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年金で細々暮らす65歳・元会社員が新NISAに退職金を突っ込んだ結果…米国株神話を盲信した「にわか投資家」の末路【FPの助言】

THE GOLD ONLINE(ゴールドオンライン) / 2024年9月9日 11時15分

年金で細々暮らす65歳・元会社員が新NISAに退職金を突っ込んだ結果…米国株神話を盲信した「にわか投資家」の末路【FPの助言】

(※写真はイメージです/PIXTA)

「米国株一択で間違いなく勝てる」。そんな甘い言葉に魅せられ、65歳で年金生活に入ったばかりの若鮎太郎さん(わかあゆ・たろう、仮名・65歳)は、新NISAを活用して米国株ファンドに大金を投資しました。しかし、思わぬ相場の急落に直面し、パニックに陥ります。果たして、太郎さんの老後資金は守られるのでしょうか? FPの青山創星氏が投資初心者が陥りやすい罠と、賢明な資産運用の秘訣をご紹介します。

定年退職をするも「ゆとりの老後」とはいかない日々

若鮎太郎さん(65歳)は、長年勤めた地方の小さな食品メーカーを定年退職し、年金生活に入ったばかりでした。仕事を退職してようやく自由になれた一方で、お金の不安に悩まされていました。

子どもはすでに独立し同じ年の妻と2人暮らしですが、40歳で一大決心して購入した家の住宅ローンはあと10年間続きます。会社の業績悪化のあおりを受け、退職金も想定より少ない金額でした。現役時代の給料も高いとはいえず、年金は夫婦で月21万円。ゆとりの老後とは言えない状況です。

「これまで真面目に働いてきたのにお金の不安ばかり。長生きなんてしたくないな」とボヤく日々でした。

そんな時に目に入ったのが、新NISA開始のニュースです。ネットを見ると、新NISAは国のお墨付きの制度であり、使わないと損だと言わんばかりの記事までありました。

新NISAをフル活用:老後の夢が一瞬で悪夢に変わる瞬間

太郎さんは、不慣れながらもXやインスタグラムを時折見る「いまどきシニア」でした。そこで見かけたインフルエンサーの「米国株なら間違いなく儲かる」という言葉に魅了されます。過去の市場パフォーマンスなどの裏付けに説得力があり、「今すぐ始めるべき」と断言していたこと、そして、彼の意見に同意するコメントがたくさんついていたことが背中を後押ししました。

こうして大切な退職金の一部を投資に回すことを決意した太郎さん。さっそく新NISA口座を開設しました。さらに、インフルエンサーの「新NISAは最短で枠を埋めるのがベスト」という意見を信じて、迷うことなく米国株ファンドに240万円を一括投資し、毎月10万円の積立投資をセッティングしたのです。

投資を始めてから数か月、資産の増加を確認するのが太郎さんの日課になりました。周囲に「これからは投資の時代だよ。米国株なら間違いないってみんな言ってるよ」などと話をするまでになっていました。

老後の夢は日に日に鮮明になっていきましたが、8月のある朝、その夢は悪夢へと一変しました。相場が突如として急落したのです。

冷静になれば「評価額が下がっただけで、実際の損失ではない」と理解できたはずです。しかし、太郎さんは「自分の大切なお金が減ってしまった」と狼狽。SNSやニュースサイトを見れば、さらなる暴落を予言する不吉な声が渦巻いていました。

「このまま際限なく資産が減るのではないか」…目に見えない恐怖の影に取り憑かれた太郎さんは、保有していたファンドをすべて売却してしまいました。しかし、これこそが投資の世界で最も警戒すべき「感情の罠」だったのです。

ところが、その後、相場は急上昇。あわててもう一度同じ米国株ファンドに一括投資しようとしましたが、売却で空いているはずの新NISA枠での投資ができません。新NISAの成長投資枠の空き枠はゼロと表示されているではありませんか。

慌ててネット証券会社のヘルプデスクに電話をしたところ、思わぬ事実に気づくことになりました。

投資初心者が知らぬ間に陥る「落とし穴」

そこで言われたのが、「新NISAでは、商品を売却した場合、売却した商品の簿価の分だけ非課税保有限度額が復活し、翌年以降に再利用することが可能」ということでした。

売却で空いた枠は、翌年以降しか使えないのです。しかも再利用できる非課税保有限度額がその年の年間投資枠に上乗せされるわけではないので、来年は今年買っていた分を買い直すことしかできないというわけです。

何もしなければ、成長投資枠で今年240万円、来年もさらに240万円投資できたはずでした。しかも、結局相場は戻ってしまったので、このままだと安く売って高く買い戻すことになり、損をする結果になってしまいます。

枠の再利用ルールは新NISAの基本的な仕組みとして事前に知っておくべきことです。しかし、太郎さんはテレビやネット、SNSの断片的な情報を得ただけで「分かったつもり」になっており、きちんと把握できていなかったのです。

また、太郎さんは、投機と投資の違いを理解していませんでした。投資は、出したお金で企業に新たに価値を生み出してもらい、その価値の分配にあずかるものです。一方、投機は、価格の動きだけをとらえ安く買って高く売ることを目的とします。

