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「長寿大国ニッポン」なのに…日本人が「100歳までは生きたくない」と考えるワケ【老年心理学教授が解説】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月8日 12時0分

「長寿大国ニッポン」なのに…日本人が「100歳までは生きたくない」と考えるワケ【老年心理学教授が解説】

(※写真はイメージです/PIXTA)

「人生100年時代」と呼ばれるようになった現代ですが、100歳まで生きたいと思っている人はどれぐらいいるのでしょうか。調査の結果、日本人の多くは80歳くらいが人生の長さにちょうどいいと考えているようです。そこで本記事では、権藤恭之氏による著書『100歳は世界をどう見ているのか』(ポプラ社)より一部抜粋し、長寿に対するアンケートをまとめた興味深いデータのほか「年をとること」の本質的な考え方についてご紹介します。

80歳くらいがちょうどいい?

100歳の人は確実に増えていますが、調べてみるとみなさんはあまり100歳になりたくないと考えているようです。

広告代理店が元になっている「100年生活者研究所」というラボがあります。そこが2024年に発表したデータでは「100歳まで生きたいと思いますか?」というアンケートを行い、日本、アメリカ、中国、フィンランド、韓国、ドイツの6カ国の比較をしています(図表1)。

日本は「とてもそう思う」が6カ国中で最低の8.1%で、「そう思う」を加えても27.5%でした。6カ国の中ではアメリカが一番高く、「とてもそう思う」が31.2%あります。日本は一番100歳になる可能性が高いのに、なりたくないと思っている人が多いということになります。

同研究所では100歳になりたくない理由として、「みんなに迷惑をかけたくない」という気持ちを感じるかどうかも調査しています。すると、「強く感じる」という人が半数以上を占めていて、「感じる」を加えると9割近くになります。私たちも同じような調査をしていて、30歳から75歳の人に「何歳まで生きたいですか」と尋ねたところ、100歳以上と答えた人は1割弱でした。

「何歳まで生きたいか」ということで答えが最も多かったのは80歳です。さすがに70〜75歳の人は85歳が最多ですが、だいたい「80歳ぐらいでいいや」と思っている人が多いのでしょう。ちなみに2022年の「簡易生命表」(厚生労働省)によると、平均寿命は男性81歳、女性87歳です。

平均寿命は年齢が0歳の余命のことですから若くして亡くなっている人も含みます。見方を変えて、65歳の平均余命を見てみると、男性は19年、女性は24年。65歳に足すと男性は84歳、女性は89歳になります。この値を見ると100歳もそう遠くないことを感じさせてくれます。

図表2は「平均寿命を超える長寿の可能性」について経済産業省が示したものです。先の「SONIC研究」では、80歳前後の人に「100歳まで生きたいですか」と聞いて「はい」の割合は29%、「いいえ」は71%です。その理由は「寝たきりになりたくない」「人の世話になりたくない」というもので、健康だったら100歳でもいいけれど、という考えでした。

80歳の人でも100歳になりたくないと思っているというのはちょっと残念ですが、その理由もわからないではありません。たとえば介護保険の認定率(2015年)を見ると、90歳以上では男性の5割以上、女性の7割以上が要介護認定を受けています。このような状況では、100歳になりたくないとみなさんが思うことも理解できますね。

人は小さな変化に気づきにくい

「なりたくない」としても、現実にはその年齢に達する可能性があるわけですし、その時にどういう生活をしてどんな気持ちでいるのかをイメージしておくことは大切なことだと思います。もちろん、人生を想像するのはなかなか難しいことです。

私の教えている大学院の授業で、学生に「どんな人生を送ると思うか」と聞くと、「大学院を卒業して、仕事に就いて、結婚をするかもしれないししないかもしれない、家を買って犬を飼っているかもしれない、子どもが生まれるかもしれない」といったことを話してくれます。

では、その後に何が出てくるかというと、いきなり「死ぬ」という話になる。その間はもうほとんど何も想像もできない、暗黒があるのです。仕事に就いて、家族の形が変わり、しかしその後のイメージがほとんどない。もしかしたら介護を受けている人たちのイメージが強すぎるのかもしれません。

年を取るには長い時間がかかります。長い時間の中で楽しいこと悲しいこと、さまざまな経験を積み重ねます。小説や映画などでも、死んでいくプロセスを描いたものは多くありますが、老いていくプロセスを描いたものはまだまだ少ないのではないでしょうか。

自伝的記憶で20代〜30代ぐらいの記憶が多いのは、新しくいろいろなことを経験する時代だからという説があります。確かにその後はあまり新規な出来事は少ないかもしれません。確実にさまざまな経験を積み重ねているはずですが、その歩みが遅いから気がつきにくいだけなのです。

昔、調査で通っていた老人ホームで、とても汚いぼろぼろの眼鏡をかけている女性がいました。汚れていて、眼鏡の前と耳にかける横の部分(つる)が取れていたのでしょう、セロハンテープでぐるぐる巻きにしていました。気になった私がその女性に「その眼鏡は見えますか?」と尋ねると、彼女は「この眼鏡は私に合っていて、よく見えるのです」と答えました。

私はどんな眼鏡か気になったので眼鏡を見せてもらいました。すると今度は反対に、彼女が私の眼鏡を貸してほしいというのです。彼女は私の眼鏡を手に取ってかけるなり、「すごくよく見える‼」と叫んだのです。彼女の眼は徐々に見えにくくなっていたのだと思いますが、日々少しずつの変化だったので気がつきにくかったのでしょう。このようにゆっくりとした営みは小説にも映画にもしにくいですね。

結果として私たちは、年を取ることについて触れる機会が少なく、知識が増えないでいるのかもしれません。

ポジティブなイメージが長寿を促す

100歳の人たちの話を聞き、100年の人生をイメージすることは私たちが老いを理解するために非常に重要なことだと思います。なぜなら、先に述べたような長生きに対する否定的な見方は、将来的に国民の健康に悪影響を及ぼす可能性があるからです。

「ステレオタイプ身体化理論」として知られる最近の加齢理論では、個人が持つ高齢期・高齢者に対するステレオタイプが、加齢プロセスに肯定的・否定的な影響を与えることが示されています。たとえば、日本人を対象とした研究では、19年間同じ人たちを追跡したデータから、若い時に加齢に対してポジティブな態度を持っていた人たちは、ネガティブな態度を持っていた人たちと比較して4年長生きだったと報告しています。アメリカの研究ではその差はもっと開きます。

超高齢期の人たちに対するネガティブなステレオタイプの表れともいえる「100歳まで生きたくない」人の比率が高いことから想像すると、そのような考え方をする人が多いと健康度が下がりやすかったり早死にしたりする可能性もあります。平均寿命は延びていくのですから、ポジティブなイメージを持って、少しでも元気な期間を延ばしたいものです。

老年心理学者 権藤 恭之

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