“上級国民”の財務官僚、公文書改ざんも〈無罪放免〉の違和感…森永卓郎が「まったく理解できない」と語る〈森友学園問題〉の結末
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月2日 11時0分
(※写真はイメージです/PIXTA)
2016年に起きた森友学園問題。財務省による決裁文書書き換えが明らかになったものの、この件について刑事責任は問われませんでした。経済ジャーナリストの森永卓郎氏は、この検察の判断を「一般常識では考えられない」といいます。著書『書いてはいけない 日本経済墜落の真相』(三五館シンシャ発行、フォレスト出版発売)より、同氏の見解をみていきましょう。
財務官僚は無罪放免…不起訴になった「公文書改ざん」
歴代総理のなかで唯一「反財務省」のスタンスをとった安倍晋三元総理が、2020年8月に辞意を表明した。持病の潰瘍性大腸炎が再発し、体力が万全でないなかで政策判断を誤ってはならないというのが表向きの辞任理由だったが、安倍元総理にとって森友学園の問題がとてつもない重荷になっていたことは間違いないだろう。
森友学園問題とは、大阪市内で幼稚園を経営していた学校法人森友学園が、2016年6月に桁違いの格安価格で豊中市の国有地の払い下げを受けた問題だ。
森友学園は8,770平米の土地を1億3,400万円で譲り受けたが、豊中市が払い下げを受けた隣接区画は9,492平米で15億455万円だった。つまり、森友学園が払い下げを受けた土地の平米あたりの単価は、豊中市の9.6%。10分の1以下の値段だったことになる。
しかも安倍元総理の昭恵夫人が森友学園の籠池泰典理事長と親密にしていたことや、新設される瑞穂の國記念小學院の名誉校長に昭恵夫人が就任していたことから、メディアは安倍元総理がなんらかの便宜を図ったのではないかと厳しい追及を始めた。
その間、財務省は、森友学園への国有地払い下げに関して、政治家の関与を一貫して否定した。おそらく安倍元総理は、森友学園に安く国有地を払い下げてやってくれという指示を財務省に出してはいないはずだ。安倍元総理は戦後唯一といってよい反財務省の政治家だったから、財務省に借りを作るような行動をするはずがない。
実際、2017年2月17日の衆議院予算委員会で、安倍元総理は、民進党(当時)の福島伸享代議士からの質問を受けて、「私や妻がこの認可あるいは国有地払い下げに、もちろん事務所も含めて、一切関わっていないということは明確にさせていただきたいと思います。もし関わっていたのであれば、私は総理大臣をやめるということでありますから、それははっきりと申しあげたい」と答弁した。
安倍元総理が国有地払い下げに実際に関与したかどうかは、財務省にとってはどうでもよいことだった。森友学園問題の疑惑が持ち上がるなかで、60%近かった安倍内閣の支持率が40%を切るところまで急落したからだ。財務省は、安倍元総理を追い詰めるのに成功したのだ。
ところが、北朝鮮がミサイルを撃ち始めたことで内閣支持率が急回復し、それを受けて、安倍元総理は10月22日投票の解散総選挙に打って出た。結果は、与党が3分の2以上の議席を獲得する圧勝だった。これで森友学園問題のみそぎは済んだという見方もなされていた。
財務省が用意していた「まさかのスクープ」
ただ、財務省は二の矢を用意していた。2018年3月2日、朝日新聞がスクープを発信した。財務省が森友学園への国有地払い下げ契約に関する決裁文書を書き換えた疑いがあるというのだ。
3月12日に財務省はこの報道が事実であることを認め、当初の決裁文書から削除された内容は「本件の特殊性」といった文言や、昭恵夫人および政治家らについての記載だったとした。書き換えは2017年2月下旬から4月にかけて行なわれており、財務省は1年間もウソの決裁文書を示すことで国会と国民を欺いていたことになる。
しかも、財務省は、改ざんは本省(佐川宣寿理財局長)からの指示で近畿財務局が行なったことも認めた。
虚偽公文書作成は、懲役1年以上10年以下の重大犯罪だ。ところが、大阪地検特捜部はこの事件を不起訴としたのだ。同時に、国有地を格安で払い下げたことによる背任容疑に関しても、違法性があったとはいえないとした。
一般常識で考えられない検察の判断で、公文書改ざんの刑事責任は問われないことになった。