太郎さんは、知らず知らずのうちに投資しているつもりが投機をしてしまっていたのです。これは多くの投資初心者が経験する「最初の試練」です。

この相場の乱高下の裏では、ほんの一握りの百戦錬磨の投機家やコンピューターたちが大儲けをしているのです。負け組の損失と勝ち組の利益の合計がゼロとなることから、投機取引はゼロサムゲームとも呼ばれています。これは、自分では投資をしているつもりが、知らないうちに投機に巻き込まれてしまったことの結果なのです。

「お金が減る」恐怖:日本人特有の心理が引き起こす最悪のシナリオ

日本人は「お金が減る」ことに対して特に敏感だと言われています。長年の預金中心の金融文化が影響しているのかもしれません。太郎さんも例外ではありませんでした。

「せっかく貯めた老後資金が…」と、資産の減少に心を痛めます。しかし、投資では短期的な変動は避けられません。ここで大切なのは、自分の感情をコントロールすることです。

パニックに陥って投げ売りしてしまうと、かえって損失を確定させてしまう可能性があります。冷静に状況を分析し、必要であれば専門家に相談することをおすすめします。

過去の栄光は未来を保証しない

日本の金利は上昇傾向なのに対して、米国では景気減速から金利は低下傾向なので、日米金利差の縮小が見込まれています。将来を予想することはできませんが、もし見込み通りとなれば円高もあり得ます。その場合には米国株への投資は株安と円高の大きなリスクを負うこととなります。株式投資にあたっては、将来予測は不可能であることを前提に、最大リスクへの対応をしておく必要があります。

確かに、S&P500などの米国株ファンドの成績はここ数年間優秀で伸びもすごかったです。リーマンショックやコロナ禍で一時的に下がっても、それを超えて上昇してきました。しかし、それが続くかどうかは誰にもわかりませんし、保証もありません。過去の成績が未来の成績を保証するわけではないことを理解しておくことが重要です。

投資以上に大切な「人生の資産」とは

老後資金ということであれば、65歳から投資を始めても平均寿命までの約20年間の長期投資にはなります。しかし、85歳になって資産を持っていても一体何になるのかという考え方も一方にはあります。

太郎さんは、この経験を通じて投資の本質について深く考えるようになりました。「お金の不安はあったが、暮らしていけないほどではなかった。本当に投資という手段がベストだったのか?」「自分に本当に必要なものは何か?」

投資は老後の生活を支える手段の一つに過ぎません。老後資金の不安に対する手立てということであれば、年金の繰り下げを行ったり、長く働いたりといった別の方法もあります。

確かに、お金は重要です。しかし、それ以上に大切なのは、安心して充実した人生を送ることではないでしょうか。太郎さんは、投資以外の「資産」にも目を向け始めました。健康、家族や友人との絆、趣味や社会貢献活動など、お金では買えない価値あるものがたくさんあります。

長期投資の真髄は、単にお金を増やすことではなく、将来の自分により多くの選択肢を用意することです。そのためには、金融資産だけでなく、人生全体のバランスを考えることが重要です。

65歳からの賢明な選択:焦らず着実に築く幸せな老後への道筋

太郎さんは、この経験から多くのことを学びました。

1.新NISAでは、売却した商品の非課税枠は翌年以降にしか再利用できない。 2.投機と投資の違いを理解することの重要性。 3.投資は長期的な視点で行い、短期的な市場の変動に対して冷静に対応し、パニック売りを避けること。 4.過去の成績が未来の成績を保証するわけではない。 5.円高や市場の変動に対するリスクを十分に認識・対応すること。 6.SNSやインフルエンサーの言葉に惑わされないこと。 7.投資は人生の一部であり、充実した人生を送るための手段として投資を位置づけること。

健康や人間関係など他の「資産」も大切にすること。投資は確かに老後の資金を増やす可能性を秘めていますが、同時にリスクも伴います。大切なのは、自分の状況をよく理解し、無理のない範囲で始めることです。また、投資は人生の一部に過ぎません。

真に豊かな老後を実現するためには、金融資産だけでなく、健康や人間関係など、総合的な「人生の資産」を築いていくことが重要です。

太郎さんは、反省をしながら学んでいくなかで、投資の神様ウォーレン・バフェットの「潮が引いたら誰が裸で泳いでいたかわかる」という言葉に感銘を受けました。

相場が高騰している(潮が満ちている)ときは、大半の人が儲けているので正しい運用をしているように見えるもの。一転、ひとたび相場が悪くなる(潮が引く)と、投機を投資と混同した運用実態が浮かびあがってくるのです。

リターンが出ているときこそ、「今、自分は裸で泳いでいないか」を客観視することが大事だと太郎さんは学びました。65歳からでも、賢明な選択と適切な情報を得ることで、充実した老後を迎えることができます。焦らず、着実に、自分なりの幸せな未来を築いていきましょう。

青山 創星 ファイナンシャル・プランナー

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