可愛がってくれた85歳孤独な伯母の死後、保険金1,000万円をもらうはずが…引き出しに捻じ込まれた「古びた保険証券」が知らせる、あまりに残酷な事実【CFPが解説】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月1日 10時45分
(※写真はイメージです/PIXTA)
故人と相続人、双方の思いを繋ぐ生命保険。しかし、加入してそれきり、という人も少なくないのが実情です。いざというときに後悔することのないように、内容を正しく把握し、面倒に感じても時折メンテナンスを行うことは、非常に重要です。本記事ではAさんの事例とともに、相続財産の注意点について、株式会社アイポス代表の森拓哉CFPが解説します。
伯母の財産はすべて相続できると思っていたが…まさかの展開
生命保険文化センターによる2021年度の生命保険に関する全国実態調査によると、生命保険の世帯加入率は89.8%、普通死亡保険金額は平均で2,027万円と、前回の調査(2018年度)と比べると低下傾向にはあるものの、依然として高い水準を維持しています。
一方で、生命保険は複雑なものも多く、内容を正確に把握できているかと問えば、「なにかに入っているとは思うけれど、詳しくはわからない」と答える方が大半でしょう。生命保険料の支払い額は、年間平均37万1,000円にもおよび、決して小さな金額とはいえません。せっかくの資金を投じて加入している保険を効果的に活用するためにも、定期的なメンテナンスは必須です。
今回の記事では、放っておかれてしまった1つの保険をめぐる悲劇について紹介したいと思います。
※事例は、実際にあった出来事をベースにしたものですが、登場人物や設定などはプライバシーの観点から変更している部分があります。また、実際の相続の現場は、論点が複雑に入り組むことが多々あり、すべての脈絡を盛り込むことは話の流れがわかりにくくなります。このため、現実に起こった出来事のなかで、見落とされた論点に焦点を当てて一部脚色を加えて記事化しています。一人暮らしの伯母と母を亡くした姪、支え合って生きてきたが…
25歳で結婚し、2人の子宝にも恵まれ幸せな日々を過ごしていたBさん(現在50歳)は、10歳のときに、母親を病気で亡くしています。両親から愛情深く育てられていたひとりっ子のBさんは、深い悲しみに暮れながら日々を過ごしていましたが、そんなBさんの心の支えになってくれたのが、母親の姉である伯母Aさんの存在でした。
おおらかで、優しく面倒見のよいAさんは、常にBさんのことを気にかけ、まるで実の母親のように接してくれました。母親の急逝は悲しい出来事ではありましたが、Bさんにとっては、学生生活を過ごし、社会に出て、結婚、出産、子育てとライフステージに変化があっても、常に温かいサポートをしてくれた伯母Aのおかげで、幸せな日々を送れているという実感があったのでした。
妹を亡くし、人生の伴侶に恵まれなかった伯母
一方、Bさんの伯母であるAさんは30歳で結婚するも、本人は切望していましたが、残念ながら子宝には恵まれませんでした。40歳を過ぎたころ、仲良しの妹が急逝し、その後、矢継ぎ早に人生の波乱が訪れることになります。
夫の浮気
一流企業に勤めるご主人の帰宅が遅くなる日が突然増えたのです。仕事で忙しいことはこれまでもあったのですが、週末にはなにも言わずに出かけることもあり、Aさんも薄々背後に女の人の存在を感じていました。
夫婦の会話も減り、結婚から15年を過ぎたある日のこと、ご主人はAさんにひと言も残すことなく家を出て行ってしまいました。連絡もなく、突然に姿を消したAさんのご主人は、その後、「別の人と再婚したいから、離婚して欲しい」という実に素っ気ない連絡が一度だけありました。あまりに簡単に、そしてなんとも事務的に伝えてくる夫の姿勢を前に、Aさんはとても離婚手続きをする気持ちにはなれませんでした。
Aさんからすると、女性としての意地とプライドもあったのかもしれません。すっきりしないままその後も婚姻関係を維持したAさんですが、孤独を癒してくれたのは、母親を失っていたBさんとその子ども達でした。ある意味、お互い満たされない部分を、満たし合っていました。AさんとBさんは支え合い、非常に良好な伯母と姪の関係を築くことができたのです。