検察官も行政機構の一部だ。彼らの予算は、財務省が握っている。また捜査に必要な銀行取引や税務関連のデータも財務省の協力なしには得られない。明確な証拠があるわけではないが、検察が財務省への忖度をした可能性は否定できないだろう。
ただ、仮に財務官僚への刑事責任追及ができなかったとしても、行政処分は可能だ。
ところが、2018年6月4日に公表された懲戒処分は、すでに辞職していた佐川宣寿前国税庁長官(改ざん時は理財局長)を停職3カ月相当にするなど、20人を懲戒や厳重注意などの軽い処分で済ませ、麻生太郎財務大臣自身は、閣僚給与1年分を自主返納するだけに終わった。
佐川元理財局長は懲戒免職にすべきだったと私は思う。私だけでなく、ほとんどの国民はそう思うだろう。しかし、現実にはこれだけひどい犯罪をしても“上級国民”の財務官僚は無罪放免になってしまうのだ。
しかし、事件はこれで終わらなかった。
公文書改ざんに関わり、命を落とした職員
2018年3月7日、土地の売却を管轄する近畿財務局職員の赤木俊夫氏が自殺した。決裁文書の改ざんを命じられた赤木氏は、良心の呵責からうつ病になり休職していた。
赤木氏の妻の赤木雅子氏は、2020年3月18日、国と佐川宣寿元同省理財局長を提訴した。
形式上は損害賠償請求や情報開示請求だが、雅子氏は「夫が死を選ぶ原因となった改ざんは誰がなんのためにやったのか。改ざんをする原因となった土地の売り払いはどうやって行なわれたか、真実を知りたい」と語り、本当の目的が真実の追究であると明らかにした。
雅子氏が起こした裁判は3ルートが存在した。1つは、国に対する約1億円の補償を求めた損害賠償請求、2つ目は、佐川元理財局長に対して550万円(その後1650万円に増額)の補償を求めた損害賠償請求、3つ目が、財務省が検察に任意提出した文書を開示する情報開示請求だ。
このうち国への損害賠償請求の裁判は、驚愕の結末を迎えた。
2021年12月15日、大阪地裁で行なわれた裁判で、国側はその場で賠償責任を認め、1億円の請求を受け入れる書面を提出して、裁判が終結したのだ。
全面的に賠償責任を認めることを法律用語では「認諾」というそうだが、私はその言葉を初めて聞いた。国が全面的に責任を認めたのは反省したからではない。裁判が長引くことで真実が明らかになることを防ぎたかったのだろう。
もちろん、この賠償金は国民の税金から支払われるのだ。
裁かれない重大犯罪…なぜ真実が明かされないのか
残りの2ルートの裁判は継続している。
1つは改ざんの指示を出したとされる佐川宣寿元理財局長を訴えたものだ。その裁判の控訴審で、2023年9月13日に口頭弁論が開かれた。焦点は、雅子さんが求めた佐川氏への尋問が認められるかどうかだった。
雅子さんは「最後に裁判官の皆さまにお願いがあります。私は夫がどうして死ななければならなかったのかを知りたいです。
そのためにも、法廷で改ざんに関わった人たちから話を聞きたいです。仕事の上で犯罪行為をしてもなんの説明もせず責任を逃れられることがここで証明されるのはおかしいと思います」と要求したのだが、裁判長は最終的に「尋問を実施する必要はないと考えます」とあっさり退けてしまった。
この控訴審の判決が2023年12月19日に行なわれ、大方の予想どおり大阪高裁は雅子さんの控訴を棄却した。雅子さんは即座に最高裁への上告の決意を表明した。
そして2023年9月14日、雅子さんが財務省に情報開示を求めた裁判の地裁判決があった。財務省が捜査の際に検察に任意提出した文書などを開示するよう雅子さんは財務省に求めたが、文書が存在するかどうかも含めて開示できないと財務省が回答したため、裁判に持ち込んだ。
しかし、判決は、文書の存否を含めて開示する必要がないとし、雅子さんの全面敗訴となった。裁判長は判決理由として、「捜査手法や対象が推知され証拠隠滅が容易になるなど、将来の刑事事件の捜査に支障が及ぶ恐れがある」と述べた。
財務省が検察に提出した文書があるかどうかを開示すると、なぜ将来の刑事事件の捜査に悪影響が出るのか、私にはまったく理解できない。
この事件では、財務省本省の命令で公務員としてもっともやってはいけない「決裁文書の改ざん」という重大犯罪が行なわれ、しかも一人の財務局職員が苦悩のなか、命を落としているのだ。真実を明らかにするほうが同様の事件発生を抑制できるのではないか。
森永 卓郎
経済アナリスト
獨協大学経済学部 教授
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