税務調査官「もうわかりました、これで結構です」…時価1億円の土地を相続→9,000万円と申告した59歳サラリーマンが〈追徴課税〉を逃れた驚きの理由【税理士の助言】
THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月15日 11時15分
(※写真はイメージです/PIXTA)
時価1億円の土地を相続した年収800万円のサラリーマンAさんは、税理士の助言で土地の評価額を1,000万円少なく申告したところ、税務調査の対象となってしまいます。しかし、税務調査官たちは“あること”を理由に追徴税を課すことなく帰っていったのでした……。いったいなにがあったのか、詳しくみていきましょう。多賀谷会計事務所の宮路幸人税理士が、事例を交えて「相続税評価額を減らす方法」を解説します。
まじめで責任感の強い父親に起きた“異変”
サラリ-マンのAさん(59歳)は、埼玉に戸建ての持ち家を所有しており、妻Bさん(56歳)と娘のCさん(23歳)の3人で暮らしていました。
2年前に母親を亡くした際、Aさんは家族と話し合って了承をもらい、ひとり暮らしとなった父親に同居を提案。しかし、まじめで責任感の強い父親からは「お前たちに迷惑はかけたくないし、自分のことは自分でやりたいんだ。俺のことは気にしないでいいから」と断られたため、不安を抱えながらもそれ以上は強く言えずにいました。
そんな父親でしたが、定期連絡の際、少しずつ異変が……。最初はビデオ通話の画面をオフにするようになり、次第に電話もあまりでなくなるなど、Aさんたちとの接触を避けるようになっていったのです。そんな父親の対応に不安が募ったAさんは、コロナも相まってしばらく会いに行けていなかったこともあり、黙って父親のもとを訪ねる決意を固めました。
荒れ放題の庭を横目にどんどん不安が大きくなるなか、実家の玄関を開けたAさんは、その光景に唖然とします。実家が“ゴミ屋敷”に変わり果てていたのでした。
Aさん「ちょっと、なんだこれ……おい父さん、父さん!」
父「ん? おお~久しぶり。あれっ、母さんは? 一緒じゃないのか?」
「お前たちに迷惑はかけたくない」と同居を断った格好いい父親の面影はどこにもなく、異臭を放つゴミ屋敷にたたずむ父親の姿を目にしたAさんは、そのときのことを「悪い夢でもみているかのようだった」と振り返ります。さらに、母親が死んだことを忘れているなど、認知症も発症しているようでした。
Aさんはあまりの惨状にパニックになりかけましたが、なんとか気持ちを奮い立たせ、急いで妻へ連絡。実家の近くに宿を取り、翌日には父親を病院へ。診察の結果、やはり認知症でした。
「認知症の父さんをあのゴミ屋敷にかえすわけにはいかない!」と、必死で介護施設を探したAさん。しかし、施設へ入居してから約半年後、残念ながら父親は帰らぬ人となったのでした。
相続した“時価1億円のゴミ屋敷”に頭を抱えるAさん
父親がひとりで暮らしていた実家は、戸建てで土地も広く、さらに東京23区内で最寄駅からは10分圏内と好立地。相続税評価額は1億円という金額になりました。
とはいえ、その実態は自分たちでは手に負えないほどのゴミ屋敷。売却しようと地元の不動産業者に打診すると、「こんなゴミ屋敷では売れない。綺麗に清掃してから売却するか、買主にゴミの撤去費負担の条件で安く売るかしかない」との返答を受けました。
そこで、税理士に「ゴミ屋敷の土地評価が1億円では高すぎる。なんとかならないか」と相談したところ、税理士から「『利用価値が著しく低下している宅地の評価』という規定を適用すれば、10%の評価減である1,000万円の評価減ができるかもしれない」とのアドバイスを受けました。
検討の結果、その規定を適用して申告を行い、Aさんは相続税3,000万円を納付しました。
1,000万円の評価減額に目をつけた税務署
その後、すぐに税務署から「相続税の税務調査に伺いたい」との連絡がありました。
調査の当日、調査官から「ご実家の土地について、1,000万円という多額の評価減をされていると思います。その根拠はどのようなものでしょうか? この土地を見せていただきたいのですが、ご案内いただけますか?」との要望を受けました。
Aさん「ええ、もちろん大丈夫ですよ。こちらがその物件です。どうぞ、好きに調べてください」
調査官は玄関に入った途端、顔をしかめました。ゴミは買主が負担で処理するという条件で売り出しているため、実家は“ゴミ屋敷”のまま放置していたのです。
税務調査官「ううっ! ひどいなこりゃ……なるほど、そういうことですね。あぁ、だめだ。気分が悪くなってきた……はい、もうわかりました。これで結構です……」
こうして、土地の評価減については申告どおり1,000万円の減額が認められることとなったのでした。
「利用価値が著しく低下している土地」はどんな土地?
国税庁では課税実務上、利用価値の著しい低下が生じる例を次のとおり示しています。
①道路より高い位置にある宅地または低い位置にある宅地で、その付近にある宅地に比べて著しく高低差のあるもの。
②地盤に甚だしい凹凸のある宅地。
③震動の甚だしい宅地。
④①~③までの宅地以外の宅地で、騒音、日照阻害(建築基準法第56条の2に定める日影時間を超える時間の日照阻害のあるものとします)、臭気、忌み等により、その取引金額に影響を受けると認められるもの。
ただし、上記①~④の例について、すでに路線価が利用価値の著しく低下している状況を考慮して付されている場合には、10%評価減は適用されません。
また、過去の裁決事例では、新幹線の高架線の敷地に隣接し、かつ、元墓地である土地の評価で、振動及び騒音、忌み、日照および眺望への各影響を考慮して合計30%の評価減が認められたケ-スも存在します。
今回Aさんは、上記④の規定を適用し、申告することにしました。
ただし、減額要素があったからといって必ず認められるわけではなく、税務調査の際は重点的にチェックされ、認められなかったケースも多くあります。そのため取引価格の根拠などの問い合わせがあったときには、きちんと答えられるようにしておきましょう。
相続を受けた土地のなかには、明確な土地の評価減の規定の適用が受けられない場合でも、「利用価値が著しく低下している土地の評価」の規定の適用を受けることで、一定の評価減を受けることができる場合があります。
そのような土地を相続した際には、規定が適用されるかどうか、検討されてみてはいかがでしょうか。
宮路 幸人
多賀谷会計事務所
税理士/CFP
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