伯母の夫はすでに他界
そんなAさんとBさんの2人の人生ですが、家を出て行ってしまったAさんのご主人は80歳を過ぎたころに病気で他界。配偶者であったAさんは、相続手続きでも苦労をしたのですが、Bさんの助けを借りてなんとかやり切ることができました。
不思議なものですが、Aさんのご主人が他界したことによって、BさんはAさんの唯一の相続人となりました。もともと良好な関係だったAさんとBさんですから、この関係にはなんら違和感を感じることはありません。むしろBさんも心置きなくAさんの老後の暮らしを支えることができ、Aさんも同様にBさんを頼ることができたのです。
85歳で伯母も他界
やがてAさんも人生を終える時が訪れます。遺言書は準備されていなかったものの、わずかばかりの現金と小さな家が残ったため、Bさんは相続手続きを進めていきます。唯一の相続人ですから、それほど手続きにも負担はありませんでした。
伯母が加入していたバブル時代の「保険」
伯母の書棚の整理をしていたBさんはあることに気が付きます。書類の束からでてきた古びた一通の保険証券、「一時払い変額終身保険」と記載されていました。バブル経済の時代に資産運用になるからと急速に広まった保険のひとつですが、バブル経済の崩壊とともに資産形成機能は失われており資産価値はほとんど失われていました。一方で、死亡保障の機能だけはしっかりとしたものがあり、その額はなんと1,000万円。
生前、伯母が「昔夫の付き合いの関係で保険に入ったと思うけれど、大損が確定した保険だから。もうどうでもいいのよ」と話していたことをBさんはなんとなく思い出しました。このことだったのかとピンときました。
昔、ご主人のもとにやってきた投資話の一環で、Aさんが加入したという脈絡は伺い知ることができましたが、バブル経済の崩壊とともに放置されてしまっていたのです。生命保険証券に記された保険金受取人の名前を見るとすでに亡くなっているAさんのご主人のままとなっていました。
もうすぐ子どもが独立するものの、住宅ローンで家計が圧迫されるなか、それほど預貯金の相続もできなかったBさんにとって、この保険金1,000万円はとても大きな遺産です。唯一の相続人である自分が当然に受け取れるものと思っていました。しかし、保険会社に連絡をして驚愕します。Bさんに受け取る権利はないというのです。
Bさんが保険金を受け取れない理由
保険金の請求手続きができるのは、すでに亡くなったAさんのご主人の相続人であると知らされたBさん。
Aさんには子どもがいませんでしたから、Aさんのご主人の相続人はAさんの兄弟姉妹になります。Bさんからすると会ったこともないうえに、ご主人が家を出て行ってからというもの、ご主人の兄弟姉妹と伯母Aさんとの関わりはまったくありません。
Bさんはずっと仲良くしてきた伯母Aさんに「あんなに仲良くしてきたのに、ずっと支えあってきたのに、老後の面倒も看たのに……伯母さん、どうして?」と恨み節がこぼれてしまい、悲しい気持ちを抱えてその後を過ごすことになってしまったのです。
掛け金を支払い続けているのに、なぜかほったらかしになる生命保険
お持ちの資産内容は正確に把握する必要があります。ご主人が出て行った時点で死亡保険金受取人をご主人にしておくことの意義は失われています。亡くなってからはなおさらのことです。Bさんの立場からしても、Aさんの財産状況は詳しく把握するべきでした。お互い支え合って暮らしているということであれば、それに合わせた生命保険のメンテナンスが必要なのです。
生命保険は老後の生活の貴重な財源になりえるのですが、その存在感が時として軽視されがちです。なにかに加入してはいるけれど、勧められるがまま入っており、その価値や機能がよくわからずに放置されている状況です。保障としての意義が失われているのであれば、解約も検討すべきでしょう。
高い普及率を誇る生命保険ですが、その内容が正確に把握されて、適切にメンテナンスされているかというと疑問符が付きます。お金をかけて加入している生命保険ですから、できるだけ正確に現状を確認し、定期的にメンテナンスをしていくことが大切といえるでしょう。
森 拓哉
株式会社アイポス 繋ぐ相続サロン
代表取締役
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