇する可能性もあります。変動金利で借りる場合には金利上昇時に繰り上げ返済することができるように同時に繰り上げ返済資金を準備することも大切です。

マイホーム購入の前には家計を「見える化」して慎重に検討を

今回は、老後にマイホームの維持が困難になり手離した渡辺さんの事例をお伝えしました。理想のマイホームを手に入れることで人生の満足度が向上し、豊かな生活を手に入れることができる反面、経済的に余裕の無い状態で購入するとマイホームに縛られた人生を送ることになる場合もあります。

外壁がボロボロになっているのに経済的な理由で修繕できない、屋根の塗装が剥げてしまい錆(さび)が遠目にもわかるくらいになっているのに修繕費が出せない。実際、そのような状態になってしまっている住宅を見かけることが度々あります。老朽化の影響は当然室内にも及んでいるでしょう。経済的な負担に加えて安全面や衛生面の懸念も出てくるような状態では、何のために家を買ったのかわからず、本末転倒ですよね。

家を買う際には、ライフプランから一生のスパンで家計を「見える化」し、余裕を持って買うことができるのかを考えましょう。その際、修繕費やリフォーム費用などのコストも考慮し、お子さんの教育資金や自分たちの老後の資金を準備できるのか、慎重に考えることが大切です。

小川 洋平 FP相談ねっと

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